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第六章
256:折り返し点
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「……端末と記録ディスクの情報はこれですべてです。質問などはありませんか?」
ユニヴァースが三台の情報端末とセスが持っていた記録ディスクを示して確認する。
セスが大丈夫です、と答えると珍しくユニヴァースが満足そうにうなずいた。
いつも気難しそうな顔をしている彼にこんな顔ができるのかと三人が驚いたくらいだ。
記録ディスクと三台すべての情報端末の解析と閲覧が終わったことで、ここでの三人の任務は終了した。
あとは情報端末をハモネスにあるECN社本社に持ち帰るだけだ。
セス達はユニヴァースに礼を言い出立の準備を始めた。明朝が出発と決まったのだ。
セスの薬の残量が約三週間分であったから、帰りを急がなければならない。
セスはロビーが準備を進めていくのを黙って見つめていた。
急に出立が決まったことで、何かあるのではないかと勘繰りだしたのだ。
オイゲンが迎えをよこしたというのがセスには気にかかった。
ロビーはオイゲンが気を利かせたのだろうと主張しているのだが、セスには複数の理由があるように思われたからだ。
セス自身もオイゲンが気を利かせた可能性は指摘したが、それ以外の可能性はいくらでも思いつく。
派遣した者に何かメッセージを託したのであるなら、どうだろうか?
表沙汰にできない何かがあるのかもしれない。その場合、危険に巻き込まれないようにこちらの意図を相手に掴ませないようにする必要がある。
気を利かせた、という点にも複数の可能性が考えられる。
セスから見るにオイゲンは妙なところで小細工をする人物だ。
秘書の対人恐怖症を治療するためにわざわざアルバイトの人間と接触させるような環境を作ることもしたし、レイカ・メルツとモリタが二人きりになるようにセス達を引き連れて喫茶店に入り込んだこともある。
ただし、こうした小細工の類であれば特に警戒する必要も無いだろうとセスは考えている。
大企業の社長がこうした小細工にうつつを抜かしていいのかと問われれば、セスですら他のことを考えたほうがよいと答えるだろうが。
ここまで考えて、セスはこれ以上オイゲンの意図を想像するのを諦めた。ハモネスに行ってオイゲン自身に確認すれば済むことだと気付いたからであった。
とにかく出発は明朝に決まった。まずはハモネスのECN社本社に戻ることが先決だ。情報端末を持ち帰るまでが三人の任務だからだ。
ハモネスに戻った後のことは今のところ決まっていない。オイゲンからも話を聞かされていないのだ。
セスの希望を受け入れてインデストに移動する場合でもハモネスを通過する必要がある。このため、ハモネスに移動することに対してはセスにも異論は無い。
薬のこともあるし、インデストは「はじまりの丘」へ移動するのと比較して倍近い距離があるので、それ相応の準備も必要である。
今はできるだけ早くハモネスに到達したい、というのがセスの正直な気持ちである。
ハモネスに到着しなければ次のアクションを起こす準備ができないからだ。
出立の準備は主にロビーが整えている。セスもオイゲンの意図を推測するのを諦めてからは準備を進めているが、モリタは時々姿を見せるだけだ。
「モリタめ……逃げやがったな。俺の準備が出来たらとっちめてやりたいところだが……セスの準備はどうだ?」
ロビーがセスの準備の様子を見て声をかけてきた。
「まあ、モリタだから仕方ないよね。僕の方は車椅子が気になるな。しばらく外を走っていなかったからね」
「そうか。俺の準備はそろそろ終わりだから、終わったら外で車椅子を動かしてみるぞ」
「助かるよ」
セスはロビーの言葉に甘えて、車椅子の準備を手伝ってもらうことにした。
「どうだ? 俺が見る限りスムーズに動いていると思うが」
ロビーがセスの車椅子を押して、スロープ状の坂を上っている。
「……大丈夫だね。あとは足元が悪くならないといいなぁ」
セスは車椅子の動きを確かめながらうなずいた。モリタの姿はない。
二人は車椅子の動作確認を兼ねて、ユニヴァース宅の近くにある「はじまりの丘」を訪れた。
坂を上り切った後、二人はセスの父が設置した石板の前に向かった。
(これが兄へ向かう折り返し点だ。歴史を知り、人を知ったことでようやく兄への正しい道がわかったような気がする……
何かを探すとき、それを取り巻く人や事実を知ることが、見つけるための一番の近道になるのだろう。だから僕は歴史を調べた。答えは歴史の中にあったのだから、僕の考えは間違っていなかった。
これからは、間違っていないことを確認する段階だ。ウォーリー・トワさんが僕の兄であることがわかれば、僕の探索の旅はそこで終わる。それからは……)
セスが石板の前で目を閉じて彼を待ち受ける未来へと思いを馳せた。
彼の目指すものの在り処はわかった。今度はそこに到達することが彼のやるべきことだ。
翌朝、朝食をとった後にセス達三人はユニヴァースに別れを告げ、ハモネスへと旅立った。
セスは興奮のあまり一睡もできなかったが、不思議と疲れは感じない。
LH五一年二月ニ四日、セスの探索行はついに折り返し点を過ぎたのだ。
ユニヴァースが三台の情報端末とセスが持っていた記録ディスクを示して確認する。
セスが大丈夫です、と答えると珍しくユニヴァースが満足そうにうなずいた。
いつも気難しそうな顔をしている彼にこんな顔ができるのかと三人が驚いたくらいだ。
記録ディスクと三台すべての情報端末の解析と閲覧が終わったことで、ここでの三人の任務は終了した。
あとは情報端末をハモネスにあるECN社本社に持ち帰るだけだ。
セス達はユニヴァースに礼を言い出立の準備を始めた。明朝が出発と決まったのだ。
セスの薬の残量が約三週間分であったから、帰りを急がなければならない。
セスはロビーが準備を進めていくのを黙って見つめていた。
急に出立が決まったことで、何かあるのではないかと勘繰りだしたのだ。
オイゲンが迎えをよこしたというのがセスには気にかかった。
ロビーはオイゲンが気を利かせたのだろうと主張しているのだが、セスには複数の理由があるように思われたからだ。
セス自身もオイゲンが気を利かせた可能性は指摘したが、それ以外の可能性はいくらでも思いつく。
派遣した者に何かメッセージを託したのであるなら、どうだろうか?
表沙汰にできない何かがあるのかもしれない。その場合、危険に巻き込まれないようにこちらの意図を相手に掴ませないようにする必要がある。
気を利かせた、という点にも複数の可能性が考えられる。
セスから見るにオイゲンは妙なところで小細工をする人物だ。
秘書の対人恐怖症を治療するためにわざわざアルバイトの人間と接触させるような環境を作ることもしたし、レイカ・メルツとモリタが二人きりになるようにセス達を引き連れて喫茶店に入り込んだこともある。
ただし、こうした小細工の類であれば特に警戒する必要も無いだろうとセスは考えている。
大企業の社長がこうした小細工にうつつを抜かしていいのかと問われれば、セスですら他のことを考えたほうがよいと答えるだろうが。
ここまで考えて、セスはこれ以上オイゲンの意図を想像するのを諦めた。ハモネスに行ってオイゲン自身に確認すれば済むことだと気付いたからであった。
とにかく出発は明朝に決まった。まずはハモネスのECN社本社に戻ることが先決だ。情報端末を持ち帰るまでが三人の任務だからだ。
ハモネスに戻った後のことは今のところ決まっていない。オイゲンからも話を聞かされていないのだ。
セスの希望を受け入れてインデストに移動する場合でもハモネスを通過する必要がある。このため、ハモネスに移動することに対してはセスにも異論は無い。
薬のこともあるし、インデストは「はじまりの丘」へ移動するのと比較して倍近い距離があるので、それ相応の準備も必要である。
今はできるだけ早くハモネスに到達したい、というのがセスの正直な気持ちである。
ハモネスに到着しなければ次のアクションを起こす準備ができないからだ。
出立の準備は主にロビーが整えている。セスもオイゲンの意図を推測するのを諦めてからは準備を進めているが、モリタは時々姿を見せるだけだ。
「モリタめ……逃げやがったな。俺の準備が出来たらとっちめてやりたいところだが……セスの準備はどうだ?」
ロビーがセスの準備の様子を見て声をかけてきた。
「まあ、モリタだから仕方ないよね。僕の方は車椅子が気になるな。しばらく外を走っていなかったからね」
「そうか。俺の準備はそろそろ終わりだから、終わったら外で車椅子を動かしてみるぞ」
「助かるよ」
セスはロビーの言葉に甘えて、車椅子の準備を手伝ってもらうことにした。
「どうだ? 俺が見る限りスムーズに動いていると思うが」
ロビーがセスの車椅子を押して、スロープ状の坂を上っている。
「……大丈夫だね。あとは足元が悪くならないといいなぁ」
セスは車椅子の動きを確かめながらうなずいた。モリタの姿はない。
二人は車椅子の動作確認を兼ねて、ユニヴァース宅の近くにある「はじまりの丘」を訪れた。
坂を上り切った後、二人はセスの父が設置した石板の前に向かった。
(これが兄へ向かう折り返し点だ。歴史を知り、人を知ったことでようやく兄への正しい道がわかったような気がする……
何かを探すとき、それを取り巻く人や事実を知ることが、見つけるための一番の近道になるのだろう。だから僕は歴史を調べた。答えは歴史の中にあったのだから、僕の考えは間違っていなかった。
これからは、間違っていないことを確認する段階だ。ウォーリー・トワさんが僕の兄であることがわかれば、僕の探索の旅はそこで終わる。それからは……)
セスが石板の前で目を閉じて彼を待ち受ける未来へと思いを馳せた。
彼の目指すものの在り処はわかった。今度はそこに到達することが彼のやるべきことだ。
翌朝、朝食をとった後にセス達三人はユニヴァースに別れを告げ、ハモネスへと旅立った。
セスは興奮のあまり一睡もできなかったが、不思議と疲れは感じない。
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