230 / 436
第五章
224:「タブーなきエンジニア集団」、インデストに拠点を得る
しおりを挟む
「ところで、隠れ家とかはどうしてるんですかね?」
アカシから問われて、ウォーリーは市内の短期滞在マンションや宿に分散して宿泊していると答えた。臨時労働者の多いインデストには、この手の施設が多い。
アカシはその答えを聞いて、彼らの集会場の提供を申し出た。
インデストは過去に観光事業に力を入れていたことがあり、その時期に作られた宿泊施設で使われずに放置されているものがある。
その一つをアカシは集会場として利用しているのだという。
「こういった建物はここには多いですからね。治安改革センターの連中もいちいち調査できないのですわ、わはは」
アカシは大口を開けて笑った。その表情はOP社治安改革センターの穴をあざ笑っているかのようにも見える。
彼の話によると、OP社の治安改革センターは鉄鉱石の採掘場周辺に集中しているらしい。
観光施設周辺は採掘場とはちょうど反対側のエリアになり、住民も少ないから治安改革センターが存在しないという。
「悪いな。うちのメンバーの何人かはそこを使わせてもらおう」
ウォーリーはアカシの申し出を受諾し、一〇人ほどの仲間と共にアカシが提供した集会場に滞在することとした。他の仲間は市内各所に留めたままにしている。
集会場では毎日のように討議が続けられた。
事前調査とアカシらの情報からインデスト市内には全部でニ〇個所の治安改革センターがあることがわかった。
こちら側はウォーリーが引き連れた人員とアカシの仲間を合わせても一〇〇人に満たない。
いくらウォーリーでもこの人数で市内全ての治安改革センターを占拠できるとは思っていなかった。
ミヤハラやサクライは約一〇〇名で一つの治安改革センターを占拠しているのだ。
彼らに倣うのであれば、今のインデストの戦力では治安改革センター一つを占拠できるかどうかも怪しい。
数という面ではアカシのようにハドリのやり方に不満を持つOP社やその関連会社の従業員は少なくない。
ただ、行動を起こせる者はそれほど多くない、というのがインデストを訪れてウォーリーが持った印象である。
行動を起こす気概を持った者は「退職」というカードを用いて、ハドリのもとから去っている。
アカシの話によれば、カードを切った中にOP社の正規従業員であったジン・ヌマタという若手がいたらしい。
アカシより二つ年下だそうだが、鉄鉱石を採掘する関連会社群の管理責任者をしていたほど有能な者だという。
しかし、曲がったことの嫌いな性格でたびたび本社と衝突していたことが災いした。
テレビ会議の度にハドリから理不尽なほどの攻撃を受け、一作業員に降格させられたのだった。
それでも本社との衝突を続け治安改革活動にも反対を唱えていたのだが、昨年の初夏にOP社を辞し、いずこかへと去ったという。
「……彼がいれば、もう少し人を集められたと思う」
アカシの言葉にウォーリーはすぐに動いた。
ミヤハラと連絡を取り、ジン・ヌマタの捜索と「タブーなきエンジニア集団」へのスカウトを指示したのだ。
結局ウォーリーは治安改革センターの占拠を諦めた。味方の人数が少なすぎるためであった。
その代わりアカシの活動であるOP社関連会社の労働者組合の結成を支持し、この活動に協力することを決めた。これが一月一三日のことである。
労働者組合の結成を二週間後に発表することとし、その準備をしている最中、ミヤハラから作戦成功の報が飛び込んできたのだ。
「それにしても、市民運動的で悪くはないのでしょうけど、何かしっくりこないものがありますね」
ウォーリーに同行していた者の一人がそうつぶやくと、ウォーリーが激昂した。
「おい、頑張っている連中のことを悪く言うんじゃない! ハドリのような武断的なやり方より遥かにいいじゃないか!」
ウォーリーの反応に驚いたのか、発言の主は慌てて自説を引っ込めた。
「お前らなぁ、少しは発言に気を遣えよ」
ウォーリーはそう注意したが、彼をよく知る者なら苦笑しただろう。
ECN社で若手と呼ばれていた頃、彼が注意されるときにもっとも多く使われた言葉を彼自身が発したのだから。
ウォーリーは携帯端末片手に今後の予定を確認する。
ミヤハラとサクライはうまくやった。
OP社はまだフジミ・タウンに張り付いているが、いずれ一戦や二戦交えることになるだろう。
既に賽は投げられたのだ。
楽観主義のウォーリーとて、ハドリがこのまま大人しく引き下がるとは思わない。
ハドリが来襲するまで一人でも彼にノーを突きつける市民を育て上げなければならない。
そのための労を惜しむつもりは、ウォーリーになかった。
リスク管理研究所の動きが掴めていないが、ハモネスとチクハ・タウンでの決起は期待していいだろう。所長は若くしてECN社の経営企画室副室長まで到達した人間だ。人間的に問題を抱えているようには見えるが、その程度の能力は持っているとウォーリーは確信している。
「いよいよ始まるな……」
ウォーリーは覚悟を決め、いずれ訪れるであろうハドリとの対決に備えるのだった。
アカシから問われて、ウォーリーは市内の短期滞在マンションや宿に分散して宿泊していると答えた。臨時労働者の多いインデストには、この手の施設が多い。
アカシはその答えを聞いて、彼らの集会場の提供を申し出た。
インデストは過去に観光事業に力を入れていたことがあり、その時期に作られた宿泊施設で使われずに放置されているものがある。
その一つをアカシは集会場として利用しているのだという。
「こういった建物はここには多いですからね。治安改革センターの連中もいちいち調査できないのですわ、わはは」
アカシは大口を開けて笑った。その表情はOP社治安改革センターの穴をあざ笑っているかのようにも見える。
彼の話によると、OP社の治安改革センターは鉄鉱石の採掘場周辺に集中しているらしい。
観光施設周辺は採掘場とはちょうど反対側のエリアになり、住民も少ないから治安改革センターが存在しないという。
「悪いな。うちのメンバーの何人かはそこを使わせてもらおう」
ウォーリーはアカシの申し出を受諾し、一〇人ほどの仲間と共にアカシが提供した集会場に滞在することとした。他の仲間は市内各所に留めたままにしている。
集会場では毎日のように討議が続けられた。
事前調査とアカシらの情報からインデスト市内には全部でニ〇個所の治安改革センターがあることがわかった。
こちら側はウォーリーが引き連れた人員とアカシの仲間を合わせても一〇〇人に満たない。
いくらウォーリーでもこの人数で市内全ての治安改革センターを占拠できるとは思っていなかった。
ミヤハラやサクライは約一〇〇名で一つの治安改革センターを占拠しているのだ。
彼らに倣うのであれば、今のインデストの戦力では治安改革センター一つを占拠できるかどうかも怪しい。
数という面ではアカシのようにハドリのやり方に不満を持つOP社やその関連会社の従業員は少なくない。
ただ、行動を起こせる者はそれほど多くない、というのがインデストを訪れてウォーリーが持った印象である。
行動を起こす気概を持った者は「退職」というカードを用いて、ハドリのもとから去っている。
アカシの話によれば、カードを切った中にOP社の正規従業員であったジン・ヌマタという若手がいたらしい。
アカシより二つ年下だそうだが、鉄鉱石を採掘する関連会社群の管理責任者をしていたほど有能な者だという。
しかし、曲がったことの嫌いな性格でたびたび本社と衝突していたことが災いした。
テレビ会議の度にハドリから理不尽なほどの攻撃を受け、一作業員に降格させられたのだった。
それでも本社との衝突を続け治安改革活動にも反対を唱えていたのだが、昨年の初夏にOP社を辞し、いずこかへと去ったという。
「……彼がいれば、もう少し人を集められたと思う」
アカシの言葉にウォーリーはすぐに動いた。
ミヤハラと連絡を取り、ジン・ヌマタの捜索と「タブーなきエンジニア集団」へのスカウトを指示したのだ。
結局ウォーリーは治安改革センターの占拠を諦めた。味方の人数が少なすぎるためであった。
その代わりアカシの活動であるOP社関連会社の労働者組合の結成を支持し、この活動に協力することを決めた。これが一月一三日のことである。
労働者組合の結成を二週間後に発表することとし、その準備をしている最中、ミヤハラから作戦成功の報が飛び込んできたのだ。
「それにしても、市民運動的で悪くはないのでしょうけど、何かしっくりこないものがありますね」
ウォーリーに同行していた者の一人がそうつぶやくと、ウォーリーが激昂した。
「おい、頑張っている連中のことを悪く言うんじゃない! ハドリのような武断的なやり方より遥かにいいじゃないか!」
ウォーリーの反応に驚いたのか、発言の主は慌てて自説を引っ込めた。
「お前らなぁ、少しは発言に気を遣えよ」
ウォーリーはそう注意したが、彼をよく知る者なら苦笑しただろう。
ECN社で若手と呼ばれていた頃、彼が注意されるときにもっとも多く使われた言葉を彼自身が発したのだから。
ウォーリーは携帯端末片手に今後の予定を確認する。
ミヤハラとサクライはうまくやった。
OP社はまだフジミ・タウンに張り付いているが、いずれ一戦や二戦交えることになるだろう。
既に賽は投げられたのだ。
楽観主義のウォーリーとて、ハドリがこのまま大人しく引き下がるとは思わない。
ハドリが来襲するまで一人でも彼にノーを突きつける市民を育て上げなければならない。
そのための労を惜しむつもりは、ウォーリーになかった。
リスク管理研究所の動きが掴めていないが、ハモネスとチクハ・タウンでの決起は期待していいだろう。所長は若くしてECN社の経営企画室副室長まで到達した人間だ。人間的に問題を抱えているようには見えるが、その程度の能力は持っているとウォーリーは確信している。
「いよいよ始まるな……」
ウォーリーは覚悟を決め、いずれ訪れるであろうハドリとの対決に備えるのだった。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり
柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日――
東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。
中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。
彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。
無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。
政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。
「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる