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第七章
284:それぞれの道
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カネサキ、オオイダ、コナカの「とぉえんてぃ? ず」が個室から去った。
残された者達は茫然とそれを見送った。
この場に時の流れが再開するまで、数十秒ほどを要した。
「おいおい。社長さん、これでいいのかよ……?」
最初に我に返ったロビーがオイゲンに声をかけたが、オイゲンは構わない、と首を横に振った。
カネサキ、オオイダ、コナカの三人はオイゲンに辞表を出して去っていった。
これで彼女たちはECN社を離れたことになる。オイゲンが関与できる立場ではなくなったのだ。
一方、寿司屋の個室に残されたのはオイゲン、ロビー、モリタの三人だ。
ぎこちない空気が周囲を流れている。
「女性は怒らせると怖いですよ……社長ももう少し気を遣わないと」
モリタがオイゲンに恐る恐るそう指摘した。オイゲンはそうだね、と同意した。
モリタの言葉は妙に実感が篭っているようにオイゲンには感じられた。
もしかしたら、過去にそういう経験でもしているのかな? と考えて可笑しくなったのだが、オイゲンはそれを表には出さなかった。
「コホン。さて、気を取り直してですが、君たちはどうしますか……?」
オイゲンが軽く咳払いしてからロビーとモリタに尋ねた。
「決まっている。俺達も行くさ。俺達は気楽なバイトの身分だ。辞表はいらないだろう!」
ロビーの言葉にモリタが僕もなのかと問い返した。
「当たり前だろうが! お前、セスのような重病人を見捨てるのか?!」
ロビーの決め付けにモリタは、
(セスをだしに使うのは筋違いだろうよ……)
と思ったのだが、抗議はしなかった。
「社長さん、決まりだ」
ロビーがそう答えると、オイゲンはポケットから電子マネーのチップを差し出した。
即座に反応したことから、オイゲンはロビーの答えを予測していたことが見てとれる。
「退職金を出すことはできませんが、これは個人的にお礼として出しておきます。君たちのおかげで色々助かりました……」
「要らねえよ。俺たちを特別扱いする必要はねえ。これでも社長には助けてもらったと思っているんだ。礼を言うのはこっちさ」
「それならばチップはこちらで! さすがに無下に断るのも申し訳ないです!」
ロビーはそれを謝絶したが、モリタがそれならば、と受け取った。
「お前なぁ……」
ロビーがモリタの頭をはたいたが、モリタはチップを手放さない。
オイゲンが笑いながら、
「それは個人的にプレゼントしたものですから、自由に使ってください」
と告げた。
「ありがとうございます!」
モリタが力強くうなずくと、オイゲンが続ける。
「それと……後でそちらに追加で送り込むものがあるかもしれません。そのときは対応をお願いします」
「社長さん、それは俺がやっておくよ。今まで世話になった。感謝するぜ。じゃあ、俺達もここで」
ロビーがそう言って立ち上がろうとした。進む道が決まった以上、急ぐ必要があると思ったからだ。彼自身はともかく、目的地に到達しなければならないセスに残された時間は限られているのだ。
ロビーが腰を浮かしかけたところでモリタが
「僕らもお土産もらっていこうよ」
と物欲しげな目をロビーに向けた。
思わぬ足止めに、さすがに図々しすぎるとロビーは呆れた顔をモリタに向けた。
図々しいというほかに、セスのことはどう考えているのだと文句を言いたい気持ちもある。
図々しい注文にもかかわらず、オイゲンは嫌な顔ひとつ見せずに笑って折り詰めを注文した。この程度の図々しさは彼にとってむしろ好ましいものである。
「しゃーねーなあ。社長さん、これは借りにしておくぜ」
ロビーが浮かした腰を椅子に落とした。
「借りなんて大袈裟ですよ。お土産を受け取るまでが今日の仕事です」
そう言ってオイゲンがロビーに向けた顔は、どこか晴れやかなものを感じさせた。
折り詰めができるのを待って、ロビーとモリタも寿司屋を後にした。
一人取り残されたオイゲンは準備が整ったかな、とつぶやいてから立ち上がった。
その直後、彼の携帯端末にレイカ・メルツから通信が繋がれた。
注文したワインが入手できたという連絡だった。
オイゲンはレイカとハモネスの駅で待ち合わせ、そこで注文したワインを受け取り、社へと戻った。
こうしてオイゲンと「とぉえんてぃ? ず」の三人、そしてロビーとモリタの進む道は分かれたのだった。
残された者達は茫然とそれを見送った。
この場に時の流れが再開するまで、数十秒ほどを要した。
「おいおい。社長さん、これでいいのかよ……?」
最初に我に返ったロビーがオイゲンに声をかけたが、オイゲンは構わない、と首を横に振った。
カネサキ、オオイダ、コナカの三人はオイゲンに辞表を出して去っていった。
これで彼女たちはECN社を離れたことになる。オイゲンが関与できる立場ではなくなったのだ。
一方、寿司屋の個室に残されたのはオイゲン、ロビー、モリタの三人だ。
ぎこちない空気が周囲を流れている。
「女性は怒らせると怖いですよ……社長ももう少し気を遣わないと」
モリタがオイゲンに恐る恐るそう指摘した。オイゲンはそうだね、と同意した。
モリタの言葉は妙に実感が篭っているようにオイゲンには感じられた。
もしかしたら、過去にそういう経験でもしているのかな? と考えて可笑しくなったのだが、オイゲンはそれを表には出さなかった。
「コホン。さて、気を取り直してですが、君たちはどうしますか……?」
オイゲンが軽く咳払いしてからロビーとモリタに尋ねた。
「決まっている。俺達も行くさ。俺達は気楽なバイトの身分だ。辞表はいらないだろう!」
ロビーの言葉にモリタが僕もなのかと問い返した。
「当たり前だろうが! お前、セスのような重病人を見捨てるのか?!」
ロビーの決め付けにモリタは、
(セスをだしに使うのは筋違いだろうよ……)
と思ったのだが、抗議はしなかった。
「社長さん、決まりだ」
ロビーがそう答えると、オイゲンはポケットから電子マネーのチップを差し出した。
即座に反応したことから、オイゲンはロビーの答えを予測していたことが見てとれる。
「退職金を出すことはできませんが、これは個人的にお礼として出しておきます。君たちのおかげで色々助かりました……」
「要らねえよ。俺たちを特別扱いする必要はねえ。これでも社長には助けてもらったと思っているんだ。礼を言うのはこっちさ」
「それならばチップはこちらで! さすがに無下に断るのも申し訳ないです!」
ロビーはそれを謝絶したが、モリタがそれならば、と受け取った。
「お前なぁ……」
ロビーがモリタの頭をはたいたが、モリタはチップを手放さない。
オイゲンが笑いながら、
「それは個人的にプレゼントしたものですから、自由に使ってください」
と告げた。
「ありがとうございます!」
モリタが力強くうなずくと、オイゲンが続ける。
「それと……後でそちらに追加で送り込むものがあるかもしれません。そのときは対応をお願いします」
「社長さん、それは俺がやっておくよ。今まで世話になった。感謝するぜ。じゃあ、俺達もここで」
ロビーがそう言って立ち上がろうとした。進む道が決まった以上、急ぐ必要があると思ったからだ。彼自身はともかく、目的地に到達しなければならないセスに残された時間は限られているのだ。
ロビーが腰を浮かしかけたところでモリタが
「僕らもお土産もらっていこうよ」
と物欲しげな目をロビーに向けた。
思わぬ足止めに、さすがに図々しすぎるとロビーは呆れた顔をモリタに向けた。
図々しいというほかに、セスのことはどう考えているのだと文句を言いたい気持ちもある。
図々しい注文にもかかわらず、オイゲンは嫌な顔ひとつ見せずに笑って折り詰めを注文した。この程度の図々しさは彼にとってむしろ好ましいものである。
「しゃーねーなあ。社長さん、これは借りにしておくぜ」
ロビーが浮かした腰を椅子に落とした。
「借りなんて大袈裟ですよ。お土産を受け取るまでが今日の仕事です」
そう言ってオイゲンがロビーに向けた顔は、どこか晴れやかなものを感じさせた。
折り詰めができるのを待って、ロビーとモリタも寿司屋を後にした。
一人取り残されたオイゲンは準備が整ったかな、とつぶやいてから立ち上がった。
その直後、彼の携帯端末にレイカ・メルツから通信が繋がれた。
注文したワインが入手できたという連絡だった。
オイゲンはレイカとハモネスの駅で待ち合わせ、そこで注文したワインを受け取り、社へと戻った。
こうしてオイゲンと「とぉえんてぃ? ず」の三人、そしてロビーとモリタの進む道は分かれたのだった。
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