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第五章
224:「タブーなきエンジニア集団」、インデストに拠点を得る
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「ところで、隠れ家とかはどうしてるんですかね?」
アカシから問われて、ウォーリーは市内の短期滞在マンションや宿に分散して宿泊していると答えた。臨時労働者の多いインデストには、この手の施設が多い。
アカシはその答えを聞いて、彼らの集会場の提供を申し出た。
インデストは過去に観光事業に力を入れていたことがあり、その時期に作られた宿泊施設で使われずに放置されているものがある。
その一つをアカシは集会場として利用しているのだという。
「こういった建物はここには多いですからね。治安改革センターの連中もいちいち調査できないのですわ、わはは」
アカシは大口を開けて笑った。その表情はOP社治安改革センターの穴をあざ笑っているかのようにも見える。
彼の話によると、OP社の治安改革センターは鉄鉱石の採掘場周辺に集中しているらしい。
観光施設周辺は採掘場とはちょうど反対側のエリアになり、住民も少ないから治安改革センターが存在しないという。
「悪いな。うちのメンバーの何人かはそこを使わせてもらおう」
ウォーリーはアカシの申し出を受諾し、一〇人ほどの仲間と共にアカシが提供した集会場に滞在することとした。他の仲間は市内各所に留めたままにしている。
集会場では毎日のように討議が続けられた。
事前調査とアカシらの情報からインデスト市内には全部でニ〇個所の治安改革センターがあることがわかった。
こちら側はウォーリーが引き連れた人員とアカシの仲間を合わせても一〇〇人に満たない。
いくらウォーリーでもこの人数で市内全ての治安改革センターを占拠できるとは思っていなかった。
ミヤハラやサクライは約一〇〇名で一つの治安改革センターを占拠しているのだ。
彼らに倣うのであれば、今のインデストの戦力では治安改革センター一つを占拠できるかどうかも怪しい。
数という面ではアカシのようにハドリのやり方に不満を持つOP社やその関連会社の従業員は少なくない。
ただ、行動を起こせる者はそれほど多くない、というのがインデストを訪れてウォーリーが持った印象である。
行動を起こす気概を持った者は「退職」というカードを用いて、ハドリのもとから去っている。
アカシの話によれば、カードを切った中にOP社の正規従業員であったジン・ヌマタという若手がいたらしい。
アカシより二つ年下だそうだが、鉄鉱石を採掘する関連会社群の管理責任者をしていたほど有能な者だという。
しかし、曲がったことの嫌いな性格でたびたび本社と衝突していたことが災いした。
テレビ会議の度にハドリから理不尽なほどの攻撃を受け、一作業員に降格させられたのだった。
それでも本社との衝突を続け治安改革活動にも反対を唱えていたのだが、昨年の初夏にOP社を辞し、いずこかへと去ったという。
「……彼がいれば、もう少し人を集められたと思う」
アカシの言葉にウォーリーはすぐに動いた。
ミヤハラと連絡を取り、ジン・ヌマタの捜索と「タブーなきエンジニア集団」へのスカウトを指示したのだ。
結局ウォーリーは治安改革センターの占拠を諦めた。味方の人数が少なすぎるためであった。
その代わりアカシの活動であるOP社関連会社の労働者組合の結成を支持し、この活動に協力することを決めた。これが一月一三日のことである。
労働者組合の結成を二週間後に発表することとし、その準備をしている最中、ミヤハラから作戦成功の報が飛び込んできたのだ。
「それにしても、市民運動的で悪くはないのでしょうけど、何かしっくりこないものがありますね」
ウォーリーに同行していた者の一人がそうつぶやくと、ウォーリーが激昂した。
「おい、頑張っている連中のことを悪く言うんじゃない! ハドリのような武断的なやり方より遥かにいいじゃないか!」
ウォーリーの反応に驚いたのか、発言の主は慌てて自説を引っ込めた。
「お前らなぁ、少しは発言に気を遣えよ」
ウォーリーはそう注意したが、彼をよく知る者なら苦笑しただろう。
ECN社で若手と呼ばれていた頃、彼が注意されるときにもっとも多く使われた言葉を彼自身が発したのだから。
ウォーリーは携帯端末片手に今後の予定を確認する。
ミヤハラとサクライはうまくやった。
OP社はまだフジミ・タウンに張り付いているが、いずれ一戦や二戦交えることになるだろう。
既に賽は投げられたのだ。
楽観主義のウォーリーとて、ハドリがこのまま大人しく引き下がるとは思わない。
ハドリが来襲するまで一人でも彼にノーを突きつける市民を育て上げなければならない。
そのための労を惜しむつもりは、ウォーリーになかった。
リスク管理研究所の動きが掴めていないが、ハモネスとチクハ・タウンでの決起は期待していいだろう。所長は若くしてECN社の経営企画室副室長まで到達した人間だ。人間的に問題を抱えているようには見えるが、その程度の能力は持っているとウォーリーは確信している。
「いよいよ始まるな……」
ウォーリーは覚悟を決め、いずれ訪れるであろうハドリとの対決に備えるのだった。
アカシから問われて、ウォーリーは市内の短期滞在マンションや宿に分散して宿泊していると答えた。臨時労働者の多いインデストには、この手の施設が多い。
アカシはその答えを聞いて、彼らの集会場の提供を申し出た。
インデストは過去に観光事業に力を入れていたことがあり、その時期に作られた宿泊施設で使われずに放置されているものがある。
その一つをアカシは集会場として利用しているのだという。
「こういった建物はここには多いですからね。治安改革センターの連中もいちいち調査できないのですわ、わはは」
アカシは大口を開けて笑った。その表情はOP社治安改革センターの穴をあざ笑っているかのようにも見える。
彼の話によると、OP社の治安改革センターは鉄鉱石の採掘場周辺に集中しているらしい。
観光施設周辺は採掘場とはちょうど反対側のエリアになり、住民も少ないから治安改革センターが存在しないという。
「悪いな。うちのメンバーの何人かはそこを使わせてもらおう」
ウォーリーはアカシの申し出を受諾し、一〇人ほどの仲間と共にアカシが提供した集会場に滞在することとした。他の仲間は市内各所に留めたままにしている。
集会場では毎日のように討議が続けられた。
事前調査とアカシらの情報からインデスト市内には全部でニ〇個所の治安改革センターがあることがわかった。
こちら側はウォーリーが引き連れた人員とアカシの仲間を合わせても一〇〇人に満たない。
いくらウォーリーでもこの人数で市内全ての治安改革センターを占拠できるとは思っていなかった。
ミヤハラやサクライは約一〇〇名で一つの治安改革センターを占拠しているのだ。
彼らに倣うのであれば、今のインデストの戦力では治安改革センター一つを占拠できるかどうかも怪しい。
数という面ではアカシのようにハドリのやり方に不満を持つOP社やその関連会社の従業員は少なくない。
ただ、行動を起こせる者はそれほど多くない、というのがインデストを訪れてウォーリーが持った印象である。
行動を起こす気概を持った者は「退職」というカードを用いて、ハドリのもとから去っている。
アカシの話によれば、カードを切った中にOP社の正規従業員であったジン・ヌマタという若手がいたらしい。
アカシより二つ年下だそうだが、鉄鉱石を採掘する関連会社群の管理責任者をしていたほど有能な者だという。
しかし、曲がったことの嫌いな性格でたびたび本社と衝突していたことが災いした。
テレビ会議の度にハドリから理不尽なほどの攻撃を受け、一作業員に降格させられたのだった。
それでも本社との衝突を続け治安改革活動にも反対を唱えていたのだが、昨年の初夏にOP社を辞し、いずこかへと去ったという。
「……彼がいれば、もう少し人を集められたと思う」
アカシの言葉にウォーリーはすぐに動いた。
ミヤハラと連絡を取り、ジン・ヌマタの捜索と「タブーなきエンジニア集団」へのスカウトを指示したのだ。
結局ウォーリーは治安改革センターの占拠を諦めた。味方の人数が少なすぎるためであった。
その代わりアカシの活動であるOP社関連会社の労働者組合の結成を支持し、この活動に協力することを決めた。これが一月一三日のことである。
労働者組合の結成を二週間後に発表することとし、その準備をしている最中、ミヤハラから作戦成功の報が飛び込んできたのだ。
「それにしても、市民運動的で悪くはないのでしょうけど、何かしっくりこないものがありますね」
ウォーリーに同行していた者の一人がそうつぶやくと、ウォーリーが激昂した。
「おい、頑張っている連中のことを悪く言うんじゃない! ハドリのような武断的なやり方より遥かにいいじゃないか!」
ウォーリーの反応に驚いたのか、発言の主は慌てて自説を引っ込めた。
「お前らなぁ、少しは発言に気を遣えよ」
ウォーリーはそう注意したが、彼をよく知る者なら苦笑しただろう。
ECN社で若手と呼ばれていた頃、彼が注意されるときにもっとも多く使われた言葉を彼自身が発したのだから。
ウォーリーは携帯端末片手に今後の予定を確認する。
ミヤハラとサクライはうまくやった。
OP社はまだフジミ・タウンに張り付いているが、いずれ一戦や二戦交えることになるだろう。
既に賽は投げられたのだ。
楽観主義のウォーリーとて、ハドリがこのまま大人しく引き下がるとは思わない。
ハドリが来襲するまで一人でも彼にノーを突きつける市民を育て上げなければならない。
そのための労を惜しむつもりは、ウォーリーになかった。
リスク管理研究所の動きが掴めていないが、ハモネスとチクハ・タウンでの決起は期待していいだろう。所長は若くしてECN社の経営企画室副室長まで到達した人間だ。人間的に問題を抱えているようには見えるが、その程度の能力は持っているとウォーリーは確信している。
「いよいよ始まるな……」
ウォーリーは覚悟を決め、いずれ訪れるであろうハドリとの対決に備えるのだった。
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