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第六章
229:「OP社グループ労働者組合」結成
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惑星エクザロームに存在する唯一の陸地サブマリン島。インデストはその南部に位置する都市である。
鉄鉱石の採掘と材料への加工で成り立つこの都市は、サブマリン島第二の人口を誇る大都市でもある。
LH (ルナ・ヘヴンス暦)五一年一月二七日、この地に新たな団体が結成されようとしていた。
「おう、アカシ、準備はできたのか?」
気楽な調子で体格の良い青年に声をかけてきたのは、やや細身の男だった。
目元と輪郭の線が柔らかいせいか、優男のように見える。
しかし、彼は外見に似合わない低音の声と底を知らない熱い心を持っていた。
男の名はウォーリー・トワ。
流浪のエンジニア団体で現在はある企業が実施している治安改革活動への反対運動も併せて行っている「タブーなきエンジニア集団」の代表を務めている。
「オッケーです。時間になったら会見を始めます」
ウォーリーの言葉に答えたのは、OP社の関連会社で鉄鉱石の採掘に従事しているサン・アカシという若者だった。ウォーリーより四歳年少のニ六歳である。
「タブーなきエンジニア集団」の代表と敵対しているOP社の関連会社の社員が何故一緒にいるのだろうか……?
この疑問を解く鍵はアカシがOP社の関連会社の社員である、という点にある。
関連会社の社員はOP社本体の従業員よりもハドリに対する不満が大きい。
これは、OP社本体と比較してハドリが直接的に関わることが少ないことが影響している。
ハドリが直接関わった者は彼の恐ろしさをよく知っているから会社に所属したまま彼の意思に逆らおうすることが少ない。
その一方で関連会社の社員はハドリと直接的に関わることがほとんどないから、彼の恐ろしさも本体の従業員ほどは知らない。
だからこそ、こうしてハドリの意思に逆らってまでも、「タブーなきエンジニア集団」の者と結ぶことができるのだ。
アカシは、これからハドリの意思に反する発表を行おうとしている。
「時間になったら、ってもう会見の時間ですよ」
「タブーなきエンジニア集団」のメンバー、エリック・モトムラがアカシにそう告げた。
エリックはウォーリーの部下で、「タブーなきエンジニア集団」の技術の中核を支えている。
だが、今回は技術者としてではなく、ウォーリーの活動を手助けする立場として同行している。
しばしば日常のことが疎かになるウォーリーと異なり、エリックは日常のことを適切に処理できたから、ウォーリーをサポートすることが主な役割とならざるを得なかった。
「一〇分やそこら遅れたところで大した問題じゃないだろう、準備ができたら行けばいいじゃないか」
ウォーリーがエリックを制した。
エリックがそうですね、とうなずくと、それを合図にアカシが会見場へと向かった。
ウォーリーとエリックがその後を追う。
アカシが先に会見場へと入った。そして、中央に設けられた席に着く。
ウォーリーは会見場脇の控え室に待機している。
エリックは途中で二人と別れ、会見場の客席の一つに座っている。
会見場にはマスコミの関係者がニ〇名ほど来場している。
しかし、それ以上に多いのが「タブーなきエンジニア集団」のメンバーの数だった。
彼らはOP社の治安改革業務関係者からウォーリーやアカシを守るために配置されていた。
ウォーリーはこれに猛烈に反対したのだが、エリックが「マネージャーは大丈夫だと思いますが、アカシさんはちょっと心配ですから」としてウォーリーをなだめたのだ。
「……確かに奴はちょっとひ弱そうな気もするからな」
と言って、ウォーリーもしぶしぶ納得した。もっとも、体格を較べればウォーリーの方がだいぶ線が細いのだが。
会見場内に配置されたメンバーは皆、衣服の下に武器を隠していた。
露骨に武器を表に出すのは、マスコミに警戒心を与えると判断したからだった。
しかし、それでも会場内に緊張感は伝わっている。
「タブーなきエンジニア集団」のメンバーが発する空気が、会見の場に緊張の糸を張り巡らしているのだ。
LH五一年一月ニ七日午後一時一〇分過ぎ、会見は物々しい雰囲気の中、開始された。
アカシはあらかじめ用意した原稿を机に置いたが、ほとんどそれに目を向けることなく淡々と話し始めた。その顔は緊張と興奮とが絶妙なバランスで入り混じったものであった。
「……我々、オーシャン・パワース (OP)社関連会社の従業員四三名は、今日ここに、労働者組合を設立することを宣言すると共に、親会社であるオーシャン・パワース社の治安改革活動に反対することを表明します」
アカシの宣言に記者席からおおっと驚きの声があがった。
OP社では、従業員が徒党を組むことは規程で禁止された行為である。
マスコミ関係者もこのことをよく知っていたし、この規程に反した場合の処罰の厳しさも知っている。
敢えてOP社のこうした部分を批判する記事を発表するマスコミもある。
しかし、関連会社とはいえ、内部からこのような発表がなされるとは彼らですら予想できなかった。
更にマスコミ関係者を驚愕させたのは、アカシの次の発表だった。
「そして、我々OP社グループ労働者組合は、ある団体の活動を支持することを今日、ここに表明します」
そこまで言い終えるとアカシは控え室へと向かい、ドアを開けた。
「彼は?」「インデストに来ていたのか?!」
マスコミ関係者から次々に声があがった。
中から出てきたのは、マスコミ関係者もその顔をよく知っている人物であったからだ。
鉄鉱石の採掘と材料への加工で成り立つこの都市は、サブマリン島第二の人口を誇る大都市でもある。
LH (ルナ・ヘヴンス暦)五一年一月二七日、この地に新たな団体が結成されようとしていた。
「おう、アカシ、準備はできたのか?」
気楽な調子で体格の良い青年に声をかけてきたのは、やや細身の男だった。
目元と輪郭の線が柔らかいせいか、優男のように見える。
しかし、彼は外見に似合わない低音の声と底を知らない熱い心を持っていた。
男の名はウォーリー・トワ。
流浪のエンジニア団体で現在はある企業が実施している治安改革活動への反対運動も併せて行っている「タブーなきエンジニア集団」の代表を務めている。
「オッケーです。時間になったら会見を始めます」
ウォーリーの言葉に答えたのは、OP社の関連会社で鉄鉱石の採掘に従事しているサン・アカシという若者だった。ウォーリーより四歳年少のニ六歳である。
「タブーなきエンジニア集団」の代表と敵対しているOP社の関連会社の社員が何故一緒にいるのだろうか……?
この疑問を解く鍵はアカシがOP社の関連会社の社員である、という点にある。
関連会社の社員はOP社本体の従業員よりもハドリに対する不満が大きい。
これは、OP社本体と比較してハドリが直接的に関わることが少ないことが影響している。
ハドリが直接関わった者は彼の恐ろしさをよく知っているから会社に所属したまま彼の意思に逆らおうすることが少ない。
その一方で関連会社の社員はハドリと直接的に関わることがほとんどないから、彼の恐ろしさも本体の従業員ほどは知らない。
だからこそ、こうしてハドリの意思に逆らってまでも、「タブーなきエンジニア集団」の者と結ぶことができるのだ。
アカシは、これからハドリの意思に反する発表を行おうとしている。
「時間になったら、ってもう会見の時間ですよ」
「タブーなきエンジニア集団」のメンバー、エリック・モトムラがアカシにそう告げた。
エリックはウォーリーの部下で、「タブーなきエンジニア集団」の技術の中核を支えている。
だが、今回は技術者としてではなく、ウォーリーの活動を手助けする立場として同行している。
しばしば日常のことが疎かになるウォーリーと異なり、エリックは日常のことを適切に処理できたから、ウォーリーをサポートすることが主な役割とならざるを得なかった。
「一〇分やそこら遅れたところで大した問題じゃないだろう、準備ができたら行けばいいじゃないか」
ウォーリーがエリックを制した。
エリックがそうですね、とうなずくと、それを合図にアカシが会見場へと向かった。
ウォーリーとエリックがその後を追う。
アカシが先に会見場へと入った。そして、中央に設けられた席に着く。
ウォーリーは会見場脇の控え室に待機している。
エリックは途中で二人と別れ、会見場の客席の一つに座っている。
会見場にはマスコミの関係者がニ〇名ほど来場している。
しかし、それ以上に多いのが「タブーなきエンジニア集団」のメンバーの数だった。
彼らはOP社の治安改革業務関係者からウォーリーやアカシを守るために配置されていた。
ウォーリーはこれに猛烈に反対したのだが、エリックが「マネージャーは大丈夫だと思いますが、アカシさんはちょっと心配ですから」としてウォーリーをなだめたのだ。
「……確かに奴はちょっとひ弱そうな気もするからな」
と言って、ウォーリーもしぶしぶ納得した。もっとも、体格を較べればウォーリーの方がだいぶ線が細いのだが。
会見場内に配置されたメンバーは皆、衣服の下に武器を隠していた。
露骨に武器を表に出すのは、マスコミに警戒心を与えると判断したからだった。
しかし、それでも会場内に緊張感は伝わっている。
「タブーなきエンジニア集団」のメンバーが発する空気が、会見の場に緊張の糸を張り巡らしているのだ。
LH五一年一月ニ七日午後一時一〇分過ぎ、会見は物々しい雰囲気の中、開始された。
アカシはあらかじめ用意した原稿を机に置いたが、ほとんどそれに目を向けることなく淡々と話し始めた。その顔は緊張と興奮とが絶妙なバランスで入り混じったものであった。
「……我々、オーシャン・パワース (OP)社関連会社の従業員四三名は、今日ここに、労働者組合を設立することを宣言すると共に、親会社であるオーシャン・パワース社の治安改革活動に反対することを表明します」
アカシの宣言に記者席からおおっと驚きの声があがった。
OP社では、従業員が徒党を組むことは規程で禁止された行為である。
マスコミ関係者もこのことをよく知っていたし、この規程に反した場合の処罰の厳しさも知っている。
敢えてOP社のこうした部分を批判する記事を発表するマスコミもある。
しかし、関連会社とはいえ、内部からこのような発表がなされるとは彼らですら予想できなかった。
更にマスコミ関係者を驚愕させたのは、アカシの次の発表だった。
「そして、我々OP社グループ労働者組合は、ある団体の活動を支持することを今日、ここに表明します」
そこまで言い終えるとアカシは控え室へと向かい、ドアを開けた。
「彼は?」「インデストに来ていたのか?!」
マスコミ関係者から次々に声があがった。
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