266 / 436
第六章
259:ウォーリー、調子を取り戻す
しおりを挟む
「よくもまあ、こんなに集めたものだな……」
ウォーリーが端末を操作する手を止めた。
端末に登録されている情報は膨大であり、その収集には非常な手間がかかったことが予想される。エリックの苦労が窺い知れる。
OP社の情報はハドリの性格もあり厳重に保管されているものも多かったが、エリックは巧妙に侵入しその多くを引き出していた。
エリックは本質的にはこういった侵入よりもシステムを作り上げるほうを得意としているエンジニアだとウォーリーは思うが、よくやっている。
ウォーリー自身は「タブーなきエンジニア集団」の活動を終えたら、次なるステップへ進もうと考えている。
放浪するエンジニアの集団を率いて、サブマリン島の各地を訪れた。
特に彼の興味を引いたのは各地の食事なのだが、一エンジニアとして食事を楽しみに各地をしばらく放浪してみるか、という気になった。
現在も放浪していることには変わりないが、率いている集団が大きすぎる。
また、市民運動をしている関係もあって、それぞれの土地で一エンジニアとして仕事をすることが十分にできる環境にない。
ウォーリーが目指すのは、一エンジニアとして各地を放浪し、顧客一人一人が満足する様をその目で見ることであった。
OP社の余計な活動が終われば、ウォーリーとしても自分の好きなように各地を回ることができるであろう。数年この活動を続けてみて、また他にやりたいことが見つかれば、それをやってみればいいのだ。
次の活動へ移るためにも、ウォーリーはハドリの活動を止めなければならない。
やはり将来のことを考えずにはいられないようだ。
(それにしても、あの男は理解できんな……そこまで他人を疑ってどうするんだ?)
ウォーリーは端末に記録されたハドリの活動記録を見ながら首を傾げた。
彼には、人は信頼されてはじめて動くものだという信念がある。
その信念からすれば、ハドリの行動はまるで正反対である。
他社のこととはいえ、従業員の一挙手一投足まで監視して何になるというのだろうか?
それどころかハドリは、「治安改革活動」と称して一般市民の監視まで始めた。
薬物中毒者や犯罪性のある事件を取り締まりたい気持はわからないでもないが、その権利は市民一人一人に帰すべきであって、一私企業が独占するものではないはずだ。
自身のやり方に反対する者を叩き潰すやり方に関しては、論外である。
それが市民に選ばれたトップならともかく、一私企業の社長が実施しているところはウォーリーの理解を超えているのだ。
ウォーリーはそうした正義に反する行動に正当な罰を与えるべきだと考えている。
少なくとも彼の行ってきた行動は多くの市民の支持を得てきているのだ。
暴力に頼るつもりはないが、相手が暴力に訴えるのなら当然同じ方法でやり返さなければならない。目には目を、歯には歯を、だとウォーリーは考えているからだ。
いきなり有無を言わさず殺されるほどのことはしていないと思うが、OP社、いやハドリからはそれなりの報復はあるだろう。
しかし、OP社の報復に屈していては、事態は好転しない。
「市民の怒りも知っておいた方がいいぜ、ハドリよ」
ウォーリーとしてはこの市民の怒りを伝えたかったのだ。
胸襟を開いて話をすれば大抵の相手は話が通じると思うのだが、ハドリ相手ではウォーリーも確信が持てない。話して駄目ならとことん殴り合ってみるのも手だ。
巻き込まれる者はたまったものではないだろうが、そうまでしないとわからない人間もいるのだろうと、過去の経験からウォーリーは理解している。
正直なところ、ウォーリーはこうした騒ぎが嫌いではない。
戦うための小細工 (と本人は思っていないが)を考えるのは、彼の楽しみの一つである。
エリックなどから言わせれば、戦いの小細工を考えているときのウォーリーは、美味そうな飲み屋を探しているときと同じ表情をしているのだ。
(さて、ハドリが出てきたらどう料理してやろうかな……)
戦力的には圧倒的に不利なのだが、それならそれなりに何か企んでやろうとかえって意欲が湧くのが彼らしいところだ。
OP社のグループ会社の労働者組合と手を組んだのもそうした考えあってのことである。
(物言わぬ従順なはずの部下が敵と組んだらどう考えるかな?)
ウォーリーにはハドリの出方を楽しんでいる節がある。
OP社治安改革センターから敢えて職員を追放するに留めたのも、ハドリの出方を見たかったという欲があったからかもしれない。
「タブーなきエンジニア集団」として真面目にやるべきところは真面目にやらなければならない。
言い換えればそれさえやっていればどこで遊ぼうと構わない、というのがウォーリーのモットーだ。
「OP社による市民の監視」は止めさせなければならないが、その目的に合っていれば、その手段に多少の楽しみを求めることを気にするタマではないのだ。
ウォーリーは自身をそこまで狭量ではないと思っている。
エリックが作業に出て行ってから、相当の時間が経っている。ウォーリー自身の調子も少し戻ったようだ。
そろそろエリックの作業を確認しに行くか、と考え、ウォーリーは部屋を後にした。
ウォーリーが端末を操作する手を止めた。
端末に登録されている情報は膨大であり、その収集には非常な手間がかかったことが予想される。エリックの苦労が窺い知れる。
OP社の情報はハドリの性格もあり厳重に保管されているものも多かったが、エリックは巧妙に侵入しその多くを引き出していた。
エリックは本質的にはこういった侵入よりもシステムを作り上げるほうを得意としているエンジニアだとウォーリーは思うが、よくやっている。
ウォーリー自身は「タブーなきエンジニア集団」の活動を終えたら、次なるステップへ進もうと考えている。
放浪するエンジニアの集団を率いて、サブマリン島の各地を訪れた。
特に彼の興味を引いたのは各地の食事なのだが、一エンジニアとして食事を楽しみに各地をしばらく放浪してみるか、という気になった。
現在も放浪していることには変わりないが、率いている集団が大きすぎる。
また、市民運動をしている関係もあって、それぞれの土地で一エンジニアとして仕事をすることが十分にできる環境にない。
ウォーリーが目指すのは、一エンジニアとして各地を放浪し、顧客一人一人が満足する様をその目で見ることであった。
OP社の余計な活動が終われば、ウォーリーとしても自分の好きなように各地を回ることができるであろう。数年この活動を続けてみて、また他にやりたいことが見つかれば、それをやってみればいいのだ。
次の活動へ移るためにも、ウォーリーはハドリの活動を止めなければならない。
やはり将来のことを考えずにはいられないようだ。
(それにしても、あの男は理解できんな……そこまで他人を疑ってどうするんだ?)
ウォーリーは端末に記録されたハドリの活動記録を見ながら首を傾げた。
彼には、人は信頼されてはじめて動くものだという信念がある。
その信念からすれば、ハドリの行動はまるで正反対である。
他社のこととはいえ、従業員の一挙手一投足まで監視して何になるというのだろうか?
それどころかハドリは、「治安改革活動」と称して一般市民の監視まで始めた。
薬物中毒者や犯罪性のある事件を取り締まりたい気持はわからないでもないが、その権利は市民一人一人に帰すべきであって、一私企業が独占するものではないはずだ。
自身のやり方に反対する者を叩き潰すやり方に関しては、論外である。
それが市民に選ばれたトップならともかく、一私企業の社長が実施しているところはウォーリーの理解を超えているのだ。
ウォーリーはそうした正義に反する行動に正当な罰を与えるべきだと考えている。
少なくとも彼の行ってきた行動は多くの市民の支持を得てきているのだ。
暴力に頼るつもりはないが、相手が暴力に訴えるのなら当然同じ方法でやり返さなければならない。目には目を、歯には歯を、だとウォーリーは考えているからだ。
いきなり有無を言わさず殺されるほどのことはしていないと思うが、OP社、いやハドリからはそれなりの報復はあるだろう。
しかし、OP社の報復に屈していては、事態は好転しない。
「市民の怒りも知っておいた方がいいぜ、ハドリよ」
ウォーリーとしてはこの市民の怒りを伝えたかったのだ。
胸襟を開いて話をすれば大抵の相手は話が通じると思うのだが、ハドリ相手ではウォーリーも確信が持てない。話して駄目ならとことん殴り合ってみるのも手だ。
巻き込まれる者はたまったものではないだろうが、そうまでしないとわからない人間もいるのだろうと、過去の経験からウォーリーは理解している。
正直なところ、ウォーリーはこうした騒ぎが嫌いではない。
戦うための小細工 (と本人は思っていないが)を考えるのは、彼の楽しみの一つである。
エリックなどから言わせれば、戦いの小細工を考えているときのウォーリーは、美味そうな飲み屋を探しているときと同じ表情をしているのだ。
(さて、ハドリが出てきたらどう料理してやろうかな……)
戦力的には圧倒的に不利なのだが、それならそれなりに何か企んでやろうとかえって意欲が湧くのが彼らしいところだ。
OP社のグループ会社の労働者組合と手を組んだのもそうした考えあってのことである。
(物言わぬ従順なはずの部下が敵と組んだらどう考えるかな?)
ウォーリーにはハドリの出方を楽しんでいる節がある。
OP社治安改革センターから敢えて職員を追放するに留めたのも、ハドリの出方を見たかったという欲があったからかもしれない。
「タブーなきエンジニア集団」として真面目にやるべきところは真面目にやらなければならない。
言い換えればそれさえやっていればどこで遊ぼうと構わない、というのがウォーリーのモットーだ。
「OP社による市民の監視」は止めさせなければならないが、その目的に合っていれば、その手段に多少の楽しみを求めることを気にするタマではないのだ。
ウォーリーは自身をそこまで狭量ではないと思っている。
エリックが作業に出て行ってから、相当の時間が経っている。ウォーリー自身の調子も少し戻ったようだ。
そろそろエリックの作業を確認しに行くか、と考え、ウォーリーは部屋を後にした。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
ワイルド・ソルジャー
アサシン工房
SF
時は199X年。世界各地で戦争が行われ、終戦を迎えようとしていた。
世界は荒廃し、辺りは無法者で溢れかえっていた。
主人公のマティアス・マッカーサーは、かつては裕福な家庭で育ったが、戦争に巻き込まれて両親と弟を失い、その後傭兵となって生きてきた。
旅の途中、人間離れした強さを持つ大柄な軍人ハンニバル・クルーガーにスカウトされ、マティアスは軍人として活動することになる。
ハンニバルと共に任務をこなしていくうちに、冷徹で利己主義だったマティアスは利害を超えた友情を覚えていく。
世紀末の荒廃したアメリカを舞台にしたバトルファンタジー。
他の小説サイトにも投稿しています。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり
柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日――
東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。
中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。
彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。
無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。
政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。
「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。
Another World〜自衛隊 まだ見ぬ世界へ〜
華厳 秋
ファンタジー
───2025年1月1日
この日、日本国は大きな歴史の転換点を迎えた。
札幌、渋谷、博多の3箇所に突如として『異界への門』──アナザーゲート──が出現した。
渋谷に現れた『門』から、異界の軍勢が押し寄せ、無抵抗の民間人を虐殺。緊急出動した自衛隊が到着した頃には、敵軍の姿はもうなく、スクランブル交差点は無惨に殺された民間人の亡骸と血で赤く染まっていた。
この緊急事態に、日本政府は『門』内部を調査するべく自衛隊を『異界』──アナザーワールド──へと派遣する事となった。
一方地球では、日本の急激な軍備拡大や『異界』内部の資源を巡って、極東での緊張感は日に日に増して行く。
そして、自衛隊は国や国民の安全のため『門』内外問わず奮闘するのであった。
この作品は、小説家になろう様カクヨム様にも投稿しています。
この作品はフィクションです。
実在する国、団体、人物とは関係ありません。ご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる