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第六章
272:お姉さんの「秘密兵器」
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セス、ロビー、モリタの三人は街道を南に進みながらその先を見据えていた。
応援部隊が近づいたときには、速やかにそれを視界に捉えなければならないからだ。
霧やもやは出ていなかったから、街道を歩いている限り気付かずにすれ違うことは考えにくい。
だが、この付近に限っては街道と荒地の境界が不明確で知らないうちに街道から外れる可能性がある。
セス達も行きに街道を外れかけて、その都度、セスの記憶に頼りながら街道へ復帰するということを繰り返していたのだ。
セス達の場合は運悪く、霧に悩まされていたのが大きな原因だったのだが。
目を凝らしていたセスが、遠くに人の姿を見つけた。
その姿は街道上にあった。
次第に姿が大きくなり、相手方が四人だということがわかった。
ここで、モリタがカネサキに通信を繋ぐ。
すると、相手側もこちらの姿を認識したようだ。
数分後、セス達は応援部隊と合流を果たした。
予想通り応援部隊のメンバーは、レイカ、カネサキ、オオイダ、コナカの四人であった。
何も女性ばかり四人寄越してどうするんだ、とロビーは悪態をつきかけたが、力の部分では期待できなくても、メンタルな部分では役に立ちそうだ。仲間がいるだけでメンバーの士気が上がることはよくある話だからだ。
応援部隊を見ると一番小柄なコナカが何かを引きずってきている。
「コナカさん、何を持ってきたんですか?」
モリタがコナカに話し掛けると、カネサキが割って入った。
「クルス君のために持ってきた秘密兵器よ! こういう場所なら車椅子よりこっちのほうが速いわ!」
カネサキは胸を反らせながら、セスの前にコナカが引きずっていたものを差し出した。
それはソリのようなもので、どうやら道を滑らせてセスを運ぼうとしているらしい。
「何で一番身体の小さいコナカさんが引っ張ってきたんだ? もうちょっと体力ありそうな奴を連れてくればよかったのに」
ロビーがカネサキに苦情を言ったのだが、カネサキは意に介していなかった。
「コナカが一番力あるからね。それに小さいっていうけど、彼女これでも一六〇あるのよ。よっぽど社長の秘書さんのほうが小さいじゃない!」
「……確かに三人とも大して変わらない、っちゃ、変わらないかもな」
ロビーの指摘通り、「とぉえんてぃ? ず」の三人は似たりよったりの背格好である。
背の高い順からカネサキ、オオイダ、コナカ、の順になり、一番背の高いカネサキが一六四センチ、オオイダは一六ニセンチ、もっとも小柄なコナカは一六〇センチと不思議なことに二センチ刻みになっている。
背の順と年齢順が同じなのも不思議なところだ。もっとも、こちらはカネサキがかなり年長でオオイダは六歳、コナカは七歳年下と不規則な刻みとなっているが。
ちなみにカネサキに「よっぽど小さい」と言われたメイの身長は一五四センチである。確かに「とぉえんてぃ? ず」の三人と比較すれば小柄な部類になる。メイはサブマリン島に住む成人女性の中でもかなり小さい方だ。
「あ、私なら……身体動かすのは好きですし、力もありますから構わないですよ」
カネサキの言葉から少し遅れてコナカが反応した。力こぶを作るポーズを見せたのだ。
カネサキはほらみなさい、と得意げな表情だ。
コナカの腕は太くはないが、それでもソリを軽々と曳いていた。見かけによらず力があるのだろう。
確かにこの道なら車椅子よりソリの方が速く移動できるかもしれない。
ロビーたちが協力してセスをソリに寝かせ、荷物を載せる。
車椅子はソリには載らないので、これはモリタが運ぶことになった。
当初、モリタは難色を示したのだが、カネサキの強引な説得と、レイカの懇願により、半ば仕方なく受け入れたのだった。
ソリに載りきらなかったリュックが一つあるが、これはオオイダが背負うことになった。
レイカが「私が持ちましょうか?」と申し出たのだが、カネサキが強引に
「先生は道案内役をやってください。荷物を持たれたら私達が困ります」
と説得してしまった。
レイカは「そう……」と残念そうに言いながらカネサキの説得を受け入れた。
職業学校を退職してからずいぶん経つのに、未だに「先生」と呼ばれることから脱却できずにいるのは、滑稽だった。
「それで、カネサキはどうするのよ?」
オオイダの声は不満げだ。
「私はソリの後ろに乗ってハンドルを操作するのよ! ソリに乗るから余計な荷物を持っていたら引っ張る人が重いじゃないの!」
「カネサキ、あんた体重何キロあると思っているのよ?」
カネサキの言葉にオオイダは疑いの目を向けながらその量と同じくらいの嫌味を込めて言った。
「お二人とも、細かいことは気にしないで道を急ぎましょう」
セスの声が下から聞こえてきた。ソリの上に寝かされているので必然的に声の位置が下になる。
カネサキが慌ててソリの後ろに飛び乗ると、セスが不安そうな表情を見せた。
「あの……これ、揺れないですよね……? あまり揺れると酔っちゃいそうなんですけど……」
「大丈夫よ、クルス君。お姉さんを信じなさい!」
カネサキがVサインをしながらウインクしてみせた。
その様子にオオイダが、
「『お姉さん』って恥ずかしげもなく……
三一歳は十分『オバちゃん』よね……?」
と皮肉った。さすがにロビーも呆れたのか、「……そうだな」と同調した。
「文句言ってないで、コナカ! タカミ君! ソリを引っ張るのよ!
クルス君を早くハモネスに戻すために、出発!」
カネサキの指示にロビーとコナカは素直に従った。
カネサキはソリの後部から出ている足の部分に飛び乗って、取っ手につかまりながら立っている。
ハンドルはソリの後部中央にあり、これを左右に傾けることで方向を変えるようだ。
確かに車椅子と比較してソリの方が速く移動できるようだ。
車椅子だとどうしても車輪が砂利や土に埋まるため、思うように進めない。
しかし、ソリならその心配は無用である。ただ、セスの頭が地面に近い位置にあるので、音がうるさいのと、多少の振動が避けられないことは問題になるのだが。
応援部隊が近づいたときには、速やかにそれを視界に捉えなければならないからだ。
霧やもやは出ていなかったから、街道を歩いている限り気付かずにすれ違うことは考えにくい。
だが、この付近に限っては街道と荒地の境界が不明確で知らないうちに街道から外れる可能性がある。
セス達も行きに街道を外れかけて、その都度、セスの記憶に頼りながら街道へ復帰するということを繰り返していたのだ。
セス達の場合は運悪く、霧に悩まされていたのが大きな原因だったのだが。
目を凝らしていたセスが、遠くに人の姿を見つけた。
その姿は街道上にあった。
次第に姿が大きくなり、相手方が四人だということがわかった。
ここで、モリタがカネサキに通信を繋ぐ。
すると、相手側もこちらの姿を認識したようだ。
数分後、セス達は応援部隊と合流を果たした。
予想通り応援部隊のメンバーは、レイカ、カネサキ、オオイダ、コナカの四人であった。
何も女性ばかり四人寄越してどうするんだ、とロビーは悪態をつきかけたが、力の部分では期待できなくても、メンタルな部分では役に立ちそうだ。仲間がいるだけでメンバーの士気が上がることはよくある話だからだ。
応援部隊を見ると一番小柄なコナカが何かを引きずってきている。
「コナカさん、何を持ってきたんですか?」
モリタがコナカに話し掛けると、カネサキが割って入った。
「クルス君のために持ってきた秘密兵器よ! こういう場所なら車椅子よりこっちのほうが速いわ!」
カネサキは胸を反らせながら、セスの前にコナカが引きずっていたものを差し出した。
それはソリのようなもので、どうやら道を滑らせてセスを運ぼうとしているらしい。
「何で一番身体の小さいコナカさんが引っ張ってきたんだ? もうちょっと体力ありそうな奴を連れてくればよかったのに」
ロビーがカネサキに苦情を言ったのだが、カネサキは意に介していなかった。
「コナカが一番力あるからね。それに小さいっていうけど、彼女これでも一六〇あるのよ。よっぽど社長の秘書さんのほうが小さいじゃない!」
「……確かに三人とも大して変わらない、っちゃ、変わらないかもな」
ロビーの指摘通り、「とぉえんてぃ? ず」の三人は似たりよったりの背格好である。
背の高い順からカネサキ、オオイダ、コナカ、の順になり、一番背の高いカネサキが一六四センチ、オオイダは一六ニセンチ、もっとも小柄なコナカは一六〇センチと不思議なことに二センチ刻みになっている。
背の順と年齢順が同じなのも不思議なところだ。もっとも、こちらはカネサキがかなり年長でオオイダは六歳、コナカは七歳年下と不規則な刻みとなっているが。
ちなみにカネサキに「よっぽど小さい」と言われたメイの身長は一五四センチである。確かに「とぉえんてぃ? ず」の三人と比較すれば小柄な部類になる。メイはサブマリン島に住む成人女性の中でもかなり小さい方だ。
「あ、私なら……身体動かすのは好きですし、力もありますから構わないですよ」
カネサキの言葉から少し遅れてコナカが反応した。力こぶを作るポーズを見せたのだ。
カネサキはほらみなさい、と得意げな表情だ。
コナカの腕は太くはないが、それでもソリを軽々と曳いていた。見かけによらず力があるのだろう。
確かにこの道なら車椅子よりソリの方が速く移動できるかもしれない。
ロビーたちが協力してセスをソリに寝かせ、荷物を載せる。
車椅子はソリには載らないので、これはモリタが運ぶことになった。
当初、モリタは難色を示したのだが、カネサキの強引な説得と、レイカの懇願により、半ば仕方なく受け入れたのだった。
ソリに載りきらなかったリュックが一つあるが、これはオオイダが背負うことになった。
レイカが「私が持ちましょうか?」と申し出たのだが、カネサキが強引に
「先生は道案内役をやってください。荷物を持たれたら私達が困ります」
と説得してしまった。
レイカは「そう……」と残念そうに言いながらカネサキの説得を受け入れた。
職業学校を退職してからずいぶん経つのに、未だに「先生」と呼ばれることから脱却できずにいるのは、滑稽だった。
「それで、カネサキはどうするのよ?」
オオイダの声は不満げだ。
「私はソリの後ろに乗ってハンドルを操作するのよ! ソリに乗るから余計な荷物を持っていたら引っ張る人が重いじゃないの!」
「カネサキ、あんた体重何キロあると思っているのよ?」
カネサキの言葉にオオイダは疑いの目を向けながらその量と同じくらいの嫌味を込めて言った。
「お二人とも、細かいことは気にしないで道を急ぎましょう」
セスの声が下から聞こえてきた。ソリの上に寝かされているので必然的に声の位置が下になる。
カネサキが慌ててソリの後ろに飛び乗ると、セスが不安そうな表情を見せた。
「あの……これ、揺れないですよね……? あまり揺れると酔っちゃいそうなんですけど……」
「大丈夫よ、クルス君。お姉さんを信じなさい!」
カネサキがVサインをしながらウインクしてみせた。
その様子にオオイダが、
「『お姉さん』って恥ずかしげもなく……
三一歳は十分『オバちゃん』よね……?」
と皮肉った。さすがにロビーも呆れたのか、「……そうだな」と同調した。
「文句言ってないで、コナカ! タカミ君! ソリを引っ張るのよ!
クルス君を早くハモネスに戻すために、出発!」
カネサキの指示にロビーとコナカは素直に従った。
カネサキはソリの後部から出ている足の部分に飛び乗って、取っ手につかまりながら立っている。
ハンドルはソリの後部中央にあり、これを左右に傾けることで方向を変えるようだ。
確かに車椅子と比較してソリの方が速く移動できるようだ。
車椅子だとどうしても車輪が砂利や土に埋まるため、思うように進めない。
しかし、ソリならその心配は無用である。ただ、セスの頭が地面に近い位置にあるので、音がうるさいのと、多少の振動が避けられないことは問題になるのだが。
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