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第八章
326:ウォーリーの秘密
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インデスト某所にある「タブーなきエンジニア集団」の活動拠点にはウォーリーと幹部のエリック・モトムラの姿があった。
「エリック、例の医者の所と通信をつないでくれないか?」
ウォーリーの声にエリック・モトムラが無言で通信をつないだ。
このくらいの作業であれば、通常はウォーリーが自ら片付けてしまうはずだった。
エリックは自分が指名されたことにわずかながら疑問を覚えたのだが、おおかた相手の連絡先を失念したのだろう、と考えて自分を納得させた。
ウォーリーが取引先などの連絡先を失念することは、比較的よくあることだったからだ。この場合、エリックがフォロー役を務めることが多かった。
通信がつながり、相手方の医師が出たのを確認して、エリックはその場を去った。
彼は彼で、インデストに押し寄せてこようとしているハドリの部隊の状況を調査し、逐一報告するという任務を帯びていたためである。
ところで、ウォーリーがエリックを使ってインデストの医師へ通信をつながせたのは、彼が連絡先を失念したためではなかった。エリックの予想は完全に外れていたのである。
先ほどまで行われていたメディットとの通信中から、その兆候は出始めていた。
目に映る像が白っぽく薄れていき、意識が徐々に遠のいていくような症状が何度か出ていたのである。
周りにはその様子を見せまいとしていたから、恐らく誰にも気づかれていなかったとはウォーリーは思っている。
メディットとの通信を終えて、椅子に腰掛けているときこの日最大の波がウォーリーを襲った。
わずか数秒のことではあったが、椅子に座ったまま完全に意識を失ったのだ。
最近、ウォーリーは様々な身体の不調に悩まされている。
今日は意識が飛んだが、先日は酒を飲んでいるときに脇腹に激痛が走った。
他にも突然息苦しくなったり、手に痺れを感じたりしたこともある。
アイネスに検査を受けるよう指摘されたとき、これまでのウォーリーだったら無視を決め込んだかも知れない。
今回、代替案を提示して指摘を受け入れたのは、ウォーリー自身にも自分の身体に異変が起きているという自覚があったためである。
ただし、彼にとっての最優先事項は、ハドリとの対決である。OP社の司法警察権を返上させるために、こうしてインデストで決起しているのだから。
検査くらいであれば、ハドリの部隊がインデストに達するまでの期間で受ける時間もあるだろう。もし、長くかかる検査ならば、ハドリとの対決を終えてからにするつもりだ。
検査の結果、加療が必要であるならば、ハドリとの対決を終えてからメディットへ行けばよい。
セスという自分の弟を名乗る青年もメディットに入院している。必要があれば、治療の際に彼との兄弟関係を検査することも可能だろう。
ウォーリーが医師に検査の件について質問する。
既にアイネスから連絡が行っており、医師はすぐに答えを返してきた。
検査は一週間程度かかるようだ。早急に検査を始める必要がある、と医師は伝えてきた。
それに対し、ハドリの部隊がインデストに到達するまで一〇日程度しかないから、そんな悠長なことはできない、とウォーリーは答えた。
すると、医師は検査の方法について詳しく説明してきた。
検査は病院で行うのではなく、装置があれば自分自身で行うことが可能だというのだ。
装置をレンタルするから、決められた時間に自分で検査をすればよいらしい。
実は、この装置はセスがユニヴァースのもとを訪れる際にロビーに持たせたものと同じものである。
装置自体は、この島の一定規模以上の病院であればどこでも、特定の検査が必要な患者に貸し出しているものである。
ただし、装置に組み込まれているソフトウェアが特殊なものである。
アイネスがインデストの医師に送ったのは、このソフトウェアであった。
セスに対するものと同等の検査を施して、ウォーリーの状態を確認するのだ。
ウォーリーは一旦通信を切って医師のもとへと向かった。
装置の受け取りと操作説明を受けるためである。
検査を受けるということは、何らかの異状の可能性が考えられるのだろう。
自覚症状があるのだから、異状の可能性は高いはずだ。
しかし、異状が発見されても今は治療のための時間がない。
(ならば、精神力で症状を抑え込むまでよ! このくらいのことを我慢できずして、ハドリの野望を砕くことなどできん!)
ウォーリーの強靭な意志の力は、しばしばこのような身体の異状を抑え付けることに成功していた。彼が倒れたのは三年前の春、ECN社を飛び出した日だけなのだ。
医師のところへ向けて出発してからは、症状は落ち着いている。
要するに精神的な問題が大きいのだ、とウォーリーは考えている。
医師のところで三〇分ほど説明を受けて、装置を受領した。
忘れっぽいウォーリーの性格を考慮したのか、ご丁寧に検査忘れを通知するアラーム機能まであるらしい。
アラーム機能の説明にはウォーリーも苦笑した。しかし、俺はいつも忘れているわけじゃない、と言い返すのが彼である。
とにかく目の前に迫っているハドリをどうにかしない限りは、今後の展開が望めない。
そろそろエリックから何らかの報告がある時間だ。
ウォーリーは「タブーなきエンジニア集団」の拠点への道を急いだ。
まずはハドリの野望を打ち砕くために。
「エリック、例の医者の所と通信をつないでくれないか?」
ウォーリーの声にエリック・モトムラが無言で通信をつないだ。
このくらいの作業であれば、通常はウォーリーが自ら片付けてしまうはずだった。
エリックは自分が指名されたことにわずかながら疑問を覚えたのだが、おおかた相手の連絡先を失念したのだろう、と考えて自分を納得させた。
ウォーリーが取引先などの連絡先を失念することは、比較的よくあることだったからだ。この場合、エリックがフォロー役を務めることが多かった。
通信がつながり、相手方の医師が出たのを確認して、エリックはその場を去った。
彼は彼で、インデストに押し寄せてこようとしているハドリの部隊の状況を調査し、逐一報告するという任務を帯びていたためである。
ところで、ウォーリーがエリックを使ってインデストの医師へ通信をつながせたのは、彼が連絡先を失念したためではなかった。エリックの予想は完全に外れていたのである。
先ほどまで行われていたメディットとの通信中から、その兆候は出始めていた。
目に映る像が白っぽく薄れていき、意識が徐々に遠のいていくような症状が何度か出ていたのである。
周りにはその様子を見せまいとしていたから、恐らく誰にも気づかれていなかったとはウォーリーは思っている。
メディットとの通信を終えて、椅子に腰掛けているときこの日最大の波がウォーリーを襲った。
わずか数秒のことではあったが、椅子に座ったまま完全に意識を失ったのだ。
最近、ウォーリーは様々な身体の不調に悩まされている。
今日は意識が飛んだが、先日は酒を飲んでいるときに脇腹に激痛が走った。
他にも突然息苦しくなったり、手に痺れを感じたりしたこともある。
アイネスに検査を受けるよう指摘されたとき、これまでのウォーリーだったら無視を決め込んだかも知れない。
今回、代替案を提示して指摘を受け入れたのは、ウォーリー自身にも自分の身体に異変が起きているという自覚があったためである。
ただし、彼にとっての最優先事項は、ハドリとの対決である。OP社の司法警察権を返上させるために、こうしてインデストで決起しているのだから。
検査くらいであれば、ハドリの部隊がインデストに達するまでの期間で受ける時間もあるだろう。もし、長くかかる検査ならば、ハドリとの対決を終えてからにするつもりだ。
検査の結果、加療が必要であるならば、ハドリとの対決を終えてからメディットへ行けばよい。
セスという自分の弟を名乗る青年もメディットに入院している。必要があれば、治療の際に彼との兄弟関係を検査することも可能だろう。
ウォーリーが医師に検査の件について質問する。
既にアイネスから連絡が行っており、医師はすぐに答えを返してきた。
検査は一週間程度かかるようだ。早急に検査を始める必要がある、と医師は伝えてきた。
それに対し、ハドリの部隊がインデストに到達するまで一〇日程度しかないから、そんな悠長なことはできない、とウォーリーは答えた。
すると、医師は検査の方法について詳しく説明してきた。
検査は病院で行うのではなく、装置があれば自分自身で行うことが可能だというのだ。
装置をレンタルするから、決められた時間に自分で検査をすればよいらしい。
実は、この装置はセスがユニヴァースのもとを訪れる際にロビーに持たせたものと同じものである。
装置自体は、この島の一定規模以上の病院であればどこでも、特定の検査が必要な患者に貸し出しているものである。
ただし、装置に組み込まれているソフトウェアが特殊なものである。
アイネスがインデストの医師に送ったのは、このソフトウェアであった。
セスに対するものと同等の検査を施して、ウォーリーの状態を確認するのだ。
ウォーリーは一旦通信を切って医師のもとへと向かった。
装置の受け取りと操作説明を受けるためである。
検査を受けるということは、何らかの異状の可能性が考えられるのだろう。
自覚症状があるのだから、異状の可能性は高いはずだ。
しかし、異状が発見されても今は治療のための時間がない。
(ならば、精神力で症状を抑え込むまでよ! このくらいのことを我慢できずして、ハドリの野望を砕くことなどできん!)
ウォーリーの強靭な意志の力は、しばしばこのような身体の異状を抑え付けることに成功していた。彼が倒れたのは三年前の春、ECN社を飛び出した日だけなのだ。
医師のところへ向けて出発してからは、症状は落ち着いている。
要するに精神的な問題が大きいのだ、とウォーリーは考えている。
医師のところで三〇分ほど説明を受けて、装置を受領した。
忘れっぽいウォーリーの性格を考慮したのか、ご丁寧に検査忘れを通知するアラーム機能まであるらしい。
アラーム機能の説明にはウォーリーも苦笑した。しかし、俺はいつも忘れているわけじゃない、と言い返すのが彼である。
とにかく目の前に迫っているハドリをどうにかしない限りは、今後の展開が望めない。
そろそろエリックから何らかの報告がある時間だ。
ウォーリーは「タブーなきエンジニア集団」の拠点への道を急いだ。
まずはハドリの野望を打ち砕くために。
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