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第六章
243:エクザロームへの着陸
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「ルナ・ヘヴンス」の技術者達は着陸軌道を慎重に決定した。
着陸に当たってはステーションを二つに分割し、その小さい方のみを着陸させることを決めていた。少しでも着陸時の質量を減らすためである。
当初は全員が着陸する側に登場する予定であったが、少数ながら宇宙空間に残ることを希望する者もいた。
着陸に失敗した場合、最悪ステーションが爆散して中の人々が全滅する恐れがあるからだ。
彼らの意思を尊重し、残りたい者は大きい方のステーションに残ることを認めた。
結果、数万人が宇宙空間に残り、百万を超える人々が惑星への着陸に臨むこととなった。
分割されて当初の大きさのニ〇分の一になったとはいえ、これだけの質量の物体である。惑星への着陸はエンジン設計時点で考慮には入れていたが、実際に試みるのは今回が初めてである。半ば賭けになるのはいたしかたない部分がある。
「何か潜水艦みたいな形をした島ですね。ご丁寧に潜望鏡まである」
着陸態勢に入った「ルナ・ヘヴンス」の中で技術者の一人がつぶやいた。
「じゃあ、『サブマリン島』とでも名づけるのか? 何か妙なネーミングだけどな。我ながらセンスが感じられん」
別の技術者がそう答えた。軽口でも叩かないと緊張のあまり発狂しそうになるのだ。
操縦エリアが笑いに包まれる。
技術者たちの顔の多くは引きつっていたが、ネーミングセンスの悪さが原因となったものはなかった。
平時であれば、ネーミングセンスの悪さを揶揄するような言葉が飛び交っただろうが、彼らにそれだけの余裕はなかった。
むしろ、出来の悪い冗談でも、ないよりは遥かにマシという状況だった。
わずかであったが、技術者たちの緊張を緩和することができたからだ。
操縦エリアに集まった技術者達は、着陸する島を口々に「サブマリン島」と呼び始めた。
着陸地点の呼び名が無いのは情報伝達上不便だったからである。
彼らとて後にこの呼び名が定着するなど思いもよらなかった。
名も無き一人の技術者が与えた名前が、その後彼らが降り立った島の名として長く使われることになったのだ。
技術者達は慎重に着陸地点を探した。
直径約ニキロメートルの巨大な物体である。それを着陸させられるだけの広い平地を探さなければならない。
高度を下げるにつれて、島は高い山々と湖とで東西に分断されていることが判明した。
島の東側は低い雲に覆われており、着陸の困難が予想された。
このため着陸地点は島の西部に絞られた。
海岸部への着水も考慮したが、上空から見る限りかなり水の流れが速い。
着水したところでステーションごと流される恐れがある上、ステーションから陸地に移動する手段も確保できそうにないのだ。
島の西部は川で南北に分断されている。
ステーションの航続距離を考えた場合、北側に着陸する方が確実に思われた。
北側を探すと雪の積もっている平原が見つかった。
雪の上ならば着陸のショックが軽減される。広さも十分だ。
ただし、平原の東側は島の東西を分ける山脈に繋がっているから、その点に注意しなければならない。
「行くぞ! 着陸態勢に入れ!」
「はい!」
技術者達は意を決して着陸態勢に入った。
技術者達は無言になり、ただエンジンの音が聞こえるだけとなった。
徐々に地面が近づいてくる。
風の影響か想定していた位置より西にステーションが流れたが、調整している暇はなかった。
今はただ、地面への落下速度を減ずるためにエンジンを回しつづける必要がある。
「ルナ・ヘヴンス」はゆっくりと地面に向かって落下していく。
そして……無限に続くと思われた緊迫の時間も終焉を迎える。
「ルナ・ヘヴンス」は轟音とともについに地面に接触したのだ。
やや斜めに着陸したせいか、「ルナ・ヘヴンス」は西の方向に向けて滑り始めた。
地面に接した時点でエンジンは破壊されており、滑走を止める手立てはない。
地面の摩擦と障害物に期待するしかなかった。
技術者達、そして乗り込んだ住民たちは無事に停止することを祈り続けた。
「ルナ・ヘヴンス」は数キロ滑った後、何かにぶつかって停止した。
着陸と衝突の衝撃で少なからぬ死傷者を出してしまったが、大多数の者は無事であったようだ。技術者達は賭けに勝ったのだ。
しかし、着陸に安堵している暇はなかった。
「ルナ・ヘヴンス」の内部で火災が発生したのである。
動力炉への類焼は絶対に避けなければならない。
技術者達を中心に必死の消火活動が開始された。
その間も一般の居住者達を外に避難させることを忘れていない。
居住者達の避難に関しては、「ルナ・ヘヴンス」が滑ったことが幸いした。
わずか数キロの移動であったが、たどり着いた場所が雪の積もる極寒の平原ではなく比較的温暖なところだったからだ。凍死の危険はかなり減ったといえる。
火災による死者は着陸と衝突のショックによる死者の一〇〇倍近くに達した。
それでも約七〇万の居住者は生き残り、各々の新天地を目指して島を彷徨うこととなったのだ。
LH一九年一月ニ七日のことであった。
着陸に当たってはステーションを二つに分割し、その小さい方のみを着陸させることを決めていた。少しでも着陸時の質量を減らすためである。
当初は全員が着陸する側に登場する予定であったが、少数ながら宇宙空間に残ることを希望する者もいた。
着陸に失敗した場合、最悪ステーションが爆散して中の人々が全滅する恐れがあるからだ。
彼らの意思を尊重し、残りたい者は大きい方のステーションに残ることを認めた。
結果、数万人が宇宙空間に残り、百万を超える人々が惑星への着陸に臨むこととなった。
分割されて当初の大きさのニ〇分の一になったとはいえ、これだけの質量の物体である。惑星への着陸はエンジン設計時点で考慮には入れていたが、実際に試みるのは今回が初めてである。半ば賭けになるのはいたしかたない部分がある。
「何か潜水艦みたいな形をした島ですね。ご丁寧に潜望鏡まである」
着陸態勢に入った「ルナ・ヘヴンス」の中で技術者の一人がつぶやいた。
「じゃあ、『サブマリン島』とでも名づけるのか? 何か妙なネーミングだけどな。我ながらセンスが感じられん」
別の技術者がそう答えた。軽口でも叩かないと緊張のあまり発狂しそうになるのだ。
操縦エリアが笑いに包まれる。
技術者たちの顔の多くは引きつっていたが、ネーミングセンスの悪さが原因となったものはなかった。
平時であれば、ネーミングセンスの悪さを揶揄するような言葉が飛び交っただろうが、彼らにそれだけの余裕はなかった。
むしろ、出来の悪い冗談でも、ないよりは遥かにマシという状況だった。
わずかであったが、技術者たちの緊張を緩和することができたからだ。
操縦エリアに集まった技術者達は、着陸する島を口々に「サブマリン島」と呼び始めた。
着陸地点の呼び名が無いのは情報伝達上不便だったからである。
彼らとて後にこの呼び名が定着するなど思いもよらなかった。
名も無き一人の技術者が与えた名前が、その後彼らが降り立った島の名として長く使われることになったのだ。
技術者達は慎重に着陸地点を探した。
直径約ニキロメートルの巨大な物体である。それを着陸させられるだけの広い平地を探さなければならない。
高度を下げるにつれて、島は高い山々と湖とで東西に分断されていることが判明した。
島の東側は低い雲に覆われており、着陸の困難が予想された。
このため着陸地点は島の西部に絞られた。
海岸部への着水も考慮したが、上空から見る限りかなり水の流れが速い。
着水したところでステーションごと流される恐れがある上、ステーションから陸地に移動する手段も確保できそうにないのだ。
島の西部は川で南北に分断されている。
ステーションの航続距離を考えた場合、北側に着陸する方が確実に思われた。
北側を探すと雪の積もっている平原が見つかった。
雪の上ならば着陸のショックが軽減される。広さも十分だ。
ただし、平原の東側は島の東西を分ける山脈に繋がっているから、その点に注意しなければならない。
「行くぞ! 着陸態勢に入れ!」
「はい!」
技術者達は意を決して着陸態勢に入った。
技術者達は無言になり、ただエンジンの音が聞こえるだけとなった。
徐々に地面が近づいてくる。
風の影響か想定していた位置より西にステーションが流れたが、調整している暇はなかった。
今はただ、地面への落下速度を減ずるためにエンジンを回しつづける必要がある。
「ルナ・ヘヴンス」はゆっくりと地面に向かって落下していく。
そして……無限に続くと思われた緊迫の時間も終焉を迎える。
「ルナ・ヘヴンス」は轟音とともについに地面に接触したのだ。
やや斜めに着陸したせいか、「ルナ・ヘヴンス」は西の方向に向けて滑り始めた。
地面に接した時点でエンジンは破壊されており、滑走を止める手立てはない。
地面の摩擦と障害物に期待するしかなかった。
技術者達、そして乗り込んだ住民たちは無事に停止することを祈り続けた。
「ルナ・ヘヴンス」は数キロ滑った後、何かにぶつかって停止した。
着陸と衝突の衝撃で少なからぬ死傷者を出してしまったが、大多数の者は無事であったようだ。技術者達は賭けに勝ったのだ。
しかし、着陸に安堵している暇はなかった。
「ルナ・ヘヴンス」の内部で火災が発生したのである。
動力炉への類焼は絶対に避けなければならない。
技術者達を中心に必死の消火活動が開始された。
その間も一般の居住者達を外に避難させることを忘れていない。
居住者達の避難に関しては、「ルナ・ヘヴンス」が滑ったことが幸いした。
わずか数キロの移動であったが、たどり着いた場所が雪の積もる極寒の平原ではなく比較的温暖なところだったからだ。凍死の危険はかなり減ったといえる。
火災による死者は着陸と衝突のショックによる死者の一〇〇倍近くに達した。
それでも約七〇万の居住者は生き残り、各々の新天地を目指して島を彷徨うこととなったのだ。
LH一九年一月ニ七日のことであった。
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