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第七章
297:「OP社動く」の報
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ミヤハラは家族が待つ家に向けて歩を進めていた。ウォーリーが手配した家だ。
このようにウォーリーは部下だけではなく部下の家族に対しても気を遣う。
だが、彼が家族を理由に仕事を休んだことはミヤハラが知る限り皆無であった。
ウォーリー自身に家族がいないからという理由もあるとミヤハラには思える。
ウォーリーに対して面と向かって言ったことはないのだが、そろそろウォーリーにも所帯を構えて欲しいとミヤハラは考えている。
一番大きな理由はウォーリーの体調だ。
ウォーリーには一度仕事にのめり込むと、体力の限界を超えて働きかねない面がある。
ミヤハラからすれば信じ難いところなのだが、寝食を忘れて業務に打ち込む姿は狂気さえ感じることがある。
ウォーリーはECN社を退職してから三年足らずの間に、少なくとも二度、長期休養で業務から離れている。
特に最初の休養は生命の危険もあったと医師のアイネスから伝えられており、軽視できない。
一労働者なら、上司が上手にハンドリングすればよいのかもしれないが、ウォーリーの場合は組織のトップだ。組織内に彼のブレーキを踏める者がいないのである。
家族がいれば、そのあたりのケアが多少なりとも可能だとミヤハラは思う。
ミヤハラにとっては妻子の存在が大きく、ECN社時代から会社のイベントなどに妻を伴って参加したことも多々ある。
やはり家族があり、共に助け合いながら生きていくのが自然な姿だ、とミヤハラは思うのだ。
ミヤハラの場合、両親が健在であるし、妻子もある。この点でウォーリーの場合と比較してかなり恵まれた環境にあるのもこう思う原因なのかもしれない。
一方、ウォーリーは今年三一歳になるのだが、今のところ浮いた話を聞いたことがない。
女性に相手にされないような人間ではない。むしろ女性人気は高い方だといっても過言ではない。
事実「タブーなきエンジニア集団」の支持者は女性の割合が高い。
軽くウェーブのかかった明るい茶色の髪を伸ばせば女性と見間違われるほどの容貌も彼の人気の一端を担っている。ウォーリー本人は、こうした人気をあまり快く思っていないのだが。
こうした外見に対して、言動がある意味過激なのも人々の関心を得る要因となっている。
それが家庭生活と結びつかないのが彼らしい、とミヤハラは思うのだが。
(落ち着いたら家庭を持つことを提案したほうがいいな。マネージャーに倒れられても困る。アイネス先生からも一言言ってもらうか……)
アイネスからの連絡を思い出して、ミヤハラはそう考えた。
不意にミヤハラの携帯端末が鳴る。通信が入ったのだ。
(おいおい、こっちは帰宅するところなんだぞ)
そう考えて無視しようとしたのだが、いくら待っても鳴り止む気配がない。
ついに根負けして携帯端末を取った。
「何だってんだ、こんな時間に」
やや声が不機嫌になったのも無理はない。
通信の主は事務所に待機しているメンバーからであった。
彼らはウォーリーから伝えられた情報を確認していたのだ。
ウォーリーからは暗号化されたデータの形で情報が送られてきたので、それを彼らが復号して読んでいたのである。
この情報は、ウォーリーと一緒にインデストに滞在しているエリック・モトムラが、OP社の通信回線に割り込んで入手したものだ。
「四月四日にフジミ・タウンに駐留しているOP社の部隊が、インデストへ向けて発つ」
通信は、その情報を伝えるためのものだった。
ついに来たか、というのがミヤハラの感想である。
四月四日だと約三週間後だ。
フジミ・タウンからインデストへは更に三週間強くらいの日程だろう。
四月の下旬か五月の上旬にインデストでOP社と「タブーなきエンジニア集団」とが激突することになる。
OP社の戦力は人員で二万を少し超える程度だと予想される。
この部隊は治安改革センターでの業務や賊の鎮圧などで実戦経験豊富な者が多い。
「タブーなきエンジニア集団」の戦闘部隊は三〇〇にも満たないから、正面から衝突すればひとたまりもない。
しかし、「タブーなきエンジニア集団」には市民の支持がある。
インデストでどの程度市民の支持が得られているかは不明だが、多数の市民の支持が得られればOP社も武断的な方法はとりにくいはずだ。
ポータル・シティには遠く及ばないとはいえ、インデストも約一八万の人口を抱える大都市である。住民の一〇分の一ほどが「タブーなきエンジニア集団」の支持に回れば、数の上では、OP社が送り込む部隊の人数とほぼ同数になる。
この人数の市民を巻き添えにしてまで武断的な方法を取るというのであれば、他の都市の市民も黙っていないだろう。OP社に対する支持は急速に衰える可能性が考えられる。
厄介なのは対話に応じる姿勢を見せてウォーリーを拘束するケースや、インデストの市民がウォーリーの身柄を拘束して、OP社に差し出すケースである。
ウォーリーにはどこか人の好い部分があって、頼まれたら断れない傾向がある。
OP社や市民が腰を低くしてウォーリーに交渉のテーブルに着くよう依頼されれば、これを断ることはしないと思われる。
エリックがついているから、怪しいと思えばウォーリーに警告を発することはできるだろう。
しかし、エリックは「タブーなきエンジニア集団」の幹部の中では、かなり押しが弱い方だ。ウォーリーが拒否すればそれ以上自説を押し通すことはできない可能性が高い。
ミヤハラは事務所に残っているメンバーと連絡を取り、エリックに伝言を命じた。
エリックの意見をウォーリーが拒否した場合、ミヤハラに連絡するように、という内容だ。ミヤハラもウォーリーに押し切られることが少なくないのだが、エリックよりは自説を通すことができる。
ウォーリーの方はとりあえずこれでよいとして、ミヤハラにはもう一つ気になる情報もあった。
このようにウォーリーは部下だけではなく部下の家族に対しても気を遣う。
だが、彼が家族を理由に仕事を休んだことはミヤハラが知る限り皆無であった。
ウォーリー自身に家族がいないからという理由もあるとミヤハラには思える。
ウォーリーに対して面と向かって言ったことはないのだが、そろそろウォーリーにも所帯を構えて欲しいとミヤハラは考えている。
一番大きな理由はウォーリーの体調だ。
ウォーリーには一度仕事にのめり込むと、体力の限界を超えて働きかねない面がある。
ミヤハラからすれば信じ難いところなのだが、寝食を忘れて業務に打ち込む姿は狂気さえ感じることがある。
ウォーリーはECN社を退職してから三年足らずの間に、少なくとも二度、長期休養で業務から離れている。
特に最初の休養は生命の危険もあったと医師のアイネスから伝えられており、軽視できない。
一労働者なら、上司が上手にハンドリングすればよいのかもしれないが、ウォーリーの場合は組織のトップだ。組織内に彼のブレーキを踏める者がいないのである。
家族がいれば、そのあたりのケアが多少なりとも可能だとミヤハラは思う。
ミヤハラにとっては妻子の存在が大きく、ECN社時代から会社のイベントなどに妻を伴って参加したことも多々ある。
やはり家族があり、共に助け合いながら生きていくのが自然な姿だ、とミヤハラは思うのだ。
ミヤハラの場合、両親が健在であるし、妻子もある。この点でウォーリーの場合と比較してかなり恵まれた環境にあるのもこう思う原因なのかもしれない。
一方、ウォーリーは今年三一歳になるのだが、今のところ浮いた話を聞いたことがない。
女性に相手にされないような人間ではない。むしろ女性人気は高い方だといっても過言ではない。
事実「タブーなきエンジニア集団」の支持者は女性の割合が高い。
軽くウェーブのかかった明るい茶色の髪を伸ばせば女性と見間違われるほどの容貌も彼の人気の一端を担っている。ウォーリー本人は、こうした人気をあまり快く思っていないのだが。
こうした外見に対して、言動がある意味過激なのも人々の関心を得る要因となっている。
それが家庭生活と結びつかないのが彼らしい、とミヤハラは思うのだが。
(落ち着いたら家庭を持つことを提案したほうがいいな。マネージャーに倒れられても困る。アイネス先生からも一言言ってもらうか……)
アイネスからの連絡を思い出して、ミヤハラはそう考えた。
不意にミヤハラの携帯端末が鳴る。通信が入ったのだ。
(おいおい、こっちは帰宅するところなんだぞ)
そう考えて無視しようとしたのだが、いくら待っても鳴り止む気配がない。
ついに根負けして携帯端末を取った。
「何だってんだ、こんな時間に」
やや声が不機嫌になったのも無理はない。
通信の主は事務所に待機しているメンバーからであった。
彼らはウォーリーから伝えられた情報を確認していたのだ。
ウォーリーからは暗号化されたデータの形で情報が送られてきたので、それを彼らが復号して読んでいたのである。
この情報は、ウォーリーと一緒にインデストに滞在しているエリック・モトムラが、OP社の通信回線に割り込んで入手したものだ。
「四月四日にフジミ・タウンに駐留しているOP社の部隊が、インデストへ向けて発つ」
通信は、その情報を伝えるためのものだった。
ついに来たか、というのがミヤハラの感想である。
四月四日だと約三週間後だ。
フジミ・タウンからインデストへは更に三週間強くらいの日程だろう。
四月の下旬か五月の上旬にインデストでOP社と「タブーなきエンジニア集団」とが激突することになる。
OP社の戦力は人員で二万を少し超える程度だと予想される。
この部隊は治安改革センターでの業務や賊の鎮圧などで実戦経験豊富な者が多い。
「タブーなきエンジニア集団」の戦闘部隊は三〇〇にも満たないから、正面から衝突すればひとたまりもない。
しかし、「タブーなきエンジニア集団」には市民の支持がある。
インデストでどの程度市民の支持が得られているかは不明だが、多数の市民の支持が得られればOP社も武断的な方法はとりにくいはずだ。
ポータル・シティには遠く及ばないとはいえ、インデストも約一八万の人口を抱える大都市である。住民の一〇分の一ほどが「タブーなきエンジニア集団」の支持に回れば、数の上では、OP社が送り込む部隊の人数とほぼ同数になる。
この人数の市民を巻き添えにしてまで武断的な方法を取るというのであれば、他の都市の市民も黙っていないだろう。OP社に対する支持は急速に衰える可能性が考えられる。
厄介なのは対話に応じる姿勢を見せてウォーリーを拘束するケースや、インデストの市民がウォーリーの身柄を拘束して、OP社に差し出すケースである。
ウォーリーにはどこか人の好い部分があって、頼まれたら断れない傾向がある。
OP社や市民が腰を低くしてウォーリーに交渉のテーブルに着くよう依頼されれば、これを断ることはしないと思われる。
エリックがついているから、怪しいと思えばウォーリーに警告を発することはできるだろう。
しかし、エリックは「タブーなきエンジニア集団」の幹部の中では、かなり押しが弱い方だ。ウォーリーが拒否すればそれ以上自説を押し通すことはできない可能性が高い。
ミヤハラは事務所に残っているメンバーと連絡を取り、エリックに伝言を命じた。
エリックの意見をウォーリーが拒否した場合、ミヤハラに連絡するように、という内容だ。ミヤハラもウォーリーに押し切られることが少なくないのだが、エリックよりは自説を通すことができる。
ウォーリーの方はとりあえずこれでよいとして、ミヤハラにはもう一つ気になる情報もあった。
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