ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

文字の大きさ
上 下
322 / 436
第七章

314:トニー、方針を固める

しおりを挟む
 トニーはOP社からあてがわれた作業室で、腕を組んで考えていた。
 同行したメンバーは端末を操作しながら情報の整理を行っている。
 トニーには、自分の考えを同行メンバーにも「リスク管理研究所」の幹部にも知らせるつもりがない。
 自らの意図を知られれば、己の身の保全のためにOP社にそれを密告する者が生じる可能性もある。そのようなヘマで自らを危険に曝すのは愚かなことだ。
 誰だって、己の身が可愛いのだ。
 自己犠牲などという言葉を生み出した人間は、人類最大級のペテン師である、とトニーは考えている。
 己の身が可愛いペテン師が、己の身を守るために他人の生命を犠牲にすることを賛美する言葉、または他人の生命を犠牲にするための催眠術をかけるための言葉、それが「自己犠牲」に他ならない。
 ただし、「自己犠牲」という言葉に酔い、自ら生命を絶つ者は愚かである。
 そういった愚かな者は知恵ある者が利用すべきである。トニーは、自らに当然その権利があると考えている。
 利用された者、出し抜かれた者に責任があるのだ。
 この世は隙あらば他人を貶めようとする者、利用しようとする者などばかりで溢れている。
 ハドリなどそのもっともたる者の一人だとトニーは思う。ハドリが危険なのは、敵対する相手に対しては、その生命すら容赦なく奪うところにある。
「タブーなきエンジニア集団」がどうなるかは不明だが、他の敵対勢力の主だった幹部は概ねその生命を奪われているといってよい。
 ほんの一時期とはいえ、「タブーなきエンジニア集団」と接触を持ったのはやや軽率だったかもしれない。
 しかし、「タブーなきエンジニア集団」とOP社の勢力を拮抗させるには不可欠な行動だったとトニーは思い直す。

(電力事業の問題の発覚を遅れさせる必要があるな……
 治安改革業務のことを報告しても、電力事業から多く人を割いているだけに同じ結果を招く恐れがある。ここは、ECN社との連携についての調査を先にして、そこから報告していくか……)
 トニーの考えは、すぐに実行へと移されることになる。
「おい、お前ら。ストップだ。何故だかわかるか?」
 六人の所員は、互いに顔を見合わせる。
 一人の所員が手を上げて答えた。
「他に優先して調査すべきことがあるからでしょうか?」
「そうだ、その通りだ。何を優先すべきかわかるか?」
「それは……」
 別の所員が発言を求める。
「じゃあ、お前だ」
「……職業学校との関係を先に調査すべき、ということでしょうか?」
「何故そう思った?」
「あの、『タブーなきエンジニア集団』より職業学校のほうが近くにあるからです。近くにある脅威からつぶしていくべきだと思いますが」
「……三〇点、というところだな。理由が飛躍している。とても及第点とはいえない」
 トニーは発せられた答えを厳しく断じたのだった。
 他の回答も求めたが、トニーが及第点を与えた答えはなかった。
 それ以上の回答が出なくなったところで、トニーが急に表情を緩めて言う。
「お前らなぁ、最大の勢力を忘れているだろう」
 トニーの言葉に六人のメンバーは顔を見合わせるばかりだ。
「馬鹿だな、この島でOP社の次に大きいのはECN社だろうが! ECN社をチェックしないでお前らはどうするつもりだ?」
 メンバーの一人がトニーを制するように反論する。
「しかし……ECN社は我々がかつて所属していた会社です。そこを悪く言うのは……」
「駄目だな、それではプロの仕事とは言えない。自覚が足りないのじゃないか? 自分の所属にとらわれず、必要な仕事を遂行する、これがプロの仕事だ。お客様に申し訳ないと思わないのか?」
 トニーの言葉に反論したメンバーはすごすごと引き下がった。
 トニーはこの手のやり取りが得意である。相手の機先を制してから、自分のフィールドで戦い、後は相手がぼろを出すのを待つのである。
 敢えてタブーに突っ込んでみせることで、相手の選択肢を限定するというのも彼のテクニックである。
 彼自身はECN社に何の恩義も感じていない。少なくとも給料をはるかに超える利益をもたらしたと考えている。ECN社には負債を返済して欲しいくらいの気分なのだ。この際、OP社の仮想敵となってもらうことで負債を返してもらうのも悪くないだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...