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第七章

293:似た者同士か?

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 トニーはOP社の調査依頼を請けた後の対応について、引き続き考えを巡らせている。

 OP社については、過去に独自に行った調査などから近い将来電力事業が崩壊する可能性が考えられている。
 「リスク管理研究所」が留意しなければならないのは、電力事業の崩壊時にOP社の巻き添えを食らうことである。
 それを避けるために打つべき手は……
 OP社に対してはイエスマンで、他の者を相手にするときはOP社に必ずしも従うわけではないという立場で接すればよい、とトニーは考えた。
 ハドリは猜疑心の強い人物であるようだから、細心の注意が必要である。
 所詮、他人など信用できないものなのだ。
 人は皆、自分の利益を考えて生きている。
 トニーから見れば、「他人のために」と言う者は全て詐欺師か偽善者である。
 「他人のために」といって、自分の利益を考えない者は皆無だからだ。「他人のため」という善意を装う分だけ性質が悪い。

 こうした詐欺師や偽善者の類の正体を知らしめるために、彼が投げかける質問がある。
「付き合う相手を選ぶときに、性格で選ぶかどうか?」
 というのが質問の内容である。
 トニーはこの質問を女性が接客する店で投げかけることが多い。

 顔や外見が入る、と答えた人間は自らが偽善者や詐欺師の類であることを表に出しているようなものだから、そこに付け込めばよい。
 一方で「性格で選ぶ」と答えた人間は、非常に性質の悪い詐欺師か偽善者である。
 この場合はその場にいる複数の異性を集めて、誰が一番良いかを選ばせるのである。
 可能な限り、質問を投げかけた相手が知らない異性を集めるのがポイントである。
 相手が特定の異性を選択するか評価すればそれでよい。
 対象の性格を知らないで選択・評価しているのだから、その時点で「性格で選んでいるわけではない」と気づかせてやるのだ。
 選択できない者、評価できない者は、状況にもよるが選択するか評価するまでしつこく問いかけを続ける。

 屁理屈といっても良い内容ではある。
「性格を選択の条件に含めるかどうか」という意図の質問を「性格だけで選択するかどうか」にすり替えてしまっているのだ。
 問いかけを終えた後は、
「人の本質は、自分のことしか考えていない、というところにある。そうした世界の中で唯一、信用できる物は金だ。金は世界で唯一、万民共通の価値を持つものだからだ。
 だから、職業人は稼ぐ、儲けることを考えなければならない。金なんざいらない、というのはしている仕事の価値がないか、詐欺師か偽善者の類だ。
 無能な奴はまだいい。問題なのは詐欺師か偽善者の類だ。
 奴らの最大の問題は、本来金をとるべきときに金を取らないことで、周りの同業者の価値を引き下げることにある。自分が金を取れないのは構わないが、他人を巻き添えにするのは許されないことだ。というより、自分が善人になって他人を貶めるという行為だ。だから、この手の連中は詐欺師や偽善者の類なのだ。
 そういう意味では、女を選ぶ際に『性格で選んでいる』とか『外見なんて関係ない』という人間も同じ人種だな」
 というような意味のことを語るのだ。
 これでトニーは、自分より上位の者や同格の者を子分にしていったのである。
 もちろん、この手法が通用しなかった者もいる。
 ウォーリーははじめから相手にしなかったし、意外にもオイゲンにもこの手法は通じなかった。
 オイゲンは「性格も外見も必要条件ですけど、それだけでは十分ではないですからね」と答えたのだ。
 これは外見でも選んでいることを否定している内容ではないのだが、トニーからすると、尻尾を見せない回答なのが気に入らなかった。
 しかし、オイゲンはトニーにとってもコントロールしやすい相手であり、利用する分には問題ないので、隙を見つけて釘を刺しておくだけに留めておいたのだが。

 こうした価値観を持つトニーが、自分自身の利益を守れるものは己自身しかない、と考えるのも無理はない。
 自ら以外を信用できない、という点においてトニーとハドリは非常に近い価値観を持っているともいえる。そういった意味では、この二人は精神的な兄弟のような関係にあるかもしれないのだ。
 互いに似たような価値観を持っていると思われるだけに、トニーには相手の出方がよく理解できる。怪しい者は監視下に置くことに越したことはないのだ。
 ならば、トニーはハドリを利用するまでである。
 形勢的には「タブーなきエンジニア集団」が圧倒的に不利なので、OP社に味方する、という方法もある。
 しかし、この場合は「タブーなきエンジニア集団」が壊滅した後、OP社の矛先がトニーに向かないようにする必要がある。
 その矛先はECN社に向けられるのがベストだと考えられる。
 現在においても、ECN社はOP社に次ぐ第二の勢力であることは間違いない。
 オイゲンを傀儡として社長の座に置いたままにしているにしても、ハドリは変にECN社に甘いようにトニーには思われる。
 本来なら、危険極まりない第二勢力を叩いておくのが筋だと思われるのだが、OP社はその気配を見せない。
 確かにECN社を事実上、その傘下には置いている。
 そして、ECN社を監視し、その勢力を削ぐためか、人員の拠出も要求している。
 しかし、OP社が払った犠牲と比較するとECN社のそれはさほど大きくない。
 ECN社がOP社のグループに参加してからの期間を考えれば、人員、利益ともにOP社の減少割合の方が大きいのだ。
 こうする理由がトニーにはよくわからない。
 単にハドリの能力が低い可能性もあるのだが、そうであったら、あれほどの巨大グループを一〇年やそこらで築きあげることはできないと思われる。
 一時的に大花火を打ち上げて目立つ人間は、この地にも存在はしている。
 そうした人間はどこかで足を引っ張られ、堕ちていくケースがほとんどである。
 しかし、ハドリにはこうした人間に共通するある種の要素が感じられないのだ。トニーからすれば、隙を見つけにくい人間なのである。
 (ECN社の危険性を気づかせるか……)
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