ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

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第八章

336:ミヤハラの矜持と賭け

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 ミヤハラの言葉による緊張は長くは続かなかった。
 数秒後にサクライが口を開いたからだ。
「……まあ、TMの言葉としておけば大丈夫でしょ」
 サクライが事もなげに言ったので、ミヤハラもそれ以上サクライを追及することはなかった。

 ミヤハラが打って出るのには訳がある。
 ミヤハラは「タブーなきエンジニア集団」の幹部の中で唯一、ウォーリーより年上である。彼とてウォーリーに対する対抗心はあるのだ。
 また、それとは別に、ウォーリー・トワという人物に対する義理がある。
 ミヤハラにウォーリーを紹介したのは、ECN社の現社長オイゲン・イナである。オイゲンはミヤハラにウォーリーを紹介する際に「サブマリン島の住民を導く存在」と評したのだ。
 ミヤハラは親友の評を必ずしも信頼していなかったが、ウォーリーと接するうちに、「彼ならば」という意識を抱くようになった。
 親友であるオイゲンからウォーリーを支援するよう依頼された際、ミヤハラは「何としてでも、この人物をモノにしてみせる!」と決意したのだ。
 そのウォーリーはミヤハラの予想を遥かに上回り、サブマリン島ではエイチ・ハドリに次ぐ有名な存在となった。
 その存在を補佐するミヤハラは、今回、何の抵抗もなしにウォーリーとハドリを激突させるわけにはいかないと考えている。

 「タブーなきエンジニア集団」におけるウォーリーに次ぐナンバーツーの存在として、ミヤハラにはすべきことがある。すなわち、ウォーリーを補佐し「タブーなきエンジニア集団」を発展させることである。
 現状においてはOP社の本社を制圧できれば、ミヤハラとしても最良の仕事をなし得たことになるかもしれない。
 だが、ミヤハラの持っている戦力はOP社の本社を制圧するにはあまりにも心もとない。
 むしろ、ジンやハモネスを守るにも支障がある程度の戦力なのだ。
 しかし、「タブーなきエンジニア集団」は結成以来最大級のピンチに見舞われている。
 OP社の治安改革部隊の大多数が、ウォーリーの滞在しているインデストへ向かっている。
 インデストにある「タブーなきエンジニア集団」の戦力は、人数はともかく戦闘力ではOP社に遠く及ばない。
 しかし、ミヤハラの手元の戦力で、この状況を変えることはできない。
 ならば、ミヤハラのできることは……
 せめてウォーリーに対する義理は果たしたい。

 ミヤハラはECN社社長オイゲン・イナに依頼される形でウォーリーの部下になった。
 ウォーリーの部下として自らの責務を果たしているうちに、ウォーリーの器の大きさを思い知らされることとなった。オイゲンが言うようにウォーリーはサブマリン島屈指のリーダーシップを持つ人材であると確信するに至った。
 その人物のピンチを迎えて、ナンバーツーのミヤハラがすべきことは……

 ミヤハラは彼なりに自分がすべきことを感じとっていた。
 今はウォーリーのピンチである。そして、そのピンチを打破できるだけの戦力をミヤハラも持っていない。
 ならば……ウォーリーに向いた矛先を自分自身に向け、ウォーリーのピンチを引き受けるのがベストでないにしろベターであるとミヤハラには思える。
 また、これはミヤハラの競争心にも合致している。
 ウォーリーより年上である彼がウォーリーのピンチを引き受けるのは当然であるという考えだ。それにウォーリーのピンチを引き受ければ「ミヤハラは上司を守る義理堅い人間だ」という評判も得られる。
 正直なところ、今からOP社本社に攻め入ったところでミヤハラに勝算はない。
 しかし、ハドリの注意をわずかでも本社に向けることがウォーリーの勝機を高めることにつながるのであればミヤハラは喜んでそれに貢献するつもりだ。
 時間が経過すればするほどウォーリーの優位性は高まる、とミヤハラは確信している。
 ハドリは本拠地から遠く離れた地に攻め入っているのに対し、ウォーリーはその地で自らの支持者を増やしつつあるからである。

 (せめて約束を守る人物だ、と思われたいものだな……)
 ミヤハラはそう考えて、OP社本社に攻め入ることを決めた。
 彼の持つ戦力は決して豊富ではない。
 真っ向から戦えば勝機はないだろうし、勝機を見出す時間を得ることも難しいであろう。
 しかし、OP社本社に攻め入れば「上司を守る男」としての評判は得られる。
 最低限、その評判を確保するためにも、ミヤハラはOP社本社への侵攻を決めたのだった。

 サクライと協議した結果、ウォーリーがインデストでデモ隊を立ち上げる直前にOP社本社へ部隊を展開することを決めた。
 あとはウォーリーがどこまでやれるか、それに賭けるしかない。
 ミヤハラは覚悟を決めていた、
 サクライもミヤハラに従うつもりである。
 ウォーリーがハドリ相手にどこまで戦えるか、それが今後の彼らの運命を決するであろう。
 トップの能力についてはミヤハラもサクライも疑念を持っていない。
 武力と市民運動の衝突の結果がどう出るか、にかかっていると彼らは考えている。
 市民運動の旗手としてウォーリーがどこまで戦えるのか、ミヤハラは自らの将来を年下の青年に賭け、その結果を見守ることにした。ただし、賭けるに当たっては、自らが賭けたほうが最大限有利になるように手を打ったことは言うまでもない。
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