252 / 436
第六章
245:オイゲンの願い その1
しおりを挟む
セス達が「ルナ・ヘヴンス」がエクザロームに着陸した経緯の記録を閲覧していたのと同じ頃、ECN社内の動きは一段と慌ただしいものとなってきていた。
フジミ・タウンの再建とインフラ整備のため千人単位の技術者が派遣されることになったからだ。エクザローム第二の規模を誇るECN社としてもかなり大きな仕事である。
インフラ整備はECN社の主力事業のひとつである。
OP社が誕生するまでは、サブマリン島の大部分の都市インフラはECN社によって整備されてきたといっても過言ではない。
決して収益性の高い事業ではないのだが、「サブマリン島の未来を創る」としてECN社は誇りをもってこの事業を展開していたのだった。
そのECN社をもってしても久しぶりの大規模案件である。社内の動きが慌ただしくなるのも無理はなかった。
社長のオイゲン・イナは役員と相談しながら各タスクユニットの稼動状況を確認し、派遣する技術者の選任と共に機材の輸送などの算段を立てていた。
このため、LH五一年二月に入ってから、オイゲンは打ち合わせなどで社長室を空けることが多くなった。その結果中には秘書のメイ・カワナが一人で残される。
この日は珍しくオイゲンが早めに社長室に戻ってきていた。
計画立案も終盤に入り担当レベルでの意思決定が中心となったため、オイゲンが自ら対応する事項が減ってきたからだった。
一〇日ほど前にオイゲンは誕生日を迎え、三一歳になっていた。
一つ年を取ったところで彼を取り巻く環境に何ら変化はない、はずであったが事実は異なっていた。
昨日、OP社の幹部、ノブヤ・ヤマガタから非公式にオイゲンに対して打診があった。
打診とはいえ、ハドリの意思だ。命令とほぼ同義語である。
内容は四月中にインデストの「タブーなきエンジニア集団」に向けてOP社が治安改革部隊を派遣するが、その部隊へのオイゲンの同行を求める、というものであった。
同行するのはオイゲン一人であり、他のECN社の関係者の帯同を認めない、ともあった。
表向きの理由は「ECN社の事業に与える影響を最小限に抑えるため」であったが、ハドリの狙いはオイゲンを孤立させることであろう。
また、オイゲンが不在の間、フトシ・ウノにECN社の面倒を見させる、という話もある。
(何かあったら殺されるな……これは)
そうは思っても、オイゲンにこれを断ることはできそうもなかった。断ればオイゲン自身だけではなく、ECN社にも多大な悪影響が及ぶからだ。
しかし、オイゲンがOP社に同行することは、死と隣り合わせになる危険がある。
ウォーリーが早々に降伏すればオイゲンの身に危険が及ぶ可能性が低いが、オイゲン自身ウォーリーの降伏を望んでいない。
ウォーリーとハドリがそれぞれの場所に留まり、お互いが接触しないのがベストだとオイゲンは思うのだが、少なくともハドリはそれを望んでいないようだ。
(ハドリ氏に攻撃を思いとどまらせるのは難しいだろう……ならば、ウォーリーの勝利を願うしかない)
オイゲンはそう考えた。
しかし、現時点で保有している戦力にはかなり差がある。
ウォーリーの「タブーなきエンジニア集団」はエンジニアと市民運動が融合したものであり、基本的に戦闘集団ではない。
頭数に限れば数万人となっているが、実際に戦える者はそれほど多くないはずだ。
インデストでウォーリーに協力するOP社グループ労働者組合に関しては、戦力が未知数である。
鉄鉱石の採掘場で勤務する者が多いという情報があるので、腕っぷしは立つかもしれない。ただ、専門に戦闘訓練を積んだ集団ではないことがネックになると思われる。
冷静に比較すれば戦闘ではOP社が圧倒的に有利である。
(今回に関してはウォーリーが守る側だ。ウォーリーは陣頭指揮をとるだろう。その参謀役が優秀であれば形勢が変わるかもしれない)
オイゲンは敢えて楽観的に考えた。考えた、というより無理矢理自分に信じ込ませた、に近いのかもしれない。
彼が知る限りの情報では、「タブーなきエンジニア集団」の幹部があちこちに散っており、ウォーリーに同行してインデストにいるのはエリック・モトムラだけだとのことである。
エリックは優秀な技術者だが、戦闘向きとは思えなかったし、参謀というタイプでもない。
オイゲンの友人であるミヤハラはジンに残っている。
参謀というタイプの人間ではないが、オイゲンはミヤハラの能力を大いに買っている。
後方での陽動作戦には大いに期待したいところである。
また、ECN社本社のあるハモネスにはサクライがいるようだ。
こちらは資金計画であてになるだろうが、ウォーリーの参謀、という訳にはいかない。
幹部の中ではウォーリーともっとも離れた位置にいるのもネックである。
オイゲンは把握していなかったが、サクライは「タブーなきエンジニア集団」の中で最強級の個人戦闘能力を有している。
しかし、インデストと遠く離れたハモネスにいる以上、インデストでの戦闘に役立つ可能性は皆無であろう。
(やはり……カワナさんを送り込んでおきたいな)
というのが偽らざるオイゲンの本音である。
彼は対人恐怖症の秘書の能力を誰よりも高く評価している。
フジミ・タウンの再建とインフラ整備のため千人単位の技術者が派遣されることになったからだ。エクザローム第二の規模を誇るECN社としてもかなり大きな仕事である。
インフラ整備はECN社の主力事業のひとつである。
OP社が誕生するまでは、サブマリン島の大部分の都市インフラはECN社によって整備されてきたといっても過言ではない。
決して収益性の高い事業ではないのだが、「サブマリン島の未来を創る」としてECN社は誇りをもってこの事業を展開していたのだった。
そのECN社をもってしても久しぶりの大規模案件である。社内の動きが慌ただしくなるのも無理はなかった。
社長のオイゲン・イナは役員と相談しながら各タスクユニットの稼動状況を確認し、派遣する技術者の選任と共に機材の輸送などの算段を立てていた。
このため、LH五一年二月に入ってから、オイゲンは打ち合わせなどで社長室を空けることが多くなった。その結果中には秘書のメイ・カワナが一人で残される。
この日は珍しくオイゲンが早めに社長室に戻ってきていた。
計画立案も終盤に入り担当レベルでの意思決定が中心となったため、オイゲンが自ら対応する事項が減ってきたからだった。
一〇日ほど前にオイゲンは誕生日を迎え、三一歳になっていた。
一つ年を取ったところで彼を取り巻く環境に何ら変化はない、はずであったが事実は異なっていた。
昨日、OP社の幹部、ノブヤ・ヤマガタから非公式にオイゲンに対して打診があった。
打診とはいえ、ハドリの意思だ。命令とほぼ同義語である。
内容は四月中にインデストの「タブーなきエンジニア集団」に向けてOP社が治安改革部隊を派遣するが、その部隊へのオイゲンの同行を求める、というものであった。
同行するのはオイゲン一人であり、他のECN社の関係者の帯同を認めない、ともあった。
表向きの理由は「ECN社の事業に与える影響を最小限に抑えるため」であったが、ハドリの狙いはオイゲンを孤立させることであろう。
また、オイゲンが不在の間、フトシ・ウノにECN社の面倒を見させる、という話もある。
(何かあったら殺されるな……これは)
そうは思っても、オイゲンにこれを断ることはできそうもなかった。断ればオイゲン自身だけではなく、ECN社にも多大な悪影響が及ぶからだ。
しかし、オイゲンがOP社に同行することは、死と隣り合わせになる危険がある。
ウォーリーが早々に降伏すればオイゲンの身に危険が及ぶ可能性が低いが、オイゲン自身ウォーリーの降伏を望んでいない。
ウォーリーとハドリがそれぞれの場所に留まり、お互いが接触しないのがベストだとオイゲンは思うのだが、少なくともハドリはそれを望んでいないようだ。
(ハドリ氏に攻撃を思いとどまらせるのは難しいだろう……ならば、ウォーリーの勝利を願うしかない)
オイゲンはそう考えた。
しかし、現時点で保有している戦力にはかなり差がある。
ウォーリーの「タブーなきエンジニア集団」はエンジニアと市民運動が融合したものであり、基本的に戦闘集団ではない。
頭数に限れば数万人となっているが、実際に戦える者はそれほど多くないはずだ。
インデストでウォーリーに協力するOP社グループ労働者組合に関しては、戦力が未知数である。
鉄鉱石の採掘場で勤務する者が多いという情報があるので、腕っぷしは立つかもしれない。ただ、専門に戦闘訓練を積んだ集団ではないことがネックになると思われる。
冷静に比較すれば戦闘ではOP社が圧倒的に有利である。
(今回に関してはウォーリーが守る側だ。ウォーリーは陣頭指揮をとるだろう。その参謀役が優秀であれば形勢が変わるかもしれない)
オイゲンは敢えて楽観的に考えた。考えた、というより無理矢理自分に信じ込ませた、に近いのかもしれない。
彼が知る限りの情報では、「タブーなきエンジニア集団」の幹部があちこちに散っており、ウォーリーに同行してインデストにいるのはエリック・モトムラだけだとのことである。
エリックは優秀な技術者だが、戦闘向きとは思えなかったし、参謀というタイプでもない。
オイゲンの友人であるミヤハラはジンに残っている。
参謀というタイプの人間ではないが、オイゲンはミヤハラの能力を大いに買っている。
後方での陽動作戦には大いに期待したいところである。
また、ECN社本社のあるハモネスにはサクライがいるようだ。
こちらは資金計画であてになるだろうが、ウォーリーの参謀、という訳にはいかない。
幹部の中ではウォーリーともっとも離れた位置にいるのもネックである。
オイゲンは把握していなかったが、サクライは「タブーなきエンジニア集団」の中で最強級の個人戦闘能力を有している。
しかし、インデストと遠く離れたハモネスにいる以上、インデストでの戦闘に役立つ可能性は皆無であろう。
(やはり……カワナさんを送り込んでおきたいな)
というのが偽らざるオイゲンの本音である。
彼は対人恐怖症の秘書の能力を誰よりも高く評価している。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり
柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日――
東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。
中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。
彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。
無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。
政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。
「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる