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第六章
248:テロリストの萌芽
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(エイチ・ハドリは間違いなく、インデストを攻略するだろう……)
インデスト郊外にある宿泊施設の一室に一人の若い男の姿があった。
ジン・ヌマタという名の青年である。
彼はジンからニジョウへと移動し、「タブーなきエンジニア集団」の代表、ウォーリー・トワを求めて七ヶ月ぶりにインデストへ戻ってきたのだ。
途中、「リスク管理研究所」と接触を試みたが、相手が面会を拒否したために仕方なくインデストに直接向かった。
ヌマタがインデストに入ったのはLH五一年二月二一日の夜のことであった。
時間も遅くなっていたためヌマタは市街地へは向かわず、郊外で一泊することにした。
通常、ニジョウからインデストへは健康な大人の男であれば、二週間弱の道のりである。
しかし、途中にあるフジミ・タウンにはOP社の治安改革部隊が駐留していた。
インデストに向かうことが彼らに知られたら無事に切り抜けることは困難であろう。
そこでヌマタはフジミ・タウンを大きく迂回し、湿地帯を抜けるように移動した。
湿地帯では思うように歩を進めることができず、計画より大幅に時間を要してしまったのである。
ヌマタの宿泊している施設「オーシャンリゾート」は、インデストが観光事業に注力している頃に建設されたものだった。
ポータル・シティなどの中心都市群と距離が遠すぎることと、徒歩以外の移動手段がないため、インデストの観光事業者の多くは苦戦を強いられている。
だが、唯一この宿だけはどうにか採算が取れている。
オーシャンビューの景色が楽しめ、特に夕日が美しいこと。
魚介類の養殖場が近いため、新鮮なこれらを楽しめることが人気の理由であった。
ヌマタは最近になってこの宿に目をつけた。
彼は学生時代、長期休暇を利用してこの宿に出入りする清掃業者でアルバイトをしていた。
だから、宿の建物のことはよく知っている。
宿は宿泊室棟とイベントホール棟の二棟からなっており、現在は主に宿泊室棟が利用されている。
曲者なのはイベントホール棟のほうだ。
イベントホール棟には、地下に立入りが禁じられているエリアがある。
ヌマタがアルバイトでこの施設に出入りしているときですら、イベントホール棟は滅多に利用されていなかった。
ヌマタは好奇心から、アルバイト時代に立入禁止エリアに潜入した。
中は多くの木箱が積まれている倉庫だった。
そして、木箱の中身は爆発物であった。
木箱に添付されている資料によれば、鉄鉱石の採掘の際に用いようとしたらしい。この爆発物が撤去されずに残されている理由はよくわからなかったが。
ヌマタは約八年経った現在でも、この爆発物が残されているかを確認したかった。
彼はハドリを暗殺するという当初の考えを捨てていなかったのだ。
この宿泊施設への宿泊を決めてから、イベントホール棟のことを思い出した。
ハドリの暗殺の手段に爆発物は使える、と考えたのも無理はない。
ハドリは猜疑心が強く、OP社の従業員ですら彼に近づくことができる者は少ないという。
ヌマタもOP社の元従業員ではあるが、ハドリを直接見たのは一度だけである。
ポータル・シティの本社で新入社員歓迎式典に出席した際、ハドリの姿を見たことはある。
しかし、その時ですら二人の距離は数十メートルも離れていたのだ。以降、ヌマタがハドリの姿を直接見たことはない。
こうした事情から、ハドリを殺害するには爆殺が有効であると彼は考えていた。
当然、爆発物の入手がネックになる。
一般人が爆発物を入手する正当な理由など、通常は存在しないからだ。
ヌマタは客室を出てイベントホール棟へと向かった。
現在もイベントホール棟は滅多に利用されることがないようで、入口に鍵がかかっている。
試しにアルバイト時代に覚えた暗証番号を入力してみると、鍵が開いた。
無用心にも程がある、とヌマタは思ったが今はこの方が好都合である。
誰も来る気配がないのを確認してから、ヌマタは地下にある立入禁止エリアに向かって歩いていった。
通路を歩いて階段を下りると、地下一階と地下二階の間の踊り場に達した。
ここからが立入禁止エリアである。
立入禁止エリアは鍵のかかった分厚いドアで塞がれている。こちらは暗証番号を入力するタイプではなく、物理的なカギを使用するタイプだ。
彼はハドリ殺害の日に備えて鍵の解除方法をマスターしていたから、開けるのは造作もない。
彼はドアを開けて中に入ると、更に下へと向かって階段を下っていった。
地下二階に到達すると今度は細い廊下をまっすぐ進んでいく。
突き当たりが爆発物を格納している倉庫だ。
倉庫は約一〇メートル四方程度の狭いもので、その中に数十の木箱が残されている。
「昔と変わってないな……」
ヌマタが木箱の中を調べながらつぶやいた。
実のところ今も爆発物が残っているか、ヌマタ自身半信半疑であった。
無くて当然、見つかれば運が良い、程度に考えていた。
しかし、爆発物は今も存在していた。管理はどうなっているのかと怒りを覚えそうになったが、ハドリを殺害するという誘惑には勝てなかった。
彼は一心不乱に木箱の中から持ってきた鞄に入るだけの爆発物を詰め込んだ。
「ふう、こんなところか……」
詰め込みを終えてその場を去ろうとしたが、ふと思い直して倉庫に留まった。
インデスト郊外にある宿泊施設の一室に一人の若い男の姿があった。
ジン・ヌマタという名の青年である。
彼はジンからニジョウへと移動し、「タブーなきエンジニア集団」の代表、ウォーリー・トワを求めて七ヶ月ぶりにインデストへ戻ってきたのだ。
途中、「リスク管理研究所」と接触を試みたが、相手が面会を拒否したために仕方なくインデストに直接向かった。
ヌマタがインデストに入ったのはLH五一年二月二一日の夜のことであった。
時間も遅くなっていたためヌマタは市街地へは向かわず、郊外で一泊することにした。
通常、ニジョウからインデストへは健康な大人の男であれば、二週間弱の道のりである。
しかし、途中にあるフジミ・タウンにはOP社の治安改革部隊が駐留していた。
インデストに向かうことが彼らに知られたら無事に切り抜けることは困難であろう。
そこでヌマタはフジミ・タウンを大きく迂回し、湿地帯を抜けるように移動した。
湿地帯では思うように歩を進めることができず、計画より大幅に時間を要してしまったのである。
ヌマタの宿泊している施設「オーシャンリゾート」は、インデストが観光事業に注力している頃に建設されたものだった。
ポータル・シティなどの中心都市群と距離が遠すぎることと、徒歩以外の移動手段がないため、インデストの観光事業者の多くは苦戦を強いられている。
だが、唯一この宿だけはどうにか採算が取れている。
オーシャンビューの景色が楽しめ、特に夕日が美しいこと。
魚介類の養殖場が近いため、新鮮なこれらを楽しめることが人気の理由であった。
ヌマタは最近になってこの宿に目をつけた。
彼は学生時代、長期休暇を利用してこの宿に出入りする清掃業者でアルバイトをしていた。
だから、宿の建物のことはよく知っている。
宿は宿泊室棟とイベントホール棟の二棟からなっており、現在は主に宿泊室棟が利用されている。
曲者なのはイベントホール棟のほうだ。
イベントホール棟には、地下に立入りが禁じられているエリアがある。
ヌマタがアルバイトでこの施設に出入りしているときですら、イベントホール棟は滅多に利用されていなかった。
ヌマタは好奇心から、アルバイト時代に立入禁止エリアに潜入した。
中は多くの木箱が積まれている倉庫だった。
そして、木箱の中身は爆発物であった。
木箱に添付されている資料によれば、鉄鉱石の採掘の際に用いようとしたらしい。この爆発物が撤去されずに残されている理由はよくわからなかったが。
ヌマタは約八年経った現在でも、この爆発物が残されているかを確認したかった。
彼はハドリを暗殺するという当初の考えを捨てていなかったのだ。
この宿泊施設への宿泊を決めてから、イベントホール棟のことを思い出した。
ハドリの暗殺の手段に爆発物は使える、と考えたのも無理はない。
ハドリは猜疑心が強く、OP社の従業員ですら彼に近づくことができる者は少ないという。
ヌマタもOP社の元従業員ではあるが、ハドリを直接見たのは一度だけである。
ポータル・シティの本社で新入社員歓迎式典に出席した際、ハドリの姿を見たことはある。
しかし、その時ですら二人の距離は数十メートルも離れていたのだ。以降、ヌマタがハドリの姿を直接見たことはない。
こうした事情から、ハドリを殺害するには爆殺が有効であると彼は考えていた。
当然、爆発物の入手がネックになる。
一般人が爆発物を入手する正当な理由など、通常は存在しないからだ。
ヌマタは客室を出てイベントホール棟へと向かった。
現在もイベントホール棟は滅多に利用されることがないようで、入口に鍵がかかっている。
試しにアルバイト時代に覚えた暗証番号を入力してみると、鍵が開いた。
無用心にも程がある、とヌマタは思ったが今はこの方が好都合である。
誰も来る気配がないのを確認してから、ヌマタは地下にある立入禁止エリアに向かって歩いていった。
通路を歩いて階段を下りると、地下一階と地下二階の間の踊り場に達した。
ここからが立入禁止エリアである。
立入禁止エリアは鍵のかかった分厚いドアで塞がれている。こちらは暗証番号を入力するタイプではなく、物理的なカギを使用するタイプだ。
彼はハドリ殺害の日に備えて鍵の解除方法をマスターしていたから、開けるのは造作もない。
彼はドアを開けて中に入ると、更に下へと向かって階段を下っていった。
地下二階に到達すると今度は細い廊下をまっすぐ進んでいく。
突き当たりが爆発物を格納している倉庫だ。
倉庫は約一〇メートル四方程度の狭いもので、その中に数十の木箱が残されている。
「昔と変わってないな……」
ヌマタが木箱の中を調べながらつぶやいた。
実のところ今も爆発物が残っているか、ヌマタ自身半信半疑であった。
無くて当然、見つかれば運が良い、程度に考えていた。
しかし、爆発物は今も存在していた。管理はどうなっているのかと怒りを覚えそうになったが、ハドリを殺害するという誘惑には勝てなかった。
彼は一心不乱に木箱の中から持ってきた鞄に入るだけの爆発物を詰め込んだ。
「ふう、こんなところか……」
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