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第七章
275:ハモネスへの帰還とセスの急変と
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「総務のカネサキです。ただいま戻りました」
トレイルシャツにパンツ姿の女性がテーブルに置かれた携帯端末に話しかけた。
「わかりました、全員で社長室へ来てください」
すると携帯端末のスピーカーから、男性の声が返ってきた。
ECN社本社ロビーには七人の男女がたむろっていた。男が三人、女が四人の集団だ。
周りの者と比較すると、彼らの格好は異様だ。
一人は明るい空色のパンツスーツを着ていたが、他の六人はトレイルシャツにパンツといったハイキング用のいでたちだった。そのうち一人は車椅子に腰掛けている。
さらに大きなリュックを積んだソリまで引きずっているのだ。
ECN社のドレスコードは比較的緩やかであるが、それでもこのような格好の集団は目立つ。
先ほどまで携帯端末で話していたトレイルシャツの女性が残りの六人に合図をした。エレベータに乗るぞ、ということらしい。
空色のパンツスーツ姿の女性を先頭に七人がエレベータへと向かっていく。
ロビーを行き交う人々がこの女性を見て、ひそひそと話をしている。
一七〇センチを超えるモデル体型の身体を空色のスーツで包んだこの女性は、サブマリン島の中でかなり有名な人物である。女性の中では島内でもっとも有名かもしれない。
空色のパンツスーツ姿の女性がセミロングの金髪と胸元の赤いスカーフをなびかせながら颯爽と歩いていく。
先頭を歩いていたのはレイカ・メルツだった。
食材商社のマーケターから職業学校の教官に転身し、現在は療養中であるはずの彼女が何故、ECN社の本社に姿を現したのか……
彼女の後ろを歩く六人はすべてECN社の従業員である。社員かアルバイトかの違いはあるものの、ECN社本社を訪れる正当な理由があるのだ。
しかし、レイカ・メルツはECN社の従業員ではない。
彼女の姿を見かけた従業員の中では、様々な噂が立っていた。
ECN社の広報担当に就任するのだ。
いや、ECN社のテレビCMに出演するのだ。
そうではない、ECN社に人材教育の講師として売り込みに来たのだ。
しかし、これらのすべての噂は正解を言い当てていなかった。
ひとつの目的は六人の付き添い、もうひとつの目的はECN社社長のオイゲン・イナに頼まれた品物が入手できたことを報告するために、彼女はここを訪れたのだ。
他の六人は、セス・クルス、ロビー・タカミ、タカシ・モリタ、アケミ・カネサキ、ユミ・オオイダ、サユリ・コナカである。
セス、ロビー、モリタの三人は、情報端末の情報解析のためにフェイ・イヴ・ユニヴァースのもとを訪れていた。
カネサキ、オオイダ、コナカの三人は、セスたちを迎えに走ったのだ。
レイカはECN社へ向かう途中に、セスたちを迎えにいく途中のカネサキらに出会い、そのまま合流してしまったのである。
カネサキらは無事にセスたちと合流し、ECN社へ帰ってきた、という訳である。
レイカを先頭に七人が社長室と書かれたドアの方へ向かう。
社長室の前に到着し脇のインターホンをレイカが鳴らすと、中から「どうぞ」という声が聞こえてきた。
七人がドアを開けて社長室に入ると、オイゲンが自ら彼らを出迎えた。
開口一番、オイゲンは七人を労った。
「お疲れ様でした。解析が終わって何よりです。
クルス君のことがあるので、支度をしてすぐにメディットに向かいましょう。私も同行します」
不満の声もあがったが、オイゲンがさっさと支度を始めてしまったので、他の全員もそれに従うことにした。
※※
「おい! 大丈夫か?!」
ジンへ向かう列車の中にロビーの声が響いた
周囲の乗客の視線がロビーの方に集まった。
列車に乗り込んで十数分後、セスの様子が急変したのだ。
列車での移動中、セスは車椅子に座ったまま眠るように目を閉じたのだが、その様子が明らかに異常であった。
異変に気付いた周囲の乗客が席やスペースを空けてくれた。
幸いなことにそれほど混雑している時間ではなかったため、車椅子の近くの座席に彼を横にするだけのスペースを確保できた。
ロビーとオイゲンが協力してセスを空けてもらったスペースに寝かせた。
移動手段が徒歩か自転車、そしてハモネス-チクハ・タウン間を結ぶ鉄道に限られるサブマリン島では、救急患者を列車で運ぶことが少なくない。
そのため、乗客もこうした事態には慣れている。
「タカミ君、アイネス先生に連絡を……」
セスを寝かせた後、わずかに震える声でオイゲンが指示した。
ロビーは冷静に携帯端末を取り出して、メディットの医師ヴィリー・アイネスに通信を入れた。ちなみにこの鉄道では奇数号車で通信利用可となっており、八名が乗っているのは三号車である。
オイゲンはカネサキに依頼してセスの口にマウスピースのようなものをくわえさせた。
その姿を見てモリタが不審に思った。あたかもこのことを予測していたかのように思えるのだ。
それを察したのかオイゲンがモリタに向かって説明を始めた。
「アイネス先生から準備をしておくように言われたんだ。帰ってきたらすぐにメディットに行かせるようにともね」
モリタはそれを聞くと、セスを囲む人の輪から少しだけ外側に移動した。
トレイルシャツにパンツ姿の女性がテーブルに置かれた携帯端末に話しかけた。
「わかりました、全員で社長室へ来てください」
すると携帯端末のスピーカーから、男性の声が返ってきた。
ECN社本社ロビーには七人の男女がたむろっていた。男が三人、女が四人の集団だ。
周りの者と比較すると、彼らの格好は異様だ。
一人は明るい空色のパンツスーツを着ていたが、他の六人はトレイルシャツにパンツといったハイキング用のいでたちだった。そのうち一人は車椅子に腰掛けている。
さらに大きなリュックを積んだソリまで引きずっているのだ。
ECN社のドレスコードは比較的緩やかであるが、それでもこのような格好の集団は目立つ。
先ほどまで携帯端末で話していたトレイルシャツの女性が残りの六人に合図をした。エレベータに乗るぞ、ということらしい。
空色のパンツスーツ姿の女性を先頭に七人がエレベータへと向かっていく。
ロビーを行き交う人々がこの女性を見て、ひそひそと話をしている。
一七〇センチを超えるモデル体型の身体を空色のスーツで包んだこの女性は、サブマリン島の中でかなり有名な人物である。女性の中では島内でもっとも有名かもしれない。
空色のパンツスーツ姿の女性がセミロングの金髪と胸元の赤いスカーフをなびかせながら颯爽と歩いていく。
先頭を歩いていたのはレイカ・メルツだった。
食材商社のマーケターから職業学校の教官に転身し、現在は療養中であるはずの彼女が何故、ECN社の本社に姿を現したのか……
彼女の後ろを歩く六人はすべてECN社の従業員である。社員かアルバイトかの違いはあるものの、ECN社本社を訪れる正当な理由があるのだ。
しかし、レイカ・メルツはECN社の従業員ではない。
彼女の姿を見かけた従業員の中では、様々な噂が立っていた。
ECN社の広報担当に就任するのだ。
いや、ECN社のテレビCMに出演するのだ。
そうではない、ECN社に人材教育の講師として売り込みに来たのだ。
しかし、これらのすべての噂は正解を言い当てていなかった。
ひとつの目的は六人の付き添い、もうひとつの目的はECN社社長のオイゲン・イナに頼まれた品物が入手できたことを報告するために、彼女はここを訪れたのだ。
他の六人は、セス・クルス、ロビー・タカミ、タカシ・モリタ、アケミ・カネサキ、ユミ・オオイダ、サユリ・コナカである。
セス、ロビー、モリタの三人は、情報端末の情報解析のためにフェイ・イヴ・ユニヴァースのもとを訪れていた。
カネサキ、オオイダ、コナカの三人は、セスたちを迎えに走ったのだ。
レイカはECN社へ向かう途中に、セスたちを迎えにいく途中のカネサキらに出会い、そのまま合流してしまったのである。
カネサキらは無事にセスたちと合流し、ECN社へ帰ってきた、という訳である。
レイカを先頭に七人が社長室と書かれたドアの方へ向かう。
社長室の前に到着し脇のインターホンをレイカが鳴らすと、中から「どうぞ」という声が聞こえてきた。
七人がドアを開けて社長室に入ると、オイゲンが自ら彼らを出迎えた。
開口一番、オイゲンは七人を労った。
「お疲れ様でした。解析が終わって何よりです。
クルス君のことがあるので、支度をしてすぐにメディットに向かいましょう。私も同行します」
不満の声もあがったが、オイゲンがさっさと支度を始めてしまったので、他の全員もそれに従うことにした。
※※
「おい! 大丈夫か?!」
ジンへ向かう列車の中にロビーの声が響いた
周囲の乗客の視線がロビーの方に集まった。
列車に乗り込んで十数分後、セスの様子が急変したのだ。
列車での移動中、セスは車椅子に座ったまま眠るように目を閉じたのだが、その様子が明らかに異常であった。
異変に気付いた周囲の乗客が席やスペースを空けてくれた。
幸いなことにそれほど混雑している時間ではなかったため、車椅子の近くの座席に彼を横にするだけのスペースを確保できた。
ロビーとオイゲンが協力してセスを空けてもらったスペースに寝かせた。
移動手段が徒歩か自転車、そしてハモネス-チクハ・タウン間を結ぶ鉄道に限られるサブマリン島では、救急患者を列車で運ぶことが少なくない。
そのため、乗客もこうした事態には慣れている。
「タカミ君、アイネス先生に連絡を……」
セスを寝かせた後、わずかに震える声でオイゲンが指示した。
ロビーは冷静に携帯端末を取り出して、メディットの医師ヴィリー・アイネスに通信を入れた。ちなみにこの鉄道では奇数号車で通信利用可となっており、八名が乗っているのは三号車である。
オイゲンはカネサキに依頼してセスの口にマウスピースのようなものをくわえさせた。
その姿を見てモリタが不審に思った。あたかもこのことを予測していたかのように思えるのだ。
それを察したのかオイゲンがモリタに向かって説明を始めた。
「アイネス先生から準備をしておくように言われたんだ。帰ってきたらすぐにメディットに行かせるようにともね」
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