ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

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第八章

325:探し人との画面越しの対面 その4

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「ここから話せばよいですか?」
 アイネスがミヤハラの前に置かれた携帯端末を指し示しながら、周囲に尋ねた。
 部屋の奥の方にいる「タブーなきエンジニア集団」の技師の一人がそうだと答えた。

 一方、いきなりアイネスが登場したので、スクリーンに映るウォーリーは怪訝な表情を見せている。
「何だ、アイネス先生じゃないですか。血相を変えてどうしたのですか?」
「トワさん、緊急にあなたに受けていただきたい検査があります。至急、当院へいらしてください」
 ウォーリーの問いに、アイネスは淡々と用件を告げた。
「そんなこと言っても、俺はインデストにいるんだぜ。それに、今ノコノコ出て行ったら、ハドリの奴に捕まるのがオチだぜ。確かに半年にいっぺん来いとは言われているけど、今はそれどころじゃないぜ」
「あなたは検査を受けるべきです」
 ウォーリーの反論を一切無視してアイネスはそう言い切った。
「そんなこと言われてもなぁ……」
 ウォーリーは困惑した様子で少し思案した。そして十数秒後、手を叩いてうなずいた。
「じゃあ、こうしましょう。こっちにも医者がいるんで、検査方法をアイネス先生に指示してもらいましょう。俺はこっちで検査を受ける。そして結果はこっちで分析するなり、アイネス先生のところに送るなりすれば、問題ない、ってことでしょ?」
 ウォーリーの申し出にアイネスは引きつった表情を見せながらも、しぶしぶそれを承知した。その表情にはあからさまに「不本意ながら」と書かれていたのだが。
 アイネスは医師用の特別回線でウォーリーの示した医師と通信すると告げて、セスの病室を後にした。
 その直後、今まで壁によりかかり、身体を縮こまらせていたメイが、恐る恐る前へ進んできた。

「??」「?!」
 病室にいた全員の視線がメイに注がれる。
 彼女は頼りない足どりでゆっくりとスクリーンの前に進み出た。
 そして、スクリーンに映し出されたウォーリーの像と視線が合わないように少し下を見ながら、震える声で話し始めた。
「トワマネージャー……
 社長から聞きました。八年前の件……ありがとうございました……」
 そう言うとメイはスクリーンに向かって深々と頭を下げた。
 メイはスクリーンのウォーリーの像を見ていなかったのだが、ウォーリーは驚きの表情を見せていた。
 ウォーリーとてメイが言葉を発するのをほとんど聞いたことがなかったのである。
 (八年前の件? 社長から聞いた……?)
 ウォーリーはしばらくの間思案していたが、ミヤハラから「自殺した教師の娘」の話を事前に聞かされていたことを思い出した。
「……ああ、あのことか。別に礼には及ばねえよ。あんたが理不尽に責められていたから、こっちも対処したまでだ。それに申請を承認したのは今の社長だぜ。社長に感謝しておくんだな」
 そう言いながらウォーリーは笑顔を見せていた。
 (多少は話ができるようになった、ということか……結構なことだ。これならいずれはうちの連中とも話ができるようになるだろうな)
 メイのほうは、やや疲労した様子で壁にもたれている。相当の緊張を強いられたらしい。
 セスは二人のやり取りについて詳しい内容をウォーリーに問おうとしたが、やめた。
 関係ない者が土足で立ち入ってよい領域だとは思われなかったからだ。

「悪いが、俺の方もハドリの奴に備えないといけないのでな。終わったらジンに顔を出すから今日のところはこのくらいで勘弁してくれないか?」
 ウォーリーが申し訳なさそうに頼んできた。
 さすがにこれ以上ウォーリーや「タブーなきエンジニア集団」の時間を奪うのはセスやロビーの本意ではなかった。
 セスがロビーの方に向かってうなずいた。
「今日はこれで十分です。協力してくれた皆さん、ありがとうございました。終わったらセスに会いに来てくださいよ!」
 ロビーの言葉にウォーリーは「ああ」と力強く答えたのだった。

 この直後、セスとウォーリーの会談は打ち切られた。
 ウォーリーの側は押し寄せてくるハドリの部隊に対処する準備がある。
 本格的に二人が語り合うのは、ハドリの部隊の撤退後になるだろう。
 入院中のセスには両者の衝突の早期解決を願うことしかできない。
 詳しい状況は把握できないが、決して「タブーなきエンジニア集団」が有利な状況ではないと思われる。
 セスは兄だとされるウォーリー・トワの能力を信頼はしている。
 ECN社でアルバイトをしていた時代に、社長のオイゲン・イナからウォーリーの評価を散々聞かされていたからだ。
 曰く、
 エンジニアとしては超一流で、更にこれと決めた分野に関しては、短期間でその分野の一線級のレベルまで上りつめる集中力がある。
 人を惹きつける魅力があり、彼のチームのメンバーは誰でも自分の能力以上のものを発揮できるようになる。
 面倒見がよく、特に困っている者を放っておかない熱血漢である。
 等である。
 (大丈夫、あとはどれだけ早く決着が着くか、だよね……)
 セスは右手でシーツを握り締め、映像の消えたスクリーンをじっと見つめていた。
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