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第六章
232:歩みを止めぬ独裁者
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「貴社の従業員が『タブーなきエンジニア集団』とやらに与さないよう、手を打っておけ。裏切りが出た場合は……わかっているな?」
ハドリは通信を通じて、ECN社社長のオイゲン・イナにそう命じた。
「……承知しました。そのように対処します」
オイゲンの返事にハドリは満足そうにうなずいた。
ハドリは、もっとも疑うべきこの男を何故か信用していた。
いや、信用していたというのは必ずしも正しくない。
この男に自分を裏切る度胸も能力もないと高をくくっていたのである。
言い方を変えれば、度胸と能力の無さに絶対の信頼を置いていたともいえる。
オイゲン・イナの人となりは、一年近く監視下で仕事をさせたことでハドリも十分把握しているつもりだ。
その結論が、ECN社をオイゲンに担当させておけば、自分を裏切ることはないということだった。
オイゲンが社にいない間、ECN社を統括していたのはテツヤ・ヘンミという男だったが、こちらの方が油断ならなかった。
妙に要領がよく、ハドリの監視下に置いたときにハドリが命じたことを自らの判断でアレンジして実施することがよくあった。
オイゲンはどちらかというとハドリの言ったことをそのまま実施する方であったから、その違いはハドリからすれば明確であった。
これがハドリからすれば油断ならないことであった。
自分の命じたことをロボットのようにそのまま実施するのは問題ない。
下手な悪知恵を働かせる能力がない分、ハドリとしてはコントロールしやすいからだ。
そういった面でオイゲンは、ハドリからすれば非常に扱いやすい人物だ。
一方、ヘンミは違う。
自分の判断で、仕事のやり方を変える。
こうした知恵が働く者は油断ならない。知らぬ間に毒を盛られる恐れもあるのだ。
また、オイゲンはハドリに対して少し萎縮している様子が見受けられるのだが、ヘンミにはどうも気取りが見える。それも気に入らない。
(あの男には裏がある……)
ハドリはそう考え、ヘンミを自らの監視下に置き、オイゲンをECN社に戻したのだ。
ヘンミは未だ自社に戻されていない。
OP社の電力事業部門の一担当者として、OP社本社に置いたままなのだ。
これであれば、ヘンミの一挙手一投足を把握できる。
ハドリの連絡を受けたオイゲンが社内に向けて「タブーなきエンジニア集団」との接触を禁止する通達を出した、とECN社に潜入させたOP社の従業員から連絡があった。
ハドリからすれば、オイゲンは傀儡として申し分のない人材であった。
ハドリの命じたことを迅速かつそのまま実行するだけの存在。
余計なことを考えず、命じたままに動くロボットであった。
しかし、ハドリが彼の腹の中を知ったとしたらどう思っただろうか?
そうした意味では、オイゲンは極めて危険な存在であった。
何故なら彼が推していたのはあくまでハドリが今、この世でもっとも憎悪している存在であり、その存在が率いている集団であったからだ。
更に彼は、もっとも信頼している腹心をハドリが憎悪している集団に送り込もうと画策していたのだ。
もし、ハドリが人の心を見通す目を持っていれば、即刻オイゲンは抹殺されたであろう。
しかし、ハドリとて全知全能ではなかった。
疑うべき人間を疑わず、逆に軽んじて警戒を緩めてしまっていることが、それを物語っている。
ハドリはECN社からの報告を受けた後、次の業務へと頭を切り替えた。
治安改革業務従事者の稼働率が七割程度であることを看過できなかったからだ。
残りの三割が動ける状態なら、問題は大きくない。
しかし、この殆どは療養中の者であり、即座に行動を起こせる訳ではなかった。
三割が動けないという状態はあってはならないことだ。
フジミ・タウンでの戦闘やジンでの小競り合いがあったとはいえ、これほどまでの多数が業務に従事できないというのは異常であるとしか言いようがない。
数字に疑いを抱いたハドリは療養中の者に関する資料を集めさせ、その内容を精査した。
療養を装って、治安改革業務から逃げ出す者がいるやも知れぬ。
最初に疑わしい療養者を洗い出し、部下に命じてその内容を徹底的に調査させた。
調査の結果、二〇〇名ほど病状や怪我の状況などを偽って療養していた者が判明し、ハドリから厳罰を受ける結果となった。
次に病状や怪我の程度が比較的軽い者を抽出し、ここに会社の資金を投入した。
金で治癒を早められる者については、金で解決すればよい。そのために、OP社は十分な資金を蓄えているのだ。
現在は非常時である。早急に戦力を整えなければ、敵に先を越される危険があるのだ。
ハドリは基本的に吝嗇な男ではある。
だが、これは常に資金や資源を出し渋るということを意味しない。
勝利するためであるならば、必要な投資を惜しむ愚を犯す真似は避けねばならない。
ハドリの復讐の準備は、着々と進んでいる。
この男に休息の時間はなかった。
目的を達するまでは、常に自ら動き、そして周りを動かし続けた。
勤勉という言葉とは多少印象が異なるが、怠惰とは縁がないことは限りなく事実に近かった。
ハドリは通信を通じて、ECN社社長のオイゲン・イナにそう命じた。
「……承知しました。そのように対処します」
オイゲンの返事にハドリは満足そうにうなずいた。
ハドリは、もっとも疑うべきこの男を何故か信用していた。
いや、信用していたというのは必ずしも正しくない。
この男に自分を裏切る度胸も能力もないと高をくくっていたのである。
言い方を変えれば、度胸と能力の無さに絶対の信頼を置いていたともいえる。
オイゲン・イナの人となりは、一年近く監視下で仕事をさせたことでハドリも十分把握しているつもりだ。
その結論が、ECN社をオイゲンに担当させておけば、自分を裏切ることはないということだった。
オイゲンが社にいない間、ECN社を統括していたのはテツヤ・ヘンミという男だったが、こちらの方が油断ならなかった。
妙に要領がよく、ハドリの監視下に置いたときにハドリが命じたことを自らの判断でアレンジして実施することがよくあった。
オイゲンはどちらかというとハドリの言ったことをそのまま実施する方であったから、その違いはハドリからすれば明確であった。
これがハドリからすれば油断ならないことであった。
自分の命じたことをロボットのようにそのまま実施するのは問題ない。
下手な悪知恵を働かせる能力がない分、ハドリとしてはコントロールしやすいからだ。
そういった面でオイゲンは、ハドリからすれば非常に扱いやすい人物だ。
一方、ヘンミは違う。
自分の判断で、仕事のやり方を変える。
こうした知恵が働く者は油断ならない。知らぬ間に毒を盛られる恐れもあるのだ。
また、オイゲンはハドリに対して少し萎縮している様子が見受けられるのだが、ヘンミにはどうも気取りが見える。それも気に入らない。
(あの男には裏がある……)
ハドリはそう考え、ヘンミを自らの監視下に置き、オイゲンをECN社に戻したのだ。
ヘンミは未だ自社に戻されていない。
OP社の電力事業部門の一担当者として、OP社本社に置いたままなのだ。
これであれば、ヘンミの一挙手一投足を把握できる。
ハドリの連絡を受けたオイゲンが社内に向けて「タブーなきエンジニア集団」との接触を禁止する通達を出した、とECN社に潜入させたOP社の従業員から連絡があった。
ハドリからすれば、オイゲンは傀儡として申し分のない人材であった。
ハドリの命じたことを迅速かつそのまま実行するだけの存在。
余計なことを考えず、命じたままに動くロボットであった。
しかし、ハドリが彼の腹の中を知ったとしたらどう思っただろうか?
そうした意味では、オイゲンは極めて危険な存在であった。
何故なら彼が推していたのはあくまでハドリが今、この世でもっとも憎悪している存在であり、その存在が率いている集団であったからだ。
更に彼は、もっとも信頼している腹心をハドリが憎悪している集団に送り込もうと画策していたのだ。
もし、ハドリが人の心を見通す目を持っていれば、即刻オイゲンは抹殺されたであろう。
しかし、ハドリとて全知全能ではなかった。
疑うべき人間を疑わず、逆に軽んじて警戒を緩めてしまっていることが、それを物語っている。
ハドリはECN社からの報告を受けた後、次の業務へと頭を切り替えた。
治安改革業務従事者の稼働率が七割程度であることを看過できなかったからだ。
残りの三割が動ける状態なら、問題は大きくない。
しかし、この殆どは療養中の者であり、即座に行動を起こせる訳ではなかった。
三割が動けないという状態はあってはならないことだ。
フジミ・タウンでの戦闘やジンでの小競り合いがあったとはいえ、これほどまでの多数が業務に従事できないというのは異常であるとしか言いようがない。
数字に疑いを抱いたハドリは療養中の者に関する資料を集めさせ、その内容を精査した。
療養を装って、治安改革業務から逃げ出す者がいるやも知れぬ。
最初に疑わしい療養者を洗い出し、部下に命じてその内容を徹底的に調査させた。
調査の結果、二〇〇名ほど病状や怪我の状況などを偽って療養していた者が判明し、ハドリから厳罰を受ける結果となった。
次に病状や怪我の程度が比較的軽い者を抽出し、ここに会社の資金を投入した。
金で治癒を早められる者については、金で解決すればよい。そのために、OP社は十分な資金を蓄えているのだ。
現在は非常時である。早急に戦力を整えなければ、敵に先を越される危険があるのだ。
ハドリは基本的に吝嗇な男ではある。
だが、これは常に資金や資源を出し渋るということを意味しない。
勝利するためであるならば、必要な投資を惜しむ愚を犯す真似は避けねばならない。
ハドリの復讐の準備は、着々と進んでいる。
この男に休息の時間はなかった。
目的を達するまでは、常に自ら動き、そして周りを動かし続けた。
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