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第八章
327:ハドリ対トニー
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ウォーリーとセスの通信回線を通じた会談が行われているのとほぼ同時刻、OP社社長のエイチ・ハドリと「リスク管理研究所」所長のトニー・シヴァの会談も行われていた。
こちらも両者が離れた地にいたから、通信回線を通じた会談である。
トニーは先手を打ってハドリに第一次中間報告と称して、現在のOP社が抱える問題について説明した。
OP社にとって、考慮すべき最大の危険要素はECN社にある、と切り出したのだ。
幸か不幸かハドリは一人で会談に臨んでいる。同行しているオイゲンを参加させなかったのだ。
このことはオイゲンにとって幸いだったかもしれない。
感情の起伏があまり表情に出ない彼ではある。しかし、トニーの指摘はある意味図星であったから、それが表情に出たかもしれない。
ハドリはそのような隙を見逃さない人間である。
その隙を見つければオイゲンの命はなかったかもしれないのだ。
ハドリに同行しておきながら、オイゲンは彼の敵への協力を惜しんでいなかった。
彼はウォーリーへのインセンティブと称して、私財から多額の資金援助を行っていた。
更に、自らがその頭脳をもっとも信頼している秘書を「タブーなきエンジニア集団」に送り込んでもいる。
このことがハドリに知れれば、ほぼ確実にオイゲンは罰されたはずだ。
生命の危機は大げさにしても、海洋調査隊送りくらいならあり得る話である。
「……ECN社か。確か所長もECN社の社員だったことがあるはずだな。それも確か経営企画室の幹部だったのではないのか?」
「その通りです。だからこそ、あの会社の中を良く知っている、ということです。私がECN社を退職したのも同じ理由ですが」
「なるほどな。言っておくが報告をする者はスクリーンの正面に立て! 顧客に対して失礼だと思わんのか! それとも、後ろめたいことでもあって正面に立てんのか?」
トニーの回答にハドリから返されたのは怒号であった。
「いえ、報告用の画面が見にくくなると考えて、脇にいたまでです」
「なら早く正面に立て」
「……この位置でしょうか?」
ハドリの反撃にトニーは表面上冷静に対処した。スクリーンの脇に立っている彼の部下に正面に移動するよう命じたのだ。自らは奥に控えているが、トニーの心中は決して穏やかなものではなかった。
ハドリの反撃は予想通りだ。
しかし、その言葉が生み出す圧迫感はトニーの予想をはるかに超えていた。
トニーは、この会談にあたって説明役には部下のホルツを指名していた。
彼自身はホルツの奥から発言することにしていた。彼にとっては、この形の方が相手を観察しやすいし、より有利な対応ができると思えたからだ。
それでもハドリの威圧感は、ホルツを押しのけてトニー自身まで到達したかのように感じられた。
ホルツを盾にするとしても、押し寄せてくる圧力が大きすぎて、盾が十分な機能を果たせそうにないのだ。
「……まあいい、ところでECN社が何故脅威となるのだ?」
「ECN社は資金力、人員数とも貴社に次ぐ存在です。そして、貴社の治安改革活動への寄与度が低い分、貴社ほど痛みを負っていません。つまり、ECN社が自社の戦力を維持しつつ、貴社が傷つくのを待っている可能性が考えられる、ということです」
「なるほどな……わが社とECN社が争い、共倒れになるのを待とうという魂胆か? まさに物は言いようだな、『リスク管理研究所』の所長よ」
ハドリの指摘の通りトニーはOP社とECN社の共倒れを望んではいる。
しかし、ハドリがトニーの目論見通りECN社と対決すると考えるほど、楽観的に構えているわけではない。
最低限、OP社の電力事業に綻びが出るまで電力事業に注力できない状況を作ることができさえすればよいのだ。
「いえ、ECN社が何か企んでいないかを詳細に調査する必要があると申し上げています。もと従業員の私どもが調査すると内部の人間ということで視点に偏りが出る可能性があります。ここはニュートラルな視点を持つ貴社の方々に実施していただくのがよいのではないかと思いますが」
「回りくどいな。所長が疑っているのはECNのどの人物だ?」
「組織を調べるならば、トップから、ということです」
「ということならば、所長も調べる必要があるな。『リスク管理研究所』のトップだからな。所長自ら前に出ないところも気にはなるが……まあいい。
ところでうちに敵対している『タブーなきエンジニア集団』のトップもECN社の幹部だったな。ECNの幹部が各組織のトップというわけか」
ハドリの言葉にトニーの背中を冷たい汗が流れた。
しかし、ここで平静さを失ってはならない。
「それだけECN社のトップに魅力がないということでしょう。人心を掌握できていないのですから」
「ほう、面白いことを言うな……
まあいい、今日の報告は後で目を通しておく。
こちらがECN社について何も調べてないなどという考えがあるのなら、それは愚考というものだ。次はもう少し内容のある報告を聞きたいものだ」
ハドリはそう言って会談を打ち切った。
画面からハドリの姿が消えてもトニーは息をつくことすらできなかった。
こちらも両者が離れた地にいたから、通信回線を通じた会談である。
トニーは先手を打ってハドリに第一次中間報告と称して、現在のOP社が抱える問題について説明した。
OP社にとって、考慮すべき最大の危険要素はECN社にある、と切り出したのだ。
幸か不幸かハドリは一人で会談に臨んでいる。同行しているオイゲンを参加させなかったのだ。
このことはオイゲンにとって幸いだったかもしれない。
感情の起伏があまり表情に出ない彼ではある。しかし、トニーの指摘はある意味図星であったから、それが表情に出たかもしれない。
ハドリはそのような隙を見逃さない人間である。
その隙を見つければオイゲンの命はなかったかもしれないのだ。
ハドリに同行しておきながら、オイゲンは彼の敵への協力を惜しんでいなかった。
彼はウォーリーへのインセンティブと称して、私財から多額の資金援助を行っていた。
更に、自らがその頭脳をもっとも信頼している秘書を「タブーなきエンジニア集団」に送り込んでもいる。
このことがハドリに知れれば、ほぼ確実にオイゲンは罰されたはずだ。
生命の危機は大げさにしても、海洋調査隊送りくらいならあり得る話である。
「……ECN社か。確か所長もECN社の社員だったことがあるはずだな。それも確か経営企画室の幹部だったのではないのか?」
「その通りです。だからこそ、あの会社の中を良く知っている、ということです。私がECN社を退職したのも同じ理由ですが」
「なるほどな。言っておくが報告をする者はスクリーンの正面に立て! 顧客に対して失礼だと思わんのか! それとも、後ろめたいことでもあって正面に立てんのか?」
トニーの回答にハドリから返されたのは怒号であった。
「いえ、報告用の画面が見にくくなると考えて、脇にいたまでです」
「なら早く正面に立て」
「……この位置でしょうか?」
ハドリの反撃にトニーは表面上冷静に対処した。スクリーンの脇に立っている彼の部下に正面に移動するよう命じたのだ。自らは奥に控えているが、トニーの心中は決して穏やかなものではなかった。
ハドリの反撃は予想通りだ。
しかし、その言葉が生み出す圧迫感はトニーの予想をはるかに超えていた。
トニーは、この会談にあたって説明役には部下のホルツを指名していた。
彼自身はホルツの奥から発言することにしていた。彼にとっては、この形の方が相手を観察しやすいし、より有利な対応ができると思えたからだ。
それでもハドリの威圧感は、ホルツを押しのけてトニー自身まで到達したかのように感じられた。
ホルツを盾にするとしても、押し寄せてくる圧力が大きすぎて、盾が十分な機能を果たせそうにないのだ。
「……まあいい、ところでECN社が何故脅威となるのだ?」
「ECN社は資金力、人員数とも貴社に次ぐ存在です。そして、貴社の治安改革活動への寄与度が低い分、貴社ほど痛みを負っていません。つまり、ECN社が自社の戦力を維持しつつ、貴社が傷つくのを待っている可能性が考えられる、ということです」
「なるほどな……わが社とECN社が争い、共倒れになるのを待とうという魂胆か? まさに物は言いようだな、『リスク管理研究所』の所長よ」
ハドリの指摘の通りトニーはOP社とECN社の共倒れを望んではいる。
しかし、ハドリがトニーの目論見通りECN社と対決すると考えるほど、楽観的に構えているわけではない。
最低限、OP社の電力事業に綻びが出るまで電力事業に注力できない状況を作ることができさえすればよいのだ。
「いえ、ECN社が何か企んでいないかを詳細に調査する必要があると申し上げています。もと従業員の私どもが調査すると内部の人間ということで視点に偏りが出る可能性があります。ここはニュートラルな視点を持つ貴社の方々に実施していただくのがよいのではないかと思いますが」
「回りくどいな。所長が疑っているのはECNのどの人物だ?」
「組織を調べるならば、トップから、ということです」
「ということならば、所長も調べる必要があるな。『リスク管理研究所』のトップだからな。所長自ら前に出ないところも気にはなるが……まあいい。
ところでうちに敵対している『タブーなきエンジニア集団』のトップもECN社の幹部だったな。ECNの幹部が各組織のトップというわけか」
ハドリの言葉にトニーの背中を冷たい汗が流れた。
しかし、ここで平静さを失ってはならない。
「それだけECN社のトップに魅力がないということでしょう。人心を掌握できていないのですから」
「ほう、面白いことを言うな……
まあいい、今日の報告は後で目を通しておく。
こちらがECN社について何も調べてないなどという考えがあるのなら、それは愚考というものだ。次はもう少し内容のある報告を聞きたいものだ」
ハドリはそう言って会談を打ち切った。
画面からハドリの姿が消えてもトニーは息をつくことすらできなかった。
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