ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

文字の大きさ
上 下
229 / 436
第五章

223:「タブーなきエンジニア集団」、新たな協力者を得る

しおりを挟む
 ミヤハラ率いるチームがジンで六箇所の治安改革センターを占拠するのに成功したという報はウォーリーにもすぐに伝えられた。

 連絡を受けたウォーリーは、
「おっ、ミヤハラがやってくれたか。まあ、当然だな」
 と結果に満足している様子だった。

 ウォーリーは五〇人ほどの仲間を引き連れ既にジンから遠く離れたインデストに潜入していた。
 インデストでの彼の活動は既に一月になろうとしている。
 現在、ウォーリーは鉄鉱石の採掘場で働く労働者を対象に「タブーなきエンジニア集団」への支持を呼びかけていた。

 ウォーリーとエリックはインデストに潜入してからすぐに居酒屋へ通いOP社に関する情報を集めた。
 エリックはともかくウォーリーは面が割れているはずなのだが、周囲の反対をよそに「正々堂々としていればかえって気づかれないものさ」と言って変装もせずに足しげく居酒屋へと通ったものだ。
 もっとも、サクライあたりがいれば「マネージャーは単に酒好きなだけだ」と一蹴しただろうが。

 採掘場はOP社が運営しているものであり、ウォーリーたちの活動がハドリに筒抜けになる可能性が高い。
 敢えて採掘場の労働者を対象に選択したのは、彼らの多くがOP社の正規従業員ではなく、関連会社の者であったからだった。
 彼らの待遇はOP社本体の従業員と比較してかなり悪い。
 居酒屋でもそういった不満は数多く聞かれた。
 その中でウォーリーが目をつけたのは、労働者を結束させて団体を作ろうとしていたグループだった。
 ウォーリーは無謀にも身分を明かして彼らと接触したのだ。今から一〇日ほど前のことである。
 同席していたエリックからすれば、肝が冷えるような行為だったが、ウォーリーは気にしない。
 相手方はウォーリーのことを知っていた。下手をすれば治安改革センターなどに密告されて拘束される可能性もあったが、ウォーリーは心配要らないとエリックをたしなめたくらいだ。
 (OP社に不満を持っている者同士、話せば理解してもらえる)
 と気楽に考えていたからだ。

 また、相手方にもウォーリーを治安改革センターに突き出そういう考えはなかった。
 居酒屋での会話を知られれば、彼らにも累が及ぶからだった。

 OP社は関連会社を含めて、従業員が徒党を組むことを認めていない。
 これに反すれば海洋調査隊送りになる可能性があるくらい、ハドリが忌み嫌っている行為である。

 ウォーリーはとエリックは、「リスク管理研究所」が作成した資料などを提示し、今の治安改革活動によるOP社の企業活動への影響などを説明した。

「俺たち『タブーなきエンジニア集団』は、あんたらのところの社長が司法警察権を手放して正々堂々事業で競うことができれば言うことは無いのだが」
 ウォーリーの思いは相手方にもある程度理解されたようだ。
 元来がオープンマインドな人間である。
 それは相手方にも容易に理解できるようで、ウォーリーの言葉に疑念を持つ者はいなかった。
 ウォーリーが「人たらし」といわれる所以かも知れない。

 予想はしていたことであったが、相手方もOP社の治安改革活動には大いに不満を持っていた。
 関連会社の従業員の動向も治安改革センターに監視されているそうなのだ。

「……正気か? そこまで従業員を信頼できない奴なのかね、ハドリ氏は?
 人は信頼されてはじめて動くものじゃないか。そんな奴は信じられんね、俺は」
 ウォーリーには、ハドリのやり方がまったく理解できない。
 何て度し難い奴だ、と怒りすら覚える。

 また、彼に従う従業員も従業員だ。そんな会社なら辞めて別の職を探すなり、ハドリに反発すべきだろう、と考えてしまう。
 目の前にいる関連会社の従業員は違う、とウォーリーは思う。
 彼らはハドリに反発するために社の規程を犯してまで徒党を組み、行動を起こそうとしている。

 ウォーリーはこうした彼らの行動を好ましく思う。
「タブーなきエンジニア集団」の代表という立場に関係なく、純粋に彼らを応援しようという気になった。

「ハドリの治安改革活動を粉砕する、という願いは同じだ。所属は違うが、まあ、仲間みたいなものだろうな。仲良くやろうや」
 ウォーリーは相手方一人一人に握手を求めた。彼らと接触を始めてからわずか三時間後の出来事である。

「マネージャー、まだ相手方の名前も聞いていませんよ」
 エリックがウォーリーにそっと耳打ちした。
 エリックから見ればウォーリーの行動は危なっかしくて見ていられない。

「おう、そうだったな。で、あんた、名前何ていうんだ?」
 エリックの指摘を受けて、ウォーリーはリーダー格の男に声をかけた。
 リーダー格の男はウォーリーより少し年下に見えた。よく見ると相手方のメンバーは全員若い。ニ〇代半ばの者が多いように思える。

 リーダー格の男はサン・アカシと名乗った。
 年はニ六歳とのことであるから、三〇歳のウォーリーより四つ年下ということになる。

 若いな、とウォーリーは思った。

 ウォーリーがECN社で上級チームマネージャーに昇進したとき、彼は現在のアカシと同じニ六歳であった。
 それからわずか一年でECN社を退職し、長期入院を経て現在の「タブーなきエンジニア集団」の代表の地位に就いた。
 得られた成果はウォーリーにとって十分なものではなかったが、これからOP社という最大の敵と戦うことになる。これを成功させれば、ウォーリーにとって十分な成果が得られたことになるであろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...