ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

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第七章

317:新規参加者の受け入れ

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「タカミ君、こっちだ」
 ミヤハラの案内でロビーは会議室へと通された。ロビーは賭けに勝ち、ミヤハラと直接話をする機会を得たのだ。
 相手がトップのウォーリー・トワでないことにロビーは多少の不満を覚えていたが、遠く離れたインデストにいるのが理由であろうから仕方ないところだ。

 ロビーが通された会議室は偶然にも先日、メイが「タブーなきエンジニア集団」に飛び込んだ際に通された部屋と同じであった。
 メイとミヤハラの義父ニシは既にそれぞれ自分の居室に戻っているので、会議室にはミヤハラとロビーの二人だけの姿がある。

「驚いた。あのカワナが言葉をしゃべるとは……俺ですら過去に一度聞いたことがあるかどうかだ」
 ミヤハラが驚きを隠すことなくロビーに告げた。
「ミヤハラさん、俺も聞いたのは何回もないですよ」
「社長秘書が知っているということは……君はイナの知り合いか?」
「……イナ?」
 ロビーは聞きなれない姓に首を傾げた。
 どこかで聞いたことがあるはずだが、即座にその姓が何を意味するか思い出せなかったのだ。
 相手が不思議そうな顔をしているのに気付いたのか、ミヤハラが言い直す。
「ああ、ECNの社長のオイゲン・イナだ。奴は職業学校時代の同期でね、つい癖で姓で呼んでしまうのだが」
 それを聞いたロビーがようやく思い出した。
「なるほど……
 イナ社長は存じています。ロビー・タカミの名前を言ってもらえれば向こうもわかるでしょう。ECNの社長室でバイトしていましたからね」
「ならば確認は不要だ。ところで、君は『タブーなきエンジニア集団』のトップに何の用事があるのだ?」
 ミヤハラの問いに対する答えとして、ロビーはセスの存在について簡潔に説明した。
 セスが兄を探している青年であること、彼の所持品などを調査した結果、「タブーなきエンジニア集団」の代表、ウォーリー・トワがその兄である可能性があること、などである。

「……うちのマネージャーに兄弟がいる、という話は聞いたことがないな……
 両親が行方不明で爺さん婆さんに育てられた、という話を聞いたことはあるのだが」
 今度はミヤハラが首を傾げる番であった。
「そのあたりはトワさんも知らないのだと思いますね。どうでしょう、一度俺の友人のセスとトワさんとで話をする機会を設けてもらえないですかね?」
 ロビーの言葉にミヤハラは押し黙ってしまった。
(言わんとしていることは理解できるが……現在の状況でそれを優先すべきか……)
 ロビーが続けて言葉を発する。
「困っている身体が不自由な青年を助けてやってはくれないですかね? 『タブーなきエンジニア集団』はOP社と違って人道を知っていると俺は思っているので……」
 ロビーの図々しいともいえる頼みにミヤハラは苦笑しながら、
「……わかった。マネージャーと話をしてみよう。ところで……そのセス君とやらはどこにいるのだ?」
 と、これを受け入れると答えた。
「あ、メディットで入院中です。それと六名ばかり『タブーなきエンジニア集団』に新規加入しますのでよろしく」
 ロビーが六名、と言ったのは、レイカ・メルツを「タブーなきエンジニア集団」に参加させる意思がなかったからだ。
 別に彼女を信用していない訳ではない。単に本人が「タブーなきエンジニア集団」への参加を申し出なかったので、頭数に入れなかったに過ぎない。後で本人の意思を確認して、参加を希望すれば付け加えればよいと単純に考えている。
「ああ、了解した」
 ミヤハラは、鷹揚にうなずくと、内線でメンバーに飲み物を持ってこさせるように伝えた。
「タカミ君、コーヒーでいいか?」
「昆布茶なんてありますかね?」
 ロビーは遠慮しない。
 ミヤハラは苦笑しながらインターホンで昆布茶とコーヒーを一つずつ持ってくるよう命じた。
「君達の参加は歓迎しよう。ところで、いくつか確認したいことがある」
「何でしょうか?」
「ECN社は……イナの様子はどうだったか?」
 ミヤハラの質問にロビーは、自分の思うところを伝えた。
 自分を「偽善者」と言い放ち、やや自暴自棄になっている兆候が見られること
 仕事は淡々とこなしており、表面上は特に変わった様子が見られないこと
 役員が話し合いに応じないため、孤立無援になっている面があること
 などである。
 ロビーは直感的にミヤハラは信用できる、と考えている。オイゲンのことを姓で呼ぶような関係の人物であれば問題無さそうだ。
「イナの奴、秘書だけこっちに寄越してきてどういうつもりだか……」
 ミヤハラの疑問に、関係無い話かもしれませんが、と前置きしてからロビーは自分の思うところを述べる。
「社長さんは、秘書さんをかなり評価していましたからね。社長さんは秘書さんを知恵袋のように考えていたと思いますよ。昼飯なんかも、社長さんが秘書さんの分まで買いに行っていましたからね、どっちが上位者だかよくわからなかったです」
 ミヤハラは、それはイナらしいな、と言って静かに笑った。
 そこに昆布茶とコーヒーが運ばれてきた。
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