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第六章
242:「ルナ・ヘヴンス」の悲劇
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しかし、それは突然起こった。
最初は十数センチの軌道のズレとして現れた。
そのときは直ちにステーションの技術者達が軌道修正を行い、「ルナ・ヘヴンス」は無事に正常な軌道に戻ったかと思われた。
技術者たちが胸をなで下ろしたのも束の間で、正常な軌道に戻ってから数日後、再び軌道からのズレが発見された。
再び軌道修正を行っている最中に「ルナ・ヘヴンス」はその軌道を大きく外れ、あらぬ方向へと動き出したのだった。
不運なことに地球と「ルナ・ヘヴンス」を往復する宇宙船は「ルナ・ヘヴンス」上に一隻も残されておらず、宇宙船を用いて地球や他のステーションに移動することもできなかった。
こうして「ルナ・ヘヴンス」は虚空に放り出されたのだった。
何かに引きつけられるかのように「ルナ・ヘヴンス」は徐々に加速していく。
ステーションの技術者達は必死で「ルナ・ヘヴンス」を本来の軌道に戻そうとした。
しかし、「ルナ・ヘヴンス」に搭載されている小出力のエンジンでは加速を抑えるのがやっとで、移動の方向を変えるには至らなかった。
「ルナ・ヘヴンス」に搭載されていたのは軌道修正に用いるエンジンでしかなかった。
ステーションそのものを大きく動かすことを想定していなかったのだ。
「ルナ・ヘヴンス」の管理者達は技術者などと協議した結果、当面の間は本来の衛星軌道へ戻ることを断念した。有効な手立てを見出せなかったからだ。
残された貴重な動力は小惑星などとの衝突回避に用いるものとし、現時点での利用を停止した。
技術者達は早速、大出力のエンジン開発に取り掛かった。
この開発に成功すれば、もとの軌道に戻ることができるかもしれない。当面の間は断念したとしても、本来の衛星軌道に戻ることを諦めることはできなかった。
幸いなことに「ルナ・ヘヴンス」は一つの独立した都市であり、第二次産業が脆弱なものの一〇〇万の人口を養うのに十分な生産能力を有している。
エンジン開発に多少の時間がかけられる余裕があるかのように思われたのだ。
少なくない住民が数年程度でエンジンが開発され、本来の軌道に戻ることができると楽観的に期待していた。
しかし、その期待はすぐに打ち砕かれることになった。
誤算だったのは、「ルナ・ヘヴンス」の移動速度だった。
最大で光速の七割近くに達したその移動速度のため、瞬く間に地球の衛星軌道から大きく外れてしまったのだ。
いつしか、衛星軌道に戻る方向すら不明確になった。
帰るべき方向を知らなければ帰ることもままならないが、それを確認する手立ても無い。
電波による通信も試みたが、何の回答も得られなかった。
出力が十分でない上に、距離が離れすぎているため返答があったとしても、それを受け取るまでに時間がかかりすぎたのが原因であると思われた。
エンジンは一四年かかってようやく取り付けられ、「ルナ・ヘヴンス」はコントロールを取り戻した。
エンジン取り付け直後に「ルナ・ヘヴンス」では、住民による投票が行われた。
すなわち、
確実な情報が何一つない中、地球の衛星軌道を求めて移動を続けるのか
適当な惑星を見つけ、その衛星軌道上に落ち着くのか
居住可能な惑星を求め、それが見つかり次第その惑星に移住するか
の三択である。
住民投票の結果、圧倒的な大差で三番目の選択肢が選択された。
人間というものは、地面に両足をつけていないと不安定になる生物なのかもしれない。
「ルナ・ヘヴンス」自体巨大なステーションであるのだが、宇宙ステーションと星の地面とでは人に与える心理的、肉体的な影響が異なるのであろうか。
こうして居住可能な惑星の探索が始まった。
三年後、どうにか居住可能な惑星が見つかった。
「ルナ・ヘヴンス」は慎重に惑星の軌道へと近づき、その状況を確認する。
大気構成は地球とほぼ同じだ。陸地も一つ見つかった。
もう少し調査を進め、詳細な情報を得ようとしたが、この時点で「ルナ・ヘヴンス」に重大な問題が発見された。
航行用に取り付けた大出力エンジンに損傷が発見されたのである。
損傷の程度がひどく、修理では一時凌ぎにしかならない。
エンジンの交換が求められたが、新しいエンジンを製造し、取り付けるまでは数年の年月が必要である。
「ルナ・ヘヴンス」の管理者達は惑星の調査が不十分な状況での着陸を決断せざるを得なかった。
早く地表に降り立ちたいと血気にはやる住民達の勢いを抑えることはもはや不可能であった。目の前に降り立つことのできる惑星があるからだ。
結局、惑星上で唯一発見された地面、すなわち島に着陸することが決定された。LH一九年一月ニ四日のことである。
既に「ルナ・ヘヴンス」がその軌道を外れてから一七年以上の年月が流れていた。
惑星の表面は大部分が雲で覆われており、他の陸地が確認できていない。
このことが管理者達にとっては不安材料であったが、見つかった島は三〇万平方キロメートル弱の面積がある。
一〇〇万程度の人口を養うのには十分であろう。
最初は十数センチの軌道のズレとして現れた。
そのときは直ちにステーションの技術者達が軌道修正を行い、「ルナ・ヘヴンス」は無事に正常な軌道に戻ったかと思われた。
技術者たちが胸をなで下ろしたのも束の間で、正常な軌道に戻ってから数日後、再び軌道からのズレが発見された。
再び軌道修正を行っている最中に「ルナ・ヘヴンス」はその軌道を大きく外れ、あらぬ方向へと動き出したのだった。
不運なことに地球と「ルナ・ヘヴンス」を往復する宇宙船は「ルナ・ヘヴンス」上に一隻も残されておらず、宇宙船を用いて地球や他のステーションに移動することもできなかった。
こうして「ルナ・ヘヴンス」は虚空に放り出されたのだった。
何かに引きつけられるかのように「ルナ・ヘヴンス」は徐々に加速していく。
ステーションの技術者達は必死で「ルナ・ヘヴンス」を本来の軌道に戻そうとした。
しかし、「ルナ・ヘヴンス」に搭載されている小出力のエンジンでは加速を抑えるのがやっとで、移動の方向を変えるには至らなかった。
「ルナ・ヘヴンス」に搭載されていたのは軌道修正に用いるエンジンでしかなかった。
ステーションそのものを大きく動かすことを想定していなかったのだ。
「ルナ・ヘヴンス」の管理者達は技術者などと協議した結果、当面の間は本来の衛星軌道へ戻ることを断念した。有効な手立てを見出せなかったからだ。
残された貴重な動力は小惑星などとの衝突回避に用いるものとし、現時点での利用を停止した。
技術者達は早速、大出力のエンジン開発に取り掛かった。
この開発に成功すれば、もとの軌道に戻ることができるかもしれない。当面の間は断念したとしても、本来の衛星軌道に戻ることを諦めることはできなかった。
幸いなことに「ルナ・ヘヴンス」は一つの独立した都市であり、第二次産業が脆弱なものの一〇〇万の人口を養うのに十分な生産能力を有している。
エンジン開発に多少の時間がかけられる余裕があるかのように思われたのだ。
少なくない住民が数年程度でエンジンが開発され、本来の軌道に戻ることができると楽観的に期待していた。
しかし、その期待はすぐに打ち砕かれることになった。
誤算だったのは、「ルナ・ヘヴンス」の移動速度だった。
最大で光速の七割近くに達したその移動速度のため、瞬く間に地球の衛星軌道から大きく外れてしまったのだ。
いつしか、衛星軌道に戻る方向すら不明確になった。
帰るべき方向を知らなければ帰ることもままならないが、それを確認する手立ても無い。
電波による通信も試みたが、何の回答も得られなかった。
出力が十分でない上に、距離が離れすぎているため返答があったとしても、それを受け取るまでに時間がかかりすぎたのが原因であると思われた。
エンジンは一四年かかってようやく取り付けられ、「ルナ・ヘヴンス」はコントロールを取り戻した。
エンジン取り付け直後に「ルナ・ヘヴンス」では、住民による投票が行われた。
すなわち、
確実な情報が何一つない中、地球の衛星軌道を求めて移動を続けるのか
適当な惑星を見つけ、その衛星軌道上に落ち着くのか
居住可能な惑星を求め、それが見つかり次第その惑星に移住するか
の三択である。
住民投票の結果、圧倒的な大差で三番目の選択肢が選択された。
人間というものは、地面に両足をつけていないと不安定になる生物なのかもしれない。
「ルナ・ヘヴンス」自体巨大なステーションであるのだが、宇宙ステーションと星の地面とでは人に与える心理的、肉体的な影響が異なるのであろうか。
こうして居住可能な惑星の探索が始まった。
三年後、どうにか居住可能な惑星が見つかった。
「ルナ・ヘヴンス」は慎重に惑星の軌道へと近づき、その状況を確認する。
大気構成は地球とほぼ同じだ。陸地も一つ見つかった。
もう少し調査を進め、詳細な情報を得ようとしたが、この時点で「ルナ・ヘヴンス」に重大な問題が発見された。
航行用に取り付けた大出力エンジンに損傷が発見されたのである。
損傷の程度がひどく、修理では一時凌ぎにしかならない。
エンジンの交換が求められたが、新しいエンジンを製造し、取り付けるまでは数年の年月が必要である。
「ルナ・ヘヴンス」の管理者達は惑星の調査が不十分な状況での着陸を決断せざるを得なかった。
早く地表に降り立ちたいと血気にはやる住民達の勢いを抑えることはもはや不可能であった。目の前に降り立つことのできる惑星があるからだ。
結局、惑星上で唯一発見された地面、すなわち島に着陸することが決定された。LH一九年一月ニ四日のことである。
既に「ルナ・ヘヴンス」がその軌道を外れてから一七年以上の年月が流れていた。
惑星の表面は大部分が雲で覆われており、他の陸地が確認できていない。
このことが管理者達にとっては不安材料であったが、見つかった島は三〇万平方キロメートル弱の面積がある。
一〇〇万程度の人口を養うのには十分であろう。
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