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第六章
233:フジミ・タウンの元住民、「リスク管理研究所」の門を叩く
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アカシとウォーリーがインデストで蜂起してから二週間ほど経過した二月一〇日のことである。
翌日にはハモネスの南部で「リスク管理研究所」が手配した人員によるOP社治安改革センターの職員の追放活動が予定されていた。
「リスク管理研究所」が用意周到だったことは、人員確保を「タブーなきエンジニア集団」の名前で実施し、あくまで自らの存在を明かさなかった点にあるかもしれない。
この日の昼頃、十数名の若い男女が「リスク管理研究所」の門を叩いた。
研究所の所員が彼らに話を聞いたところ、彼らはフジミ・タウンから逃れてきたという。
所長のトニー・シヴァは彼らに金を渡して、一旦近くのホテルに待機するように指示した。
そして部下のホルツをホテルに派遣して、彼らから話を聞くことにした。
トニーがこうしたのは、彼らを研究所に引き入れて内部の情報が漏洩するのを警戒したためである。
仮に彼らがOP社の回し者であれば、「リスク管理研究所」が「タブーなきエンジニア集団」と裏で緩やかに結びついていることが露呈する可能性がある。
それではわざわざ連絡を取らないことで「タブーなきエンジニア集団」との関係を隠蔽した意味がなくなってしまうのだ。
数週間前にも門の前をうろついていた者がいたが、このときはトニーがその様子を目撃していた。
トニーは所員に厳命し、この者を研究所内に入れさせなかった。
翌日、この者はいずこかへと去っていった。
ホルツをホテルに向かわせてから一時間ほどして、彼から通信でトニーに連絡があった。
ホルツが話を聞いた者達はハドリ率いるOP社治安改革部隊に賊と疑われて追われる羽目になったため、逃れてきたらしい。
彼らの望みは住居と働き口の確保だという。
彼らはOP社に追われてきた以上、OP社やその関連会社で仕事をするつもりにはなれないとも主張していた。
そこでOP社と中立の立場にある「リスク管理研究所」を著名な企業と見込んでお願いしたいと頼み込んできた、とホルツが報告した。
ホルツの報告を聞いたトニーは口の端をわずかに上げて笑みを浮かべた。
「リスク管理研究所」はOP社に対して中立どころか、これを敵とみなしているのだが、相手はそれに気づいていないようだ。
トニーが他者にそう思わせるよう努めた結果ではあるが、少なくとも今のところは彼の策が功を奏しているようだ。
トニーは「リスク管理研究所」を頼ってきた者達の処遇をどうすべきか、冷静に考えを巡らせていた。
彼らの主張を信じるのであれば、彼らは賊ではなく、賊に使われていた労働者であったはずだ。
しかし、フジミ・タウンを解放したOP社から賊と誤解され、殺害されそうになったのを命からがら逃げてきた、ということになる。
フジミ・タウンにはこうした「賊に使われていた労働者」も数多くいたのだが、「フジミの大虐殺」の裏側を知らない多くの者達は、この事実を知る由もなかった。
「フジミの大虐殺」では、一般市民全員が惨殺され、残ったのは賊ばかりだという噂を信じる者が殆どだったのである。
賊がフジミ・タウンで生き延びていくために、地元に詳しい住民を労働力として活用するというのは普通にあり得る話だ。
だが、「賊」という名称がフジミ・タウンを見る人々の目を曇らせたのだった。
フジミ・タウン側から事実が公開される理由もなかったから、この噂が根拠無く信じられているのも無理はなかった。
また、フジミ・タウンの賊はしばしば近くの街道を通る者達を襲い、物資を奪っていた。
これではフジミ・タウンでは生産活動は行われていないと思われても仕方なかった。
トニーとて例外ではなかった。
彼は一般的なサブマリン島の住人より「フジミの大虐殺」に関する知識は有していたが、その彼でも虐殺の手を逃れて生き残った一般市民が存在しているという事実を把握していない。
そういった市民が存在する可能性はトニーも十分に考えている。
しかし、ホルツが話を聞いている者たちがそうであるという証拠はどこにもないのである。
また、トニーは彼らに「虐殺の手を逃れて生き残った一般市民」だと証明する労力をかける価値を感じていなかった。
十年以上も他の都市と隔絶された世界で生きてきた者達だ。
彼らがトニーに提供できる価値があるとは、到底考えられなかった。
(奴等がフジミの市民などという証拠はどこにもない。OP社のスパイの可能性もある。慎重に裏を取る必要がある)
「リスク管理研究所」を名乗っている集団のトップだけあって、トニーは冷静である。
(……一般市民というならば、なぜ、OP社の治安改革部隊に追われたのだろうか? それにいきなりやってきて、仕事と家をよこせというのも虫が良すぎる)
その点が引っかかっているのだ。
彼らを研究所に抱え込むのはメリットがない上に危険が大きい。
トニーは価値が無い者を危険を冒してまで救うという考えとは無縁だった。
体よく追い払うのが上策であるとトニーは考えた。
ホルツの話でも彼らの正体が明確になったとはいえなかったし、こうした訳のわからない怪しい連中は相手にしないに限る。
もし、OP社のスパイで、内部のデータを物色されでもすれば、「タブーなきエンジニア集団」との関係が露呈する危険もあるのだ。
「タブーなきエンジニア集団」との関係を示す資料は厳重に管理してあり、そう簡単に見ることはできないのだが、念には念を入れる必要がある。
トニーは「金だけ渡して出て行かせろ」とホルツに指示したのだった。
翌日にはハモネスの南部で「リスク管理研究所」が手配した人員によるOP社治安改革センターの職員の追放活動が予定されていた。
「リスク管理研究所」が用意周到だったことは、人員確保を「タブーなきエンジニア集団」の名前で実施し、あくまで自らの存在を明かさなかった点にあるかもしれない。
この日の昼頃、十数名の若い男女が「リスク管理研究所」の門を叩いた。
研究所の所員が彼らに話を聞いたところ、彼らはフジミ・タウンから逃れてきたという。
所長のトニー・シヴァは彼らに金を渡して、一旦近くのホテルに待機するように指示した。
そして部下のホルツをホテルに派遣して、彼らから話を聞くことにした。
トニーがこうしたのは、彼らを研究所に引き入れて内部の情報が漏洩するのを警戒したためである。
仮に彼らがOP社の回し者であれば、「リスク管理研究所」が「タブーなきエンジニア集団」と裏で緩やかに結びついていることが露呈する可能性がある。
それではわざわざ連絡を取らないことで「タブーなきエンジニア集団」との関係を隠蔽した意味がなくなってしまうのだ。
数週間前にも門の前をうろついていた者がいたが、このときはトニーがその様子を目撃していた。
トニーは所員に厳命し、この者を研究所内に入れさせなかった。
翌日、この者はいずこかへと去っていった。
ホルツをホテルに向かわせてから一時間ほどして、彼から通信でトニーに連絡があった。
ホルツが話を聞いた者達はハドリ率いるOP社治安改革部隊に賊と疑われて追われる羽目になったため、逃れてきたらしい。
彼らの望みは住居と働き口の確保だという。
彼らはOP社に追われてきた以上、OP社やその関連会社で仕事をするつもりにはなれないとも主張していた。
そこでOP社と中立の立場にある「リスク管理研究所」を著名な企業と見込んでお願いしたいと頼み込んできた、とホルツが報告した。
ホルツの報告を聞いたトニーは口の端をわずかに上げて笑みを浮かべた。
「リスク管理研究所」はOP社に対して中立どころか、これを敵とみなしているのだが、相手はそれに気づいていないようだ。
トニーが他者にそう思わせるよう努めた結果ではあるが、少なくとも今のところは彼の策が功を奏しているようだ。
トニーは「リスク管理研究所」を頼ってきた者達の処遇をどうすべきか、冷静に考えを巡らせていた。
彼らの主張を信じるのであれば、彼らは賊ではなく、賊に使われていた労働者であったはずだ。
しかし、フジミ・タウンを解放したOP社から賊と誤解され、殺害されそうになったのを命からがら逃げてきた、ということになる。
フジミ・タウンにはこうした「賊に使われていた労働者」も数多くいたのだが、「フジミの大虐殺」の裏側を知らない多くの者達は、この事実を知る由もなかった。
「フジミの大虐殺」では、一般市民全員が惨殺され、残ったのは賊ばかりだという噂を信じる者が殆どだったのである。
賊がフジミ・タウンで生き延びていくために、地元に詳しい住民を労働力として活用するというのは普通にあり得る話だ。
だが、「賊」という名称がフジミ・タウンを見る人々の目を曇らせたのだった。
フジミ・タウン側から事実が公開される理由もなかったから、この噂が根拠無く信じられているのも無理はなかった。
また、フジミ・タウンの賊はしばしば近くの街道を通る者達を襲い、物資を奪っていた。
これではフジミ・タウンでは生産活動は行われていないと思われても仕方なかった。
トニーとて例外ではなかった。
彼は一般的なサブマリン島の住人より「フジミの大虐殺」に関する知識は有していたが、その彼でも虐殺の手を逃れて生き残った一般市民が存在しているという事実を把握していない。
そういった市民が存在する可能性はトニーも十分に考えている。
しかし、ホルツが話を聞いている者たちがそうであるという証拠はどこにもないのである。
また、トニーは彼らに「虐殺の手を逃れて生き残った一般市民」だと証明する労力をかける価値を感じていなかった。
十年以上も他の都市と隔絶された世界で生きてきた者達だ。
彼らがトニーに提供できる価値があるとは、到底考えられなかった。
(奴等がフジミの市民などという証拠はどこにもない。OP社のスパイの可能性もある。慎重に裏を取る必要がある)
「リスク管理研究所」を名乗っている集団のトップだけあって、トニーは冷静である。
(……一般市民というならば、なぜ、OP社の治安改革部隊に追われたのだろうか? それにいきなりやってきて、仕事と家をよこせというのも虫が良すぎる)
その点が引っかかっているのだ。
彼らを研究所に抱え込むのはメリットがない上に危険が大きい。
トニーは価値が無い者を危険を冒してまで救うという考えとは無縁だった。
体よく追い払うのが上策であるとトニーは考えた。
ホルツの話でも彼らの正体が明確になったとはいえなかったし、こうした訳のわからない怪しい連中は相手にしないに限る。
もし、OP社のスパイで、内部のデータを物色されでもすれば、「タブーなきエンジニア集団」との関係が露呈する危険もあるのだ。
「タブーなきエンジニア集団」との関係を示す資料は厳重に管理してあり、そう簡単に見ることはできないのだが、念には念を入れる必要がある。
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