ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

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第八章

343:ミヤハラの勝負

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 ミヤハラ率いるデモ隊がOP社本社のある通りに達した。
「TM、いよいよですね」
「ああ」
 隊列の後ろの方で、ミヤハラとサクライが顔を見合わせた。
 途中で合流する人々が多数いたため、いつの間にか前の方にいたはずが後ろに押し流されてしまったのだ。
 デモ隊のトップツーが落ち着き払った様子を見せているので、デモの参加者も安心している。
 この二人、傍から見る限り緊張という感情とは無縁に見える。
 もともと心の内が表に見えるタイプではないことが幸いしている。
 トップが落ち着いていれば、メンバーも安心して自分の役割を果たすことができる、という典型的な例である。
 デモ隊のメンバーからも雑談の声などが聞こえており、落ち着いている。
 時折、
「OP社による独裁を止めさせよう」
「島のルールはOP社が決めるものではない」
 といったシュプレヒコールをあげることはあるが、至って穏やかなものであった。

 いつしか隊列の先頭がOP社本社に達した。
 行進が止まったことでミヤハラやサクライも目的地に到達したことを知った。
「それでTM、これからどうするのですか?」
 サクライが何気なしにミヤハラに問うた。
「ああ、それならメンバーが準備をしているから問題ないだろう」
 ミヤハラは具体的な行動を定めずに、メンバーの勢いに任せていたのである。
「TM! いくらなんでも、それではあまりに計画が杜撰ではないですか?」
 サクライの口調は普段と変わらなかったが、これでもミヤハラの無策さを少しは責めている。
 ミヤハラの説明によれば、次のような理由から具体的な行動案を示す必要はないであろう、ということであった。
 こちらが行動を起こした今、OP社が黙っているはずがない。
 プラカードやのぼり、横断幕を持った人々が本社周辺に多数集まっているだけで、OP社の感情を逆なでするには十分だ。
 プラカードなどにはでかでかとOP社の治安改革活動を糾弾するメッセージが書かれているのだから、この集まりがOP社を糾弾するためのものであることくらいは誰にでも理解できるからだ。
 こちらの動きに反応して、OP社が手を出せば反撃する理由になる。混乱を引き起こすにはそれで十分なはずだ。
 混乱状態に持ち込めば願ったり叶ったりだ。
 混乱が長引けば長引くほど、OP社はこちらに注意を向けざるを得ない。
 そうすればウォーリーの本隊も仕事をしやすくなるであろう。
 それから先のことはウォーリーの担当だとミヤハラは信じている。
 ウォーリーには先のことを考え、実行する能力を期待できるとミヤハラは思っているのだ。
 
 ミヤハラの思惑通り、OP社本社や周辺の治安改革センターからOP社の者と思われるメンバーがデモ隊の方に向けてわらわらと集まってきた。
 デモ隊を取り囲もうとしているのだろうが、いかんせん、デモ隊の方がまだ多数だ。

「直ちに解散しなさい! ここでの集会は認められていないぞ!」
 拡声器を持ったOP社の職員がデモ隊に向かって怒鳴り散らした。
 その声もデモ隊の抗議の声にかき消されてしまっているので、ミヤハラやサクライの耳には辛うじて判別できるといった程度だ。

 OP社の警告に対しデモ隊はヤジやシュプレヒコールで応戦しており、今のところ暴力に訴える気配はない。冷静さを保てていると言えよう。
 だが、油断は禁物であった。
 デモ隊や「タブーなきエンジニア集団」のメンバーが先に手を出してしまえば、こちらの正義は崩れかねない。あくまでこちら側は平和裏にことを進めなければならない。

「あまりよく聞こえませんが、TM、希望通りおいでいただけたようですよ」
 サクライが人の悪そうな笑みを浮かべた。
「まだだ。こちらから手を出すなと皆に伝えておけ。あくまでも相手が手を出したら応戦するだけだ。先制は許さん」
 ミヤハラが逸るサクライを制した。
「はいはい、わかりました。伝えておきますよ」
 形だけは納得した様子でサクライが隊の先頭の方へと向かっていった。
「やれやれ、どこまで理解しているのだか……まあ、奴もそこまで喧嘩っ早くはないか」
 OP社から手を出されたらサクライが真っ先に反撃するつもりだろうな、とミヤハラは思った。
 サクライは決して血の気が多い青年ではないはずだが、やられたらやり返さなければ済まないだろう。そして彼には格闘技の心得があるから、相手が攻撃してくれるのを心待ちにしている面があるように思われる。
 ミヤハラとて、殴られれば倍にして殴り返すくらいのことはするのであろうが……
 (頼むから短気を起こして先に手を出すなよ……)
 走り去っていくサクライの背中を見ながら、ミヤハラがつぶやいた。
 ミヤハラの勝負は、たった今始まったばかりである。
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