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第七章

313:トニーの策

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 トニーらが調査を進めるにつれて、OP社の社風もだんだんと掴めてくるようになった。
 ある程度予測はしていたが、ハドリの命令がなければまったく動けない組織である。
 ハドリはかなりの秘密主義であるようで、重要な情報はすべてハドリに集まる仕組みになっている。
 また、従業員に対する監視も徹底している。
 トニーですら驚いたのは、従業員の座る座席が出勤するまで決定されないことであった。
 私語などで業務効率が落ちることを懸念しているらしい。
 これは参考になるかもしれない、とトニーは思った。

「リスク管理研究所」も従業員監視は比較的厳しい。
 特に金に関する面はシビアで、少しでも研究所に損害を与えようものならそれは、ペナルティとして給与に即座に跳ね返る。
 OP社もこの点は一緒のようで、トニーからすればハドリは油断ならない経営者だと感じられた。

 次に本業の発電事業について調査してみる。
 こちらはセキュリティ・センターやパトロール・チームなど治安改革業務に人材を引き抜かれたこともあり、組織としての活力の低下が目立つ。
 現在はその綻びを見せていないが、予想通り近い将来に破綻する可能性はある。
 破綻の可能性を回避するためには、早急に治安改革業務へ異動させた人材を引き戻す必要がありそうだ。発電関連の技術者を育成するにはそれなりの時間を要する。
 今から学校で発電関連の技術を学んだ学生を現場に送り込んでも、ものになるには三年程度はかかるだろう。
 また、ECN社が発電関連の技術者の募集を停止した関係などもあり、職業学校で発電関連の技術を学ぶ学生は、三、四年前と比較すると六割程度にまで減少している。
 現状のままでは新しい技術者の育成が進むよりも、発電事業の破綻の方が先だと思われる。
 この状況が改善する可能性があるとするならば、治安改革業務に人材が必要でなくなったケースだ。
 現在、OP社治安改革部隊の最大の敵は「タブーなきエンジニア集団」であろう。
 そして、昨日、ハドリらが「タブーなきエンジニア集団」のトップが滞在しているインデストへと出発した。
 早期に「タブーなきエンジニア集団」がOP社、すなわちハドリに屈すれば、これ以上OP社にとっての大きな敵はないと思われる。
 その時点で、治安改革業務の従事者を発電事業に戻せば、その人数にもよるだろうが、少なくとも発電事業の破綻を先送りすることができる。あとは学生などから新たな技術者を育成すれば、問題は解決できるであろう。

 OP社が「タブーなきエンジニア集団」との対決にどれだけ時間をかけるか?
 やはり問題はここにある。
 戦力比を考えれば、「タブーなきエンジニア集団」の勝機は殆どない。市民運動と訓練された戦いのプロとの戦闘だ。少なくとも短期的に「タブーなきエンジニア集団」が勝利する可能性はほとんどないといってよい。
 市民の支持がどちらにあるかはかなり判断が難しい。
 OP社の本拠地のポータル・シティではOP社を支持する声が圧倒的に大きい。しかし、ポータル・シティの近隣でもジンのように「タブーなきエンジニア集団」を支持する都市もある。
 ECN社は事実上OP社の傘下にあるが、その本拠地であるハモネスはOP社支持と「タブーなきエンジニア集団」支持の勢力が拮抗している状況だ。後者の方がやや有利だというのが「リスク管理研究所」の分析である。
 これから両者の衝突が起こるであろうインデストの状況は判断がつかない。
 こちらは、「タブーなきエンジニア集団」とOP社、という対決の構図のほかにOP社幹部とOP社労働者という対決の構図が描かれつつある。
「タブーなきエンジニア集団」とOP社の労働者、すなわちOP社グループ労働者組合とが結びついているが、この結びつきの程度が測りにくい。
 結びつきの程度が強固であれば、ハドリもやりにくいはずだ。自分の身内からの裏切りである。疑心暗鬼になり、身内からの犯人探しに徹するようなことになれば、ウォーリー・トワの思う壺だろう。

 ここでトニーはハドリとウォーリーの性格を考えてみる。
 ハドリは一度敵対した者に対しては執拗に攻撃してくるように思われる。トニーや「リスク管理研究所」もハドリに敵対する態度を見せれば、同じ結果を招くだろう。
 トニーにはハドリに屈服するつもりがないし、ハドリによって葬り去られるなど論外である。しかし、「リスク管理研究所」がOP社に抵抗したところで勝ち目がないことは、トニーも十分に理解している。

 一方、ウォーリーは敵対した者に対して怒りはするだろう。
 しかし、基本的に陽性で根には持たない単純な人間であるように思われる。
 一度は怒りを買うかもしれないが、こちらが過ちを認める姿勢を見せれば、その受け入れを拒否する可能性は低い。度量のある人間だと思われたい卑怯な人間である、とトニーは考える。
 そうであるならば、せいぜいその性質を徹底して利用するに限る。
「タブーなきエンジニア集団」とOP社の抗争の長期化を最大の目標とし、当面はOP社に味方する。
「タブーなきエンジニア集団」に関する情報を小出しにすることで、それを実現することが可能だと考えられる。
 OP社、特にハドリから疑いの目を持たれないよう、凡庸を装うことも必要かもしれない。切れる人間だと思われれば、ハドリは警戒を緩めないだろうから。
 調査に関しては、ハドリに従う姿勢を示して、定期報告を行った方がよいであろう。
 他人を警戒する性質においては、トニーもハドリと良く似ている。
 だからこそ、トニーもハドリの意思がある程度読めるのだ。
 警戒を強めて強めすぎることはない。
(せいぜい、両方が無益な戦いを繰り広げて、共倒れになるのだな……)
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