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第七章
310:贈り物の意図
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OP社が動いた、というサクライからの情報を聞いたが、ウォーリーはあくまで冷静だった。
予想はできていたことであるし、ウォーリーがいるインデストへ大部隊が到着するまではしばらく時間があるだろうからだ。
ウォーリーはエリックを呼んで画面の前に来させた。
通信画面を通じた「タブーなきエンジニア集団」のトップフォーの会談である。
ただ、まだ余裕があることから、主な議題はオイゲンがメイをよこしてきた意図と、手紙の意味するところが中心となった。
「さぁ? 自分の可愛い秘書を保護したいと単純に考えた可能性もありますね」
意見を求められたサクライが開口一番そう答えた。
「可能性はあるが、酒を持ってこさせたというのが気になる。ミヤハラ、手元にあるなら瓶を見せてくれないか?」
ミヤハラはテーブルの木箱から一本のワインを取り出した。
「……正確な意図はわからんが、あのボンクラ社長が事態を重大と考えている可能性があるな」
ウォーリーは彼にしては珍しく真剣な表情で答えた。
「何故です?」
「サクライ、あのワインはボンクラ社長が遠い将来に飲もう、と俺たちに持ちかけてきた品物だ。そして、自分の身に何かあったら権利を俺に譲る、とも言っていた。ということは、考えようによっては、あのボンクラ社長が自分の生命に危険があると感じている可能性がないか?」
「考えすぎのような気がしますけどね」
「自分もサクライに賛同しますね。イナは変なところで気が小さいですから」
ウォーリーの指摘をサクライとミヤハラは大げさと考えたようだった。
エリックは無言だったが、どちらかというと心情的にはウォーリーに近いようだ。
「人質、じゃないでしょうね……?」
エリックが指摘する。現在は直接関係無いにしても、オイゲンは彼らの元上司である。
彼の身柄を確保しておけば、戦いを有利に進めることもできるだろう。
「……ったく、あのボンクラ社長もハドリに言われてホイホイついていくことはないだろうに。何を考えているのだか……」
ウォーリーが舌打ちした。
「まあ、イナにも従業員の身の安全や自分の立場を考えなければならないというところがありますからね……」
ミヤハラは多少オイゲンに同情的である。自分が同じ立場に立たされれば、オイゲンよりは上手に振舞ってみせる自信はあるが、オイゲンの行動の意図は多少読み取れるつもりなのだ。
「何が立場だか。まだ社には力があるのだから、OP社と戦ってみればいいものを」
ウォーリーは納得できない、という様子だ。
「それでハモネスの部隊はどうしましょうか? 人数も少ないから、OP社とECN社の動向を見守るくらいしかできないと思いますが」
サクライの言葉にウォーリーがそうしてくれ、と答えた。
「まあ、ボンクラ社長の話はこのくらいにしておこう。ところで、そのボンクラ社長が秘書の知恵を使え、って言っているそうだな、ミヤハラ?」
ウォーリーが話題を転じた。
「はい。正直、会話もできない相手をどうしろと言われても困るんですがね」
ウォーリーは少し考えてから、
「まあいい、それは俺が対処しよう。話せは意外と口を開くかもしれん。『実は普通に話せるのだけど、あえてその能力を隠していた!』って可能性もあるからな。本人がその気になったときに、通信でもしてくれ」
とミヤハラに依頼した。
「実は社長の愛人だから、表に出られない、ってオチはないでしょうね……?」
サクライが少し意地の悪い笑みを浮かべた。
「やめとけ! 今はそれどころじゃないだろう。別に大企業の社長だ。仕事さえしていれば愛人の一人や二人、とやかく言われる筋合いのことじゃないだろう」
意外にもウォーリーが不機嫌になったので、サクライは大人しく引き下がった。
今の時点ではサクライの言葉もあながち誤りではない。
少なくとも、昨夜、二人が関係を持ったことは事実であったのだから。
しかし、二人以外にそのことを知る者は「タブーなきエンジニア集団」を含めて誰もいない。
ウォーリーには妙なところにこだわりがある。
仲間や知り合いのゴシップは嫌いではないのだが、業務に関係する場面ではそういった話題をネタに利用することを極度に嫌うのだ。
彼はこうしたゴシップで人を評価することを卑怯だと考えている。
例えばトニー・シヴァなどは、こうした方面ではそれなりに攻撃される余地もあるのだが、ECN社在職中、ウォーリーは一度としてゴシップを理由にトニーを責めたことはない。
こうした考え方が、他人に「妙なところでカタブツ」という印象を持たせるのである。
ウォーリー自身は他人に攻撃されるようなゴシップは一つとして抱えていない。
潔癖、というのとは程遠いのだが、本人が自然体のためかゴシップとも縁がないのだ。
「あのボンクラ社長が地位を利用して秘書に手を出した、というのなら問題だが、合意の上でなら問題ないとは思わんか?! それに手を出した、という事実もないのだろう? それであのボンクラ社長を評価するのは間違っていると思うぜ!」
ウォーリーがそう言うと、サクライはすみません、と頭を下げて引き下がった。
エリックが新たな議題を提起する。
「あの……社長の身柄はこちらで確保しなくていいですか? 下手をすると脅迫材料に使われる危険があるように思われますが……」
「不要だろう。イナも覚悟はできているはずだ。いや、社長なら覚悟しているだろう」
ミヤハラの答えは端的だった。
「いや、一応の義理はある。本人がOP社から逃れてくれば『タブーなきエンジニア集団』として受け入れる。ただ、逃れるまでの能力は期待すべきだろう」
ウォーリーがそう答えると、回りもそれに同意した。
その後、OP社への対応策を協議した後、会議は打ち切られ、通信回線が閉じられた。
予想はできていたことであるし、ウォーリーがいるインデストへ大部隊が到着するまではしばらく時間があるだろうからだ。
ウォーリーはエリックを呼んで画面の前に来させた。
通信画面を通じた「タブーなきエンジニア集団」のトップフォーの会談である。
ただ、まだ余裕があることから、主な議題はオイゲンがメイをよこしてきた意図と、手紙の意味するところが中心となった。
「さぁ? 自分の可愛い秘書を保護したいと単純に考えた可能性もありますね」
意見を求められたサクライが開口一番そう答えた。
「可能性はあるが、酒を持ってこさせたというのが気になる。ミヤハラ、手元にあるなら瓶を見せてくれないか?」
ミヤハラはテーブルの木箱から一本のワインを取り出した。
「……正確な意図はわからんが、あのボンクラ社長が事態を重大と考えている可能性があるな」
ウォーリーは彼にしては珍しく真剣な表情で答えた。
「何故です?」
「サクライ、あのワインはボンクラ社長が遠い将来に飲もう、と俺たちに持ちかけてきた品物だ。そして、自分の身に何かあったら権利を俺に譲る、とも言っていた。ということは、考えようによっては、あのボンクラ社長が自分の生命に危険があると感じている可能性がないか?」
「考えすぎのような気がしますけどね」
「自分もサクライに賛同しますね。イナは変なところで気が小さいですから」
ウォーリーの指摘をサクライとミヤハラは大げさと考えたようだった。
エリックは無言だったが、どちらかというと心情的にはウォーリーに近いようだ。
「人質、じゃないでしょうね……?」
エリックが指摘する。現在は直接関係無いにしても、オイゲンは彼らの元上司である。
彼の身柄を確保しておけば、戦いを有利に進めることもできるだろう。
「……ったく、あのボンクラ社長もハドリに言われてホイホイついていくことはないだろうに。何を考えているのだか……」
ウォーリーが舌打ちした。
「まあ、イナにも従業員の身の安全や自分の立場を考えなければならないというところがありますからね……」
ミヤハラは多少オイゲンに同情的である。自分が同じ立場に立たされれば、オイゲンよりは上手に振舞ってみせる自信はあるが、オイゲンの行動の意図は多少読み取れるつもりなのだ。
「何が立場だか。まだ社には力があるのだから、OP社と戦ってみればいいものを」
ウォーリーは納得できない、という様子だ。
「それでハモネスの部隊はどうしましょうか? 人数も少ないから、OP社とECN社の動向を見守るくらいしかできないと思いますが」
サクライの言葉にウォーリーがそうしてくれ、と答えた。
「まあ、ボンクラ社長の話はこのくらいにしておこう。ところで、そのボンクラ社長が秘書の知恵を使え、って言っているそうだな、ミヤハラ?」
ウォーリーが話題を転じた。
「はい。正直、会話もできない相手をどうしろと言われても困るんですがね」
ウォーリーは少し考えてから、
「まあいい、それは俺が対処しよう。話せは意外と口を開くかもしれん。『実は普通に話せるのだけど、あえてその能力を隠していた!』って可能性もあるからな。本人がその気になったときに、通信でもしてくれ」
とミヤハラに依頼した。
「実は社長の愛人だから、表に出られない、ってオチはないでしょうね……?」
サクライが少し意地の悪い笑みを浮かべた。
「やめとけ! 今はそれどころじゃないだろう。別に大企業の社長だ。仕事さえしていれば愛人の一人や二人、とやかく言われる筋合いのことじゃないだろう」
意外にもウォーリーが不機嫌になったので、サクライは大人しく引き下がった。
今の時点ではサクライの言葉もあながち誤りではない。
少なくとも、昨夜、二人が関係を持ったことは事実であったのだから。
しかし、二人以外にそのことを知る者は「タブーなきエンジニア集団」を含めて誰もいない。
ウォーリーには妙なところにこだわりがある。
仲間や知り合いのゴシップは嫌いではないのだが、業務に関係する場面ではそういった話題をネタに利用することを極度に嫌うのだ。
彼はこうしたゴシップで人を評価することを卑怯だと考えている。
例えばトニー・シヴァなどは、こうした方面ではそれなりに攻撃される余地もあるのだが、ECN社在職中、ウォーリーは一度としてゴシップを理由にトニーを責めたことはない。
こうした考え方が、他人に「妙なところでカタブツ」という印象を持たせるのである。
ウォーリー自身は他人に攻撃されるようなゴシップは一つとして抱えていない。
潔癖、というのとは程遠いのだが、本人が自然体のためかゴシップとも縁がないのだ。
「あのボンクラ社長が地位を利用して秘書に手を出した、というのなら問題だが、合意の上でなら問題ないとは思わんか?! それに手を出した、という事実もないのだろう? それであのボンクラ社長を評価するのは間違っていると思うぜ!」
ウォーリーがそう言うと、サクライはすみません、と頭を下げて引き下がった。
エリックが新たな議題を提起する。
「あの……社長の身柄はこちらで確保しなくていいですか? 下手をすると脅迫材料に使われる危険があるように思われますが……」
「不要だろう。イナも覚悟はできているはずだ。いや、社長なら覚悟しているだろう」
ミヤハラの答えは端的だった。
「いや、一応の義理はある。本人がOP社から逃れてくれば『タブーなきエンジニア集団』として受け入れる。ただ、逃れるまでの能力は期待すべきだろう」
ウォーリーがそう答えると、回りもそれに同意した。
その後、OP社への対応策を協議した後、会議は打ち切られ、通信回線が閉じられた。
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