ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

文字の大きさ
上 下
336 / 436
第八章

327:ハドリ対トニー

しおりを挟む
 ウォーリーとセスの通信回線を通じた会談が行われているのとほぼ同時刻、OP社社長のエイチ・ハドリと「リスク管理研究所」所長のトニー・シヴァの会談も行われていた。
 こちらも両者が離れた地にいたから、通信回線を通じた会談である。
 トニーは先手を打ってハドリに第一次中間報告と称して、現在のOP社が抱える問題について説明した。
 OP社にとって、考慮すべき最大の危険要素はECN社にある、と切り出したのだ。
 幸か不幸かハドリは一人で会談に臨んでいる。同行しているオイゲンを参加させなかったのだ。
 このことはオイゲンにとって幸いだったかもしれない。
 感情の起伏があまり表情に出ない彼ではある。しかし、トニーの指摘はある意味図星であったから、それが表情に出たかもしれない。
 ハドリはそのような隙を見逃さない人間である。
 その隙を見つければオイゲンの命はなかったかもしれないのだ。
 ハドリに同行しておきながら、オイゲンは彼の敵への協力を惜しんでいなかった。
 彼はウォーリーへのインセンティブと称して、私財から多額の資金援助を行っていた。
 更に、自らがその頭脳をもっとも信頼している秘書を「タブーなきエンジニア集団」に送り込んでもいる。
 このことがハドリに知れれば、ほぼ確実にオイゲンは罰されたはずだ。
 生命の危機は大げさにしても、海洋調査隊送りくらいならあり得る話である。
「……ECN社か。確か所長もECN社の社員だったことがあるはずだな。それも確か経営企画室の幹部だったのではないのか?」
「その通りです。だからこそ、あの会社の中を良く知っている、ということです。私がECN社を退職したのも同じ理由ですが」
「なるほどな。言っておくが報告をする者はスクリーンの正面に立て! 顧客に対して失礼だと思わんのか! それとも、後ろめたいことでもあって正面に立てんのか?」
 トニーの回答にハドリから返されたのは怒号であった。
「いえ、報告用の画面が見にくくなると考えて、脇にいたまでです」
「なら早く正面に立て」
「……この位置でしょうか?」
 ハドリの反撃にトニーは表面上冷静に対処した。スクリーンの脇に立っている彼の部下に正面に移動するよう命じたのだ。自らは奥に控えているが、トニーの心中は決して穏やかなものではなかった。
 ハドリの反撃は予想通りだ。
 しかし、その言葉が生み出す圧迫感はトニーの予想をはるかに超えていた。

 トニーは、この会談にあたって説明役には部下のホルツを指名していた。
 彼自身はホルツの奥から発言することにしていた。彼にとっては、この形の方が相手を観察しやすいし、より有利な対応ができると思えたからだ。
 それでもハドリの威圧感は、ホルツを押しのけてトニー自身まで到達したかのように感じられた。
 ホルツを盾にするとしても、押し寄せてくる圧力が大きすぎて、盾が十分な機能を果たせそうにないのだ。
「……まあいい、ところでECN社が何故脅威となるのだ?」
「ECN社は資金力、人員数とも貴社に次ぐ存在です。そして、貴社の治安改革活動への寄与度が低い分、貴社ほど痛みを負っていません。つまり、ECN社が自社の戦力を維持しつつ、貴社が傷つくのを待っている可能性が考えられる、ということです」
「なるほどな……わが社とECN社が争い、共倒れになるのを待とうという魂胆か? まさに物は言いようだな、『リスク管理研究所』の所長よ」
 ハドリの指摘の通りトニーはOP社とECN社の共倒れを望んではいる。
 しかし、ハドリがトニーの目論見通りECN社と対決すると考えるほど、楽観的に構えているわけではない。
 最低限、OP社の電力事業に綻びが出るまで電力事業に注力できない状況を作ることができさえすればよいのだ。
「いえ、ECN社が何か企んでいないかを詳細に調査する必要があると申し上げています。もと従業員の私どもが調査すると内部の人間ということで視点に偏りが出る可能性があります。ここはニュートラルな視点を持つ貴社の方々に実施していただくのがよいのではないかと思いますが」
「回りくどいな。所長が疑っているのはECNのどの人物だ?」
「組織を調べるならば、トップから、ということです」
「ということならば、所長も調べる必要があるな。『リスク管理研究所』のトップだからな。所長自ら前に出ないところも気にはなるが……まあいい。
 ところでうちに敵対している『タブーなきエンジニア集団』のトップもECN社の幹部だったな。ECNの幹部が各組織のトップというわけか」
 ハドリの言葉にトニーの背中を冷たい汗が流れた。
 しかし、ここで平静さを失ってはならない。
「それだけECN社のトップに魅力がないということでしょう。人心を掌握できていないのですから」
「ほう、面白いことを言うな……
 まあいい、今日の報告は後で目を通しておく。
 こちらがECN社について何も調べてないなどという考えがあるのなら、それは愚考というものだ。次はもう少し内容のある報告を聞きたいものだ」
 ハドリはそう言って会談を打ち切った。
 画面からハドリの姿が消えてもトニーは息をつくことすらできなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...