240 / 436
第六章
233:フジミ・タウンの元住民、「リスク管理研究所」の門を叩く
しおりを挟む
アカシとウォーリーがインデストで蜂起してから二週間ほど経過した二月一〇日のことである。
翌日にはハモネスの南部で「リスク管理研究所」が手配した人員によるOP社治安改革センターの職員の追放活動が予定されていた。
「リスク管理研究所」が用意周到だったことは、人員確保を「タブーなきエンジニア集団」の名前で実施し、あくまで自らの存在を明かさなかった点にあるかもしれない。
この日の昼頃、十数名の若い男女が「リスク管理研究所」の門を叩いた。
研究所の所員が彼らに話を聞いたところ、彼らはフジミ・タウンから逃れてきたという。
所長のトニー・シヴァは彼らに金を渡して、一旦近くのホテルに待機するように指示した。
そして部下のホルツをホテルに派遣して、彼らから話を聞くことにした。
トニーがこうしたのは、彼らを研究所に引き入れて内部の情報が漏洩するのを警戒したためである。
仮に彼らがOP社の回し者であれば、「リスク管理研究所」が「タブーなきエンジニア集団」と裏で緩やかに結びついていることが露呈する可能性がある。
それではわざわざ連絡を取らないことで「タブーなきエンジニア集団」との関係を隠蔽した意味がなくなってしまうのだ。
数週間前にも門の前をうろついていた者がいたが、このときはトニーがその様子を目撃していた。
トニーは所員に厳命し、この者を研究所内に入れさせなかった。
翌日、この者はいずこかへと去っていった。
ホルツをホテルに向かわせてから一時間ほどして、彼から通信でトニーに連絡があった。
ホルツが話を聞いた者達はハドリ率いるOP社治安改革部隊に賊と疑われて追われる羽目になったため、逃れてきたらしい。
彼らの望みは住居と働き口の確保だという。
彼らはOP社に追われてきた以上、OP社やその関連会社で仕事をするつもりにはなれないとも主張していた。
そこでOP社と中立の立場にある「リスク管理研究所」を著名な企業と見込んでお願いしたいと頼み込んできた、とホルツが報告した。
ホルツの報告を聞いたトニーは口の端をわずかに上げて笑みを浮かべた。
「リスク管理研究所」はOP社に対して中立どころか、これを敵とみなしているのだが、相手はそれに気づいていないようだ。
トニーが他者にそう思わせるよう努めた結果ではあるが、少なくとも今のところは彼の策が功を奏しているようだ。
トニーは「リスク管理研究所」を頼ってきた者達の処遇をどうすべきか、冷静に考えを巡らせていた。
彼らの主張を信じるのであれば、彼らは賊ではなく、賊に使われていた労働者であったはずだ。
しかし、フジミ・タウンを解放したOP社から賊と誤解され、殺害されそうになったのを命からがら逃げてきた、ということになる。
フジミ・タウンにはこうした「賊に使われていた労働者」も数多くいたのだが、「フジミの大虐殺」の裏側を知らない多くの者達は、この事実を知る由もなかった。
「フジミの大虐殺」では、一般市民全員が惨殺され、残ったのは賊ばかりだという噂を信じる者が殆どだったのである。
賊がフジミ・タウンで生き延びていくために、地元に詳しい住民を労働力として活用するというのは普通にあり得る話だ。
だが、「賊」という名称がフジミ・タウンを見る人々の目を曇らせたのだった。
フジミ・タウン側から事実が公開される理由もなかったから、この噂が根拠無く信じられているのも無理はなかった。
また、フジミ・タウンの賊はしばしば近くの街道を通る者達を襲い、物資を奪っていた。
これではフジミ・タウンでは生産活動は行われていないと思われても仕方なかった。
トニーとて例外ではなかった。
彼は一般的なサブマリン島の住人より「フジミの大虐殺」に関する知識は有していたが、その彼でも虐殺の手を逃れて生き残った一般市民が存在しているという事実を把握していない。
そういった市民が存在する可能性はトニーも十分に考えている。
しかし、ホルツが話を聞いている者たちがそうであるという証拠はどこにもないのである。
また、トニーは彼らに「虐殺の手を逃れて生き残った一般市民」だと証明する労力をかける価値を感じていなかった。
十年以上も他の都市と隔絶された世界で生きてきた者達だ。
彼らがトニーに提供できる価値があるとは、到底考えられなかった。
(奴等がフジミの市民などという証拠はどこにもない。OP社のスパイの可能性もある。慎重に裏を取る必要がある)
「リスク管理研究所」を名乗っている集団のトップだけあって、トニーは冷静である。
(……一般市民というならば、なぜ、OP社の治安改革部隊に追われたのだろうか? それにいきなりやってきて、仕事と家をよこせというのも虫が良すぎる)
その点が引っかかっているのだ。
彼らを研究所に抱え込むのはメリットがない上に危険が大きい。
トニーは価値が無い者を危険を冒してまで救うという考えとは無縁だった。
体よく追い払うのが上策であるとトニーは考えた。
ホルツの話でも彼らの正体が明確になったとはいえなかったし、こうした訳のわからない怪しい連中は相手にしないに限る。
もし、OP社のスパイで、内部のデータを物色されでもすれば、「タブーなきエンジニア集団」との関係が露呈する危険もあるのだ。
「タブーなきエンジニア集団」との関係を示す資料は厳重に管理してあり、そう簡単に見ることはできないのだが、念には念を入れる必要がある。
トニーは「金だけ渡して出て行かせろ」とホルツに指示したのだった。
翌日にはハモネスの南部で「リスク管理研究所」が手配した人員によるOP社治安改革センターの職員の追放活動が予定されていた。
「リスク管理研究所」が用意周到だったことは、人員確保を「タブーなきエンジニア集団」の名前で実施し、あくまで自らの存在を明かさなかった点にあるかもしれない。
この日の昼頃、十数名の若い男女が「リスク管理研究所」の門を叩いた。
研究所の所員が彼らに話を聞いたところ、彼らはフジミ・タウンから逃れてきたという。
所長のトニー・シヴァは彼らに金を渡して、一旦近くのホテルに待機するように指示した。
そして部下のホルツをホテルに派遣して、彼らから話を聞くことにした。
トニーがこうしたのは、彼らを研究所に引き入れて内部の情報が漏洩するのを警戒したためである。
仮に彼らがOP社の回し者であれば、「リスク管理研究所」が「タブーなきエンジニア集団」と裏で緩やかに結びついていることが露呈する可能性がある。
それではわざわざ連絡を取らないことで「タブーなきエンジニア集団」との関係を隠蔽した意味がなくなってしまうのだ。
数週間前にも門の前をうろついていた者がいたが、このときはトニーがその様子を目撃していた。
トニーは所員に厳命し、この者を研究所内に入れさせなかった。
翌日、この者はいずこかへと去っていった。
ホルツをホテルに向かわせてから一時間ほどして、彼から通信でトニーに連絡があった。
ホルツが話を聞いた者達はハドリ率いるOP社治安改革部隊に賊と疑われて追われる羽目になったため、逃れてきたらしい。
彼らの望みは住居と働き口の確保だという。
彼らはOP社に追われてきた以上、OP社やその関連会社で仕事をするつもりにはなれないとも主張していた。
そこでOP社と中立の立場にある「リスク管理研究所」を著名な企業と見込んでお願いしたいと頼み込んできた、とホルツが報告した。
ホルツの報告を聞いたトニーは口の端をわずかに上げて笑みを浮かべた。
「リスク管理研究所」はOP社に対して中立どころか、これを敵とみなしているのだが、相手はそれに気づいていないようだ。
トニーが他者にそう思わせるよう努めた結果ではあるが、少なくとも今のところは彼の策が功を奏しているようだ。
トニーは「リスク管理研究所」を頼ってきた者達の処遇をどうすべきか、冷静に考えを巡らせていた。
彼らの主張を信じるのであれば、彼らは賊ではなく、賊に使われていた労働者であったはずだ。
しかし、フジミ・タウンを解放したOP社から賊と誤解され、殺害されそうになったのを命からがら逃げてきた、ということになる。
フジミ・タウンにはこうした「賊に使われていた労働者」も数多くいたのだが、「フジミの大虐殺」の裏側を知らない多くの者達は、この事実を知る由もなかった。
「フジミの大虐殺」では、一般市民全員が惨殺され、残ったのは賊ばかりだという噂を信じる者が殆どだったのである。
賊がフジミ・タウンで生き延びていくために、地元に詳しい住民を労働力として活用するというのは普通にあり得る話だ。
だが、「賊」という名称がフジミ・タウンを見る人々の目を曇らせたのだった。
フジミ・タウン側から事実が公開される理由もなかったから、この噂が根拠無く信じられているのも無理はなかった。
また、フジミ・タウンの賊はしばしば近くの街道を通る者達を襲い、物資を奪っていた。
これではフジミ・タウンでは生産活動は行われていないと思われても仕方なかった。
トニーとて例外ではなかった。
彼は一般的なサブマリン島の住人より「フジミの大虐殺」に関する知識は有していたが、その彼でも虐殺の手を逃れて生き残った一般市民が存在しているという事実を把握していない。
そういった市民が存在する可能性はトニーも十分に考えている。
しかし、ホルツが話を聞いている者たちがそうであるという証拠はどこにもないのである。
また、トニーは彼らに「虐殺の手を逃れて生き残った一般市民」だと証明する労力をかける価値を感じていなかった。
十年以上も他の都市と隔絶された世界で生きてきた者達だ。
彼らがトニーに提供できる価値があるとは、到底考えられなかった。
(奴等がフジミの市民などという証拠はどこにもない。OP社のスパイの可能性もある。慎重に裏を取る必要がある)
「リスク管理研究所」を名乗っている集団のトップだけあって、トニーは冷静である。
(……一般市民というならば、なぜ、OP社の治安改革部隊に追われたのだろうか? それにいきなりやってきて、仕事と家をよこせというのも虫が良すぎる)
その点が引っかかっているのだ。
彼らを研究所に抱え込むのはメリットがない上に危険が大きい。
トニーは価値が無い者を危険を冒してまで救うという考えとは無縁だった。
体よく追い払うのが上策であるとトニーは考えた。
ホルツの話でも彼らの正体が明確になったとはいえなかったし、こうした訳のわからない怪しい連中は相手にしないに限る。
もし、OP社のスパイで、内部のデータを物色されでもすれば、「タブーなきエンジニア集団」との関係が露呈する危険もあるのだ。
「タブーなきエンジニア集団」との関係を示す資料は厳重に管理してあり、そう簡単に見ることはできないのだが、念には念を入れる必要がある。
トニーは「金だけ渡して出て行かせろ」とホルツに指示したのだった。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり
柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日――
東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。
中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。
彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。
無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。
政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。
「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる