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第七章
274:「はじまりの丘」からの出廬
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LH (ルナ・ヘヴンス暦)五一年三月九日、「はじまりの丘」付近には春の訪れを告げる西風が吹いていた。
「はじまりの丘」より東の地は未だ白く深い雪に覆われている。
「はじまりの丘」の東には五千メートル級の山々が連なるドガン山脈の未踏峰がその威風堂々たる姿を見せつけている。
山の頂は白い万年雪で覆われ、あたかも白い巨人たちが立ち連なっているかのように見える。
惑星エクザロームに人類が居住するようになってから約三〇年、未だこの白い巨人たちを乗り越え、その東側に到達したものはなかった。
これらの山々を越えようと考えた者が皆無だったわけではない。
エクザローム第二の企業、ECN (アース・コミュニケーション・ネットワーク)社社長のオイゲン・イナのように山脈の東側に活路を見出そうと考えている者もいる。
山々の高さだけを考えれば、この星に居住している人々の先祖は、これらの山々よりも遥かに高い山々を相手に既にこれらを征服している。
しかし、エクザロームの人々はこれらの山々を相手にほとんど戦いを挑みすらしていない。
日々の暮らしに必死だったこと、そしてこれらの山々が都市から遠すぎたこと、などがその理由である。交通手段が整備されていないことが、エクザロームの住民の行動範囲を著しく狭めていたのだ。
冬の間、これら白い巨人達は「はじまりの丘」にその威信を見せつけるかのように、冷たい東風を吹き当てるのであった。
この東風が治まり、西風に変わるとこの地に春が訪れるのである。
この日、麓にあるフェイ・イヴ・ユニヴァースのもとに、一通の電子メールが届いた。
差出人は、OP (オーシャン・パワース)社のノブヤ・ヤマガタである。社長のエイチ・ハドリの右腕とされている人物であるが、その知名度は高くない。
ユニヴァースは、この初老の男とは旧知の間柄である。
宇宙ステーション「ルナ・ヘヴンス」内で二人の居住区画は隣同士であった。また、惑星エクザロームに移り住んだ後もユニヴァースがポータル・シティを出るまで、二人の家は隣同士であった。
二人の間に特別の友誼などはなかったが、確実に何らかの接点はあった。
その微かな接点を頼りにヤマガタが連絡をよこしてきたようだった。
メールはユニヴァースにOP社への訪問を求めるものであった。
調べものに没頭している最中であれば、当然のようにユニヴァースは依頼を断っていただろう。
しかし、ユニヴァースは大きな調べものを終えたところで、この男にしては機嫌が良かった。また、OP社には彼にとって興味深い情報がある可能性があった。
メールを受信してから数時間後、ユニヴァースはヤマガタの要請を受けるとメールで回答した。そして、その直後にOP社本社へと旅立った。
彼は食料などを調達するため三月に一度くらいはポータル・シティやハモネスなどの都市の近くを訪れることはある。
しかし、他人の招聘に応じて館を出るのは稀だ。というより彼が現在の場所に居を構えてから初めてのことになるかもしれない。
今回の目的地であるOP社本社は惑星エクザローム唯一の陸地であるサブマリン島の最大都市ポータル・シティの中心部に近いエリアにある。
彼は長い間ポータル・シティの中心部を訪れていなかった。それだけでも今回の出来事が稀有なことであることが容易に推測できる。
ユニヴァースは館の裏につないでいた馬に飛び乗り、ポータル・シティへの道を急いだのであった。
移動手段が馬ということが、彼を都市の中心部から遠ざける原因の一つとなっていた。馬を休ませる場所がないからだ。
急いでいるとはいえ、ユニヴァースは馬を走らせず、歩かせるだけだった。
このあたりが彼らしいかもしれない。
一足先に出発したセスたちは未だ目的地であるハモネスには到着していない。
彼らは車椅子で移動しているため、その歩みは速くないのだ。
ユニヴァースの馬なら三日程度でポータル・シティに到着するであろう。
途中でセスたちに追いつく可能性もある。
しかし、セスたちに追いついたところで、ユニヴァースは気にも留めないだろう。そういう男なのだ。
「フジミの大虐殺」に関わる多くの情報を得たところで、この事件に関するユニヴァースの知識欲はほぼ満たされたといってよい。
次にユニヴァースが興味を持ったのは、現在、この島で起きている出来事である。
偶然にも一方の当事者である「タブーなきエンジニア集団」のウォーリー・トワの話を聞くことはできた。
問題はウォーリーの話が主観的で、事実を知るためには心もとないことだった。
そうした中、もう一方の当事者であるエイチ・ハドリの会社から訪問を求められた。
ユニヴァースは新たな情報が得られると思い、ヤマガタの依頼を受けた。
気分が高揚する、ということにはあまり縁のないユニヴァースであったが、この日はそれに近い状態だった。
(まだまだ知ることはあるものですな……)
ユニヴァースは、ゆっくりと馬を歩かせながら南へと進んでいく……
「はじまりの丘」より東の地は未だ白く深い雪に覆われている。
「はじまりの丘」の東には五千メートル級の山々が連なるドガン山脈の未踏峰がその威風堂々たる姿を見せつけている。
山の頂は白い万年雪で覆われ、あたかも白い巨人たちが立ち連なっているかのように見える。
惑星エクザロームに人類が居住するようになってから約三〇年、未だこの白い巨人たちを乗り越え、その東側に到達したものはなかった。
これらの山々を越えようと考えた者が皆無だったわけではない。
エクザローム第二の企業、ECN (アース・コミュニケーション・ネットワーク)社社長のオイゲン・イナのように山脈の東側に活路を見出そうと考えている者もいる。
山々の高さだけを考えれば、この星に居住している人々の先祖は、これらの山々よりも遥かに高い山々を相手に既にこれらを征服している。
しかし、エクザロームの人々はこれらの山々を相手にほとんど戦いを挑みすらしていない。
日々の暮らしに必死だったこと、そしてこれらの山々が都市から遠すぎたこと、などがその理由である。交通手段が整備されていないことが、エクザロームの住民の行動範囲を著しく狭めていたのだ。
冬の間、これら白い巨人達は「はじまりの丘」にその威信を見せつけるかのように、冷たい東風を吹き当てるのであった。
この東風が治まり、西風に変わるとこの地に春が訪れるのである。
この日、麓にあるフェイ・イヴ・ユニヴァースのもとに、一通の電子メールが届いた。
差出人は、OP (オーシャン・パワース)社のノブヤ・ヤマガタである。社長のエイチ・ハドリの右腕とされている人物であるが、その知名度は高くない。
ユニヴァースは、この初老の男とは旧知の間柄である。
宇宙ステーション「ルナ・ヘヴンス」内で二人の居住区画は隣同士であった。また、惑星エクザロームに移り住んだ後もユニヴァースがポータル・シティを出るまで、二人の家は隣同士であった。
二人の間に特別の友誼などはなかったが、確実に何らかの接点はあった。
その微かな接点を頼りにヤマガタが連絡をよこしてきたようだった。
メールはユニヴァースにOP社への訪問を求めるものであった。
調べものに没頭している最中であれば、当然のようにユニヴァースは依頼を断っていただろう。
しかし、ユニヴァースは大きな調べものを終えたところで、この男にしては機嫌が良かった。また、OP社には彼にとって興味深い情報がある可能性があった。
メールを受信してから数時間後、ユニヴァースはヤマガタの要請を受けるとメールで回答した。そして、その直後にOP社本社へと旅立った。
彼は食料などを調達するため三月に一度くらいはポータル・シティやハモネスなどの都市の近くを訪れることはある。
しかし、他人の招聘に応じて館を出るのは稀だ。というより彼が現在の場所に居を構えてから初めてのことになるかもしれない。
今回の目的地であるOP社本社は惑星エクザローム唯一の陸地であるサブマリン島の最大都市ポータル・シティの中心部に近いエリアにある。
彼は長い間ポータル・シティの中心部を訪れていなかった。それだけでも今回の出来事が稀有なことであることが容易に推測できる。
ユニヴァースは館の裏につないでいた馬に飛び乗り、ポータル・シティへの道を急いだのであった。
移動手段が馬ということが、彼を都市の中心部から遠ざける原因の一つとなっていた。馬を休ませる場所がないからだ。
急いでいるとはいえ、ユニヴァースは馬を走らせず、歩かせるだけだった。
このあたりが彼らしいかもしれない。
一足先に出発したセスたちは未だ目的地であるハモネスには到着していない。
彼らは車椅子で移動しているため、その歩みは速くないのだ。
ユニヴァースの馬なら三日程度でポータル・シティに到着するであろう。
途中でセスたちに追いつく可能性もある。
しかし、セスたちに追いついたところで、ユニヴァースは気にも留めないだろう。そういう男なのだ。
「フジミの大虐殺」に関わる多くの情報を得たところで、この事件に関するユニヴァースの知識欲はほぼ満たされたといってよい。
次にユニヴァースが興味を持ったのは、現在、この島で起きている出来事である。
偶然にも一方の当事者である「タブーなきエンジニア集団」のウォーリー・トワの話を聞くことはできた。
問題はウォーリーの話が主観的で、事実を知るためには心もとないことだった。
そうした中、もう一方の当事者であるエイチ・ハドリの会社から訪問を求められた。
ユニヴァースは新たな情報が得られると思い、ヤマガタの依頼を受けた。
気分が高揚する、ということにはあまり縁のないユニヴァースであったが、この日はそれに近い状態だった。
(まだまだ知ることはあるものですな……)
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