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第八章
341:OP社本社へ出発
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LH五一年五月一日午前七時、「タブーなきエンジニア集団」の副代表、ノリオ・ミヤハラは、ジンにある事務所の前に立っていた。
右隣には財務などを担当する幹部のアツシ・サクライがいる。
そして、事務所の前の道路には数百人の人々が集まっていた。
「そろそろ出発しますか?」
「タブーなきエンジニア集団」のメンバーが心配そうな表情でミヤハラとサクライに声をかけた。
「まあ待て、慌てることはないだろう」
ミヤハラが落ち着いた口調で制止した。
「そうですが……そろそろ出たほうがいいと思いますね」
サクライがゆったりとした口調でミヤハラに進言した。
「そうか……なら出るか」
サクライに促されたミヤハラが手を突き出して「出発」の合図をした。だが、その口調は近所に買い物に行くかのような気楽なものであった。
数名の「タブーなきエンジニア集団」のメンバーが集まった数百名を先導するように走り出た。ミヤハラとサクライは先導するメンバーに続いて歩き出した。
ミヤハラ達はOP社本社にデモを仕掛けるために出発したのだ。
遠く離れたインデストではウォーリーがOP社の事業所のある「サウスセンター」に対してデモを仕掛けようとしている。昼過ぎには「サウスセンター」の建物周辺を群集が埋め尽くすはずだ。
ミヤハラは敢えてウォーリーに先んじて出発した。
これにはウォーリーに対する注意を少しでもこちらに向けさせる目的がある。
他にもウォーリーのピンチに敢えて勝ち目の薄い勝負に出て、ウォーリーを支援することで、ミヤハラを「上司を守る人間だ」ということを広く知らしめる、という考えもあった。
ミヤハラ率いるデモ隊は現在のところ数百人程度である。
ポータル・シティにあるOP社本社へ移動する間にその人数は増えるだろう。
しかし、人数が大きく増えない限り、OP社と渡り合うのは難しいと思われる。
OP社の治安改革部隊が数千、本社近くに残っているのだ。
彼らが本気になって鎮圧を図れば、ミヤハラの率いるデモ隊などひとたまりもない。
「タブーなきエンジニア集団」は本来が戦闘集団ではないし、ミヤハラのデモ隊のうち、戦闘訓練を受けた者は数十名だけだ。しかも、その大多数はこの数日間に即席の訓練を受けさせただけの者である。
デモ隊の数が万単位になれば状況は変わるかもしれない。OP社の治安改革部隊としても、それだけの人数を相手にすれば短時間で事態を収束させることは困難になるはずだからだ。
出発地のジンからOP社本社までは、予定しているルートをゆっくり歩いて三時間弱と予想される。
最短距離をとれば三分の一以下の時間で移動できるが、敢えて時間がかかるルートを選択している。
数百人が行列して歩いているので、デモ隊の歩みは決して速くない。
ゆっくり移動することで、自分たちの存在をアピールし、賛同者を引き込むという意図もあるから、その歩みを必要以上に速めることは得策ではないのだ。
ただし、インデストにいるウォーリーが正午に決起するから、遅くともその前にはOP社本社に到達したいところだ。
ポータル・シティに入ってからしばらくは、大した障害もなく順調に進むことができた。
しかし、中心部に近づくにつれて、デモ隊の歩みが遅くなっていった。
「タブーなきエンジニア集団」に敵対する市民、すなわちOP社の支持者たちが道を塞ぐことが増えてきたのである。
出発に当たってミヤハラとサクライはデモ隊に対して、市民に手を出すな、と厳命していた。そのため、道を塞がれるたびにデモ隊は方向転換を余儀なくされていたのである。
「TM! また、道を塞がれています! このままだとOP社にたどり着けませんよ!」
ミヤハラに向かってメンバーが怒鳴り声をあげた。これで何度目だろうか?
たびたび行く手を阻まれるとあって、メンバー達もかなりイライラが募っているのがわかる。
「いっそのこと、邪魔するやつは排除してしまった方がいいのでは、TM?」
サクライがミヤハラに面倒そうに進言した。実際に面倒だと思っているのだ。
ミヤハラは、まあ待てといって周囲を見回す。
すると視界の隅に工場の姿が入ってきた。
これは使える、とミヤハラの脳裏にあるアイデアが浮かんできた。
「サクライ、あの工場はOP社の取引先だったよな?」
「はあ、確かそうだと思いましたがね」
サクライの返事にミヤハラは少し考えてからこう宣言した。
「よし、あの工場の中を通ってショートカットする!」
「は?」
「あの工場の中を突っ切るんだ! ショートカットだ!」
「はあ、そうですか……」
ミヤハラの指示にサクライはそれほど驚いた様子を見せなかった。
一方、ミヤハラの指示を受けた先導のメンバーたちは一斉に驚きの声をあげた。
「え? OP社の取引先ですよ?」
「本当にやるんですか?」
「構うものか。道が使えないからちょっとの間お邪魔するだけだ。別に実害もないだろう」
ミヤハラの口調は落ち着いたというよりも、事態を把握していないのではないかと思われるくらいのんびりしている。
「しかし……OP社が攻撃してくる口実になるのでは……?」
「今更攻撃される口実が増えたところで困ることはないだろうよ」
「……」
こうして、ミヤハラ率いるデモ隊は工場の中を突っ切ることになった。
右隣には財務などを担当する幹部のアツシ・サクライがいる。
そして、事務所の前の道路には数百人の人々が集まっていた。
「そろそろ出発しますか?」
「タブーなきエンジニア集団」のメンバーが心配そうな表情でミヤハラとサクライに声をかけた。
「まあ待て、慌てることはないだろう」
ミヤハラが落ち着いた口調で制止した。
「そうですが……そろそろ出たほうがいいと思いますね」
サクライがゆったりとした口調でミヤハラに進言した。
「そうか……なら出るか」
サクライに促されたミヤハラが手を突き出して「出発」の合図をした。だが、その口調は近所に買い物に行くかのような気楽なものであった。
数名の「タブーなきエンジニア集団」のメンバーが集まった数百名を先導するように走り出た。ミヤハラとサクライは先導するメンバーに続いて歩き出した。
ミヤハラ達はOP社本社にデモを仕掛けるために出発したのだ。
遠く離れたインデストではウォーリーがOP社の事業所のある「サウスセンター」に対してデモを仕掛けようとしている。昼過ぎには「サウスセンター」の建物周辺を群集が埋め尽くすはずだ。
ミヤハラは敢えてウォーリーに先んじて出発した。
これにはウォーリーに対する注意を少しでもこちらに向けさせる目的がある。
他にもウォーリーのピンチに敢えて勝ち目の薄い勝負に出て、ウォーリーを支援することで、ミヤハラを「上司を守る人間だ」ということを広く知らしめる、という考えもあった。
ミヤハラ率いるデモ隊は現在のところ数百人程度である。
ポータル・シティにあるOP社本社へ移動する間にその人数は増えるだろう。
しかし、人数が大きく増えない限り、OP社と渡り合うのは難しいと思われる。
OP社の治安改革部隊が数千、本社近くに残っているのだ。
彼らが本気になって鎮圧を図れば、ミヤハラの率いるデモ隊などひとたまりもない。
「タブーなきエンジニア集団」は本来が戦闘集団ではないし、ミヤハラのデモ隊のうち、戦闘訓練を受けた者は数十名だけだ。しかも、その大多数はこの数日間に即席の訓練を受けさせただけの者である。
デモ隊の数が万単位になれば状況は変わるかもしれない。OP社の治安改革部隊としても、それだけの人数を相手にすれば短時間で事態を収束させることは困難になるはずだからだ。
出発地のジンからOP社本社までは、予定しているルートをゆっくり歩いて三時間弱と予想される。
最短距離をとれば三分の一以下の時間で移動できるが、敢えて時間がかかるルートを選択している。
数百人が行列して歩いているので、デモ隊の歩みは決して速くない。
ゆっくり移動することで、自分たちの存在をアピールし、賛同者を引き込むという意図もあるから、その歩みを必要以上に速めることは得策ではないのだ。
ただし、インデストにいるウォーリーが正午に決起するから、遅くともその前にはOP社本社に到達したいところだ。
ポータル・シティに入ってからしばらくは、大した障害もなく順調に進むことができた。
しかし、中心部に近づくにつれて、デモ隊の歩みが遅くなっていった。
「タブーなきエンジニア集団」に敵対する市民、すなわちOP社の支持者たちが道を塞ぐことが増えてきたのである。
出発に当たってミヤハラとサクライはデモ隊に対して、市民に手を出すな、と厳命していた。そのため、道を塞がれるたびにデモ隊は方向転換を余儀なくされていたのである。
「TM! また、道を塞がれています! このままだとOP社にたどり着けませんよ!」
ミヤハラに向かってメンバーが怒鳴り声をあげた。これで何度目だろうか?
たびたび行く手を阻まれるとあって、メンバー達もかなりイライラが募っているのがわかる。
「いっそのこと、邪魔するやつは排除してしまった方がいいのでは、TM?」
サクライがミヤハラに面倒そうに進言した。実際に面倒だと思っているのだ。
ミヤハラは、まあ待てといって周囲を見回す。
すると視界の隅に工場の姿が入ってきた。
これは使える、とミヤハラの脳裏にあるアイデアが浮かんできた。
「サクライ、あの工場はOP社の取引先だったよな?」
「はあ、確かそうだと思いましたがね」
サクライの返事にミヤハラは少し考えてからこう宣言した。
「よし、あの工場の中を通ってショートカットする!」
「は?」
「あの工場の中を突っ切るんだ! ショートカットだ!」
「はあ、そうですか……」
ミヤハラの指示にサクライはそれほど驚いた様子を見せなかった。
一方、ミヤハラの指示を受けた先導のメンバーたちは一斉に驚きの声をあげた。
「え? OP社の取引先ですよ?」
「本当にやるんですか?」
「構うものか。道が使えないからちょっとの間お邪魔するだけだ。別に実害もないだろう」
ミヤハラの口調は落ち着いたというよりも、事態を把握していないのではないかと思われるくらいのんびりしている。
「しかし……OP社が攻撃してくる口実になるのでは……?」
「今更攻撃される口実が増えたところで困ることはないだろうよ」
「……」
こうして、ミヤハラ率いるデモ隊は工場の中を突っ切ることになった。
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