ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

文字の大きさ
上 下
348 / 436
第八章

339:黒幕への誘い

しおりを挟む
 カネサキの後ろから申し訳なさそうにコナカがレイカに向けて提案する。
「先生、先生はそう思われても世間の評価は違うのじゃないかと……
 私は、先生の名前が出ないように影から私達をバックアップしてくださるのがよいかと……」
 カネサキ、オオイダと異なりコナカは穏健派である。
 コナカはレイカの周りを取り巻く重苦しい空気を何とかしたいと思って、このような提案をしたのだ。
 レイカにはそんなコナカの気持ちが手に取るようにわかる。
 しかし、レイカ自身は今の雰囲気をそれほど険悪だとは思っていない。
 親しい中にも妬みや嫉み、その他もろもろの負の感情が渦巻くことなど頻繁にあることなのだ。
「先生、黒幕じゃないですけど、裏から僕達を操る、っていうのも格好いいと思いますよ」
 セスの言葉にレイカは手を打ってそうね、と答えた。
 レイカの表情は少しはにかんだようであり、カネサキなどに言わせると「こういうのが可愛らしく見えるのよね」ということになる。
 結局、レイカは当面の間「タブーなきエンジニア集団」には直接参加せず、影からセス達を応援する立場を取ることにした。
 レイカ自身が「タブーなきエンジニア集団」に名を連ねたときの影響が計り知れないので、参加する決断ができなかったのである。
 彼女の名をこの地で知らない者は少数派だ。
 ただし、今回のように政治的な意図が絡んだ場合、彼女の名前がプラスに働くのかどうかは彼女にも判断がつかない。
 マーケターや職業学校の教官としては水準以上の評価を受けているという自負がある。しかし、その名声はこのような場合、どのように影響するのだろうか?

 OP社と「タブーなきエンジニア集団」の対立は政治色の強いものである。
 どちらの勢力も一私企業なのであるが、その対立要因が司法警察権に関わる部分である。この地には地域横断的な政治組織がないから、企業やその地域の有力者が政治的な役割を担うことになる。
 レイカは今まで政治の世界に足を踏み入れようと考えたことはない。
 もともとそれほど政治に興味があるわけでもない。ただ、現在のOP社のやり方には危険を感じている。
 「タブーなきエンジニア集団」の方にも不安はある。主義主張はレイカにも理解できるのだが、裏はないのか、と勘ぐりたくもなる。
 トップのウォーリー・トワに関しては裏表の少なそうな人物に見える。
 だが、彼を取り巻く者達に信用ならない人物がいないとは限らない。
 また、「タブーなきエンジニア集団」は、女性比率の高い組織である。その点がレイカにとっては望みでもあり、不安でもある。
 レイカは自分をどちらかというと少年のような性格だと思っている。
 そのせいか彼女は同姓である女性よりも異性である男性の方が接しやすい、と感じている。
 多数の女性の集まりには、時折不安を感じることがあるのだ。
 職業学校時代の女性職員の集まりにも馴染めなかった彼女である。
 マーケター時代でも、熾烈な女性マーケター同士の競争に戸惑ったこともある。
 そのような過去の経験から、女性比率の高い「タブーなきエンジニア集団」の動きにも不安を覚える彼女であった。
 このような話を周りの仲間にしても理解されないように思える。
 実際、ロビーとセスには似たような話をしたことがあったのだが、二人揃って、
「でも、男も信用ならないですからね。お互い様、ってところじゃないですか?」
 と反論されてしまったのである。
 どちらにせよ政治的な意図をもつ集団にレイカが参加表明をしたとき、世間の反応がどうなるか気になる。
 彼女自身は政治の専門家でも何でもない。今は休養中の身で固定的な職すら持っていない。ただ、ECN社社長のオイゲン・イナのようにマーケター時代の彼女の名声を頼って、特殊な品物を入手したいという人たちの依頼で、それらの品物を入手することを不定期にやっているだけだ。
 そのような状況で政治的な集団に身を投じたとしたら、世間はよい反応を見せないだろう。
 売名行為だの、世間も知らない若いだけの者に何がわかるかだの、心ない非難の声があがる可能性は十分に考えられる。
 目立つことは苦手ではないが、今回は敵対側のOP社が問題である。
 過去のOP社のやり方を見ていると、敵対する者の生命を容赦なく奪っている節がある。
 レイカとて喜んで生命を彼らに差し出すほどお人よしではない。
 それに正直なところOP社に正面切って敵対すると宣言するのは怖いのである。
 周りの仲間が裏からの協力を提案してくれたので、彼女はそれに乗ることができた。
 裏から、といってもこのメンバーの中ではレイカの意見が一番尊重される傾向がある。
 事実上のチームリーダーがレイカであり、そのことに意義を唱える者がいなかったからだ。
 彼女はこうした扱いから今まで自分の好きな業務に専念することができた。
 そして、これから当分の間も同じ状況が続くだろう。
 今はこの状況に乗ってみよう。彼女はそう考えたのであった。
 後年、レイカはサブマリン島の政治に大きな影響を与えることになるのだが、今の彼女がそのことを知る由もなかった。このときの経験が後の彼女の大きな行動の一つを決定したのかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...