ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

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第八章

344:「サウスセンター」に集結

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 ミヤハラ率いるデモ隊OP社本社に到達したのとほぼ同時刻にインデストにいるウォーリーも行動を開始した。
 OP社の事務所のある「サウスセンター」前には、既に一万を超える人々が集結している。
 建物前の道路は人で埋め尽くされ、ウォーリーですら身動きが取れない状況だ。
「悪い! ちょっと通してくれないか!?」
 ウォーリーがそう大声で怒鳴らなければ、一メートル先に進むこともできない。
 人の海を何とかかき分けながら、ウォーリーは「サウスセンター」の入口の前に立った。

「我々は社の司法警察権を独占するという方針に反対する! ここに志を同じくする『タブーなきエンジニア集団』にもご協力いただいて、社の誤った決断を撤回するまで抗議活動を続けるものである!」
 入口ではOP社グループ労働者組合の委員長、サン・アカシが建物に向けて声をあげている。
 OP社インデスト支店の最高責任者は支店長代理である。
 アカシは支店長代理を引っ張り出そうと受付で呼び出したのだが、「会うつもりはない」という素っ気ない回答だけが返ってきた。
 これは予想できたことだったので、改めて建物の外から声をあげて抗議を始めたのであった。

 アカシが建物に向けて声をあげ出した直後、ウォーリーの携帯端末にジン・ヌマタからの連絡が入った。
 ヌマタによるとハドリ率いるOP社本隊のインデストへの到着は二日後になるようだとのことであった。
 それまでにある程度OP社を疲弊させておきたいところである。
 把握できている範囲では、現在サウスセンターやその周辺地域に集まっている人数は二万人を少し超えた程度だとされている。建物前の道路に入りきらない人々も多数いるようだった。
 アカシらOP社グループ労働者組合の幹部が予想以上の頑張りを見せ、組合員の数が四千名を超えるまでになった。
 人数の上ではハドリ率いる部隊とほぼ互角となった。もっとも、こちらは一般市民が多く戦闘集団ではない。
 有無を言わさずハドリの部隊が武断的な処置を行えば、「タブーなきエンジニア集団」とOP社グループ労働者組合の戦力を合計しても太刀打ちできないことはウォーリーも承知している。
 楽天的なウォーリーですら、事態がそれほど良い状況にないのは理解しているのだ。
 更に彼自身の体調への不安も相まって、この男にしては珍しくやや神経質になっていた。

「アカシ! あまり時間はないからな! 演説は短めにしておけよ」
 ウォーリーが怒鳴ると、アカシは手でOKのサインを出してすぐに演説を切り上げた。
「中に突入するのですか?」
 演説を終えたアカシがウォーリーのところへ駆け寄ってきた。
「そう焦るな。電話と受付とで責任者を引っ張り出してみろ。そして、相手から手を出されたら俺にすぐ報告するんだ」
「……悠長な話ですね。そこまで組合員が待ってくれるとも思えないです」
 アカシが口調を荒げた。言葉こそ丁寧だが、明らかにウォーリーの命令に反発している。
「待たせろ! トップがそんなことでどうするんだ?!」
「と言っても組合員の……」
 ウォーリーの言葉にアカシが反論しようとしたが、間に入ったエリックに阻止される。
「待ってください! 二人とも落ち着いてください……」
 しかし、エリックもここで言葉に詰まってしまう。
 三人の間に嫌な空気が流れる。
 ウォーリーとアカシは無言のままだ。
 エリックはこのような空気を大の苦手としているが、打開するための妙案も浮かばないのでやはり黙っている。

 しばらくしてウォーリーが口を開いた。
「……まあ、あと一時間だけ待とうや。突入するのはそれからだ。そのときは俺も行く」
「わかりました。一時間は待たせます」
 ウォーリーが折衷案を示したことで、アカシも折れた。
 エリックが胸を撫で下ろす。彼は、こうした対立は苦手である。
「わかっていてやっているのだから、そう神経質になるな、っての!」
 ウォーリーが胃のあたりに手をやっているエリックの姿を見て、半ば呆れたように言った。
「すみません、どうもこればかりは慣れなくって……」
「しょうがねえ奴だなぁ……」
 ウォーリーは苦笑しながらエリックの肩を軽く叩いた。
 (まだ、俺が倒れるわけにはいかない、ってことか)
 ウォーリーの体調は徐々に悪化していた。
 まだ平静を装って「タブーなきエンジニア集団」の指揮を執ることはできる。
 しかし、それほど余裕のある状態ではないことも確かだ。
 エリックやアカシにある程度指揮権を移譲したいところなのだが、彼らを見ているとどうも安心できず口を挟んでしまう。
 (まったく……心配かけさせてくれるぜ、二人とも……)
 ウォーリーは一方的にそう思っていたが、「タブーなきエンジニア集団」の他の幹部からすればウォーリーの方がよっぽど心配だ、ということになる。
 ウォーリー自身がそれに気がついていないのが、彼が彼である所以なのだが……

 アカシは腕時計をちらちら見ている。
 そして時々左腕の腕時計を指差して「時間はまだか」とウォーリーに向けてアピールしている。
 (……ったく、アカシの奴も相当フラストレーションためていやがるな……)
「……わかった、行くぞ!」
 待てと指示してから四五分後、堪えきれなくなったウォーリーが動いた。
 アカシとエリック、そして他に二人を連れて、OP社のインデスト支店へ正面玄関から堂々と立ち入ったのである。
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