ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

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第七章

285:「とぉえんてぃ? ず」の道

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「何よ! あの社長は! よくあんなので会社やっていけるわね!」
 オオイダがパフェを頬張りながら吐き捨てた。憤懣やるせなし、という言葉がよく似合いそうだ。
 寿司屋を飛び出した後、「とぉえんてぃ? ず」の三人、すなわちカネサキ、オオイダ、コナカは近くの喫茶店へ場所を移して話を続けていた。
 今の三人の状況は、「かしましく騒ぎ立てている」という言葉がぴったりだろう。
 もっとも、騒いでいるのは三人のうち二人だから、字面と合うかどうかは意見が分かれるところである。騒ぎに参加していない一名は容易に予想できるところであろう。
 カネサキがケーキを口に運び、静かになったところでようやくコナカが口を開いた。
「あの……オオイダさん、怒るのはわかるんだけど、その……」
「何?」
「あの、オオイダさんが正しいとは思うのだけど、社長も立場があってああ言ったのじゃないか、って……」
 コナカの言葉にオオイダが激昂する。
「立場が何よ! 社長が従業員を守るのは当然じゃない! 責任逃れもいいところだわ! それともコナカは、あの社長が良いわけ?! 男性的魅力ゼロのああいうのが!」
「ご、ごめんなさい。そ、そうじゃなくて……」
「何よ」
「オオイダさんが正しいと思う。でも、社長の立場を考えるとあの発言は仕方無いのかな、って……」
 コナカが口ごもると、オオイダがまた何かを言いかける。
 それを制したのはカネサキだった。
「オオイダ、あのねぇ……まあ、そういうところがまだまだコドモだって思われるのね……」
「一体、何を言いたいのよ?!」
 予想通りのオオイダの反応にカネサキは少々人の悪い笑みを浮かべてみせる。
「……わからない?」
「だから何だって言うのよ?」
「しょうがないね、オオイダ。説明してあげるわよ」
「もったいぶっているわね」
 カネサキの説明によれば、オイゲンは社長として正直すぎるということだった。
 立場上、他の従業員のことも考慮しなければならないのは当然で、決断自体は間違っていない。ただ、正直すぎて説明や説得が下手なだけだ、というのだ。
「珍しいわね、カネサキが社長の立場を慮るなんて」
「あら、物事は広い視野で見なければ駄目よ、ってことを指摘しただけよ。子供の視点とは違うのだから」
 カネサキの言葉にオオイダの表情がひきつっている。
 コナカは二人を交互に見やるだけで口をきくことすらできない。
「だったら、あなたがあの男性的魅力ゼロの社長の相手したら? 年も同じなんだし、学校の同期なんでしょ?」
「残念ながら私はクルス君一筋なのよねぇ……二股かけるのは趣味に合わなくって」
「……一〇も年上の三〇代のオバちゃんをあの子が相手にするかしら……?」
「それが大人の心意気、ってものよ」
 口喧嘩になると年の功かカネサキのほうに分があるようだ。これを指摘すればオオイダから一〇倍以上の反論が返ってくるだろうが。

 二人の様子をコナカはハラハラしながら見守っていたのだが、オオイダが呆れて引き下がったのでようやく安心して紅茶のポットに手を伸ばした。
 長いこと湯に葉が浸かってしまったので、紅茶はかなり苦くなってしまった。
 しかし、コナカはそれを気にせずにティーカップを口元に運んだ。
 (来月からのお家賃、どうしよう……?)
 何時の間にかコナカも辞表を提出させられてしまったので、現在無職の身である。
 コナカの実家はチクハ・タウンにあるため、彼女はサンジョウという町にアパートを借りて一人暮らしをしている。
 貯金はそれなりにあるが、失業状態が長期化する可能性を考えると心もとない。
 実家に駆け込むのも迷惑がかかるし、何となく頼みにくい。
 性格的に困っていることを表に出せないのだ。
 コナカが考え込んでいると、後ろから髪を引っ張られた。
 彼女の髪はショートなので、引っ張られると頭ごと後ろに引かれるように感じる。
「コナカ、何ぼーっとしてるのよ?」
 振り返るとオオイダの手があった。
「あ、大丈夫です」
 コナカは思いついた言葉をそのまま口に出した。
「何が大丈夫なんだか……
 コナカはさっきもあまり食べてなかったからね。これでも食べて元気だしな」
 オオイダが呆れたように言うと、手にした折り詰めのうち二つを手渡した。
「カネサキも二つ持っていきなよ」
 オオイダはカネサキにも二つの折り詰めを手渡す。
 「って、オオイダ。あんたのところって四人家族じゃなかったっけ……?」
 オオイダの手には六つの折り詰めがあった。
 カネサキの指摘どおり、オオイダの家族構成は両親と兄の四人である。
「……そうだけど? 四人で六人前食べて悪い?」
 どうやら六人前のうち半分はオオイダの胃袋に納まるのだろうな、とカネサキは思った。
 オオイダの大食漢ぶりはカネサキもよく知っているのだが、どうしても一言言いたくなる。それは、彼女がその食欲の割にカネサキと大して変わらない体型をしているからなのだが。
 オオイダ、カネサキ、続いてコナカが席を立った。
 「とぉえんてぃ? ず」の三人で行動をとると、どうしても彼女が一歩遅れる。
 (これから、どうやって生活していこうか……?
 今日のところは食べて、休んで、また明日考えよう……)
 コナカはそう考えて、ため息をひとつついた。
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