ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

文字の大きさ
上 下
318 / 436
第七章

310:贈り物の意図

しおりを挟む
 OP社が動いた、というサクライからの情報を聞いたが、ウォーリーはあくまで冷静だった。
 予想はできていたことであるし、ウォーリーがいるインデストへ大部隊が到着するまではしばらく時間があるだろうからだ。
 ウォーリーはエリックを呼んで画面の前に来させた。
 通信画面を通じた「タブーなきエンジニア集団」のトップフォーの会談である。
 ただ、まだ余裕があることから、主な議題はオイゲンがメイをよこしてきた意図と、手紙の意味するところが中心となった。

「さぁ? 自分の可愛い秘書を保護したいと単純に考えた可能性もありますね」
 意見を求められたサクライが開口一番そう答えた。
「可能性はあるが、酒を持ってこさせたというのが気になる。ミヤハラ、手元にあるなら瓶を見せてくれないか?」
 ミヤハラはテーブルの木箱から一本のワインを取り出した。
「……正確な意図はわからんが、あのボンクラ社長が事態を重大と考えている可能性があるな」
 ウォーリーは彼にしては珍しく真剣な表情で答えた。
「何故です?」
「サクライ、あのワインはボンクラ社長が遠い将来に飲もう、と俺たちに持ちかけてきた品物だ。そして、自分の身に何かあったら権利を俺に譲る、とも言っていた。ということは、考えようによっては、あのボンクラ社長が自分の生命に危険があると感じている可能性がないか?」
「考えすぎのような気がしますけどね」
「自分もサクライに賛同しますね。イナは変なところで気が小さいですから」
 ウォーリーの指摘をサクライとミヤハラは大げさと考えたようだった。
 エリックは無言だったが、どちらかというと心情的にはウォーリーに近いようだ。
「人質、じゃないでしょうね……?」
 エリックが指摘する。現在は直接関係無いにしても、オイゲンは彼らの元上司である。
 彼の身柄を確保しておけば、戦いを有利に進めることもできるだろう。
「……ったく、あのボンクラ社長もハドリに言われてホイホイついていくことはないだろうに。何を考えているのだか……」
 ウォーリーが舌打ちした。
「まあ、イナにも従業員の身の安全や自分の立場を考えなければならないというところがありますからね……」
 ミヤハラは多少オイゲンに同情的である。自分が同じ立場に立たされれば、オイゲンよりは上手に振舞ってみせる自信はあるが、オイゲンの行動の意図は多少読み取れるつもりなのだ。
「何が立場だか。まだ社には力があるのだから、OP社と戦ってみればいいものを」
 ウォーリーは納得できない、という様子だ。
「それでハモネスの部隊はどうしましょうか? 人数も少ないから、OP社とECN社の動向を見守るくらいしかできないと思いますが」
 サクライの言葉にウォーリーがそうしてくれ、と答えた。
「まあ、ボンクラ社長の話はこのくらいにしておこう。ところで、そのボンクラ社長が秘書の知恵を使え、って言っているそうだな、ミヤハラ?」
 ウォーリーが話題を転じた。
「はい。正直、会話もできない相手をどうしろと言われても困るんですがね」
 ウォーリーは少し考えてから、
「まあいい、それは俺が対処しよう。話せは意外と口を開くかもしれん。『実は普通に話せるのだけど、あえてその能力を隠していた!』って可能性もあるからな。本人がその気になったときに、通信でもしてくれ」
 とミヤハラに依頼した。
「実は社長の愛人だから、表に出られない、ってオチはないでしょうね……?」
 サクライが少し意地の悪い笑みを浮かべた。
「やめとけ! 今はそれどころじゃないだろう。別に大企業の社長だ。仕事さえしていれば愛人の一人や二人、とやかく言われる筋合いのことじゃないだろう」
 意外にもウォーリーが不機嫌になったので、サクライは大人しく引き下がった。
 今の時点ではサクライの言葉もあながち誤りではない。
 少なくとも、昨夜、二人が関係を持ったことは事実であったのだから。
 しかし、二人以外にそのことを知る者は「タブーなきエンジニア集団」を含めて誰もいない。

 ウォーリーには妙なところにこだわりがある。
 仲間や知り合いのゴシップは嫌いではないのだが、業務に関係する場面ではそういった話題をネタに利用することを極度に嫌うのだ。
 彼はこうしたゴシップで人を評価することを卑怯だと考えている。
 例えばトニー・シヴァなどは、こうした方面ではそれなりに攻撃される余地もあるのだが、ECN社在職中、ウォーリーは一度としてゴシップを理由にトニーを責めたことはない。
 こうした考え方が、他人に「妙なところでカタブツ」という印象を持たせるのである。
 ウォーリー自身は他人に攻撃されるようなゴシップは一つとして抱えていない。
 潔癖、というのとは程遠いのだが、本人が自然体のためかゴシップとも縁がないのだ。
「あのボンクラ社長が地位を利用して秘書に手を出した、というのなら問題だが、合意の上でなら問題ないとは思わんか?! それに手を出した、という事実もないのだろう? それであのボンクラ社長を評価するのは間違っていると思うぜ!」
 ウォーリーがそう言うと、サクライはすみません、と頭を下げて引き下がった。
 エリックが新たな議題を提起する。
「あの……社長の身柄はこちらで確保しなくていいですか? 下手をすると脅迫材料に使われる危険があるように思われますが……」
「不要だろう。イナも覚悟はできているはずだ。いや、社長なら覚悟しているだろう」
 ミヤハラの答えは端的だった。
「いや、一応の義理はある。本人がOP社から逃れてくれば『タブーなきエンジニア集団』として受け入れる。ただ、逃れるまでの能力は期待すべきだろう」
 ウォーリーがそう答えると、回りもそれに同意した。
 その後、OP社への対応策を協議した後、会議は打ち切られ、通信回線が閉じられた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...