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第七章
286:共通点
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「とぉえんてぃ? ず」の三人がポータル・シティ東駅付近の喫茶店で気炎を揚げていた頃、メディットの副院長ヴィリー・アイネスは、ウォーリー・トワのカルテとセスのカルテとを並べて見比べていた。
アイネスはウォーリーの病状とセスの病状の間に共通点がないかを調べている。
三年前、ウォーリーがメディットに運び込まれたのも循環器系の問題が原因となる症状だった。
ウォーリーに対してはセスの場合のように継続的な全身検査を行っていなかったので、セスほど豊富なデータはない。
しかし、アイネスのカルテは詳細に記録されており、かなりの情報を手に入れることができる。
ウォーリーの症状も一種の酸素欠乏であることが判明している。その原因が血管の異常による酸素反応の不良であれば、セスのそれとほぼ同じものとなる。
(迂闊だった! このような珍しい症状であれば、類似の症例を詳細に調査すべきであった……)
アイネスも決して調査を怠ったわけではない。
ただ、セスの場合は担当医が彼ではなかったため、担当医の職域を侵さないよう調査の範囲を限定してしまった。
今回のケースではそれが裏目に出た可能性が考えられる。
セスの担当医は決して能力が低い訳でも、腕が悪い訳でもない。
むしろその正反対なのだが、残念ながらアイネスと比較すると経験が不足していた。
その不足を補うために、敢えてアイネスは担当医にすべてを任せ、経験を積ませようとしたのだ。
セスとウォーリーの症状の共通点を見つけ出したところで、セスの治療には役に立たない可能性が高い。これらの症状に対する治療方法は確立していないのだ。
それでも、この関係を見つけ出すべきだった、とアイネスは思う。
担当医の責任ではない。
アイネス自身が担当医にすべてを任せたこと、これが上司たるアイネスの責任である。
いや、正確に言えば担当医に全てを任せたことではなく、担当医のしたことを全て把握しようとしなかったことが問題なのだ。
現在、担当医はセスの管理に注力している。他にも担当の患者を多く抱えているのだから、こうさせるのが最善だとアイネスには思われる。
ウォーリーについては、この担当医は関与していないのだから、ウォーリーのことに考えが及ばないのは当然なのだ。ウォーリーのことはアイネスが知っている。そして、セスに関してはアイネスが関与している。
だから、アイネスが両者の症状の関連性について調べるのが当然だと考えている。
ウォーリーの血管の状況を調べていると、セスのそれと奇妙な共通点があることがわかった。
同じ位置に同じような血管のかなり特殊な奇形があるのだ。
この奇形が酸素反応の不良に直接影響しているかは判断できないが、遺伝の可能性がある。
ウォーリーが入院した際に両親の血液型も調べている。
父親の方はメディットへの通院歴があり、古い情報から血液型は判明している。
母親の方はウォーリーの申告による血液型の情報しかなく、これ以上の調査はできないようだ。
少なくとも両親の血液型とウォーリー、セスの血液型の関連に矛盾はないようだった。
ウォーリーとセスの血液型は異なるのだが、血液型からは兄弟関係を完全に否定できない。
(父親の情報があれば、何か手がかりが得られるだろう)
アイネスはウォーリーの父親であるモトム・トワのカルテを見つけ、それを調べてみた。
「やはり……循環器系か……」
モトム・トワのケースがセスやウォーリーのそれと異なるのは、血管の奇形で血栓ができやすいので、血管の奇形を修正する手術を行った、という点である。
酸素欠乏の症状はカルテに記載されていない。また、彼が手術を行ったのは四〇代後半の話である。
アイネスは過去の手術記録も当たってみた。モトム・トワの血管の奇形はセスやウォーリーのそれと似ている。
術後の経過については、退院までの記録しかない。
現在も健在なのだろうか……? ならば、彼と接触してみるのが有効だ。
ここでアイネスはオイゲンから聞いた話を思い出した。
セスがフェイ・イヴ・ユニヴァースのところで見聞きした情報の中に、ウォーリーの父、モトム・トワが海洋調査に出たまま行方知れずになっている、というものがあった。
その当時の年齢が五〇くらいであったはずだから、手術からそれほどの期間を経ずに行方知れずになったことになる。そうであるならばこちらの線から有力な情報を得るのは難しい、と考えるべきであろう。
今度はウォーリーの情報を見る。
彼が最後にメディットを訪れたのは、昨年の一一月九日だ。今日が三月一三日だから、約四ヶ月前である。
それまでにも何度かメディットを訪れて検査を受けている。
検査の結果に大きな問題は無いと思われるのだが、何度かウォーリー自身が異常を訴えている。
症状が比較的軽度だったことと、検査結果に問題が見られないように思われたことから、大きな問題とは捉えていなかった。
しかし、よく確認すると異常の内容が酸素欠乏を原因としている可能性が十分に考えられるものである。
また、異常の発生頻度はセスよりも多い。セスと比較して症状が軽度なのであまり重要視していなかったことが悔やまれる。
アイネスはウォーリーの病状とセスの病状の間に共通点がないかを調べている。
三年前、ウォーリーがメディットに運び込まれたのも循環器系の問題が原因となる症状だった。
ウォーリーに対してはセスの場合のように継続的な全身検査を行っていなかったので、セスほど豊富なデータはない。
しかし、アイネスのカルテは詳細に記録されており、かなりの情報を手に入れることができる。
ウォーリーの症状も一種の酸素欠乏であることが判明している。その原因が血管の異常による酸素反応の不良であれば、セスのそれとほぼ同じものとなる。
(迂闊だった! このような珍しい症状であれば、類似の症例を詳細に調査すべきであった……)
アイネスも決して調査を怠ったわけではない。
ただ、セスの場合は担当医が彼ではなかったため、担当医の職域を侵さないよう調査の範囲を限定してしまった。
今回のケースではそれが裏目に出た可能性が考えられる。
セスの担当医は決して能力が低い訳でも、腕が悪い訳でもない。
むしろその正反対なのだが、残念ながらアイネスと比較すると経験が不足していた。
その不足を補うために、敢えてアイネスは担当医にすべてを任せ、経験を積ませようとしたのだ。
セスとウォーリーの症状の共通点を見つけ出したところで、セスの治療には役に立たない可能性が高い。これらの症状に対する治療方法は確立していないのだ。
それでも、この関係を見つけ出すべきだった、とアイネスは思う。
担当医の責任ではない。
アイネス自身が担当医にすべてを任せたこと、これが上司たるアイネスの責任である。
いや、正確に言えば担当医に全てを任せたことではなく、担当医のしたことを全て把握しようとしなかったことが問題なのだ。
現在、担当医はセスの管理に注力している。他にも担当の患者を多く抱えているのだから、こうさせるのが最善だとアイネスには思われる。
ウォーリーについては、この担当医は関与していないのだから、ウォーリーのことに考えが及ばないのは当然なのだ。ウォーリーのことはアイネスが知っている。そして、セスに関してはアイネスが関与している。
だから、アイネスが両者の症状の関連性について調べるのが当然だと考えている。
ウォーリーの血管の状況を調べていると、セスのそれと奇妙な共通点があることがわかった。
同じ位置に同じような血管のかなり特殊な奇形があるのだ。
この奇形が酸素反応の不良に直接影響しているかは判断できないが、遺伝の可能性がある。
ウォーリーが入院した際に両親の血液型も調べている。
父親の方はメディットへの通院歴があり、古い情報から血液型は判明している。
母親の方はウォーリーの申告による血液型の情報しかなく、これ以上の調査はできないようだ。
少なくとも両親の血液型とウォーリー、セスの血液型の関連に矛盾はないようだった。
ウォーリーとセスの血液型は異なるのだが、血液型からは兄弟関係を完全に否定できない。
(父親の情報があれば、何か手がかりが得られるだろう)
アイネスはウォーリーの父親であるモトム・トワのカルテを見つけ、それを調べてみた。
「やはり……循環器系か……」
モトム・トワのケースがセスやウォーリーのそれと異なるのは、血管の奇形で血栓ができやすいので、血管の奇形を修正する手術を行った、という点である。
酸素欠乏の症状はカルテに記載されていない。また、彼が手術を行ったのは四〇代後半の話である。
アイネスは過去の手術記録も当たってみた。モトム・トワの血管の奇形はセスやウォーリーのそれと似ている。
術後の経過については、退院までの記録しかない。
現在も健在なのだろうか……? ならば、彼と接触してみるのが有効だ。
ここでアイネスはオイゲンから聞いた話を思い出した。
セスがフェイ・イヴ・ユニヴァースのところで見聞きした情報の中に、ウォーリーの父、モトム・トワが海洋調査に出たまま行方知れずになっている、というものがあった。
その当時の年齢が五〇くらいであったはずだから、手術からそれほどの期間を経ずに行方知れずになったことになる。そうであるならばこちらの線から有力な情報を得るのは難しい、と考えるべきであろう。
今度はウォーリーの情報を見る。
彼が最後にメディットを訪れたのは、昨年の一一月九日だ。今日が三月一三日だから、約四ヶ月前である。
それまでにも何度かメディットを訪れて検査を受けている。
検査の結果に大きな問題は無いと思われるのだが、何度かウォーリー自身が異常を訴えている。
症状が比較的軽度だったことと、検査結果に問題が見られないように思われたことから、大きな問題とは捉えていなかった。
しかし、よく確認すると異常の内容が酸素欠乏を原因としている可能性が十分に考えられるものである。
また、異常の発生頻度はセスよりも多い。セスと比較して症状が軽度なのであまり重要視していなかったことが悔やまれる。
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