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第六章
247:オイゲンの願い その3
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オイゲンはこれからの対応について、社長室で一人検討を続けている。
相談すべき幹部達のうち多くは、面倒ごとから逃げるために巧みに理由をつけてオイゲンとの接触を避けている。それだけではなく、OP社とかかわりの深い業務を他のタスクユニットに放り投げている。
一部に彼に味方する幹部もいるが、彼らは本来の業務に手を取られており、オイゲンと話をするだけの余裕がない。
それだけではない。
彼らが本来対応するものではない「放り投げられた業務」の対応にも多くの労力を割かざるを得ない状況だ。
社長室にはオイゲンの秘書メイ・カワナの姿もあるのだが、オイゲンは彼女に相談を持ち掛けていない。メイ自身に関することであるからだ。
(カワナさんの安全が確保できれば……後は僕だけのことで良いのだが……)
秘書であるメイを「タブーなきエンジニア集団」に送り込めれば、残るのはオイゲン自身の問題だけになる。
彼とて自分を頼っている秘書の身を案じてはいるのだ。だからこそ、信頼できる他人に彼女を託そうとしたのである。
無責任との誹りは免れないであろうが、自分には秘書を守るための能力がない、とオイゲンは考えている。
能力がないことを認めているからこそ、非難を素直に受け入れられるのだ。
オイゲンの心は決まった。あとは、メイに行動を起こしてもらうよう彼女を説得する必要がある。
これが意外に難題だった。
基本的には素直で受動的な彼女であるが、意外に頑固な一面もある。
この面を最もよく知るのはオイゲンであろう。というよりも、知っているのが彼一人、という可能性の方が高い。
他の者とはコミュニケーションが殆ど取れないから、頑固な一面を見せることもないのだ。
(さて、どうやって彼女を説得するかだが……)
知恵比べでは絶対に彼女に勝てないように思う。
オイゲンは彼女と話をしているとき、心の奥底を彼女に見透かされているような気分に襲われることがあるのだ。
疑問が湧いた時の彼女は執拗である。オイゲンは身をもって知っている。
彼女の疑問が解消するまで質問は続くだろうが、彼女を満足させられるだけの回答を返すだけの自信はない。
こういうときの彼女は自分が納得するまで絶対に動かないであろうから、厄介な話だ。
感情に訴える手もある。このような方法をオイゲンはあまり得意としていないのであるが、メイは弱い立場にある者への共感能力が高いように思われる。
彼女には可哀想なことをするかもしれないが、この方法が有効かもしれない。
ただし、この方法は彼の好みではない。
力づくで「タブーなきエンジニア集団」に送り込むのは無理だ。社長自ら「タブーなきエンジニア集団」と接したらオイゲン自身の身も危ないし、今までひた隠しに隠してきたメイの存在がOP社に曝されてしまう。ECN社にも迷惑がかかるだろう。
それにこれはオイゲンがもっとも嫌う方法である。
いくらなんでもメイが可哀想だ。
他人から厳しくされること、威圧的に接されることは彼女にとって恐怖でしかないことをオイゲンもうすうす感じている。
折角少しは改善した対人恐怖症が、悪い方向に進展するとしか思えない。
難しいな、と思う。
だからこそ、彼はメイに自分の意図を伝える決断ができずにいた。
(結局、自分の身の安全しか考えていないのだよな……社長の器ではないのだな)
そう考えてオイゲンは自己嫌悪に陥った。
打算でしか動いていない自分が嫌になってくる。
彼がOP社治安改革センターで仕事をしていたとき、ハドリから食事に誘われたことがある。
その席上で、ハドリがオイゲンに対してこのような発言をしたことがある。
「イナ君。人は常に自分のエゴで動く卑怯な存在だ。だからこそ、力ある者が監視の目を光らせる必要がある。力ある者に対して人は従順だからな。そして力を見せるためには勝ち続けなければならない」
ハドリが自らの心中を吐露することは非常に珍しい。だからこそ、オイゲンの耳にも残った。
(当時は半信半疑で聞いていたが……
結局ハドリ社長の言うことが当たっていた、という訳だ。少なくとも僕に関しては……)
このあたりがハドリの社長としてのセンスなのかもしれない、とオイゲンは思った。
人の弱さを知っているのだ。
この点について、メイとハドリに共通点があるように思われる。
ただ、知っていることに対して、どう対処するかの違いがあるだけではないだろうか?
ハドリは人の弱さを利用し、それを徹底的に攻撃し勝利することに長けている。
一方でメイは人の弱さに共感しそれに自分を投影する能力に優れていると思われる。
どちらにせよ自分には及びもつかないな、とオイゲンは思う。
彼らは人間を知っているのだ。
それと比較して自分はいかに卑小な存在であるか。
(まあ、卑小な存在であればそれなりの生き方をするしかないな……)
オイゲンはそう考えながら、部屋の隅にいる自らの秘書にどう意思を伝えるか、算段を始めたのだった。
そうすることで、社が置かれた状況を直視することから逃れたのかもしれなかった。
相談すべき幹部達のうち多くは、面倒ごとから逃げるために巧みに理由をつけてオイゲンとの接触を避けている。それだけではなく、OP社とかかわりの深い業務を他のタスクユニットに放り投げている。
一部に彼に味方する幹部もいるが、彼らは本来の業務に手を取られており、オイゲンと話をするだけの余裕がない。
それだけではない。
彼らが本来対応するものではない「放り投げられた業務」の対応にも多くの労力を割かざるを得ない状況だ。
社長室にはオイゲンの秘書メイ・カワナの姿もあるのだが、オイゲンは彼女に相談を持ち掛けていない。メイ自身に関することであるからだ。
(カワナさんの安全が確保できれば……後は僕だけのことで良いのだが……)
秘書であるメイを「タブーなきエンジニア集団」に送り込めれば、残るのはオイゲン自身の問題だけになる。
彼とて自分を頼っている秘書の身を案じてはいるのだ。だからこそ、信頼できる他人に彼女を託そうとしたのである。
無責任との誹りは免れないであろうが、自分には秘書を守るための能力がない、とオイゲンは考えている。
能力がないことを認めているからこそ、非難を素直に受け入れられるのだ。
オイゲンの心は決まった。あとは、メイに行動を起こしてもらうよう彼女を説得する必要がある。
これが意外に難題だった。
基本的には素直で受動的な彼女であるが、意外に頑固な一面もある。
この面を最もよく知るのはオイゲンであろう。というよりも、知っているのが彼一人、という可能性の方が高い。
他の者とはコミュニケーションが殆ど取れないから、頑固な一面を見せることもないのだ。
(さて、どうやって彼女を説得するかだが……)
知恵比べでは絶対に彼女に勝てないように思う。
オイゲンは彼女と話をしているとき、心の奥底を彼女に見透かされているような気分に襲われることがあるのだ。
疑問が湧いた時の彼女は執拗である。オイゲンは身をもって知っている。
彼女の疑問が解消するまで質問は続くだろうが、彼女を満足させられるだけの回答を返すだけの自信はない。
こういうときの彼女は自分が納得するまで絶対に動かないであろうから、厄介な話だ。
感情に訴える手もある。このような方法をオイゲンはあまり得意としていないのであるが、メイは弱い立場にある者への共感能力が高いように思われる。
彼女には可哀想なことをするかもしれないが、この方法が有効かもしれない。
ただし、この方法は彼の好みではない。
力づくで「タブーなきエンジニア集団」に送り込むのは無理だ。社長自ら「タブーなきエンジニア集団」と接したらオイゲン自身の身も危ないし、今までひた隠しに隠してきたメイの存在がOP社に曝されてしまう。ECN社にも迷惑がかかるだろう。
それにこれはオイゲンがもっとも嫌う方法である。
いくらなんでもメイが可哀想だ。
他人から厳しくされること、威圧的に接されることは彼女にとって恐怖でしかないことをオイゲンもうすうす感じている。
折角少しは改善した対人恐怖症が、悪い方向に進展するとしか思えない。
難しいな、と思う。
だからこそ、彼はメイに自分の意図を伝える決断ができずにいた。
(結局、自分の身の安全しか考えていないのだよな……社長の器ではないのだな)
そう考えてオイゲンは自己嫌悪に陥った。
打算でしか動いていない自分が嫌になってくる。
彼がOP社治安改革センターで仕事をしていたとき、ハドリから食事に誘われたことがある。
その席上で、ハドリがオイゲンに対してこのような発言をしたことがある。
「イナ君。人は常に自分のエゴで動く卑怯な存在だ。だからこそ、力ある者が監視の目を光らせる必要がある。力ある者に対して人は従順だからな。そして力を見せるためには勝ち続けなければならない」
ハドリが自らの心中を吐露することは非常に珍しい。だからこそ、オイゲンの耳にも残った。
(当時は半信半疑で聞いていたが……
結局ハドリ社長の言うことが当たっていた、という訳だ。少なくとも僕に関しては……)
このあたりがハドリの社長としてのセンスなのかもしれない、とオイゲンは思った。
人の弱さを知っているのだ。
この点について、メイとハドリに共通点があるように思われる。
ただ、知っていることに対して、どう対処するかの違いがあるだけではないだろうか?
ハドリは人の弱さを利用し、それを徹底的に攻撃し勝利することに長けている。
一方でメイは人の弱さに共感しそれに自分を投影する能力に優れていると思われる。
どちらにせよ自分には及びもつかないな、とオイゲンは思う。
彼らは人間を知っているのだ。
それと比較して自分はいかに卑小な存在であるか。
(まあ、卑小な存在であればそれなりの生き方をするしかないな……)
オイゲンはそう考えながら、部屋の隅にいる自らの秘書にどう意思を伝えるか、算段を始めたのだった。
そうすることで、社が置かれた状況を直視することから逃れたのかもしれなかった。
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