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第七章
290:脱出劇
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「……何をやっているのだ、ヤマガタは?!」
ユニヴァースとヤマガタの会話の一部始終は別室でハドリが監視カメラの映像と音声を通じて見聞きしていた。
ヤマガタが一方的にユニヴァースにやり込められているのにハドリは苛立ちを隠せなかった。
ハドリがユニヴァースを呼びつけた目的は彼が保有している情報の奪取とその隠蔽だった。
腹心のヤマガタを通じて、ユニヴァースが「フジミの大虐殺」の情報を集めていることを知った。
ハドリはユニヴァースの持っている情報の内容によっては、彼を監視する必要があると考えていたのだ。
ヤマガタを通じてユニヴァースを呼びつけ、場合によっては身柄を拘束するか、監視下に置くことを決めていた。
しかし、このことはヤマガタには伝えていない。
ヤマガタは正直でハドリの命令に忠実であるが、演技ができる人物ではないとハドリは確信している。
演技が相手に見破られれば逃げられる恐れがある。
それを警戒したハドリは、敢えてヤマガタに本来の目的を伝えずにユニヴァースに応対させたのだ。
それだけではなく、応接室の周辺にパトロール・チームの職員を二〇名ばかり配置し、ユニヴァースの逃亡に備えている。
ヤマガタが社長の話も聞いてもらいたい、と席を立った。
ヤマガタはハドリが命じた通りの段取りでことを進めてはいるのだが、ユニヴァースとは役者が違いすぎた。というよりも、ユニヴァースが型破りすぎてヤマガタの手に負えないというのが実情だろう。
ハドリはパトロール・チームの職員にユニヴァースを本社の外に出さないよう命じた。
ヤマガタが社長室に着くと、ハドリは奪うようにして記録チップを受け取り、さっと情報に目を通す。
この間、わずか一〇分にも満たない。
ユニヴァースからもたらされた情報は、ハドリが保有しているそれよりも多かった。
特にハドリの目を引いたのは、ウォーリーの弟らしき人物の存在である。
(あいつ以外に、まだあの汚らわしい男の血を引く者がいるというのか!)
しかし、ユニヴァースの情報にもその弟らしき人物についての情報は存在が記載されているだけで、それが誰だかは明記されていない。
この弟らしき人物こそセスのことなのだが、この情報が正確なものか確認が取れていなかったため、ユニヴァースがあえて記録から外したのだった。正確性を欠く記録を残すのは彼のもっとも嫌うところであったのだ。
一通り情報に目を通すと、ハドリはパトロール・チームと連絡を取った。ユニヴァースをどうしたか確認するためである。
「おい、どうなった?」
「申し訳ございませんっ! 既に建物を出てどこかへ行ってしまいましたっ!」
「何だと?! すぐ探せ!」
ハドリは報告に憤った。ユニヴァースは彼が記録チップの情報に目を通している隙に逃げ出したというのである。
逃亡に備えてパトロール・チームの職員を配置したのに何たるザマか?
ハドリはパトロール・チームの職員や本社ビル内の清掃員、受付嬢などを呼び出して状況を説明させた。
それによると、ユニヴァースはヤマガタが応接室を出た直後に席を立ち、そのまま近くにあった荷物運搬用のエレベータに乗った。
そして一階に降り立った後、裏側の荷物搬入口から堂々と外へ出て行ったというのである。
あまりにも態度が堂々としていたので、搬入業者か何かだと思い、誰も声をかけられなかったとの事であった。
(日ごろからあれほど部外者を警戒しろと言っているのに、何というザマだ!)
ハドリからすれば、本社に詰めている全従業員がたるんでいる、ということになるのだが、逃げてしまったユニヴァースを捕まえるのが先決である。
受付嬢の情報によれば、ユニヴァースは馬で来た、ということだった。
馬なら目立つので、各治安改革センターに通達を出してユニヴァースを拘束させるか……
しかし、ハドリはここで思いとどまった。
しょせん、北の山奥に住んでいる変わり者である。
彼の情報を市民が信用するとは限らないし、知られたところでOP社に直接不利益になるものとは限らない。
また、ユニヴァースの拘束に治安改革センターの力を投入すると「タブーなきエンジニア集団」への監視の網が緩んでしまう。
ハドリにとって、現在の最優先事項は「タブーなきエンジニア集団」の代表、ウォーリー・トワの抹殺なのだ。
普段の冷静な彼であれば、全社を挙げてウォーリーの抹殺に注力するという思考には至らなかっただろう。数名の精鋭に彼の暗殺か拘束を命じた可能性が高い。
しかし、ウォーリーには、彼の母親を陵辱した忌まわしい男の血が流れている。
このことがハドリの冷徹な目を曇らせ、自らウォーリーの抹殺の陣頭指揮を執るという思いを植え付けたのだろうか。
ハドリはユニヴァースを取り逃がした関係者に謹慎と減俸の処分を下すだけに留め、ユニヴァースの拘束を一時断念したのであった。あくまでも「一時」であるところがハドリらしいと言えよう。
ユニヴァースとヤマガタの会話の一部始終は別室でハドリが監視カメラの映像と音声を通じて見聞きしていた。
ヤマガタが一方的にユニヴァースにやり込められているのにハドリは苛立ちを隠せなかった。
ハドリがユニヴァースを呼びつけた目的は彼が保有している情報の奪取とその隠蔽だった。
腹心のヤマガタを通じて、ユニヴァースが「フジミの大虐殺」の情報を集めていることを知った。
ハドリはユニヴァースの持っている情報の内容によっては、彼を監視する必要があると考えていたのだ。
ヤマガタを通じてユニヴァースを呼びつけ、場合によっては身柄を拘束するか、監視下に置くことを決めていた。
しかし、このことはヤマガタには伝えていない。
ヤマガタは正直でハドリの命令に忠実であるが、演技ができる人物ではないとハドリは確信している。
演技が相手に見破られれば逃げられる恐れがある。
それを警戒したハドリは、敢えてヤマガタに本来の目的を伝えずにユニヴァースに応対させたのだ。
それだけではなく、応接室の周辺にパトロール・チームの職員を二〇名ばかり配置し、ユニヴァースの逃亡に備えている。
ヤマガタが社長の話も聞いてもらいたい、と席を立った。
ヤマガタはハドリが命じた通りの段取りでことを進めてはいるのだが、ユニヴァースとは役者が違いすぎた。というよりも、ユニヴァースが型破りすぎてヤマガタの手に負えないというのが実情だろう。
ハドリはパトロール・チームの職員にユニヴァースを本社の外に出さないよう命じた。
ヤマガタが社長室に着くと、ハドリは奪うようにして記録チップを受け取り、さっと情報に目を通す。
この間、わずか一〇分にも満たない。
ユニヴァースからもたらされた情報は、ハドリが保有しているそれよりも多かった。
特にハドリの目を引いたのは、ウォーリーの弟らしき人物の存在である。
(あいつ以外に、まだあの汚らわしい男の血を引く者がいるというのか!)
しかし、ユニヴァースの情報にもその弟らしき人物についての情報は存在が記載されているだけで、それが誰だかは明記されていない。
この弟らしき人物こそセスのことなのだが、この情報が正確なものか確認が取れていなかったため、ユニヴァースがあえて記録から外したのだった。正確性を欠く記録を残すのは彼のもっとも嫌うところであったのだ。
一通り情報に目を通すと、ハドリはパトロール・チームと連絡を取った。ユニヴァースをどうしたか確認するためである。
「おい、どうなった?」
「申し訳ございませんっ! 既に建物を出てどこかへ行ってしまいましたっ!」
「何だと?! すぐ探せ!」
ハドリは報告に憤った。ユニヴァースは彼が記録チップの情報に目を通している隙に逃げ出したというのである。
逃亡に備えてパトロール・チームの職員を配置したのに何たるザマか?
ハドリはパトロール・チームの職員や本社ビル内の清掃員、受付嬢などを呼び出して状況を説明させた。
それによると、ユニヴァースはヤマガタが応接室を出た直後に席を立ち、そのまま近くにあった荷物運搬用のエレベータに乗った。
そして一階に降り立った後、裏側の荷物搬入口から堂々と外へ出て行ったというのである。
あまりにも態度が堂々としていたので、搬入業者か何かだと思い、誰も声をかけられなかったとの事であった。
(日ごろからあれほど部外者を警戒しろと言っているのに、何というザマだ!)
ハドリからすれば、本社に詰めている全従業員がたるんでいる、ということになるのだが、逃げてしまったユニヴァースを捕まえるのが先決である。
受付嬢の情報によれば、ユニヴァースは馬で来た、ということだった。
馬なら目立つので、各治安改革センターに通達を出してユニヴァースを拘束させるか……
しかし、ハドリはここで思いとどまった。
しょせん、北の山奥に住んでいる変わり者である。
彼の情報を市民が信用するとは限らないし、知られたところでOP社に直接不利益になるものとは限らない。
また、ユニヴァースの拘束に治安改革センターの力を投入すると「タブーなきエンジニア集団」への監視の網が緩んでしまう。
ハドリにとって、現在の最優先事項は「タブーなきエンジニア集団」の代表、ウォーリー・トワの抹殺なのだ。
普段の冷静な彼であれば、全社を挙げてウォーリーの抹殺に注力するという思考には至らなかっただろう。数名の精鋭に彼の暗殺か拘束を命じた可能性が高い。
しかし、ウォーリーには、彼の母親を陵辱した忌まわしい男の血が流れている。
このことがハドリの冷徹な目を曇らせ、自らウォーリーの抹殺の陣頭指揮を執るという思いを植え付けたのだろうか。
ハドリはユニヴァースを取り逃がした関係者に謹慎と減俸の処分を下すだけに留め、ユニヴァースの拘束を一時断念したのであった。あくまでも「一時」であるところがハドリらしいと言えよう。
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