ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

文字の大きさ
上 下
261 / 436
第六章

254:ユニヴァースが得たもの その1

しおりを挟む
 突然セスの口から発されたインデストへ行こうという言葉にモリタが首を横に振った。

「ECN社は『タブーなきエンジニア集団』の活動に反対しているんだよ。バイトとは言え、社の方針に反する行動を取るのはまずいよ」
「そうだな……さすがにECN社に迷惑がかかるな、それは……」
 モリタの意見にロビーも賛成した。
 少なくとも、ECN社に対して義理を欠く行為は避けるべきだ、ということである。

 二人の答えにセスが露骨に落胆した様子を見せる。
「わかったよ……でも、ウォーリー・トワさんが自分の兄かどうかの事実は確認したいんだ……
 父親らしき人の年齢も一致しているようだし、記録ディスクの作成者がウォーリー・トワさんの母親らしい人だ。ならばその人は僕の母にもなるだろうから。
 この地の歴史を知ることで、それぞれの事件や人々が繋がって、ようやく僕の兄らしい人にたどり着いた。今は最後の確認だけが残されている段階で、それが終わってはじめて僕の中で一つの流れになるんだ。でも、どうしたらいいかな?」

 セスの言葉にロビーは首を捻って考え込んだ。セスの言葉がやや支離滅裂気味だったからかもしれない。
 ロビーとしてはセスの主張も理解できる。
 本心としては、何とかしてやりたい。セスに残された時間は決して多くないのだ。

 一方でECN社、特にオイゲンの立場が悪くなることも考えなければならない。
 ECN社は必ずしもあてになる協力者ではなかったが、社の協力がなければ現在の状況に到達することはできなかった。
 また、インデストへ行くことの危険も考慮しなければならない。
 セスの病状は小康状態にあるが、必要な情報が得られた今、一旦メディットへ足を運び、チェックを受ける必要がある。このチェックなしに、遠方のインデストへ行くのは危険が大きすぎる。

 現在のインデストの情勢も悪い。「タブーなきエンジニア集団」とOP社グループ労働者組合が手を組んでいる一方で、OP社本社がこの動きに対抗姿勢を見せている。
 フジミ・タウンの賊は始末されたが、事後処理のため多くのOP社治安改革部隊が残されているのも懸念材料だ。
 どう考えても一般市民がインデストに移動するのは危険が大きすぎる。セスはその上身体的にも不安がある。

「必要な情報が集まったら、一度メディットへ行ったらどうだ? そこで医者に話を聞いてからでも遅くないだろう。薬もそろそろ手持ちが無くなるんだからな」
 ロビーの結論にセスはうなずいたが、モリタの顔色を窺っている。
 モリタも一旦メディットへ行くのには賛成のようだ。
「社長さんにも確認してみるよ」
 セスはオイゲンから指定された専用回線を使って連絡を取った。

「……迎えをよこすから連絡をとりながら本社に戻ってきてくれ、だってさ。
 道が悪いだろうからって気を遣ってくれたんだろうな。人が増え過ぎてもかえって邪魔になると思うんだけどね。何か他の意図があるかもしれない。それを察してこっちも行動を起こした方がいいかな。OP社が治安改革活動をやるようになってから、別の意味で物騒になったから……できる人たちの考えは理解を超えているよ」
 セスが饒舌にオイゲンの答えを説明した。彼が饒舌なのは、半分くらいの確率で精神状態が良くないときだ。今回はこれに該当するだろう。

 ロビーとモリタは顔を見合わせながらもECN社の本社に戻ることを承知した。二人とも本社に戻ることを基本路線としていたから、オイゲンからの答えに異論があるはずもなかった。

 セス達のやり取りを聞いていたユニヴァースは情報端末に登録されている情報を自分のコンピュータにコピーした。
 この仕事を請ける際に、予めオイゲンから必要に応じて情報のコピーをとることの許可は得ていたので、問題のない行為である。

 ユニヴァースはかつてポータル・シティ海岸エリアの自治組織で書記官をしていたことがある。
 その間にこの地で発生した事柄を記録していたが、どうしても情報の集まらないものがあった。それが「フジミの大虐殺」に関する情報である。
 彼は知的好奇心からそれらの情報を求めたのだが、そうやすやすと手に入るものではなかった。
 主だった関係者が事件直後に亡くなっていることも影響している。また、陰謀にあたるものの常として、情報は狭い範囲に集中しており、それらのほとんどが隠蔽されていることもユニヴァースが情報を得られない原因となっていた。
 ユニヴァースはこうした未知の情報を得るため、人里離れた場所に住み込んだ。

 「はじまりの丘」を選んだのには訳がある。
 都市部は集合住宅が多く、人間関係が何かと煩わしい。
 ユニヴァースとしては人間関係に煩わされるのが鬱陶しかったから、できるだけ人と関わりを持たない場所に住みたかった。
 また、彼の知的好奇心は「フジミの大虐殺」に関する情報にとどまらず、「ルナ・ヘヴンス」の不時着の背景などエクザロームで発生したすべての事実であった。
 その情報源である「ルナ・ヘヴンス」の不時着地点の近くに住むのは、合理性があるのだ。
 この地は他に住む者もなく、他人に煩わされることも少ない。
 土地も比較的広く使えるので、農作物を育てれば自給自足の生活も可能なのだ。
 どうしても金が必要なときは、「ルナ・ヘヴンス」の残骸を集め、部品業者やリサイクル業者に売って金を作った。
 「はじまりの丘」はユニヴァースにとって、自らの活動を行うのに最適の場所だったのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...