ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

文字の大きさ
上 下
342 / 436
第八章

333:ウォーリーの目論見

しおりを挟む
 デモを仕掛ける対象を「サウスセンター」に絞り込んだのには理由がある。
 「サウスセンター」の周辺は込みいった繁華街で、大集団を展開しにくい。
 正門前の通りを除けば、他は通用口に面している路地に毛の生えた程度の道があるだけだ。
 こうした地形であれば正門前の通りを塞ぐようにデモに参加する市民を配置し、通りの両端と正門を戦闘チームで埋めておけば、市民への危険は少ない。
 「サウスセンター」正門へ移動する途中を狙われることが心配だが、そこまで手を回せるほど、ウォーリーの手元にある戦力は豊富ではない。
 デモの会場に到着した市民は全力でその安全を確保する。

 また、「サウスセンター」はインデストにおけるOP社の指揮命令系統の中枢部であると同時に、治安改革部隊が使用する武器屋消耗品の類が保管されている倉庫でもある。
 指揮命令自体は通信ネットワークで行われるのが大多数であるから、周辺を市民で囲っただけではその機能を停止させることはできない。
 しかし、命令を発しているのは人である。
 人の壁で人の出入りを止めてしまえば、通信ネットワークは生き残っても、通信を行う人を中に入れずに済ませるか、逆に中に閉じ込めたままにできる。
 前者なら、「サウスセンター」から命令を発することができなくなる。
 後者であるなら命令を発する者を疲弊させ、判断や伝達のミスを誘うことができる。
 また、どちらのパターンでも武器や消耗品の補充が困難になる。ウォーリーの狙いはまさにこれだ。
 事前の調査で「サウスセンター」から発せられる命令は、治安改革センターに出されるものが殆どであることがわかっている。
 また、OP社本社から発せられる命令も「サウスセンター」に集められる。
 このことから、「サウスセンター」の封鎖が情報伝達と作戦継続のふたつの面からもっとも有利だとウォーリーは判断している。

 「サウスセンター」を封鎖してしまえば、他の施設が指揮命令系統を担う可能性もある。
 しかし、OP社のもと従業員であるジン・ヌマタやアカシなどから、「サウスセンター」以外の施設は通信ネットワーク環境が脆弱であるという情報を得ている。

 ウォーリー率いる「タブーなきエンジニア集団」は名前のとおり、エンジニアの集まりだ。それもこの地におけるトップクラスのエンジニアだ。
 ウォーリーは今回エンジニアのエース的存在であるエリックを同行させている。
 脆弱な通信ネットワークの無力化など彼らにとってはたやすい。
 指揮命令系統が混乱すれば、多数の人員を抱えていてもそれを機動的に活用することは難しい。
 OP社を支える三つの事業のうちの一つである鉄鋼事業に混乱が生じれば、その打撃は無視できないものになる。
 また、二万以上の部隊を本社から程遠いインデストに送り込み、何ら生産に寄与しない活動に従事させている。
 この二つの状態が長期化すれば、OP社の運営に支障が出るであろう。
 OP社は公共団体でもなければ、慈善団体でもない。サブマリン島の人口の一五パーセント近くで構成されている集団とはいえ、利益を出さねばならない営利企業なのである。
 通常の営業活動に支障が出れば、OP社とていつまでも「タブーなきエンジニア集団」と争ってはいられない。また、今回「タブーなきエンジニア集団」にはOP社や関連会社の従業員で構成される労働者組合も味方している。
 つまり、OP社の事業活動に重大な支障が起きる可能性を孕んでいるのである。
 事態が長期化すれば、OP社が譲歩しなければならない場面が出るであろう。
 そこでハドリを交渉のテーブルに引っ張り出し、次の条件を飲ませればよい。
 すなわち、
 ・ 司法警察権の放棄、および不当に拘束された者の解放
 ・ OP社における労働者組合の活動の公認
 ・ 「タブーなきエンジニア集団」に加えた攻撃への公開謝罪
 ・ インデスト侵攻中の部隊の解散と、「タブーなきエンジニア集団」、OP社グループ労働者組合、そしてデモに参加した市民への攻撃停止と安全の保障
 の四つである。
 他にもECN社との提携の解消や、治安改革センターの施設の一般開放なども求めていくつもりだが、最低限、先に示した四つの条件が無条件で受け入れられれば、当初の目的は果たせる、とウォーリーは考えている。
 長期戦は自身の体調に不安があるが、ある程度は覚悟しなければならないだろう。
 OP社側の人数は二万を少し超える程度という情報が入っており、そのほとんどが戦闘部隊だ。
 一方、「タブーなきエンジニア集団」は戦闘チームが二五〇名、市民の支持者が一万五千を少し超える程度だと思われる。
 協調体制をとるアカシ率いるOP社グループ労働者組合は、幹部が二〇名ほど、組合員は三千に少し足りないという。
 インデストにいるOP社とその関連会社の従業員は合わせて二万ほどであるから、加入率は一五パーセント程度だ。社長のハドリを恐れている人間が多いことを考えれば健闘しているといえる数字なのだが、ウォーリーからするとやや物足りない。
 だが、ハドリを恐れて日和っている者は少なくない、とウォーリーも考えている。
「タブーなきエンジニア集団」や労働者組合が十分頼りになる、と判断されればこうした日和見グループが味方につくのではないか、という見通しがある。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...