上 下
256 / 436
第六章

249:ヌマタが思うハドリの価値

しおりを挟む
 ヌマタは目の前の木箱に大量に残る爆発物を前に腕組みをしながら考えている。
(待てよ……
 OP社が、ハドリがインデストを侵攻するとしたら、この宿に泊まる可能性があるな……)
 ヌマタがそう考えるのも不思議ではない。

 インデスト周辺部で大人数が留まることができる場所が他にないからだ。
 この宿泊施設自体の収容人数はおそらく一千人弱であろうが、それでもインデストへ侵攻する者の一部をとどめることは可能だ。
 通信設備も整っていることから、司令部のような使い方もできる。
 ヌマタはハドリがこの施設に宿泊する可能性も考慮して、建物に細工をしようと考えた。
 ハドリを暗殺するのであれば、「タブーなきエンジニア集団」と衝突した後よりも、衝突前の方が犠牲が少ない。
 ひとたびOP社と「タブーなきエンジニア集団」が衝突すれば、双方に犠牲が出るのは間違いないからだ。

 また、ハドリは式典好きである。それも派手で大規模なものを好んだ。
 基本的に吝嗇な男だとヌマタは思っているが、式典の類だけは金に糸目をつけないという点は認めざるを得ない。むしろ今となってはその性質は好都合であるかもしれない。
 「タブーなきエンジニア集団」との衝突に先立って、何らかの式典を行う可能性は十分考えられるからだ。
 インデストで大人数を収容して式典を行う会場となると、この「オーシャンリゾート」こそが最有力候補になる。
 インデスト市街にも会場の候補はあるが、規模の面では「オーシャンリゾート」に遠く及ばない。
 ハドリは負けず嫌いでもあるから、会場を選ぶならインデストで一番大きなものを選ぶはずだ。それならば「オーシャンリゾート」以外に式典の会場はあり得ない。
 しかし、この方法には問題があることもヌマタは理解している。
 ハドリ以外のOP社の関係者や、無関係の他の利用者などを巻き込む可能性があるからだ。
 テロリストを始末するために、自社の社員ごとビルを吹き飛ばしたハドリと同じことをすることになる。

 (……いや、それでいい。奴を始末するのはより矮小で卑劣な者の方が望ましい。取るに足らない存在に足元を掬われてこそ、奴が始末されたことの価値がある。奴の価値はそんなものだ)
 ヌマタは何度となくうなずいてから決意した。
 他人を巻き込むのは気が進まないが、式典に乗じてハドリを爆殺するという手は有効だとヌマタは考えたのだった。

 彼は倉庫の中を更に調べることにした。
 学生時代に出入りしていたときから、不思議に思うことがあるからだ。
 爆発物を保管している場所にもかかわらず、炎を燃やすバーナーがいくつも置かれている。
 そして、バーナーからは電気のコードのようなものが延びていた。
「どういう管理なんだか……
 バーナーの火は木箱には届かないだろうが……
 まあ、こっちにとって好都合だから構わないか」
 ヌマタは一人で愚痴を言いながら、バーナーのコードを調べていく。
 確かに杜撰すぎる管理である。
 一般人が多く滞在する宿泊施設の地下に、施錠管理しているとはいえ大量の爆発物を保管するなど通常はあり得ない。
 しかも、その鍵ですらヌマタ程度の素人が簡単に開錠できてしまう代物であった。
 更に近くに火を発する道具まである。
 どうぞ爆発させてくださいと言わんばかりだった。
 爆破直前のビルならともかく、「オーシャンリゾート」は現在進行形で営業している宿泊施設なのだ。
 一体何を考えているだろうかとヌマタでなくても疑いを持つであろう。
 「オーシャンリゾート」側にも爆発物を撤去できない事情があるのだが、ヌマタがそれを知るはずもなかった。

 バーナーのコードは部屋の外に延びているようだ。
 入ってきたのと反対側の廊下側にコードが延びていたので、コードの行方を探ってみる。
 すると、階段の手前にスイッチボックスが見つかった。
 倉庫に戻ってバーナーを安全な方向に向けてから、試しにスイッチを入れてみる。
 スイッチもバーナーも生きているようで、バーナーからは炎が吹き出された。
 予想よりも炎が大きかったため、慌ててスイッチを切る。

 (生きているのか……不用心だが……これは使える!)
 ヌマタは急いで宿泊している客室に戻って必要な部品の検討を始めた。
 彼は倉庫の爆発物とバーナーを用いて、イベントホール棟をそのまま爆破装置にしようと考えたのだ。
 ハドリがイベントホールに滞在しているときに、遠隔操作で爆発を起こすことができれば、確実に彼を葬り去ることもできる。

 (明日は市街地へ行って遠隔操作用の部品を購入しよう)
 ヌマタは鞄の中に入った爆発物に目をやりながらそう考えた。
 OP社、いやハドリのインデスト侵攻時期はいつごろになるだろうか?
 フジミ・タウンの後処理に時間がかかっているため、すぐに侵攻とはならないだろうが、遠からぬ未来にそれはやってくるはずである。
 ハドリは一度宣言したことは必ずやり遂げる男だ、というのは彼に殺意を持つヌマタでもそう思う。

 (ハドリよ……貴様の天下もあとわずかだ。せいぜい覚悟しておくのだな……)
 ヌマタが一人、客室でほくそ笑んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ワイルド・ソルジャー

アサシン工房
SF
時は199X年。世界各地で戦争が行われ、終戦を迎えようとしていた。 世界は荒廃し、辺りは無法者で溢れかえっていた。 主人公のマティアス・マッカーサーは、かつては裕福な家庭で育ったが、戦争に巻き込まれて両親と弟を失い、その後傭兵となって生きてきた。 旅の途中、人間離れした強さを持つ大柄な軍人ハンニバル・クルーガーにスカウトされ、マティアスは軍人として活動することになる。 ハンニバルと共に任務をこなしていくうちに、冷徹で利己主義だったマティアスは利害を超えた友情を覚えていく。 世紀末の荒廃したアメリカを舞台にしたバトルファンタジー。 他の小説サイトにも投稿しています。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

Another World〜自衛隊 まだ見ぬ世界へ〜

華厳 秋
ファンタジー
───2025年1月1日  この日、日本国は大きな歴史の転換点を迎えた。  札幌、渋谷、博多の3箇所に突如として『異界への門』──アナザーゲート──が出現した。  渋谷に現れた『門』から、異界の軍勢が押し寄せ、無抵抗の民間人を虐殺。緊急出動した自衛隊が到着した頃には、敵軍の姿はもうなく、スクランブル交差点は無惨に殺された民間人の亡骸と血で赤く染まっていた。  この緊急事態に、日本政府は『門』内部を調査するべく自衛隊を『異界』──アナザーワールド──へと派遣する事となった。  一方地球では、日本の急激な軍備拡大や『異界』内部の資源を巡って、極東での緊張感は日に日に増して行く。  そして、自衛隊は国や国民の安全のため『門』内外問わず奮闘するのであった。 この作品は、小説家になろう様カクヨム様にも投稿しています。 この作品はフィクションです。 実在する国、団体、人物とは関係ありません。ご注意ください。

処理中です...