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第六章

252:血のつながり

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 セスがECN社社長のオイゲン・イナと通信をつなぐため、自身の携帯端末を操作している。
 会議や来客がない限りオイゲンは律儀に通信に出るので、セスとしては相手にしてもらいやすい。

 セスの読み通りオイゲンは通信の接続依頼に応じてくれた。
 開口一番、セスがオイゲンに質問をストレートにぶつける。
「社長さんですか? 唐突に質問しますけど、モトム・トワ、フローレンス・トワという海洋調査の関係者をご存じないでしょうか?」
 質問に対しオイゲンは、いきなりだね、と言いながらも知らないと答える。
 セスも引くことなく次の質問をぶつける。
「ECN社のもと従業員で今『タブーなきエンジニア集団』の代表をやっている人と同じ姓ですけど関係ないでしょうか?」
 今度は少し間があってから回答があった。
 オイゲンの回答によると、ウォーリー・トワに関する情報は退職時に廃棄しており、社内には残されていないということだった。
 セスはまだ引き下がろうとしなかったが、オイゲンがこれ以上時間を取れないということで通信を切った。セスは明らかに不満顔だ。

「社長さんも肝心なときに使えないなぁ……」
「あのさ、セス。OP社、ECN社は『タブーなきエンジニア集団』と敵対しているのだから、社長さんの立場で言いたいことが言えると思う?」
 モリタの言葉にセスは、確認が取れないと不安だよ、と駄々をこねた。
 ロビーにも「誰にも彼にも質問を投げるのは悪い癖だ」と指摘されてセスがしゅんとなる。
 そこにユニヴァースが戸を開けて部屋から出てきた。その手にはセスの持っていた記録ディスクと情報端末がある。記録ディスクと最後の情報端末の解析が終わったのだ。
 ユニヴァースはロビーとモリタを無視して、セスの目の前まで歩み寄る。
 そして、手にした記録ディスクをセスに示した。
「君、このディスクは誰から入手したのですか?」
 ユニヴァースの顔があまりに近くに来たため、セスはのけぞりながら答える。
「それは僕の本当の父と母が……育ての父に託したものです……」
「本当の父と母とは? 育ての父とは?」
「本当の両親の名前は知りません……育ての父は、ユキナリ・クルスといいます。『フジミの大虐殺』で犠牲になったフジミ・タウンの市長です」
 セスの答えにユニヴァースは表情も変えず、すべてが明らかになった、とつぶやいた。その割には淡々とした口調だったのだが。

「ちょっと待った! すべてが明らかになった、ってどういうことなんだ?」
 ロビーがユニヴァースに詰め寄った。
「……ならば、説明しましょう」
 ユニヴァースの答えに、ロビーは拍子抜けしたような表情を見せた。いつものように自室に逃げ込まれるのが落ちだと考えていたのである。

 ユニヴァースの説明が始まった。
 彼の説明は判明した事実だけを淡々と述べているので、途中、セスやロビーが中心になって質問を入れていくような形になった。
 はじめに説明があったのは、セスが持っていた記録ディスクの中味についてだった。
 このディスクにはLH二九年一〇月下旬に出発した海洋調査隊の調査結果が記録されているという。
 この海洋調査隊はポータル・シティ海岸エリアから派遣されたもので、隊長はモトム・トワ、操船指揮の責任者がフローレンス・トワであった。
 ディスクの作成者はフローレンスだという。そうなると彼女がセスの母親ということになる。
 ユニヴァースは情報端末を示しながら、彼女が調査中に行方不明となった背景やその裏で渦巻いていた陰謀についても情報端末に記録されている内容と彼の知りうる事実のみを語った。
 それを聞いたセスがユニヴァースにつかみかからんかの勢いで迫った。
「ちょっと待ってください! それだと僕の兄にあたる人がウォーリーという名前ということになりますけど、それって『タブーなきエンジニア集団』のトップの人ですか?!」
「……恐らくそうです。昨年の三月末に彼は仲間を連れてここに宿泊したことがあります。そのときに、両親の名前がモトム、フローレンスだと言っていました。生年月日から推測しても海洋調査隊の方と同一人物の可能性が高い」
 セスの勢いにたじろぐことなくユニヴァースが答えた。

 OP社社長のエイチ・ハドリと「タブーなきエンジニア集団」の代表、ウォーリー・トワが血縁の者である事はおおよそ予想がついていた。
 しかし、セスがここに関係する、という事実は三人にとって突拍子も無い話だった。
 ある日突然名前の出てきた海洋調査隊の人間に、これだけ多くの人が関係していること自体、受け入れるのには心の準備が必要なのだ。
 それにしても途方も無い話だ、とロビーは思った。
 モリタに至ってはどこまでが本当の話やら、といった表情である。
 この世界を自らの監視下に置こうとしている大企業のトップと、それに対抗して反対運動をしている団体のトップ同士が叔父と甥の関係にある。
 そして二人をつなぐ女性は二人の子をなし、一人は一陣営の代表の母に、もう一人が他陣営の代表となった。二人の子供のうち一人は自身の叔父と関係してできた子である。
 この複雑怪奇な関係を部外者であるロビーやモリタに想像しろ、というのにはかなり無理がある。

 更に二人の友人であるセスにこの両者と血のつながりがあることを、セス自身はつい先ほどまで知らなかったのである。
 セスは自分の親族の周りに張り巡らされた陰謀の複雑さに想像力の限界を感じさせられたような気分となっている。
 (僕もいろいろ考えつくほうだと思うけど、今回のは想像の範囲を超えているよ……
 ハドリ社長とも、ウォーリー・トワさんとも血のつながりがあるなんて……)
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