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第五章
221:調停者の乱入
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治安改革センターの前で「タブーなきエンジニア集団」のメンバーとその支持者、そしてOP社を支持する市民とが睨み合っている。
彼らに対し、ミヤハラは無言で交互に視線を向けている。
ミヤハラの視線が向いた陣営はそれだけで心臓を手で握られたような感覚に襲われる。
ハドリほどでないにしろ、ミヤハラにも人の上に立つ迫力のようなものがある。
無言での睨み合いが続く。
時が停止しているかのように身動きひとつする者すらいない。
皆がミヤハラの気迫に気圧されているのだ。
睨み合いは永遠に続くかと思われた。
しかし、この状況でも動き得た者がいたのだ。
それは、ジン側から歩いてきた人影だった。「タブーなきエンジニア集団」のメンバーや支持者の間を割るようにして進んでくる。
ベージュのパンツスーツを着た長身の女性だった。
彼女は人垣をかき分けながら颯爽と歩いてミヤハラの方へと向かってくる。彼女の顔を見た群衆は一様に驚きの表情を見せている。
ミヤハラにもこの顔には見覚えがある。
(何だ、ちょっと前まで職業学校で先生をやっていたレイカ・メルツとかいう奴じゃないか。何をしに来たのだ……?)
そう、この女性は元職業学校マーケティング科の教官、レイカ・メルツだったのだ。
群衆の中にも彼女のことを知っている者は多かったから、彼女の顔を見て驚くのも無理はなかった。
何故彼女がこの場に姿を現したのか?
職業学校を辞職してからは療養中だったはず。
レイカはミヤハラの前まで歩いてくると、拡声器を貸して欲しいと申し出た。
ミヤハラは無言で拡声器を手渡した。
レイカは拡声器を手にすると、群衆に向かって呼びかけた。
「何を争っているのですか?! 貴方たちが争う理由はどこにあるのですか?」
群衆がざわめいた。
「……皆さん、もとマーケターとしての私から見る限り、この争いは何の価値も生まないと思います。もとマーケターとして価値を生まないものを見逃すわけにはいかないのです。どうか、ここはお引取りいただけないでしょうか?」
レイカの言葉にOP社支持側の市民が拍子抜けしたような表情を見せた。
そして、「よその町のことだ。放っておこう」という声があがりだした。
この場所がOP社の治安改革活動の区分上は、ジンに属するからであった。
OP社支持の市民のほとんどがポータル・シティの住民であり、彼らにとってジンは他所の町になる。
その声をきっかけに、OP社支持の市民が徐々にその場を去り始めた。
「タブーなきエンジニア集団」のメンバーがそれを追おうとしたが、ミヤハラは腕を差し出してそれを制した。
「我々が引き下がるところを攻撃する意思は無いのだな?」
一人の壮年の男がミヤハラに声をかけた。OP社支持の市民らしい。
「『タブーなきエンジニア集団』は、技術者の集まりだ。先に攻撃を仕掛けられない限り、武断的な手段には訴えない」
ミヤハラの言葉に壮年の男は、わかったと言ってその場を去っていった。
三〇分ほどでOP社支持の市民はすべて立ち去った。
治安改革センターの職員は三人とも残っていた。
よく見るとなんと三人のうち二人が女性である。そのうち一人の女性がレイカの方へ駆け寄ってきた。
先ほどミヤハラに声をかけてきたのとは別の女性だ。ショートヘアでおっとりした感じに見える。
「メルツ先生! 格好よかったです!」
「え? コナカさんじゃないの。どうしてここに……?」
レイカには駆け寄ってきた女性に見覚えがあった。
彼女と一緒に仕事をしたこともあるからだ。
レイカが疑問に思ったのは、彼女はECN社の総務に勤務しているはずで、このような場所にいるはずがないからであった。
「上司の指示で一時的にここで勤務していたのです。もう、怖くて怖くて……」
彼女はレイカを見上げるようにしていた。彼女の背が低いのではない。レイカの背が高すぎるのである。
よりによって、彼女をこういう仕事に回すなんて、とレイカは思った。
駆け寄ってきたのは職業学校で一緒に仕事をした三人組の一人、サユリ・コナカであった。
三人の中でもっとも口数が少なく、大人しい彼女に治安改革業務を担当させるなど狂気の沙汰だとレイカは思う。
勝気なカネサキや物怖じしないオオイダならばまだ理解できるのだが。
それでもECN社とOP社は何を考えているのだろうと、レイカの身体の中から怒りがふつふつと湧きだしてきた。
彼らに対し、ミヤハラは無言で交互に視線を向けている。
ミヤハラの視線が向いた陣営はそれだけで心臓を手で握られたような感覚に襲われる。
ハドリほどでないにしろ、ミヤハラにも人の上に立つ迫力のようなものがある。
無言での睨み合いが続く。
時が停止しているかのように身動きひとつする者すらいない。
皆がミヤハラの気迫に気圧されているのだ。
睨み合いは永遠に続くかと思われた。
しかし、この状況でも動き得た者がいたのだ。
それは、ジン側から歩いてきた人影だった。「タブーなきエンジニア集団」のメンバーや支持者の間を割るようにして進んでくる。
ベージュのパンツスーツを着た長身の女性だった。
彼女は人垣をかき分けながら颯爽と歩いてミヤハラの方へと向かってくる。彼女の顔を見た群衆は一様に驚きの表情を見せている。
ミヤハラにもこの顔には見覚えがある。
(何だ、ちょっと前まで職業学校で先生をやっていたレイカ・メルツとかいう奴じゃないか。何をしに来たのだ……?)
そう、この女性は元職業学校マーケティング科の教官、レイカ・メルツだったのだ。
群衆の中にも彼女のことを知っている者は多かったから、彼女の顔を見て驚くのも無理はなかった。
何故彼女がこの場に姿を現したのか?
職業学校を辞職してからは療養中だったはず。
レイカはミヤハラの前まで歩いてくると、拡声器を貸して欲しいと申し出た。
ミヤハラは無言で拡声器を手渡した。
レイカは拡声器を手にすると、群衆に向かって呼びかけた。
「何を争っているのですか?! 貴方たちが争う理由はどこにあるのですか?」
群衆がざわめいた。
「……皆さん、もとマーケターとしての私から見る限り、この争いは何の価値も生まないと思います。もとマーケターとして価値を生まないものを見逃すわけにはいかないのです。どうか、ここはお引取りいただけないでしょうか?」
レイカの言葉にOP社支持側の市民が拍子抜けしたような表情を見せた。
そして、「よその町のことだ。放っておこう」という声があがりだした。
この場所がOP社の治安改革活動の区分上は、ジンに属するからであった。
OP社支持の市民のほとんどがポータル・シティの住民であり、彼らにとってジンは他所の町になる。
その声をきっかけに、OP社支持の市民が徐々にその場を去り始めた。
「タブーなきエンジニア集団」のメンバーがそれを追おうとしたが、ミヤハラは腕を差し出してそれを制した。
「我々が引き下がるところを攻撃する意思は無いのだな?」
一人の壮年の男がミヤハラに声をかけた。OP社支持の市民らしい。
「『タブーなきエンジニア集団』は、技術者の集まりだ。先に攻撃を仕掛けられない限り、武断的な手段には訴えない」
ミヤハラの言葉に壮年の男は、わかったと言ってその場を去っていった。
三〇分ほどでOP社支持の市民はすべて立ち去った。
治安改革センターの職員は三人とも残っていた。
よく見るとなんと三人のうち二人が女性である。そのうち一人の女性がレイカの方へ駆け寄ってきた。
先ほどミヤハラに声をかけてきたのとは別の女性だ。ショートヘアでおっとりした感じに見える。
「メルツ先生! 格好よかったです!」
「え? コナカさんじゃないの。どうしてここに……?」
レイカには駆け寄ってきた女性に見覚えがあった。
彼女と一緒に仕事をしたこともあるからだ。
レイカが疑問に思ったのは、彼女はECN社の総務に勤務しているはずで、このような場所にいるはずがないからであった。
「上司の指示で一時的にここで勤務していたのです。もう、怖くて怖くて……」
彼女はレイカを見上げるようにしていた。彼女の背が低いのではない。レイカの背が高すぎるのである。
よりによって、彼女をこういう仕事に回すなんて、とレイカは思った。
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三人の中でもっとも口数が少なく、大人しい彼女に治安改革業務を担当させるなど狂気の沙汰だとレイカは思う。
勝気なカネサキや物怖じしないオオイダならばまだ理解できるのだが。
それでもECN社とOP社は何を考えているのだろうと、レイカの身体の中から怒りがふつふつと湧きだしてきた。
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