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第七章
316:身分証明
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君は何者なのだ、と尋ねられてロビーは今まで自分が名乗っていなかったことを思いだした。
敢えて名乗らなかったわけではない。
セスをどうやってウォーリーと引き合わせるかに集中しすぎていて、他のことに意識が回らなかっただけであった。
「そういえば名乗っていませんでしたね。ロビー・タカミと言います。つい最近までECN社でバイトをしていました。あなたがミヤハラさんですか?」
ロビーは自分の身分を包み隠さず答えた。隠すようなことではないと考えたのだ。
ロビーの質問に体格のよい男がそうだ、と答えた。そしてニシは自分がミヤハラの妻の父親である、と付け加えた。ロビーの予想は正しかったのだ。
「『タブーなきエンジニア集団』に協力してくれるという申し出はありがたい。ところで幹部と話がしたいというのはどのような理由からなのだ?」
ミヤハラは近くから椅子を引っ張り出してきて腰掛けながら尋ねてきた。どうやらロビーの話を聞く気になったようであった。
ミヤハラの質問にロビーはニシにした話と同じ話で答えた。
ロビーがメイに自分の身分を証明させようとする意図は、「自分やセスがオイゲンの知り合いである」ことを示すためだ。
だが、オイゲンの名前をそのまま出すのは憚られる。
ECN社のトップが「タブーなきエンジニア集団」に通じている、となればオイゲンの身が危うい。
だが、ECN社を辞めた社長秘書程度なら問題ないはずだ。
メイの社外での知名度はゼロに等しいし、社員だった当時もランクは一番下だったはずだ。さすがのOP社の網の目も彼女にまで及ぶとは考えにくかった。
「うむ……義父さん、出てもらえるかわからないけど、カワナさんを呼んできてもらえないか? 彼女に確認してみよう」
ミヤハラがニシに頼んだ。
ロビーからすれば、これで第一関門は突破できた。
あとはメイがロビーの知り合いであると主張してくれること、そしてミヤハラがそれに納得することが課題となる。
ただ、メイがどう答えるかについてはロビーにとっても未知数だ。極度の対人恐怖症で他人と言葉を交わすことがほとんどできない彼女がロビーを知り合いだと主張してくれるのだろうか?
この件について、ロビーはオイゲンに期待していた。
メイはオイゲンに対する依存度が極端に高い。
そのオイゲンはロビーに「タブーなきエンジニア集団」に走ってはどうかと提案した。
その場にメイの姿はなかったが、そのことは彼女に伝わっていても不思議ではない。
それならば、メイは自分の身分を証明してくれる、とロビーは考えている。
しばらくしてニシに連れられてメイ・カワナがやってきた。
衝立の陰に隠れながら、ロビーやミヤハラとは五メートルばかり離れた位置に落ち着きない様子で立ち尽くしている。
「タカミ君、といったね。しばらく黙っていてくれ」
そう言って何か言おうとするロビーを制した後、ミヤハラは後ろを振り返ってメイに尋ねる。
「カワナさんよ、この背の高い男を知っているか?」
メイは黙って恐る恐るうなずいた。
ロビーは心の中で、よし! とガッツポーズを決めた。
だが、ミヤハラの質問はそれで終わりではなかった。
「何という人だ?」
短く尋ねて、ミヤハラはロビーの方に向き直った。
「……」
メイは何かに怯えるように震えたまま黙っている。
(頼む、しゃべってくれ!)
ロビーは拳を握り締めながらそれを上下してメイの言葉を待っている。
「何ていう人かわかるか?」
「……」
ロビーはメイの目を見た。
(あの目は俺を知っている目だ! 答えを知っている目だ!
頼む! 一言でいいから話してくれ!)
ミヤハラは無表情のままで言葉を発しない。
ニシは疑わしげな目でロビーとメイを交互に見やっている。
メイは口に手を当てて少しずつ後ずさりするような様子を見せている。
ミヤハラがメイの方を向いた。
メイは目を閉じて、何かから逃れるように首を振った。
「おい!」
ロビーが立ち上がって何かを言いかけると、ミヤハラが無言のままそれを制止した。
(秘書さんは対人恐怖症なんだぞ! そんなに威圧したら怖がるに決まっているじゃないか!)
ロビーの無言の抗議もむなしく、ミヤハラとニシが厳しい視線をメイに向けている。ただし、言葉は発していない。
(頼む! 秘書さん! 俺だよ!)
ロビーが祈るような気持で腕を上下していると、やがて弱弱しい声で言葉が発された。
「……タカミさん……だったと思います……ECN社に……仕事で来ていた……」
声はロビーの耳に何とか聞こえる程度の大きさだった。恐怖に震えているせいかトーンが一定していない。
その言葉にミヤハラが大きく目を見開いた。
表情にこそ出ていないが、彼にしては最大級の驚きの表現である。
ミヤハラはニシに命じてメイを自室に戻らせた。
彼女の額には汗がにじみ、濡れた前髪が額に貼りついていた。
下がるときも極度の緊張にさらされていたせいか、足取りがおぼつかない。
それに未だ震えが治まらないようで、両腕で自分の身体を強く抱きしめながらその場から去っていった。
敢えて名乗らなかったわけではない。
セスをどうやってウォーリーと引き合わせるかに集中しすぎていて、他のことに意識が回らなかっただけであった。
「そういえば名乗っていませんでしたね。ロビー・タカミと言います。つい最近までECN社でバイトをしていました。あなたがミヤハラさんですか?」
ロビーは自分の身分を包み隠さず答えた。隠すようなことではないと考えたのだ。
ロビーの質問に体格のよい男がそうだ、と答えた。そしてニシは自分がミヤハラの妻の父親である、と付け加えた。ロビーの予想は正しかったのだ。
「『タブーなきエンジニア集団』に協力してくれるという申し出はありがたい。ところで幹部と話がしたいというのはどのような理由からなのだ?」
ミヤハラは近くから椅子を引っ張り出してきて腰掛けながら尋ねてきた。どうやらロビーの話を聞く気になったようであった。
ミヤハラの質問にロビーはニシにした話と同じ話で答えた。
ロビーがメイに自分の身分を証明させようとする意図は、「自分やセスがオイゲンの知り合いである」ことを示すためだ。
だが、オイゲンの名前をそのまま出すのは憚られる。
ECN社のトップが「タブーなきエンジニア集団」に通じている、となればオイゲンの身が危うい。
だが、ECN社を辞めた社長秘書程度なら問題ないはずだ。
メイの社外での知名度はゼロに等しいし、社員だった当時もランクは一番下だったはずだ。さすがのOP社の網の目も彼女にまで及ぶとは考えにくかった。
「うむ……義父さん、出てもらえるかわからないけど、カワナさんを呼んできてもらえないか? 彼女に確認してみよう」
ミヤハラがニシに頼んだ。
ロビーからすれば、これで第一関門は突破できた。
あとはメイがロビーの知り合いであると主張してくれること、そしてミヤハラがそれに納得することが課題となる。
ただ、メイがどう答えるかについてはロビーにとっても未知数だ。極度の対人恐怖症で他人と言葉を交わすことがほとんどできない彼女がロビーを知り合いだと主張してくれるのだろうか?
この件について、ロビーはオイゲンに期待していた。
メイはオイゲンに対する依存度が極端に高い。
そのオイゲンはロビーに「タブーなきエンジニア集団」に走ってはどうかと提案した。
その場にメイの姿はなかったが、そのことは彼女に伝わっていても不思議ではない。
それならば、メイは自分の身分を証明してくれる、とロビーは考えている。
しばらくしてニシに連れられてメイ・カワナがやってきた。
衝立の陰に隠れながら、ロビーやミヤハラとは五メートルばかり離れた位置に落ち着きない様子で立ち尽くしている。
「タカミ君、といったね。しばらく黙っていてくれ」
そう言って何か言おうとするロビーを制した後、ミヤハラは後ろを振り返ってメイに尋ねる。
「カワナさんよ、この背の高い男を知っているか?」
メイは黙って恐る恐るうなずいた。
ロビーは心の中で、よし! とガッツポーズを決めた。
だが、ミヤハラの質問はそれで終わりではなかった。
「何という人だ?」
短く尋ねて、ミヤハラはロビーの方に向き直った。
「……」
メイは何かに怯えるように震えたまま黙っている。
(頼む、しゃべってくれ!)
ロビーは拳を握り締めながらそれを上下してメイの言葉を待っている。
「何ていう人かわかるか?」
「……」
ロビーはメイの目を見た。
(あの目は俺を知っている目だ! 答えを知っている目だ!
頼む! 一言でいいから話してくれ!)
ミヤハラは無表情のままで言葉を発しない。
ニシは疑わしげな目でロビーとメイを交互に見やっている。
メイは口に手を当てて少しずつ後ずさりするような様子を見せている。
ミヤハラがメイの方を向いた。
メイは目を閉じて、何かから逃れるように首を振った。
「おい!」
ロビーが立ち上がって何かを言いかけると、ミヤハラが無言のままそれを制止した。
(秘書さんは対人恐怖症なんだぞ! そんなに威圧したら怖がるに決まっているじゃないか!)
ロビーの無言の抗議もむなしく、ミヤハラとニシが厳しい視線をメイに向けている。ただし、言葉は発していない。
(頼む! 秘書さん! 俺だよ!)
ロビーが祈るような気持で腕を上下していると、やがて弱弱しい声で言葉が発された。
「……タカミさん……だったと思います……ECN社に……仕事で来ていた……」
声はロビーの耳に何とか聞こえる程度の大きさだった。恐怖に震えているせいかトーンが一定していない。
その言葉にミヤハラが大きく目を見開いた。
表情にこそ出ていないが、彼にしては最大級の驚きの表現である。
ミヤハラはニシに命じてメイを自室に戻らせた。
彼女の額には汗がにじみ、濡れた前髪が額に貼りついていた。
下がるときも極度の緊張にさらされていたせいか、足取りがおぼつかない。
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