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第七章
283:責任をとるための存在
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モリタ、カネサキ、オオイダ、コナカの視線がロビーの方を向いている。
オイゲンの顔もロビーの方を向いているが、彼は目を閉じて何かを待っている。
寿司屋の個室とは思えないくらい重苦しい空気が周囲を覆っている。
ロビーは皆の視線が彼の方を向いたのを確かめてから、口を開く。
カネサキの問いからロビーが口を開くまで数秒といった程度なのだが、個室内の多くの者にとってそれは数分くらいに感じられた。
「当然行きますね。インデストよりジンの方が近いし、これならセスが入院していても問題ないわけですからね」
ロビーは既に意を決したという様子だった。
「それじゃ、『とぉえんてぃ? ず』も行くからね。オオイダもコナカも辞表出しなさい!」
カネサキも名乗りをあげた。
巻き添えにされた格好のオオイダは「何勝手に決めているのよ」と抗議したが、カネサキに「行かないの?」と問い返されると首を横に大きく振った。既に行くことを決めているようだ。
コナカは事情が飲み込めずに、寿司をつまむ箸を止めたまま呆然としている。
「……わかりました。ミヤハラなら力になってくれると思います。彼らなら何か手段を持っていると思います。
そして、お願いできる筋合いのことではないのですが、『タブーなきエンジニア集団』と接触するのは、クルス君の言葉のリハビリが終わってからにしていただけないでしょうか?」
オイゲンの言葉にカネサキとオオイダが、何でよ、と抗議の声をあげた。
「社として『タブーなきエンジニア集団』との接触を禁止しています。退職した従業員がすぐに『タブーなきエンジニア集団』に身を投じたと知れたら、僕の立場も危ういものになってしまいます。小心とか卑怯とか言って頂いて構いませんが……」
すると、最初にオオイダが吐き捨てるように文句を言いだした。
「しょせん社長なんてそんなものよね! 社員の安全より自分が大事、ってね。人でなしのすることよ! 人でなしが社長をやっている会社にいるくらいなら、外へ出た方がいいわ! コナカもそうしなさい!」
オオイダの勢いに気圧されたのか、コナカは「はい」とうなずいた。オオイダの言葉の意味を理解しているかは微妙なところだ。
「ちょっと待ってよ! 社長はいつも『上司は責任を取るためにいるものだ』って言っていたじゃないの! 会社で一番上の上司のあんたが、責任から逃げる訳?」
カネサキが鋭く言い放った。
オオイダが文句を言い終えるのを待ったのは、彼女なりの礼儀だ。その一方でオイゲンを「あんた」呼ばわりしているのは職業学校の同期として気安さなのかもしれない。
「……」
その通りだ、とオイゲンは思う。それがわかっているから答えられないのだ。
すべきことはわかっている。前言の撤回だ。
しかし、今日明日に彼らが「タブーなきエンジニア集団」と接触した場合、オイゲンはともかく他の従業員がOP社から責任を追及されることはないだろうか?
ない、と言える確証はない。社長として他の従業員に類が及ぶことは避けなければならない。それは社長の義務だ。
だが、それも可能性の問題であるし、少しでも可能性があるのならばそれを実現させるのも会社を束ねる社長の義務である、とオイゲンは思う。
オイゲン一人が犠牲になれば他の社員への追及を思いとどまらせるくらい、できなければならないのだ。
それができない、という時点で社長の義務から逃げているのだろう……
やはり、ここは彼らの好きなようにさせて、かつ他の従業員に悪い結果をもたらさないようにしなければならない。
ならば、前言は撤回されてしかるべきだ、とオイゲンは決断した。
「……すみません、前言は撤回します。退職後であれば『タブーなきエンジニア集団』への接触は感知しません」
そう言い終えてオイゲンが大きく息をついた。
カネサキは無言でバッグから紙とペンを取り出し、その場で辞表を書き上げてしまった。そして、オオイダとコナカにも署名をさせる。
その後、カネサキとオオイダは無言で寿司を平らげていく。
二人は部屋の中にいる者達に対しては無言であったが、容赦なくインターホンを通じて追加注文を入れていった。
それどころかオオイダに至っては、土産用の折り詰めまで注文した。
その間コナカは呆気に取られているのか、その場に固まったままだった。寿司も喉を通らない様子だった。彼女はカネサキやオオイダの様な図太さを持ち合わせていないのだ。
「すみません、先ほどの言葉については謝ります……」
カネサキとオオイダの様子が落ち着くのを待ってオイゲンは頭を下げたのだが、二人からの反応はなかった。
オオイダが折り詰めを受け取ると、カネサキが立ち上がった。
「じゃ、私達はこれで失礼します。お世話になりました!」
カネサキとオオイダに引っ張られるようにコナカも個室から出て行った。
残された者達は呆気に取られ、茫然とそれを見送るだけであった。
オイゲンの顔もロビーの方を向いているが、彼は目を閉じて何かを待っている。
寿司屋の個室とは思えないくらい重苦しい空気が周囲を覆っている。
ロビーは皆の視線が彼の方を向いたのを確かめてから、口を開く。
カネサキの問いからロビーが口を開くまで数秒といった程度なのだが、個室内の多くの者にとってそれは数分くらいに感じられた。
「当然行きますね。インデストよりジンの方が近いし、これならセスが入院していても問題ないわけですからね」
ロビーは既に意を決したという様子だった。
「それじゃ、『とぉえんてぃ? ず』も行くからね。オオイダもコナカも辞表出しなさい!」
カネサキも名乗りをあげた。
巻き添えにされた格好のオオイダは「何勝手に決めているのよ」と抗議したが、カネサキに「行かないの?」と問い返されると首を横に大きく振った。既に行くことを決めているようだ。
コナカは事情が飲み込めずに、寿司をつまむ箸を止めたまま呆然としている。
「……わかりました。ミヤハラなら力になってくれると思います。彼らなら何か手段を持っていると思います。
そして、お願いできる筋合いのことではないのですが、『タブーなきエンジニア集団』と接触するのは、クルス君の言葉のリハビリが終わってからにしていただけないでしょうか?」
オイゲンの言葉にカネサキとオオイダが、何でよ、と抗議の声をあげた。
「社として『タブーなきエンジニア集団』との接触を禁止しています。退職した従業員がすぐに『タブーなきエンジニア集団』に身を投じたと知れたら、僕の立場も危ういものになってしまいます。小心とか卑怯とか言って頂いて構いませんが……」
すると、最初にオオイダが吐き捨てるように文句を言いだした。
「しょせん社長なんてそんなものよね! 社員の安全より自分が大事、ってね。人でなしのすることよ! 人でなしが社長をやっている会社にいるくらいなら、外へ出た方がいいわ! コナカもそうしなさい!」
オオイダの勢いに気圧されたのか、コナカは「はい」とうなずいた。オオイダの言葉の意味を理解しているかは微妙なところだ。
「ちょっと待ってよ! 社長はいつも『上司は責任を取るためにいるものだ』って言っていたじゃないの! 会社で一番上の上司のあんたが、責任から逃げる訳?」
カネサキが鋭く言い放った。
オオイダが文句を言い終えるのを待ったのは、彼女なりの礼儀だ。その一方でオイゲンを「あんた」呼ばわりしているのは職業学校の同期として気安さなのかもしれない。
「……」
その通りだ、とオイゲンは思う。それがわかっているから答えられないのだ。
すべきことはわかっている。前言の撤回だ。
しかし、今日明日に彼らが「タブーなきエンジニア集団」と接触した場合、オイゲンはともかく他の従業員がOP社から責任を追及されることはないだろうか?
ない、と言える確証はない。社長として他の従業員に類が及ぶことは避けなければならない。それは社長の義務だ。
だが、それも可能性の問題であるし、少しでも可能性があるのならばそれを実現させるのも会社を束ねる社長の義務である、とオイゲンは思う。
オイゲン一人が犠牲になれば他の社員への追及を思いとどまらせるくらい、できなければならないのだ。
それができない、という時点で社長の義務から逃げているのだろう……
やはり、ここは彼らの好きなようにさせて、かつ他の従業員に悪い結果をもたらさないようにしなければならない。
ならば、前言は撤回されてしかるべきだ、とオイゲンは決断した。
「……すみません、前言は撤回します。退職後であれば『タブーなきエンジニア集団』への接触は感知しません」
そう言い終えてオイゲンが大きく息をついた。
カネサキは無言でバッグから紙とペンを取り出し、その場で辞表を書き上げてしまった。そして、オオイダとコナカにも署名をさせる。
その後、カネサキとオオイダは無言で寿司を平らげていく。
二人は部屋の中にいる者達に対しては無言であったが、容赦なくインターホンを通じて追加注文を入れていった。
それどころかオオイダに至っては、土産用の折り詰めまで注文した。
その間コナカは呆気に取られているのか、その場に固まったままだった。寿司も喉を通らない様子だった。彼女はカネサキやオオイダの様な図太さを持ち合わせていないのだ。
「すみません、先ほどの言葉については謝ります……」
カネサキとオオイダの様子が落ち着くのを待ってオイゲンは頭を下げたのだが、二人からの反応はなかった。
オオイダが折り詰めを受け取ると、カネサキが立ち上がった。
「じゃ、私達はこれで失礼します。お世話になりました!」
カネサキとオオイダに引っ張られるようにコナカも個室から出て行った。
残された者達は呆気に取られ、茫然とそれを見送るだけであった。
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