ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

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第八章

339:黒幕への誘い

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 カネサキの後ろから申し訳なさそうにコナカがレイカに向けて提案する。
「先生、先生はそう思われても世間の評価は違うのじゃないかと……
 私は、先生の名前が出ないように影から私達をバックアップしてくださるのがよいかと……」
 カネサキ、オオイダと異なりコナカは穏健派である。
 コナカはレイカの周りを取り巻く重苦しい空気を何とかしたいと思って、このような提案をしたのだ。
 レイカにはそんなコナカの気持ちが手に取るようにわかる。
 しかし、レイカ自身は今の雰囲気をそれほど険悪だとは思っていない。
 親しい中にも妬みや嫉み、その他もろもろの負の感情が渦巻くことなど頻繁にあることなのだ。
「先生、黒幕じゃないですけど、裏から僕達を操る、っていうのも格好いいと思いますよ」
 セスの言葉にレイカは手を打ってそうね、と答えた。
 レイカの表情は少しはにかんだようであり、カネサキなどに言わせると「こういうのが可愛らしく見えるのよね」ということになる。
 結局、レイカは当面の間「タブーなきエンジニア集団」には直接参加せず、影からセス達を応援する立場を取ることにした。
 レイカ自身が「タブーなきエンジニア集団」に名を連ねたときの影響が計り知れないので、参加する決断ができなかったのである。
 彼女の名をこの地で知らない者は少数派だ。
 ただし、今回のように政治的な意図が絡んだ場合、彼女の名前がプラスに働くのかどうかは彼女にも判断がつかない。
 マーケターや職業学校の教官としては水準以上の評価を受けているという自負がある。しかし、その名声はこのような場合、どのように影響するのだろうか?

 OP社と「タブーなきエンジニア集団」の対立は政治色の強いものである。
 どちらの勢力も一私企業なのであるが、その対立要因が司法警察権に関わる部分である。この地には地域横断的な政治組織がないから、企業やその地域の有力者が政治的な役割を担うことになる。
 レイカは今まで政治の世界に足を踏み入れようと考えたことはない。
 もともとそれほど政治に興味があるわけでもない。ただ、現在のOP社のやり方には危険を感じている。
 「タブーなきエンジニア集団」の方にも不安はある。主義主張はレイカにも理解できるのだが、裏はないのか、と勘ぐりたくもなる。
 トップのウォーリー・トワに関しては裏表の少なそうな人物に見える。
 だが、彼を取り巻く者達に信用ならない人物がいないとは限らない。
 また、「タブーなきエンジニア集団」は、女性比率の高い組織である。その点がレイカにとっては望みでもあり、不安でもある。
 レイカは自分をどちらかというと少年のような性格だと思っている。
 そのせいか彼女は同姓である女性よりも異性である男性の方が接しやすい、と感じている。
 多数の女性の集まりには、時折不安を感じることがあるのだ。
 職業学校時代の女性職員の集まりにも馴染めなかった彼女である。
 マーケター時代でも、熾烈な女性マーケター同士の競争に戸惑ったこともある。
 そのような過去の経験から、女性比率の高い「タブーなきエンジニア集団」の動きにも不安を覚える彼女であった。
 このような話を周りの仲間にしても理解されないように思える。
 実際、ロビーとセスには似たような話をしたことがあったのだが、二人揃って、
「でも、男も信用ならないですからね。お互い様、ってところじゃないですか?」
 と反論されてしまったのである。
 どちらにせよ政治的な意図をもつ集団にレイカが参加表明をしたとき、世間の反応がどうなるか気になる。
 彼女自身は政治の専門家でも何でもない。今は休養中の身で固定的な職すら持っていない。ただ、ECN社社長のオイゲン・イナのようにマーケター時代の彼女の名声を頼って、特殊な品物を入手したいという人たちの依頼で、それらの品物を入手することを不定期にやっているだけだ。
 そのような状況で政治的な集団に身を投じたとしたら、世間はよい反応を見せないだろう。
 売名行為だの、世間も知らない若いだけの者に何がわかるかだの、心ない非難の声があがる可能性は十分に考えられる。
 目立つことは苦手ではないが、今回は敵対側のOP社が問題である。
 過去のOP社のやり方を見ていると、敵対する者の生命を容赦なく奪っている節がある。
 レイカとて喜んで生命を彼らに差し出すほどお人よしではない。
 それに正直なところOP社に正面切って敵対すると宣言するのは怖いのである。
 周りの仲間が裏からの協力を提案してくれたので、彼女はそれに乗ることができた。
 裏から、といってもこのメンバーの中ではレイカの意見が一番尊重される傾向がある。
 事実上のチームリーダーがレイカであり、そのことに意義を唱える者がいなかったからだ。
 彼女はこうした扱いから今まで自分の好きな業務に専念することができた。
 そして、これから当分の間も同じ状況が続くだろう。
 今はこの状況に乗ってみよう。彼女はそう考えたのであった。
 後年、レイカはサブマリン島の政治に大きな影響を与えることになるのだが、今の彼女がそのことを知る由もなかった。このときの経験が後の彼女の大きな行動の一つを決定したのかもしれない。
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