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第八章
338:和解
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「今、起きたところです。調子は大丈夫ですよ。そろそろ退院じゃないかと思うのですけど、長引いていますね……」
そう言ってセスは病室を見回す。レイカ以外に人の姿はない。
(あれ? ロビーたちと一緒じゃなかったんだっけ?
そうか! まだ先生は「タブーなきエンジニア集団」に参加してないんだっけ!
ロビーが忘れているんじゃないかな……)
セスはレイカがこの場に一人でいる理由を考え、ある結論に達した。
これはまずい、と思ったセスが口を開く。
「あ、メルツ先生。立場上難しいとは思うんですけど、先生にも『タブーなきエンジニア集団』に参加して欲しいと思っているんですけど……無理でしょうか?」
セスはなるべくレイカのプライドを傷つけないように気遣って言葉をかけたつもりだ。
レイカも直感的にそれを感じとっている。
(気付かれたかしら……? 変に思われていないといいのだけど……)
セスが何か言おうとした瞬間に病室の外から複数の足音が聞こえてきた。
少しして病室のドアが開けられる。
「セス、戻ってきたぜ」
先頭に立っていたのはロビーだった。
中にレイカがいるのを見て、あっと声をあげる。
「ロビー、忘れていたでしょ?」
セスが少し意地悪い表情で声をかけた。意地悪い表情はロビーとレイカの心情を慮った結果だ。
ロビーも自分のミスに気付いたようで、レイカに向かって頭を下げる。
「すみません、先生に声をかけるのを忘れていましたっ!」
ロビーは一切言い訳をせず、ただ、レイカに向かって頭を下げたのだ。
「あ、いろいろあったようだし、いきなり頭を下げなくても……」
レイカは少し当惑した様子だ。
後ろからカネサキ、オオイダ、コナカの順で病室に入ってきた。
「タカミ君、何やっているのよ?」
「あ、メルツ先生に顔向けできないような悪いことしたんでしょ? カネサキ、何だかわかる?」
カネサキとオオイダの言葉にもロビーは微動だにしない。
「……あ、もしかして!」
一番後ろにいたコナカが口に手を当ててしまったという表情を見せた。
そして、ロビーの後ろですみません、と一緒に頭を下げる。
それを見てカネサキも事態を悟ったようだ。
「コナカまで何やっているの?」
オオイダは事態を飲み込めていないらしく、今度はコナカに声をかけた。
しかし、すぐにカネサキがオオイダの腕を叩いて黙らせる。
「カネサキまで何するのよ!」
オオイダは抗議の声をあげたが、カネサキはそれを無視してレイカに向かってごめんなさい、と頭を下げる。
「あ、いいのよ。色々急がしそうだったのは知っているから……」
レイカが少し困ったような、そして拗ねたような様子でそう言うと、セスが間に割って入った。
「あのぅ、先生には僕達と違って立場があるから、下手に『タブーなきエンジニア集団』に参加してください、というと先生を困らせちゃうんじゃないかと思って……
先生が参加すれば、マスコミも注目するじゃないですか。そうしたら、OP社もその事実を知ることになる。先生が以前いた会社は、OP社と取引があると聞いていますし、先生も前にハドリ社長に向かってプレゼンをしたことがあるって仰っていたじゃないですか。
言わば先生にはOP社にも義理があるだろうし、それを僕らが勝手な思いでOP社の敵に誘ってしまっていいのだろうか、って……
それに、ちょっと前にも『タブーなきエンジニア集団』支持の人たちとOP社支持の人たちの間に割って入って争いを止めたことがあったじゃないですか。その人が争いの一方の当事者に味方する、というのでは何かと大変なことになってしまいますよ」
セスの長い説明にレイカはクスリと笑ってから、
「あんまり考え込まないことよ、クルス君」
と言って頭を下げている面々の方へと振り向いた。
「そういうこと、変に気遣ってくれなくてもいいから。私は、表立って『タブーなきエンジニア集団』に参加したいとは思わないけど、貴方達とは一緒に行動したいわ。誘うときに遠慮なんかしなくていいのよ。カネサキさんやオオイダさんは私より年上なのだし、遠慮する理由もないじゃない」
するとカネサキが頭を下げているメンバーを代表して答える。
「先生、ごめんね。私も忘れていた、って訳じゃないんだけど、忙しさにかまけてて……
あとやっぱり先生には私達と違って立場があるから……
それに、先生は街を歩いていても誰もが振り向くような美人さんなのだから、そんな人が男ばかりの集団に入ったら、対処が大変よ」
カネサキは実際には「忘れていた」のだが、事実を伝える必要はない。
それにカネサキの言葉には重大な誤りがある。
「タブーなきエンジニア集団」のメンバーには、比較的女性が多いのである。ウォーリーの人気がそうさせている面があるのだが、とても「男ばかり」の集団とはいえない。
「もう……そこまで気遣ってくれなくてもいいのに……
マーケターだったのも職業学校で教官をしていたのも昔のこと。過去は過去、もう昔のことなんてみんな忘れちゃっているわ」
レイカが軽く息をつきながらやれやれ、という表情を見せた。
そう言ってセスは病室を見回す。レイカ以外に人の姿はない。
(あれ? ロビーたちと一緒じゃなかったんだっけ?
そうか! まだ先生は「タブーなきエンジニア集団」に参加してないんだっけ!
ロビーが忘れているんじゃないかな……)
セスはレイカがこの場に一人でいる理由を考え、ある結論に達した。
これはまずい、と思ったセスが口を開く。
「あ、メルツ先生。立場上難しいとは思うんですけど、先生にも『タブーなきエンジニア集団』に参加して欲しいと思っているんですけど……無理でしょうか?」
セスはなるべくレイカのプライドを傷つけないように気遣って言葉をかけたつもりだ。
レイカも直感的にそれを感じとっている。
(気付かれたかしら……? 変に思われていないといいのだけど……)
セスが何か言おうとした瞬間に病室の外から複数の足音が聞こえてきた。
少しして病室のドアが開けられる。
「セス、戻ってきたぜ」
先頭に立っていたのはロビーだった。
中にレイカがいるのを見て、あっと声をあげる。
「ロビー、忘れていたでしょ?」
セスが少し意地悪い表情で声をかけた。意地悪い表情はロビーとレイカの心情を慮った結果だ。
ロビーも自分のミスに気付いたようで、レイカに向かって頭を下げる。
「すみません、先生に声をかけるのを忘れていましたっ!」
ロビーは一切言い訳をせず、ただ、レイカに向かって頭を下げたのだ。
「あ、いろいろあったようだし、いきなり頭を下げなくても……」
レイカは少し当惑した様子だ。
後ろからカネサキ、オオイダ、コナカの順で病室に入ってきた。
「タカミ君、何やっているのよ?」
「あ、メルツ先生に顔向けできないような悪いことしたんでしょ? カネサキ、何だかわかる?」
カネサキとオオイダの言葉にもロビーは微動だにしない。
「……あ、もしかして!」
一番後ろにいたコナカが口に手を当ててしまったという表情を見せた。
そして、ロビーの後ろですみません、と一緒に頭を下げる。
それを見てカネサキも事態を悟ったようだ。
「コナカまで何やっているの?」
オオイダは事態を飲み込めていないらしく、今度はコナカに声をかけた。
しかし、すぐにカネサキがオオイダの腕を叩いて黙らせる。
「カネサキまで何するのよ!」
オオイダは抗議の声をあげたが、カネサキはそれを無視してレイカに向かってごめんなさい、と頭を下げる。
「あ、いいのよ。色々急がしそうだったのは知っているから……」
レイカが少し困ったような、そして拗ねたような様子でそう言うと、セスが間に割って入った。
「あのぅ、先生には僕達と違って立場があるから、下手に『タブーなきエンジニア集団』に参加してください、というと先生を困らせちゃうんじゃないかと思って……
先生が参加すれば、マスコミも注目するじゃないですか。そうしたら、OP社もその事実を知ることになる。先生が以前いた会社は、OP社と取引があると聞いていますし、先生も前にハドリ社長に向かってプレゼンをしたことがあるって仰っていたじゃないですか。
言わば先生にはOP社にも義理があるだろうし、それを僕らが勝手な思いでOP社の敵に誘ってしまっていいのだろうか、って……
それに、ちょっと前にも『タブーなきエンジニア集団』支持の人たちとOP社支持の人たちの間に割って入って争いを止めたことがあったじゃないですか。その人が争いの一方の当事者に味方する、というのでは何かと大変なことになってしまいますよ」
セスの長い説明にレイカはクスリと笑ってから、
「あんまり考え込まないことよ、クルス君」
と言って頭を下げている面々の方へと振り向いた。
「そういうこと、変に気遣ってくれなくてもいいから。私は、表立って『タブーなきエンジニア集団』に参加したいとは思わないけど、貴方達とは一緒に行動したいわ。誘うときに遠慮なんかしなくていいのよ。カネサキさんやオオイダさんは私より年上なのだし、遠慮する理由もないじゃない」
するとカネサキが頭を下げているメンバーを代表して答える。
「先生、ごめんね。私も忘れていた、って訳じゃないんだけど、忙しさにかまけてて……
あとやっぱり先生には私達と違って立場があるから……
それに、先生は街を歩いていても誰もが振り向くような美人さんなのだから、そんな人が男ばかりの集団に入ったら、対処が大変よ」
カネサキは実際には「忘れていた」のだが、事実を伝える必要はない。
それにカネサキの言葉には重大な誤りがある。
「タブーなきエンジニア集団」のメンバーには、比較的女性が多いのである。ウォーリーの人気がそうさせている面があるのだが、とても「男ばかり」の集団とはいえない。
「もう……そこまで気遣ってくれなくてもいいのに……
マーケターだったのも職業学校で教官をしていたのも昔のこと。過去は過去、もう昔のことなんてみんな忘れちゃっているわ」
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