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第八章

347:完勝

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「喧嘩を仕掛けるってことはな、てめえ等が死ぬ覚悟があるってことだ! 遠慮なくやらせてもらうぜ」
 ウォーリーは「サウスセンター」を飛び出し、数分でエリック率いる戦闘チーム一〇〇名ほどと合流した。

「やられたのなら遠慮するな! 相手を殺すつもりでやれ! 市民の安全は守れよ!」
 ウォーリーはそう叫ぶと一気に戦闘チームの前まで走りぬけた。
 少し先でOP社の治安改革センターの制服を着た職員が棍棒や鉄パイプのようなもので、デモの参加者たちを打ち据え、拘束しようとしている様子が見えた。
 相手の人数は一〇〇から二〇〇の間といったところだろう。こちらよりは多そうだ。
 しかし、それでもインデストに配置されている職員の数と比較すると、著しく少ない。
 これはエリックなどが予めOP社の通信網の脆弱さを突いて、その指揮系統を混乱させたからであった。
 実際には目の前にいる人数の五倍以上が通信系統の混乱のため、インデストの街中を右往左往していたのである。

「無抵抗の市民に手を出すとは何事だ! 貴様等、それでも“治安を改革”しているというのか?!」
 ウォーリーは怒りに任せて目の前にいたOP社の職員の喉もとめがけて、手にしていた棒で突きを見舞った。
 彼の武器は先の尖った金属の棒である。銃火器も一応は持っているのだが、これはハドリの本隊との戦いまで温存しておきたかった。銃弾がそれほど豊富ではなかったためである。
 突きを見舞われた相手は身体をひねって喉は守ったものの、肩に突きを受けてその場に倒れこんだ。
「戦闘チーム以外のメンバーは、急いで下がってくれ! ここは『タブーなきエンジニア集団』が相手をする!」
 ウォーリーの叫びに、デモに参加していた市民たちがウォーリーたちの後ろへ向けて走る。
 既に拘束されている市民もいるようだ。
 ウォーリーは軽く舌打ちすると、後ろにいるエリックを大声で呼んだ。
 エリックが、了解ですっ! と叫ぶと太いホースを持った五、六人の部隊が二つ、前に走り出てきた。
「右側よし!」
「左側よし!」
 それぞれの部隊から合図の声があがると、エリックが何やら後ろに向けて指示を出した。
 その直後、太い水の鞭が二本、OP社の職員たちの身体を打ち据えた。
 消火栓からホースを持ち出したのだ。
「今だ! 早く引き上げろ!」
 ウォーリーが拘束された者たちに声をかける。
 声だけでは飽き足らず、ウォーリーは先陣を切って噴出す水の中、拘束された者たちを次々に解放していった。
 OP社の治安改革部隊は放水の勢いと道の狭さとに行く手を阻まれ、思うように反撃することができない。
 それでも放水の間をぬって前進しようとする者もいたのだが、放水の向きが的確に変えられ、その行く手を阻んでいる。
 そして、水に打たれて怯んだ隙を、ウォーリーたちの戦闘チームにより攻撃を加えられ、後退していった。
 的確な放水は普段の訓練の賜物である。
 エリックを含めた放水部隊のメンバーは、ECN社で安全衛生委員を務めていた者達であり、少なくとも月に一度の訓練で防災機器を取り扱っていた。
 だから、こうした実戦の場でもその力をいかんなく発揮できるのだ。

「よし、一気に行くぞ!」
 ウォーリーの指示に戦闘チームの一〇〇名弱が後に続く。
 先頭を走るのがウォーリーである。エリックなどからすれば危なっかしくてしょうがないのだが、言って聞く相手ではないので半ば諦めている。
 それでも放水の勢いを少し弱めながら、何かあれば放水で支援しようとするのが彼の性である。
「トワさん! お待たせしましたっ! 組合も続きます!」
 後ろからアカシの声が聞こえた。
「遅いぜ! 早くしないとお前等の獲物はないぞ!」
 ウォーリーが待ちくたびれたような声で言った。
「いやいや、間に合わせますよ」
 アカシがニヤリと不敵な笑みを浮かべると、彼に率いられた五〇名程が、
「社による暴力活動には力をもって対抗するっ!」
 と叫びながら駆け寄ってきた。
 ウォーリーの率いる部隊とアカシの率いる部隊の人数を合計しても、まだ相手側の人数のほうがやや多い。
 しかし、ウォーリーやアカシの勢いに気圧されたのか、OP社治安改革センターの部隊はすっかり烏合の集と化していた。
 インデストはあまり凶悪な犯罪などが発生しなかった都市であり、その治安改革センターの職員はあまり戦闘慣れしていない。
 無抵抗の相手であればぼろは出ないが、ある程度訓練された相手をごまかすことはできなかったのだ。
 こうなればOP社の治安改革センターなどウォーリーたちの敵ではなかった。
 勢いに任せて相手を蹴散らし、数名の職員を拘束した。

 LH五一年五月一日午後五時半、OP社治安改革センターの職員は全て撤退し、緒戦はウォーリーたちの完勝に終わった。
「まあ、俺が本気を出せばこんなものだな」
 ウォーリーはそう軽口を叩いたが、一方でメンバーには深追いするなと強い調子で命じた。本命となる戦いが後に控えていることを重々承知していたからであった。
 それにインデストに配置されている敵もまだ多く残されている。
 緒戦に勝利したくらいで浮かれるわけにはいかないのだ。

 ウォーリーは携帯端末を使って偵察に出たジン・ヌマタと連絡を取った。ハドリ率いる本隊の状況を確認するためである。
「今日明日に到達することはないと思いますね。距離が遠すぎます」
 ヌマタの見解では、やはり本隊の到着は明後日以降になるとのことだった。
「それならば、先んじるまでだ。明日、一気に行くぞ!」
 ウォーリーは周りのメンバーを叱咤激励するようにまくし立てた。
 そしてエリックに声をかけ、ミヤハラやサクライはどうしているかと聞いた。
 ウォーリーは特にミヤハラやサクライに指示を出していたわけではない。
 ただし、彼等の才覚には期待していたから、何らかの動きがあってしかるべきだ、と考えている。
 ウォーリーの目論見通り、彼等はウォーリーの期待に見事応えていたのである。
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