313 / 436
第七章
305:精神と肉体と同調者
しおりを挟む
「意志を支える要素は三つあると考えられます。まずは本人の精神。次に意志を具現化する能力……これは肉体の存在、と考えてもよいかもしれません。
そして……最後に意志に同調する同調者の存在……これがもっとも対処が難しいのです……」
メイの言葉にオイゲンは寒気を覚えた。これらの存在を消さない限り、ハドリを翻意させることができないのではないか、と言っているように思われたのだ。
もしかしたら、原因となるハドリとその同調者を消せという意味ではないかと考えて、オイゲンはその考えを否定した。
ときにメイの言動は過激になることがあるが、他者の痛みには敏感な性質だ。その彼女が他者を傷つけろということは考えにくい。単に冷静に状況を分析しているだけだ、とオイゲンは自身に言い聞かせた。
精神や肉体の破壊……そして同調者の消去……それらは全て殺人かそれに匹敵する行為でしか実現できないように思われる。
彼女の言葉は時として、氷でできた刃物のように人の心に突き刺さる。
彼女がこうした胸のうちの思いを他人に語ることは滅多にない。今現在、現世でその言葉を聞けるのはオイゲン以外にないであろう。
こうした言葉こそ彼女の知恵の真骨頂だとオイゲンは思うのだが、これを理解して受け入れられる人間はそう多くないだろうとも思う。
更に、彼女は自分が「在ることを許される」ことに相当なこだわりを持っているようにオイゲンには思われる。
この「在る」ことは肉体的な存在よりも精神的なもののようで、彼女は自分の言葉やそれに含まれた意図が理解されるまで執拗に説明を繰り返す傾向がある。
彼女の話が長いと感じられるのは、多分にその傾向が影響しているのだろう。
彼女の話はまだ続いている。
「意志を実現する能力を持っていれば……当然意志が実現される可能性があります。例えば……私が一六のとき、私の母は……権限、すなわち『処罰する』能力を持った学校の上層部の人たちから処分を受けました。母はその処分を受けて、自ら死を選ばなければならなくなったのだと思います。私はただ、それを受け入れることしかできませんでした……」
話が飛躍しているな、とオイゲンは感じた。しかし、ここで聞く耳を持たなければ彼女は自分を閉ざしてしまうだろう。また、この言葉から何か得られるものがあるかもしれない、とも思う。オイゲンは、何とか彼女の真意を理解しようと彼女の言葉に耳を傾け続けた。
「精神は更に深刻です。精神が燃え尽きてしまえば……何かをするという気も起こらないでしょう。母や私のことでもわかるように、『あの教師の血筋を罰したい』という意志が母の命を絶ったのですから……
そして、最後は同調者の存在……
『あの教師の血筋を罰したい』という意志が周りの人に広がって……
私はその存在を世界から拒否されました……」
「……」
メイの言葉にオイゲンが思わず唾を飲んだ。
「……当たり前ですよね、母は確かに世界から拒否される原因を作ってしまったし、母が居なくなった以上、唯一の肉親が責められるのは……
それに私は、瞳を見ていただければわかるように、この通り異形の者です。世界に拒否される存在として生まれついてしまったのだと思います……
社長も私を拒否してくださって結構なのですけど、私……ときどき、世界と一緒に私も粉々に砕け散って、宇宙の藻屑となって消え去ってしまえばいいんだ、って気持ちになってしまうのです……
こういうことを考えるから、世界に受け入れてもらえないのですよね……」
そう言い切ると、メイは両手で顔を覆い、わっと泣き出した。
あまりに話が飛躍しているので、オイゲンとしても困惑するしかなかったが、メイが精神的に大きな傷を負っていることだけは理解できる。
オイゲンは彼女の艶やかな髪に手を通し、彼女の注意を引きつけてから、言葉を選んで話しだす。こうしないと彼女の耳に言葉が入らないことがあるためだ。過去の経験からオイゲンはこのことをよく理解している。
「えーと……僕はカワナさんの存在を拒否していません。カワナさんにはよく知恵を借りていますから、あなたが居ないと、『在って』くださらないと困ってしまうのです……
それと……異形だといいますけど、そんなことはないと思いますよ。ここではカワナさんのような瞳の色は珍しいようですが、僕らのルーツとなった星にはカワナさんのような瞳の方も結構いらっしゃったそうなので……」
「え……?」
オイゲンの言葉にメイが顔を上げた。
「そういうことですよ」
とオイゲンは静かに、メイに言い聞かせるように語った。
それにしても、とオイゲンは思う。
恐ろしい話ではあるが、彼女の話は一面の真理を突いているように思われるのだ。
精神と肉体と同調者……
これらを奪わない限り人の意思は変わらない……
だとしたら自分は何をすべきなのだろうか……?
そして……最後に意志に同調する同調者の存在……これがもっとも対処が難しいのです……」
メイの言葉にオイゲンは寒気を覚えた。これらの存在を消さない限り、ハドリを翻意させることができないのではないか、と言っているように思われたのだ。
もしかしたら、原因となるハドリとその同調者を消せという意味ではないかと考えて、オイゲンはその考えを否定した。
ときにメイの言動は過激になることがあるが、他者の痛みには敏感な性質だ。その彼女が他者を傷つけろということは考えにくい。単に冷静に状況を分析しているだけだ、とオイゲンは自身に言い聞かせた。
精神や肉体の破壊……そして同調者の消去……それらは全て殺人かそれに匹敵する行為でしか実現できないように思われる。
彼女の言葉は時として、氷でできた刃物のように人の心に突き刺さる。
彼女がこうした胸のうちの思いを他人に語ることは滅多にない。今現在、現世でその言葉を聞けるのはオイゲン以外にないであろう。
こうした言葉こそ彼女の知恵の真骨頂だとオイゲンは思うのだが、これを理解して受け入れられる人間はそう多くないだろうとも思う。
更に、彼女は自分が「在ることを許される」ことに相当なこだわりを持っているようにオイゲンには思われる。
この「在る」ことは肉体的な存在よりも精神的なもののようで、彼女は自分の言葉やそれに含まれた意図が理解されるまで執拗に説明を繰り返す傾向がある。
彼女の話が長いと感じられるのは、多分にその傾向が影響しているのだろう。
彼女の話はまだ続いている。
「意志を実現する能力を持っていれば……当然意志が実現される可能性があります。例えば……私が一六のとき、私の母は……権限、すなわち『処罰する』能力を持った学校の上層部の人たちから処分を受けました。母はその処分を受けて、自ら死を選ばなければならなくなったのだと思います。私はただ、それを受け入れることしかできませんでした……」
話が飛躍しているな、とオイゲンは感じた。しかし、ここで聞く耳を持たなければ彼女は自分を閉ざしてしまうだろう。また、この言葉から何か得られるものがあるかもしれない、とも思う。オイゲンは、何とか彼女の真意を理解しようと彼女の言葉に耳を傾け続けた。
「精神は更に深刻です。精神が燃え尽きてしまえば……何かをするという気も起こらないでしょう。母や私のことでもわかるように、『あの教師の血筋を罰したい』という意志が母の命を絶ったのですから……
そして、最後は同調者の存在……
『あの教師の血筋を罰したい』という意志が周りの人に広がって……
私はその存在を世界から拒否されました……」
「……」
メイの言葉にオイゲンが思わず唾を飲んだ。
「……当たり前ですよね、母は確かに世界から拒否される原因を作ってしまったし、母が居なくなった以上、唯一の肉親が責められるのは……
それに私は、瞳を見ていただければわかるように、この通り異形の者です。世界に拒否される存在として生まれついてしまったのだと思います……
社長も私を拒否してくださって結構なのですけど、私……ときどき、世界と一緒に私も粉々に砕け散って、宇宙の藻屑となって消え去ってしまえばいいんだ、って気持ちになってしまうのです……
こういうことを考えるから、世界に受け入れてもらえないのですよね……」
そう言い切ると、メイは両手で顔を覆い、わっと泣き出した。
あまりに話が飛躍しているので、オイゲンとしても困惑するしかなかったが、メイが精神的に大きな傷を負っていることだけは理解できる。
オイゲンは彼女の艶やかな髪に手を通し、彼女の注意を引きつけてから、言葉を選んで話しだす。こうしないと彼女の耳に言葉が入らないことがあるためだ。過去の経験からオイゲンはこのことをよく理解している。
「えーと……僕はカワナさんの存在を拒否していません。カワナさんにはよく知恵を借りていますから、あなたが居ないと、『在って』くださらないと困ってしまうのです……
それと……異形だといいますけど、そんなことはないと思いますよ。ここではカワナさんのような瞳の色は珍しいようですが、僕らのルーツとなった星にはカワナさんのような瞳の方も結構いらっしゃったそうなので……」
「え……?」
オイゲンの言葉にメイが顔を上げた。
「そういうことですよ」
とオイゲンは静かに、メイに言い聞かせるように語った。
それにしても、とオイゲンは思う。
恐ろしい話ではあるが、彼女の話は一面の真理を突いているように思われるのだ。
精神と肉体と同調者……
これらを奪わない限り人の意思は変わらない……
だとしたら自分は何をすべきなのだろうか……?
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり
柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日――
東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。
中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。
彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。
無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。
政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。
「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる