296 / 436
第七章
288:ユニヴァース、ポータル・シティを訪れる
しおりを挟む
LH五一年三月一四日、「はじまりの丘」の麓に居を構えるフェイ・イヴ・ユニヴァースは、実に一三年ぶりにポータル・シティの中心部に足を踏み入れていた。
かつて「海岸エリア」と呼ばれていたこの地で、彼は他人に雇われる形で仕事をしていた。彼が他人に雇われて仕事をしたのは、このときが最初で最後である。
彼が目指す先はOP社の本社ビルであった。
道行く人々が彼のいでたちを見て驚きの声をあげたり、慌てて道を空けたりする。
無理もない。彼はスーツ姿で馬に跨っていたのである。
ポータル・シティのような都会で馬に跨って移動する者は稀有な存在である。
サブマリン島に馬がいない訳ではないが、数は多くないし、人を運ぶ手段として用いられているものではない。農業地帯で大量の荷物を輸送する際に利用されるか、あとは大部分が食肉用である。
ユニヴァースは人々の視線が気にならないのか、平然と馬を進めている。
馬での移動はOP社のルールでも禁じられていないため、街に点在するOP社治安改革センターの職員たちも茫然とユニヴァースが通り過ぎるのを見守るだけだ。
今のところ他者に危害を加えていないので、治安維持の目的でもOP社はユニヴァースに手出しができないのだ。
しばらく馬を歩かせるとユニヴァースの視界に巨大なビルの姿が入ってきた。目的のOP社本社ビルである。
目的地が見えてきても、ユニヴァースは馬を急がせることをしない。
たっぷりと一〇分ほどかけて、ビルの入口にたどり着いた。
ビルの前の街路樹に馬を繋ぎとめると、ユニヴァースは単身、入口へと向かっていった。
受付を見つけツカツカと歩み寄ると、ユニヴァースはポケットから折りたたまれた紙を取り出し、それを広げて一人の受付嬢に手渡した。
OP社の受付は社内から選りすぐりの美人を集めているということで評判である。この日ユニヴァースの前に姿を見せている三人の受付嬢も例外ではなかった。
社長のハドリはことのほか受付嬢には厳しく、徹底した礼儀作法の教育を施してから現場に送り出す。その教育は毎日深夜まで及び、想像を絶する厳しい選抜が繰り返されるという。
また、受付嬢として現場に出てからも安心はできない。
何かミスや不始末でもあればその地位を追われ、再び教育を受けるだけの立場に逆戻りさせられることもある。OP社社内でも屈指の厳しい業務とさえ言われている。
こうした事情を知らないのか、ユニヴァースは超然たる態度で彼女らに接しており、その姿がかえって異様に見えるほどであった。
ユニヴァースから紙を受け取った受付嬢は、「アポイントメントはございますか?」、とユニヴァースに問いかけた。
マニュアル通りの対応であるが、奇をてらう場面ではない。むしろユニヴァースのいでたちに狼狽えたりしたらハドリからの容赦ない叱責を受ける可能性が高い。
ユニヴァースが、
「ヤマガタ君に招待されたのです! そのメールに書いてあります」
と強い調子で言い返したので、受付嬢はかしこまってヤマガタと連絡を取りだした。
それを見た他の受付嬢たちがほっと胸をなで下ろした。
厄介な相手に当たらなくてよかった、と彼女たちの顔には書いてあった。
受付嬢たちには今回の対応が正しいか判断がつかなかった。
つまり、もしハドリが今回の対応に問題ありと判断した場合、処分の対象となる可能性があるのだ。受付の仕事をする者としてそれは避けたい事態だった。
少ししてヤマガタから応接室に案内して欲しいと回答が得られたので、それに従い受付嬢がユニヴァースを応接室へと案内した。
案内した受付嬢の顔は引きつっていたが、ユニヴァースは気付かないのか悠然と応接室へと向かっていった。
ユニヴァースは案内された応接室でソファに腰掛けて相手を待った。むすっとした顔で入口をじっと見据えている。彼にとって腹に据えかねる状況のようだ。
しばらくするとヤマガタが一人で入ってきた。
「五分待ちました」
ユニヴァースがヤマガタを制して言った。その口調は棒読みに近いものであったが、ヤマガタがすぐに来なかったことを責めているのには間違いない。
ヤマガタは申し訳ないと頭を下げたが、その心中は釈然としなかった。
こちらは大企業なのだし、こちらの事情も理解してくれ、という気持ちだったのだ。
しかし、すぐにユニヴァースがこのような人間だということを思い出した。
ユニヴァースはアポイントメントを取っていなかったのだから、ヤマガタがすぐに出てこられなかったのも無理はない。それでも、すぐにヤマガタが出てくると考えているあたりがユニヴァースらしいといえばそうなのだが。
ヤマガタが最初に切り出す。
「わざわざ出向いていただく形になって申し訳ありません。ところで、弊社の社長が『フジミの大虐殺』に関する情報を得たいと考えているのですが、あなたは確かこの事件を調べていると聞いています。その背景とかに関する情報があれば教えていただきたいのですが……」
「……」
依頼内容を聞いたユニヴァースは大して興味がないと言わんばかりの視線をヤマガタに向けた。
かつて「海岸エリア」と呼ばれていたこの地で、彼は他人に雇われる形で仕事をしていた。彼が他人に雇われて仕事をしたのは、このときが最初で最後である。
彼が目指す先はOP社の本社ビルであった。
道行く人々が彼のいでたちを見て驚きの声をあげたり、慌てて道を空けたりする。
無理もない。彼はスーツ姿で馬に跨っていたのである。
ポータル・シティのような都会で馬に跨って移動する者は稀有な存在である。
サブマリン島に馬がいない訳ではないが、数は多くないし、人を運ぶ手段として用いられているものではない。農業地帯で大量の荷物を輸送する際に利用されるか、あとは大部分が食肉用である。
ユニヴァースは人々の視線が気にならないのか、平然と馬を進めている。
馬での移動はOP社のルールでも禁じられていないため、街に点在するOP社治安改革センターの職員たちも茫然とユニヴァースが通り過ぎるのを見守るだけだ。
今のところ他者に危害を加えていないので、治安維持の目的でもOP社はユニヴァースに手出しができないのだ。
しばらく馬を歩かせるとユニヴァースの視界に巨大なビルの姿が入ってきた。目的のOP社本社ビルである。
目的地が見えてきても、ユニヴァースは馬を急がせることをしない。
たっぷりと一〇分ほどかけて、ビルの入口にたどり着いた。
ビルの前の街路樹に馬を繋ぎとめると、ユニヴァースは単身、入口へと向かっていった。
受付を見つけツカツカと歩み寄ると、ユニヴァースはポケットから折りたたまれた紙を取り出し、それを広げて一人の受付嬢に手渡した。
OP社の受付は社内から選りすぐりの美人を集めているということで評判である。この日ユニヴァースの前に姿を見せている三人の受付嬢も例外ではなかった。
社長のハドリはことのほか受付嬢には厳しく、徹底した礼儀作法の教育を施してから現場に送り出す。その教育は毎日深夜まで及び、想像を絶する厳しい選抜が繰り返されるという。
また、受付嬢として現場に出てからも安心はできない。
何かミスや不始末でもあればその地位を追われ、再び教育を受けるだけの立場に逆戻りさせられることもある。OP社社内でも屈指の厳しい業務とさえ言われている。
こうした事情を知らないのか、ユニヴァースは超然たる態度で彼女らに接しており、その姿がかえって異様に見えるほどであった。
ユニヴァースから紙を受け取った受付嬢は、「アポイントメントはございますか?」、とユニヴァースに問いかけた。
マニュアル通りの対応であるが、奇をてらう場面ではない。むしろユニヴァースのいでたちに狼狽えたりしたらハドリからの容赦ない叱責を受ける可能性が高い。
ユニヴァースが、
「ヤマガタ君に招待されたのです! そのメールに書いてあります」
と強い調子で言い返したので、受付嬢はかしこまってヤマガタと連絡を取りだした。
それを見た他の受付嬢たちがほっと胸をなで下ろした。
厄介な相手に当たらなくてよかった、と彼女たちの顔には書いてあった。
受付嬢たちには今回の対応が正しいか判断がつかなかった。
つまり、もしハドリが今回の対応に問題ありと判断した場合、処分の対象となる可能性があるのだ。受付の仕事をする者としてそれは避けたい事態だった。
少ししてヤマガタから応接室に案内して欲しいと回答が得られたので、それに従い受付嬢がユニヴァースを応接室へと案内した。
案内した受付嬢の顔は引きつっていたが、ユニヴァースは気付かないのか悠然と応接室へと向かっていった。
ユニヴァースは案内された応接室でソファに腰掛けて相手を待った。むすっとした顔で入口をじっと見据えている。彼にとって腹に据えかねる状況のようだ。
しばらくするとヤマガタが一人で入ってきた。
「五分待ちました」
ユニヴァースがヤマガタを制して言った。その口調は棒読みに近いものであったが、ヤマガタがすぐに来なかったことを責めているのには間違いない。
ヤマガタは申し訳ないと頭を下げたが、その心中は釈然としなかった。
こちらは大企業なのだし、こちらの事情も理解してくれ、という気持ちだったのだ。
しかし、すぐにユニヴァースがこのような人間だということを思い出した。
ユニヴァースはアポイントメントを取っていなかったのだから、ヤマガタがすぐに出てこられなかったのも無理はない。それでも、すぐにヤマガタが出てくると考えているあたりがユニヴァースらしいといえばそうなのだが。
ヤマガタが最初に切り出す。
「わざわざ出向いていただく形になって申し訳ありません。ところで、弊社の社長が『フジミの大虐殺』に関する情報を得たいと考えているのですが、あなたは確かこの事件を調べていると聞いています。その背景とかに関する情報があれば教えていただきたいのですが……」
「……」
依頼内容を聞いたユニヴァースは大して興味がないと言わんばかりの視線をヤマガタに向けた。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり
柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日――
東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。
中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。
彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。
無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。
政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。
「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる