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第七章
298:もう一つの気になる存在
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事務所に残っている「タブーなきエンジニア集団」からミヤハラに伝えられた情報は二つであった。
ひとつは、「四月四日にフジミ・タウンに駐留しているOP社の部隊が、インデストへ向けて発つ」というものだ。こちらに対しては、ウォーリーに同行しているエリック・モトムラと連絡を取って対処した。何かあればエリックから連絡が入るはずだ。
もうひとつは「タブーなきエンジニア集団」というより、ミヤハラ個人にとって重大なものであった。
オイゲンがOP社への出頭を求められた、というのである。
(イナもかなり厄介なことに巻き込まれたな……災難なことだ)
オイゲンとは親友ともいえる仲である。ただし、「タブーなきエンジニア集団」にミヤハラが身を投じてからは、ろくに連絡も取れていない。
しかし、ミヤハラはオイゲンが「タブーなきエンジニア集団」の活動を内心で支持していることを確信している。
ミヤハラがECN社を離れる際、ウォーリーに身銭を切って多額の資金援助を行った彼だ。
いくら社長とはいえ、あれだけの額を会社から引き出すのは無理がある。他の役員などの賛成が得られるとは到底考えられない。
彼が父親を亡くしたときに、多額の遺産を相続したことはミヤハラも知っている。
その中からかなりの割合をウォーリーに援助したのだろうと思う。
オイゲンはその地位と比較して、かなり慎ましい私生活を送っていたことはミヤハラもよく知っている。あまりにも慎ましいのでミヤハラが注意したこともあるくらいなのだ。
従業員の前で慎ましく振舞いすぎると、従業員が出世の意欲を無くす、というのがミヤハラの意見だった。ミヤハラは知らなかったが、当時経営企画室に所属していたトニー・シヴァなども同じように苦言を呈したことがあった。
その後、従業員の前では気前良くなったものの、勝手知ったる仲間のうちでは、相変わらず慎ましさが表に出ていた。「タブーなきエンジニア集団」への多額の援助はその慎ましさの結果、もたらされたものだ。
ミヤハラは情勢が許せば、オイゲンにも社を捨てて「タブーなきエンジニア集団」に走ってこい、と言いたい。ECN社の社長よりも「タブーなきエンジニア集団」の一メンバーという方が彼には向いているようにミヤハラには思われるのだ。正しくは「大企業の社長という立場がオイゲンに不向き」なのだろうが。
しかし、オイゲンにも一〇万を超える従業員を抱えるという立場がある。
ミヤハラもそのことを知っているから、オイゲンに対して自らの考えを伝えないのだ。
(それにしても、ここにも家庭を持たない甲斐性なしがいたな……)
ふとミヤハラは親友の状況を思い出した。
オイゲンはウォーリーより四ヶ月ばかり年長だが、彼も家庭を持っていない。
オイゲンが早生まれである関係で、学年はウォーリーよりも一つ上である。
むしろこっちの方が重症だな、とミヤハラは思う。
ウォーリーの場合は、その気になれば相手となる異性を見つけることくらい造作もないだろう。本人にその気が無いのか、他のことで忙しいのかが問題になるだけである。
一方、オイゲンの場合は事情が異なる。
オオイダが、「男性的魅力ゼロ」と評したことをミヤハラは知る由もない。
だが、このことを伝えられれば苦笑しながら同意するしかなかっただろう。
大企業の社長という好条件をもってしても、救い難いようにミヤハラには思われるのだ。
オイゲンがとてつもない甲斐性なしというのは、ミヤハラも非常によく理解できる。
「甲斐性」という概念自体が彼に対して不向きな特性であるようにすら思われるのだ。
(あー、止めだ止めだ。俺が考えたって意味がない)
ここまで考えて、ミヤハラはオイゲンについて考えるのを止めた。
しょせん他人のことであるし、なるようになるしかないからだ。
今、彼に密接に関係するのは「タブーなきエンジニア集団」の方である。
OP社が……ハドリが、インデストに向けて進むなら……
彼は、既に腹を決めている。
オイゲンによって無理矢理ウォーリーの部下にされてしまったが、ミヤハラは少なくとも上司としてのウォーリーを評価している。
オイゲンよりはよっぽど組織のトップに向いている人間であるし、人を惹きつける魅力と育て上げる能力に長けている。サクライやエリックを他部署から見出し、育て上げたのも彼であるし、「タブーなきエンジニア集団」をここまで大きくしたのもそうだ。
ミヤハラもECN社では二〇代でチームマネージャーの地位に引き上げられたし、「タブーなきエンジニア集団」では副代表になった。
もちろん、ミヤハラ自身の能力もあるだろうが、ミヤハラが活躍する器を作ったのはウォーリーであることは認めざるを得ない。
ウォーリーに対しては、そうした恩義を感じないこともない。
いつの間にか家の前に達していた。
ここでミヤハラは普段の家庭人の顔に戻る。
「タブーなきエンジニア集団」副代表としての顔は、明日の朝まで封印されるのだ……
ひとつは、「四月四日にフジミ・タウンに駐留しているOP社の部隊が、インデストへ向けて発つ」というものだ。こちらに対しては、ウォーリーに同行しているエリック・モトムラと連絡を取って対処した。何かあればエリックから連絡が入るはずだ。
もうひとつは「タブーなきエンジニア集団」というより、ミヤハラ個人にとって重大なものであった。
オイゲンがOP社への出頭を求められた、というのである。
(イナもかなり厄介なことに巻き込まれたな……災難なことだ)
オイゲンとは親友ともいえる仲である。ただし、「タブーなきエンジニア集団」にミヤハラが身を投じてからは、ろくに連絡も取れていない。
しかし、ミヤハラはオイゲンが「タブーなきエンジニア集団」の活動を内心で支持していることを確信している。
ミヤハラがECN社を離れる際、ウォーリーに身銭を切って多額の資金援助を行った彼だ。
いくら社長とはいえ、あれだけの額を会社から引き出すのは無理がある。他の役員などの賛成が得られるとは到底考えられない。
彼が父親を亡くしたときに、多額の遺産を相続したことはミヤハラも知っている。
その中からかなりの割合をウォーリーに援助したのだろうと思う。
オイゲンはその地位と比較して、かなり慎ましい私生活を送っていたことはミヤハラもよく知っている。あまりにも慎ましいのでミヤハラが注意したこともあるくらいなのだ。
従業員の前で慎ましく振舞いすぎると、従業員が出世の意欲を無くす、というのがミヤハラの意見だった。ミヤハラは知らなかったが、当時経営企画室に所属していたトニー・シヴァなども同じように苦言を呈したことがあった。
その後、従業員の前では気前良くなったものの、勝手知ったる仲間のうちでは、相変わらず慎ましさが表に出ていた。「タブーなきエンジニア集団」への多額の援助はその慎ましさの結果、もたらされたものだ。
ミヤハラは情勢が許せば、オイゲンにも社を捨てて「タブーなきエンジニア集団」に走ってこい、と言いたい。ECN社の社長よりも「タブーなきエンジニア集団」の一メンバーという方が彼には向いているようにミヤハラには思われるのだ。正しくは「大企業の社長という立場がオイゲンに不向き」なのだろうが。
しかし、オイゲンにも一〇万を超える従業員を抱えるという立場がある。
ミヤハラもそのことを知っているから、オイゲンに対して自らの考えを伝えないのだ。
(それにしても、ここにも家庭を持たない甲斐性なしがいたな……)
ふとミヤハラは親友の状況を思い出した。
オイゲンはウォーリーより四ヶ月ばかり年長だが、彼も家庭を持っていない。
オイゲンが早生まれである関係で、学年はウォーリーよりも一つ上である。
むしろこっちの方が重症だな、とミヤハラは思う。
ウォーリーの場合は、その気になれば相手となる異性を見つけることくらい造作もないだろう。本人にその気が無いのか、他のことで忙しいのかが問題になるだけである。
一方、オイゲンの場合は事情が異なる。
オオイダが、「男性的魅力ゼロ」と評したことをミヤハラは知る由もない。
だが、このことを伝えられれば苦笑しながら同意するしかなかっただろう。
大企業の社長という好条件をもってしても、救い難いようにミヤハラには思われるのだ。
オイゲンがとてつもない甲斐性なしというのは、ミヤハラも非常によく理解できる。
「甲斐性」という概念自体が彼に対して不向きな特性であるようにすら思われるのだ。
(あー、止めだ止めだ。俺が考えたって意味がない)
ここまで考えて、ミヤハラはオイゲンについて考えるのを止めた。
しょせん他人のことであるし、なるようになるしかないからだ。
今、彼に密接に関係するのは「タブーなきエンジニア集団」の方である。
OP社が……ハドリが、インデストに向けて進むなら……
彼は、既に腹を決めている。
オイゲンによって無理矢理ウォーリーの部下にされてしまったが、ミヤハラは少なくとも上司としてのウォーリーを評価している。
オイゲンよりはよっぽど組織のトップに向いている人間であるし、人を惹きつける魅力と育て上げる能力に長けている。サクライやエリックを他部署から見出し、育て上げたのも彼であるし、「タブーなきエンジニア集団」をここまで大きくしたのもそうだ。
ミヤハラもECN社では二〇代でチームマネージャーの地位に引き上げられたし、「タブーなきエンジニア集団」では副代表になった。
もちろん、ミヤハラ自身の能力もあるだろうが、ミヤハラが活躍する器を作ったのはウォーリーであることは認めざるを得ない。
ウォーリーに対しては、そうした恩義を感じないこともない。
いつの間にか家の前に達していた。
ここでミヤハラは普段の家庭人の顔に戻る。
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