ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

文字の大きさ
上 下
316 / 436
第七章

308:異様な訪問者

しおりを挟む
 コート姿にサングラス、花粉症用のマスクという格好の女性は列車内でも目立つ。
 列車はあまり混雑していなかったが、メイの周辺にはぽっかりと空間が空いていた。
 周囲の乗客が無意識のうちに避けたのではないかと思われた。

 メイは居たたまれない気持に襲われながら、ジンまでの約三〇分を過ごした。
 ジンの駅から「タブーなきエンジニア集団」の事務所は程近い。
 駅前の立て看板とオイゲンからもらった腕時計を頼りに道を進むと、あっという間に「タブーなきエンジニア集団」の事務所の前にたどり着いた。方向音痴といわれる彼女ですら、道に迷う暇も無いくらいの単純な道順なのである。
 問題はここからだった。誰かに声をかけて中に入らなければならないが、そのハードルが彼女にとってはとてつもなく高い。
 彼女はまるで居場所がないかのように、事務所の前を行ったり来たりしている。落ち着かない様子だ。
 彼女の様子に気付いた者もいるのだが、彼女の異様ないでたちに声をかけることを躊躇している。
 そこへ一人の背の高い若者が通りかかった。

 若者の目に「タブーなきエンジニア集団」の事務所前でサングラスをかけ、マスクをしたコート姿の小柄な女性がウロウロしているのが映った。
 若者には、その女性に見覚えがあった。
 (何だありゃ? ECN社の秘書さんじゃないか!)
 若者はロビー・タカミであった。セスのリハビリに付き合った後、「タブーなきエンジニア集団」の事務所の場所を確認するために出かけていたのである。
 (声をかけるか、いや逃げられるかもしれないな……)
 ロビーはメイの対人恐怖症をよく知っていたから、声をかけるのを一旦躊躇した。
 彼がECN社にアルバイトとして所属していた期間中に彼女と会話をしたのは一度だけなのだ。それも、「はじまりの丘」の麓に住むフェイ・イヴ・ユニヴァースの館へと出発する日の朝に一言だけ声をかけられた、というものである。下手に話しかければ、驚かせてしまう結果になりかねない。
 (……まあ、何とかなるだろう。このまま放置しておくと変に疑われる危険があるからな……)
 少し考えて、ロビーは「秘書さん」と声をかけた。
 反射的にメイの身体がぴくっと動き、硬直する。そして、驚いた様子で声のしたほうを恐る恐る振り向く。
 振り向いた後、驚いたように視線を上に向けた。彼女の背丈では見上げないと顔が確認できないくらいロビーの背が高いからだ。二人の身長差は三〇センチをはるかに上回る。
 幸いなことにメイはロビーの顔を覚えていたようにロビーには思えた。
 メイの様子から以前、ECN社に勤務していたことのある人物、というくらいの認識はありそうだとロビーは判断した。
 何か言いたそうにしているので、ロビーは彼女の言葉を待つ。
 しかし、メイの口からは声が出なかった。
 焦りから口をパクパク動かし、手を振り回して何かを伝えようとしているのは理解できる。
 (対人恐怖症は相変わらずみたいだな……)
 ロビーは苦笑しながら彼女の意図を読み取ろうとした。
 彼がリハビリに付き添っているセスも、少し前までは似たような状況だったから、かえって可笑しくなってしまったのだ。
「あ、中に用事があるってことだな。いいぜ、俺が呼んでくるよ」
 ロビーはそう言って、「タブーなきエンジニア集団」の事務所の中へと入っていった。メイもロビーに続く。
「それにしても……社長さんはどうしたんだ?」
 ロビーの質問にメイが首を横に振った。
 (喧嘩でもしたのか……まあいいか)
「すみません、ここにあんた達に用事がある人を連れてきたんだけど」
 ロビーが近くにいた者に声をかけた。「タブーなきエンジニア集団」のメンバーだと思われる。
 メイはリュックから一通の封書を取り出し、メンバーらしき人物に手渡した。
 その手つきに先ほどまでの慌てた様子は見られなかった。
 宛名を見て、メンバーはその場で待って欲しいと声をかけてから一旦奥に下がった。
「じゃ、秘書さん。あとは大丈夫だと思うから」
 ロビーはそう言ってメイを置いてその場を去った。

※※

 数分の間、メイは居心地が悪そうに近くの椅子に腰をかけていた。
 サングラスに隠れて見えないものの、頭が細かく動いていることから、視線をあちこちに向けて落ち着かない様子なのがわかる。
 しばらくして、奥から封書を手渡した相手が出てきた。
 あとについてきて欲しいという。
 メイは恐る恐るその後をついていった。
 会議室のようなところに案内され、部屋にメイ一人が取り残される。
 (大丈夫かなぁ……何が起こるのだろう……)
 メイがこわばった表情で待っていると、長身でがっしりした体格の男が部屋に入ってきた。彼女も見覚えのある顔だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...