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第六章
263:ヌマタ、「タブーなきエンジニア集団」に身を投じる
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「ジン・ヌマタといいます。お忙しいところ失礼します。今回ここへ来たのは……」
ヌマタは開口一番、ウォーリーの人となりを見て「タブーなきエンジニア集団」へ協力するかを決めたい、と訪問の目的を語った。
ウォーリーは、ならばしっかり見ていってくれ、と何一つ隠すつもりはないという姿勢を見せた。
エリックはヌマタがハドリに味方する者でないか疑っており、警戒を解いていない。その証拠にヌマタとウォーリーの間に立っている。
「それなら、単刀直入に聞きますけど、何故こんな活動をしているのですか?」
ヌマタの問いにウォーリーは間髪入れず即答する。
「OP社、いやハドリのやり方が気に入らないからだ」
ウォーリーの単純明快な回答はヌマタに好印象を与えた。
(理屈をこねまわして本心を隠す人じゃなさそうだな……)
それならば次の段階に話を進めてよいだろうとヌマタは考えた。
「私が協力を申し出たら?」
「そりゃ歓迎するさ」
「私は去年の七月までOP社の社員でしたが」
「関係ないね」
間髪入れず返ってきたウォーリーの答えでヌマタの心は固まった。
ここまで気持ちの良いやり取りはヌマタの生涯でもほとんど経験したことのない性質のものであった。
「では、私も参加させてください。辞めてから半年以上経ってますが、OP社の内情なら多少は把握しているはずです」
「ならば色々聞くこともあるだろう。よろしく頼むわ」
そう言ってウォーリーはヌマタに手を差し出した。
ヌマタがガシッと差し出された手を握り返した。
両者の間で固い握手が交わされる。
ヌマタと少し言葉を交わした後ウォーリーは部屋を確保するから引っ越したらどうだ、とヌマタに提案した。ヌマタがホテル暮らしという話を聞いたからだ。
ヌマタは二つ返事で承知し、引越しのため一旦部屋を後にした。
ヌマタが出て行ったのを見計らって、エリックがウォーリーに忠告する。
「元OP社の社員とか言ってますけど、信用しちゃって大丈夫なんですか?」
「モトムラ君、彼は私と一緒に仕事をしていたんだ。能力も信念も保証するよ」
ウォーリーより先にアカシが答えた。アカシがヌマタのことを相当買っているのがエリックにも理解できる。
「そうだぞ、エリック。彼の目を見てみろ。熱意の程がわかる。ああいう人間に悪い奴はいないさ」
ウォーリーの言葉にエリックは引き下がるしかなかった。
こういった部分が「押しが弱い」と指摘されるところなのだが、もって生まれた性格はなかなか変えられないものだ。
(いい奴が来てくれたものだな……)
一方、ウォーリーは直感的にヌマタという人物の優秀さを感じ取っていた。
自分にとって好ましいキャラクターの人間だからかもしれないが、何かをやってのける気迫のようなものが感じられた。
気迫や闘志があまり表に出ないエリックと組ませてみたら面白い。
アカシから聞いたところによれば、ヌマタはエリックの一つ年下だ。
エリックに年下の者の面倒を見させることによって、リーダーとしての何かが目覚めるかもしれないな、と考えたのだ。
また、ヌマタにとってもエリックのような者と組むのはプラスになるとウォーリーは考えている。アカシからヌマタが管理畑の出身であることを聞いていたからだ。
エリックは一流どころの技術者である。ヌマタとは専門が異なる。
エンジニアの集まりである「タブーなきエンジニア集団」の中で最高の技術者と接する機会があるのはそれだけで貴重なはずだ。
ウォーリーを訪ねたその日のうちに、ヌマタは泊まっていた宿からウォーリーに示された部屋へと住処を移した。
決して多くない荷物の中には、文庫本程度の大きさの爆発物が数個含まれていたが、ウォーリー達がそれを知ることはなかった。
ヌマタも直感的にウォーリーの器を感じとっていた。
その場で「タブーなきエンジニア集団」への参加を即決したのも、そのためである。
だが、爆発物を使ってハドリを暗殺するという考えを捨てた訳ではなかった。
インデスト郊外で宿泊した施設にはハドリが利用することを見込んで遠隔爆破の仕掛けを組み終えていたし、手荷物にも爆発物を含めている。
ウォーリーとの短い会話の中で、彼はウォーリーがこうした手段を望まないであろうことも感じとっていた。
卑怯な手段を使いたくないのはヌマタとて同じだが、彼の場合ハドリに弟を殺されているという事情がある。テロリズムによる解決は、彼にとっても非常手段だ。
理性では理解できていても、感情ではどうしても納得できない。
彼は機会があればハドリを暗殺することを決意していたし、その決意を変えるつもりもなかった。そのときが訪れれば黙って「タブーなきエンジニア集団」を離れるつもりだ。
ウォーリー・トワに卑劣な手段は似合わない。短い会話だけでもそのことは十分に理解できた。
ウォーリーが望んでいるのは、ハドリが市民を監視する活動を停止することだ。
ヌマタもその意見には賛成である。
この部分は理性で対処できるが、ハドリが弟の敵である、ということが理性だけの対処を難しくしている。感情の範疇に入る部分である。
ハドリが改心して自分の非を認めることがあれば、ヌマタも感情による対処を止められるかもしれない。しかし、活動を停止しても自分の非を認めることが無ければ……
感情による処理が実施されるだけだ。この処理には「タブーなきエンジニア集団」を巻き込まないこと、これがヌマタの出した結論だった。
ヌマタは開口一番、ウォーリーの人となりを見て「タブーなきエンジニア集団」へ協力するかを決めたい、と訪問の目的を語った。
ウォーリーは、ならばしっかり見ていってくれ、と何一つ隠すつもりはないという姿勢を見せた。
エリックはヌマタがハドリに味方する者でないか疑っており、警戒を解いていない。その証拠にヌマタとウォーリーの間に立っている。
「それなら、単刀直入に聞きますけど、何故こんな活動をしているのですか?」
ヌマタの問いにウォーリーは間髪入れず即答する。
「OP社、いやハドリのやり方が気に入らないからだ」
ウォーリーの単純明快な回答はヌマタに好印象を与えた。
(理屈をこねまわして本心を隠す人じゃなさそうだな……)
それならば次の段階に話を進めてよいだろうとヌマタは考えた。
「私が協力を申し出たら?」
「そりゃ歓迎するさ」
「私は去年の七月までOP社の社員でしたが」
「関係ないね」
間髪入れず返ってきたウォーリーの答えでヌマタの心は固まった。
ここまで気持ちの良いやり取りはヌマタの生涯でもほとんど経験したことのない性質のものであった。
「では、私も参加させてください。辞めてから半年以上経ってますが、OP社の内情なら多少は把握しているはずです」
「ならば色々聞くこともあるだろう。よろしく頼むわ」
そう言ってウォーリーはヌマタに手を差し出した。
ヌマタがガシッと差し出された手を握り返した。
両者の間で固い握手が交わされる。
ヌマタと少し言葉を交わした後ウォーリーは部屋を確保するから引っ越したらどうだ、とヌマタに提案した。ヌマタがホテル暮らしという話を聞いたからだ。
ヌマタは二つ返事で承知し、引越しのため一旦部屋を後にした。
ヌマタが出て行ったのを見計らって、エリックがウォーリーに忠告する。
「元OP社の社員とか言ってますけど、信用しちゃって大丈夫なんですか?」
「モトムラ君、彼は私と一緒に仕事をしていたんだ。能力も信念も保証するよ」
ウォーリーより先にアカシが答えた。アカシがヌマタのことを相当買っているのがエリックにも理解できる。
「そうだぞ、エリック。彼の目を見てみろ。熱意の程がわかる。ああいう人間に悪い奴はいないさ」
ウォーリーの言葉にエリックは引き下がるしかなかった。
こういった部分が「押しが弱い」と指摘されるところなのだが、もって生まれた性格はなかなか変えられないものだ。
(いい奴が来てくれたものだな……)
一方、ウォーリーは直感的にヌマタという人物の優秀さを感じ取っていた。
自分にとって好ましいキャラクターの人間だからかもしれないが、何かをやってのける気迫のようなものが感じられた。
気迫や闘志があまり表に出ないエリックと組ませてみたら面白い。
アカシから聞いたところによれば、ヌマタはエリックの一つ年下だ。
エリックに年下の者の面倒を見させることによって、リーダーとしての何かが目覚めるかもしれないな、と考えたのだ。
また、ヌマタにとってもエリックのような者と組むのはプラスになるとウォーリーは考えている。アカシからヌマタが管理畑の出身であることを聞いていたからだ。
エリックは一流どころの技術者である。ヌマタとは専門が異なる。
エンジニアの集まりである「タブーなきエンジニア集団」の中で最高の技術者と接する機会があるのはそれだけで貴重なはずだ。
ウォーリーを訪ねたその日のうちに、ヌマタは泊まっていた宿からウォーリーに示された部屋へと住処を移した。
決して多くない荷物の中には、文庫本程度の大きさの爆発物が数個含まれていたが、ウォーリー達がそれを知ることはなかった。
ヌマタも直感的にウォーリーの器を感じとっていた。
その場で「タブーなきエンジニア集団」への参加を即決したのも、そのためである。
だが、爆発物を使ってハドリを暗殺するという考えを捨てた訳ではなかった。
インデスト郊外で宿泊した施設にはハドリが利用することを見込んで遠隔爆破の仕掛けを組み終えていたし、手荷物にも爆発物を含めている。
ウォーリーとの短い会話の中で、彼はウォーリーがこうした手段を望まないであろうことも感じとっていた。
卑怯な手段を使いたくないのはヌマタとて同じだが、彼の場合ハドリに弟を殺されているという事情がある。テロリズムによる解決は、彼にとっても非常手段だ。
理性では理解できていても、感情ではどうしても納得できない。
彼は機会があればハドリを暗殺することを決意していたし、その決意を変えるつもりもなかった。そのときが訪れれば黙って「タブーなきエンジニア集団」を離れるつもりだ。
ウォーリー・トワに卑劣な手段は似合わない。短い会話だけでもそのことは十分に理解できた。
ウォーリーが望んでいるのは、ハドリが市民を監視する活動を停止することだ。
ヌマタもその意見には賛成である。
この部分は理性で対処できるが、ハドリが弟の敵である、ということが理性だけの対処を難しくしている。感情の範疇に入る部分である。
ハドリが改心して自分の非を認めることがあれば、ヌマタも感情による対処を止められるかもしれない。しかし、活動を停止しても自分の非を認めることが無ければ……
感情による処理が実施されるだけだ。この処理には「タブーなきエンジニア集団」を巻き込まないこと、これがヌマタの出した結論だった。
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