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第五章
225:忌むべき存在
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OP社社長エイチ・ハドリの動きはウォーリーやミヤハラの想像を超えて迅速だった。
一月一〇日にフジミ・タウンを攻略した彼は大部分の部下をその場に残し、残務処理に当たらせた。その前に酒宴を開き、部下の功をねぎらった。
一方、ハドリは酒宴を途中で抜け出し、一部の部下と共にポータル・シティにある本社へと出発した。
そして、一月一四日の夕方には、本社へと戻っていたのである。
ハドリはフジミ・タウンの役場跡から持ち帰った耐衝撃ボックスを開けさせ、中味を確認した。
予想通り中味は数枚の記録チップであった。
ハドリはチップの記録内容を確認するため、自室へと篭った。
記録内容の確認中、一つの固有名詞がハドリの注意を引いた。
(……俺の母親の名前があるだと?! どういうことだ?)
ハドリは今後自分がよいというまでいかなる理由があろうとも、全ての連絡を遮断せよ、と総務部長に命じた。
チップには「フジミの大虐殺」が起こった背景や、周辺の人間関係が克明に記録されている。
記録自体はトイの手によるものではなかったようだが、その信憑性は高いと思われる。
ハドリの目は自分と同姓であるポータル・シティ海岸エリアの人名のところで止まった。
自分の姓が珍しいが希少性があるほどのものではないことは、ハドリ自身もよく知っている。このため、偶然の一致の可能性を考える方が自然だと思える。
しかし、この人名の周辺に「タブーなきエンジニア集団」の代表者と同姓の人名が度々登場することが引っかかった。
記録を読み進めていくうちにハドリの目を引いた「マサヨシ・ハドリ」という人物が、ハドリ家の婿養子であることが判明した。
そして、婿入りする前の姓が「カワチ」だったことを知った。これはハドリの母の旧姓と同じである。
ハドリは更に興味をひかれ、不眠不休で記録を読み進めた。
そして一月一九日、ハドリは、驚愕の事実を知ることになる。
件のマサヨシ・ハドリが、自身の母親の叔父であったのだ。
それどころか、姪であるハドリの母親に手を出し、隠し子までいるという。
(何という卑劣漢だ!
自分の姪を連れて駆け落ちするにとどまらず、俺の母親の純潔を踏みにじっただと?
この男、許すまじ!)
この時点でハドリが知ったのは、あくまでもマサヨシ・ハドリがハドリの母親の叔父であり二人の間に子供がいる、というところまでである。
彼が手にしていた資料はマサヨシ・ハドリを中心にした記録であった。その姪については、それほど詳細な記述があったわけではない。
ハドリの母サトミとその叔父の関係について詳細な記述があれば、ハドリは自らの出生を大いに疑ったであろう。
ハドリはLH一九年八月の生まれである。
そして、母サトミとその叔父が離れ離れになったのは、サブマリン島を放浪している時期、すなわちLH十九年の一月下旬から五月までの間だ。
ハドリの誕生日から逆算すれば、彼の父親が忌むべき母の叔父である可能性がある。
事実はそうではなかったが、むしろ事実よりもこの仮説の方が説得力を有していると思われて仕方がない状況だ。
ハドリは資料をいったん閉じてから部下を呼びつけ、この母の叔父の墓所を探させた。
翌日に墓所が判明するとハドリは一人でその場に赴き、墓を暴いた。
そして骨壷を手にすると、中の骨を全て海へとぶちまけた。
ハドリにとって、この母の叔父の存在は許されるものではなかった。
墓の中でのうのうと眠っているなど、もってのほかである。
卑劣漢にはそれにふさわしい居場所がある。
だから彼は墓所を暴き、卑劣漢にふさわしい無様な姿を曝すようにしたのだった。
ハドリが自室にこもっている間にミヤハラが率いる「タブーなきエンジニア集団」の部隊がジン市内にある全ての治安改革センターからOP社の職員を追放するという事件があった。
しかし、ハドリの怒りを買うことを恐れたOP社の従業員は、誰もこのことをハドリに知らせにいくことができなかった。
ハドリは更に記録を読み進めていった。
彼が忌み嫌う母の叔父の血が自身に流れていることを否定するためだ。
(やはりあの卑劣漢め、後になって俺の母親に相手にされなくなったと見える。当然の結果だが……)
更に記録を読み進めて、ハドリはこの母親の叔父が自分の父親でないと確証を得ることができた。
記録には母の叔父がハドリの母に産ませた子は宇宙ステーション「ルナ・ヘヴンス」内で誕生した女児一人である、とあった。
また、「ルナ・ヘヴンス」がエクザロームに不時着する一年以上前から母がその叔父を避けるようになったということも記されていたためであった。
それでも母に隠し子がいるなどという事実をハドリが認めることなどできない。
そのような者がいるならば、ハドリ自身の手で葬り去るつもりだ。
(どこに隠れている?! 俺は絶対に貴様の存在を認めん!)
ハドリは鬼気迫る表情で記録を読み進めていく。
部屋の中に誰も入るなと厳命しているため、ハドリの部屋にあえて入り込もうとする者はいない。
ハドリの怨念は部屋の外でも感じられたらしく、彼の部屋のあるフロアを通った従業員は、その圧力に身体を押しつぶされるような感覚を覚えたという。
母の叔父が母を陵辱してできた子という存在をハドリは看過することができなかった。
事実はかなり異なるのだが、彼にはこの隠し子がそうした存在にしか見えなかったのだ。
記録を読み進めること数日、ついにこの隠し子の消息を知るときがきた。
フローレンスと名づけられたその娘は、二〇年ほど前に卑劣漢の叔父によって事故を装って殺害されたようだ。
あの卑劣漢がやりそうなことだ!
ハドリの母の叔父に対する憎悪は更に深まった。
屍を海に捨てるくらいでは手ぬるかったかも知れぬ。
しかし、更に驚愕すべき事実が記録されていたのである。
卑しい母の叔父の血を引いた娘はこの世に無かった。
しかし、この娘には子供がいたのだ。
娘の名前はフローレンス・トワ。
そして、この娘の子供はウォーリーという名である。
「……ウォーリー・トワ、だと? あの小ざかしい奴が、か?!」
ハドリの腹は煮えくり返り、血管という血管ですべて血が沸騰するかのような感覚が彼を襲う。
体内の燃えさかるマグマは今、まさに噴火の時を迎え、周りの全てを焼き尽くすかのように思われた。
自らの活動にことごとく反対し、邪魔をする反逆者!
「タブーなきエンジニア集団」なるECN社の落ちこぼれ集団の代表を僭称する小ざかしい男!
そして、忌まわしい卑劣漢の血を引く者!
母の純潔を散らした男の末裔!
命ある限り、地の果てまでも追い詰めて断罪する!
ハドリの拳は強く握られ、その強さがゆえに細かく震えていた。
ハドリは自分に言い聞かせる。
(落ち着け……冷静さを欠けば卑怯者に裏をかかれる)
辛うじて冷静さを取り戻すと、彼は総務部長に連絡の遮断を解除するよう命じた。
一月一〇日にフジミ・タウンを攻略した彼は大部分の部下をその場に残し、残務処理に当たらせた。その前に酒宴を開き、部下の功をねぎらった。
一方、ハドリは酒宴を途中で抜け出し、一部の部下と共にポータル・シティにある本社へと出発した。
そして、一月一四日の夕方には、本社へと戻っていたのである。
ハドリはフジミ・タウンの役場跡から持ち帰った耐衝撃ボックスを開けさせ、中味を確認した。
予想通り中味は数枚の記録チップであった。
ハドリはチップの記録内容を確認するため、自室へと篭った。
記録内容の確認中、一つの固有名詞がハドリの注意を引いた。
(……俺の母親の名前があるだと?! どういうことだ?)
ハドリは今後自分がよいというまでいかなる理由があろうとも、全ての連絡を遮断せよ、と総務部長に命じた。
チップには「フジミの大虐殺」が起こった背景や、周辺の人間関係が克明に記録されている。
記録自体はトイの手によるものではなかったようだが、その信憑性は高いと思われる。
ハドリの目は自分と同姓であるポータル・シティ海岸エリアの人名のところで止まった。
自分の姓が珍しいが希少性があるほどのものではないことは、ハドリ自身もよく知っている。このため、偶然の一致の可能性を考える方が自然だと思える。
しかし、この人名の周辺に「タブーなきエンジニア集団」の代表者と同姓の人名が度々登場することが引っかかった。
記録を読み進めていくうちにハドリの目を引いた「マサヨシ・ハドリ」という人物が、ハドリ家の婿養子であることが判明した。
そして、婿入りする前の姓が「カワチ」だったことを知った。これはハドリの母の旧姓と同じである。
ハドリは更に興味をひかれ、不眠不休で記録を読み進めた。
そして一月一九日、ハドリは、驚愕の事実を知ることになる。
件のマサヨシ・ハドリが、自身の母親の叔父であったのだ。
それどころか、姪であるハドリの母親に手を出し、隠し子までいるという。
(何という卑劣漢だ!
自分の姪を連れて駆け落ちするにとどまらず、俺の母親の純潔を踏みにじっただと?
この男、許すまじ!)
この時点でハドリが知ったのは、あくまでもマサヨシ・ハドリがハドリの母親の叔父であり二人の間に子供がいる、というところまでである。
彼が手にしていた資料はマサヨシ・ハドリを中心にした記録であった。その姪については、それほど詳細な記述があったわけではない。
ハドリの母サトミとその叔父の関係について詳細な記述があれば、ハドリは自らの出生を大いに疑ったであろう。
ハドリはLH一九年八月の生まれである。
そして、母サトミとその叔父が離れ離れになったのは、サブマリン島を放浪している時期、すなわちLH十九年の一月下旬から五月までの間だ。
ハドリの誕生日から逆算すれば、彼の父親が忌むべき母の叔父である可能性がある。
事実はそうではなかったが、むしろ事実よりもこの仮説の方が説得力を有していると思われて仕方がない状況だ。
ハドリは資料をいったん閉じてから部下を呼びつけ、この母の叔父の墓所を探させた。
翌日に墓所が判明するとハドリは一人でその場に赴き、墓を暴いた。
そして骨壷を手にすると、中の骨を全て海へとぶちまけた。
ハドリにとって、この母の叔父の存在は許されるものではなかった。
墓の中でのうのうと眠っているなど、もってのほかである。
卑劣漢にはそれにふさわしい居場所がある。
だから彼は墓所を暴き、卑劣漢にふさわしい無様な姿を曝すようにしたのだった。
ハドリが自室にこもっている間にミヤハラが率いる「タブーなきエンジニア集団」の部隊がジン市内にある全ての治安改革センターからOP社の職員を追放するという事件があった。
しかし、ハドリの怒りを買うことを恐れたOP社の従業員は、誰もこのことをハドリに知らせにいくことができなかった。
ハドリは更に記録を読み進めていった。
彼が忌み嫌う母の叔父の血が自身に流れていることを否定するためだ。
(やはりあの卑劣漢め、後になって俺の母親に相手にされなくなったと見える。当然の結果だが……)
更に記録を読み進めて、ハドリはこの母親の叔父が自分の父親でないと確証を得ることができた。
記録には母の叔父がハドリの母に産ませた子は宇宙ステーション「ルナ・ヘヴンス」内で誕生した女児一人である、とあった。
また、「ルナ・ヘヴンス」がエクザロームに不時着する一年以上前から母がその叔父を避けるようになったということも記されていたためであった。
それでも母に隠し子がいるなどという事実をハドリが認めることなどできない。
そのような者がいるならば、ハドリ自身の手で葬り去るつもりだ。
(どこに隠れている?! 俺は絶対に貴様の存在を認めん!)
ハドリは鬼気迫る表情で記録を読み進めていく。
部屋の中に誰も入るなと厳命しているため、ハドリの部屋にあえて入り込もうとする者はいない。
ハドリの怨念は部屋の外でも感じられたらしく、彼の部屋のあるフロアを通った従業員は、その圧力に身体を押しつぶされるような感覚を覚えたという。
母の叔父が母を陵辱してできた子という存在をハドリは看過することができなかった。
事実はかなり異なるのだが、彼にはこの隠し子がそうした存在にしか見えなかったのだ。
記録を読み進めること数日、ついにこの隠し子の消息を知るときがきた。
フローレンスと名づけられたその娘は、二〇年ほど前に卑劣漢の叔父によって事故を装って殺害されたようだ。
あの卑劣漢がやりそうなことだ!
ハドリの母の叔父に対する憎悪は更に深まった。
屍を海に捨てるくらいでは手ぬるかったかも知れぬ。
しかし、更に驚愕すべき事実が記録されていたのである。
卑しい母の叔父の血を引いた娘はこの世に無かった。
しかし、この娘には子供がいたのだ。
娘の名前はフローレンス・トワ。
そして、この娘の子供はウォーリーという名である。
「……ウォーリー・トワ、だと? あの小ざかしい奴が、か?!」
ハドリの腹は煮えくり返り、血管という血管ですべて血が沸騰するかのような感覚が彼を襲う。
体内の燃えさかるマグマは今、まさに噴火の時を迎え、周りの全てを焼き尽くすかのように思われた。
自らの活動にことごとく反対し、邪魔をする反逆者!
「タブーなきエンジニア集団」なるECN社の落ちこぼれ集団の代表を僭称する小ざかしい男!
そして、忌まわしい卑劣漢の血を引く者!
母の純潔を散らした男の末裔!
命ある限り、地の果てまでも追い詰めて断罪する!
ハドリの拳は強く握られ、その強さがゆえに細かく震えていた。
ハドリは自分に言い聞かせる。
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