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第八章
342:ミヤハラのショートカット
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「何をするのですか! 勝手に入らないでください!」
工場の入口には守衛所があり、中にいた女性の守衛二名がデモ隊を制止しようと道を塞ぐ。
しかし、しょせんは多勢に無勢だ。
「すみませんね、道を通してもらえないので、少しの間失礼しますよ。困ったときはお互い様ということで」
ミヤハラが二人の守衛の前に進み出て、彼らをなだめる様に口を挟んだ。
その間にもデモ隊は工場の中を突き進んでいく。
いつの間にか隊は千名を超える大所帯になっていた。OP社と渡り合うには心もとない数であるが、さほど広くない工場の道路を埋め尽くすのには十分な数だ。
十数分後、隊の最後尾が工場を抜けた後、ミヤハラとサクライが並んで工場の方を向き、頭を下げた。
「どうも、失礼しましたーっ!」
この出来事は後に「ミヤハラのショートカット」と呼ばれることになる。
ミヤハラの指示を聞いていたデモ隊のメンバーが面白がって命名したのがきっかけだ。
この後長きに渡ってミヤハラは何か急ぎの用件を命じると、相手から「ショートカットすればいいですか?」と問い返されるようになった。
デモ隊は徐々にその人数を増やしながらOP社本社へと近づいていく。
少なからぬOP社治安改革センターの職員を引き連れることにもなったが、今のところデモ隊の進行に大きな影響を与えるほどではない。
「TM、これなら一二時前にOP社へ到着できそうです!」
前を歩くメンバーから力強い声があがった。
ミヤハラは、うむ、とうなずいた。
今のところ、OP社は目立った動きを見せていない。
過剰に反応されても困るのだが、反応が弱すぎるのも困る。
あくまでミヤハラのデモ隊は陽動部隊である。
本命はインデストにいるウォーリーの隊であって、ミヤハラの隊の役割はOP社の注意を引きつけることにある。
インデストにいるウォーリーの部隊とは無線で連絡を取っている。
ウォーリーは既に集結場所となるサウスセンターの近くにいるという。
予想よりもやや多めの人数が集まる見込みだという情報も伝わっている。
ここからがウォーリーにとってもミヤハラにとっても正念場となる。
ミヤハラの行く手にOP社の本社ビルが見えてきた。
サブマリン島にこの建物より高い建物は存在しない。
OP社本社ビルは直線的な高層建築であり、特に面白味のあるものではない。
これは、社長のエイチ・ハドリが手っ取り早く大人数を収容する器を用意した結果に過ぎない。
ミヤハラやサクライは建造物の外観が人に与える影響などに心惹かれるようなことはなかったから、特別な感慨を覚えることもなかった。
単にOP社という巨大な敵を象徴する建造物に過ぎない。
「ところでサクライ、お前OP社の本社ビルの中に入ったことあるか?」
ミヤハラの問いにサクライは首を横に振った。
「そうか……仕方のない奴だな。敵の本拠地のことくらい知らないでどうする?」
しかし、そういうミヤハラもOP社の本社ビルの中に入ったのは一度だけである。
「まあいい、入口周辺を取り囲んで出入りを塞いでから、残留している幹部を引っ張り出せばいいだろう」
「そんなところでしょうね」
実のところ、ミヤハラに具体的な戦略はなかった。
あくまでもウォーリーが活動しやすいよう、OP社の邪魔をすることに重きを置いている。
OP社の主力はインデストにいるが、本社周辺に残された人員だけでミヤハラ率いるデモ隊を粉砕することなどたやすいのである。両者の間にはそのくらいの人数差がある。
そして、OP社本社のあるポータル・シティはOP社の支持率が高い。
治安改革センターの設置により劇的に治安が改善したのは事実であるし、サブマリン島最大の都市ポータル・シティはその恩恵をもっとも多く受けている。OP社に対する支持の声が大きいのも無理はない。
ミヤハラもハドリの功績は認めている。少なくともハドリのしてきたことがすべて悪ではないことは承知している。
それでもハドリが司法警察権をほぼ一個人で独占している以上、これを許容するのは問題である。
また、ミヤハラが気にかけているのはハドリの手法が極端に武断的で、相手の主張をまったく受け入れない点である。
ミヤハラの直属の上司であるウォーリーにも「相手の話を聞かない」面はあるのだが、少なくとも機嫌がよければそれなりに話を理解する人間だ。
親友であるオイゲンに至っては人の話を聞きすぎるどころか流されすぎるくらいの人間である。この二人と比較してハドリはあまりにも硬直した思考の持ち主だ、とミヤハラは思う。
(まあ、なるようになる。ここでは時間を稼ぐことが大事だ)
ミヤハラはそう考えて今は目の前のデモに意識を集中することに決めた。
サクライに至ってはミヤハラ以上に戦略を持っていない。
サクライはミヤハラよりも年少で、席次も下である。
そして、現在のミヤハラと比較すればプラス思考でもある。これは当人たちの性質というより抱えている責任の量や質の問題である。
OP社のお膝元で大規模な反対運動があれば、OP社はともかく立ち上がる市民はいる、という程度にしか考えていない。
サクライの場合、なぜOP社を糾弾するのか、と問われればこう答えたであろう。
「人命軽視という悪行を行っているから」
彼の場合、OP社に攻め込む理由はそれだけで十分であった。
工場の入口には守衛所があり、中にいた女性の守衛二名がデモ隊を制止しようと道を塞ぐ。
しかし、しょせんは多勢に無勢だ。
「すみませんね、道を通してもらえないので、少しの間失礼しますよ。困ったときはお互い様ということで」
ミヤハラが二人の守衛の前に進み出て、彼らをなだめる様に口を挟んだ。
その間にもデモ隊は工場の中を突き進んでいく。
いつの間にか隊は千名を超える大所帯になっていた。OP社と渡り合うには心もとない数であるが、さほど広くない工場の道路を埋め尽くすのには十分な数だ。
十数分後、隊の最後尾が工場を抜けた後、ミヤハラとサクライが並んで工場の方を向き、頭を下げた。
「どうも、失礼しましたーっ!」
この出来事は後に「ミヤハラのショートカット」と呼ばれることになる。
ミヤハラの指示を聞いていたデモ隊のメンバーが面白がって命名したのがきっかけだ。
この後長きに渡ってミヤハラは何か急ぎの用件を命じると、相手から「ショートカットすればいいですか?」と問い返されるようになった。
デモ隊は徐々にその人数を増やしながらOP社本社へと近づいていく。
少なからぬOP社治安改革センターの職員を引き連れることにもなったが、今のところデモ隊の進行に大きな影響を与えるほどではない。
「TM、これなら一二時前にOP社へ到着できそうです!」
前を歩くメンバーから力強い声があがった。
ミヤハラは、うむ、とうなずいた。
今のところ、OP社は目立った動きを見せていない。
過剰に反応されても困るのだが、反応が弱すぎるのも困る。
あくまでミヤハラのデモ隊は陽動部隊である。
本命はインデストにいるウォーリーの隊であって、ミヤハラの隊の役割はOP社の注意を引きつけることにある。
インデストにいるウォーリーの部隊とは無線で連絡を取っている。
ウォーリーは既に集結場所となるサウスセンターの近くにいるという。
予想よりもやや多めの人数が集まる見込みだという情報も伝わっている。
ここからがウォーリーにとってもミヤハラにとっても正念場となる。
ミヤハラの行く手にOP社の本社ビルが見えてきた。
サブマリン島にこの建物より高い建物は存在しない。
OP社本社ビルは直線的な高層建築であり、特に面白味のあるものではない。
これは、社長のエイチ・ハドリが手っ取り早く大人数を収容する器を用意した結果に過ぎない。
ミヤハラやサクライは建造物の外観が人に与える影響などに心惹かれるようなことはなかったから、特別な感慨を覚えることもなかった。
単にOP社という巨大な敵を象徴する建造物に過ぎない。
「ところでサクライ、お前OP社の本社ビルの中に入ったことあるか?」
ミヤハラの問いにサクライは首を横に振った。
「そうか……仕方のない奴だな。敵の本拠地のことくらい知らないでどうする?」
しかし、そういうミヤハラもOP社の本社ビルの中に入ったのは一度だけである。
「まあいい、入口周辺を取り囲んで出入りを塞いでから、残留している幹部を引っ張り出せばいいだろう」
「そんなところでしょうね」
実のところ、ミヤハラに具体的な戦略はなかった。
あくまでもウォーリーが活動しやすいよう、OP社の邪魔をすることに重きを置いている。
OP社の主力はインデストにいるが、本社周辺に残された人員だけでミヤハラ率いるデモ隊を粉砕することなどたやすいのである。両者の間にはそのくらいの人数差がある。
そして、OP社本社のあるポータル・シティはOP社の支持率が高い。
治安改革センターの設置により劇的に治安が改善したのは事実であるし、サブマリン島最大の都市ポータル・シティはその恩恵をもっとも多く受けている。OP社に対する支持の声が大きいのも無理はない。
ミヤハラもハドリの功績は認めている。少なくともハドリのしてきたことがすべて悪ではないことは承知している。
それでもハドリが司法警察権をほぼ一個人で独占している以上、これを許容するのは問題である。
また、ミヤハラが気にかけているのはハドリの手法が極端に武断的で、相手の主張をまったく受け入れない点である。
ミヤハラの直属の上司であるウォーリーにも「相手の話を聞かない」面はあるのだが、少なくとも機嫌がよければそれなりに話を理解する人間だ。
親友であるオイゲンに至っては人の話を聞きすぎるどころか流されすぎるくらいの人間である。この二人と比較してハドリはあまりにも硬直した思考の持ち主だ、とミヤハラは思う。
(まあ、なるようになる。ここでは時間を稼ぐことが大事だ)
ミヤハラはそう考えて今は目の前のデモに意識を集中することに決めた。
サクライに至ってはミヤハラ以上に戦略を持っていない。
サクライはミヤハラよりも年少で、席次も下である。
そして、現在のミヤハラと比較すればプラス思考でもある。これは当人たちの性質というより抱えている責任の量や質の問題である。
OP社のお膝元で大規模な反対運動があれば、OP社はともかく立ち上がる市民はいる、という程度にしか考えていない。
サクライの場合、なぜOP社を糾弾するのか、と問われればこう答えたであろう。
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