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第五章
219:終わらぬミヤハラの戦い
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アイネスとの連絡を終えたが、ミヤハラの戦いはまだ続いている。
占拠した治安改革センターで椅子に腰を下ろしたままメンバーの報告にうなずいているだけなのだが、それでも状況は刻一刻と変化している。
ひとつのユニットから治安改革センターの占拠に成功したという情報が入った。占拠に成功した治安改革センターは四ヶ所目だ。
これで残る治安改革センターは二箇所である。この二箇所が苦戦している状況だ。
苦戦しているユニットはすべてポータル・シティとの境界に近い場所にある治安改革センターを担当していた。
ポータル・シティはOP社の本拠地であり、ジンと比較するとOP社に対する負の感情が少ない傾向がある。したがって「タブーなきエンジニア集団」側が市民の協力が得にくい。
また、ポータル・シティ内は治安改革センターの数が多いので、近くの治安改革センターから応援がやってきた、ということも影響している。
しかし、ミヤハラ自身は落ち着いたものだ。
耐えることや待つことには慣れている。特にウォーリーの部下となってからは、これが彼の仕事とも言っていいくらいだったのだから。
(……やれることはやっている。後は待つだけだ。時が解決するだろう)
ミヤハラはそう考えている。打てる手は打ち尽くしているのでこれ以上することもない、といった態度だ。
ミヤハラの考えを読めない人々は彼の様子に安心感を覚えている。
トップが堂々と落ち着いているので、作戦の成功に自信を持っているように見えるからだ。
実際のミヤハラはそこまで深く考えていないのだが、この場面ではメンバーや市民が成功するという確信を持つことも重要である。精神が萎えては行動に移せないからだ。
不意にミヤハラの携帯端末が鳴りだした。
よっこいしょと声に出してから、ゆっくりと携帯端末に手を伸ばす。その様子は、近所に買い物か散歩にでも出かけようとする者のそれであって、おおよそ戦闘を指揮している者のそれには見えない。
鳴り始めてから十数秒して、ようやくミヤハラは携帯端末を手にした。気の短い者であれば「遅い!」と通信を切りかねない時間だ。
「ああ、ミヤハラだが」
「こんなに待たせるなんてどうしていたのですか?」
通信の主はサクライだった。
彼もミヤハラ同様のんびりした性質であるが、さすがにこの時は苛ついたのか、ミヤハラを責めるような口調であった。
「……端末から少し離れた位置にいたのでな。それで、どうした?」
「……まあいいでしょう。報告ですが……」
サクライはそれ以上ミヤハラを責めることなく状況を報告しだした。
内容は彼のユニットが治安改革センターを占拠した、ということだった。
予想外に相手の抵抗が激しかったため乱闘になってしまったが、怪我人などは出ていないという。
「……わかった。それでそちらはこれからどうする?」
まずまずだろう、とミヤハラは思った。時間はかかったがミヤハラの求める条件通りにことが進んだからだ。
サクライは占拠した治安改革センターに残って、しばらく様子を見るという。
OP社からの反撃を懸念してのことなので、ミヤハラにも異存はない。
ミヤハラはこちらが指示するまで動くなと伝え、通信を切った。
これで残る治安改革センターは一箇所となった。
「……意外と時間がかかるものだな」
ミヤハラがつぶやいた。
作戦開始からは三時間半近くが経過している。
戦力差が大きかったから二時間もあれば決着がつくと思っていたのだが、思いのほか苦戦している。
残った治安改革センターは、ミヤハラの義父が指揮を執っているユニットが担当している。
一番苦戦しているということで援軍を送っているのだが、それも功を奏していないようだ。
入ってきた情報によればOP社による治安改革活動を支持するポータル・シティの市民と「タブーなきエンジニア集団」および彼らを支持するジンの市民とのにらみ合いが続いているとのことである。
どちらも比較的冷静で、暴力による解決を望んでいないことは幸いであったが、一触即発の危険はあるという。
義父の性格はミヤハラも理解している。苦戦していてもミヤハラに救援など求めるようなことはしないだろう。
ミヤハラは義父を立てて、これまで援軍を送る以上のことをしなかったのだ。
しかし、ここへ来てこのユニットから三度救援要請が発せされている。あまり状況が芳しくないのだと思われる。
だが、救援要請の文面が「可能であればメンバーを送ってほしい」という調子であったから、ミヤハラもすぐに追加のメンバーを送るという決断ができずにいた。
もう一度救援要請が来たら自ら現地に向かおうとミヤハラは考えていた。
救援の必要など無いほうがいいのだが、あれば行かざるを得ないだろう。
そして、五分後、ついに四度目の救援要請があった。
今回の文面はこれまでとは異なり、「対処が難しい相手なので幹部の応援を頼みたい」という内容であった。
ここでおもむろにミヤハラが立ち上がる。
「行ってくる。ニ、三人付いてきてくれ。それと、何かあれば俺かサクライに連絡してくれ」
そう言い残してミヤハラは歩きで最後の治安改革センターへと向かった。
占拠した治安改革センターで椅子に腰を下ろしたままメンバーの報告にうなずいているだけなのだが、それでも状況は刻一刻と変化している。
ひとつのユニットから治安改革センターの占拠に成功したという情報が入った。占拠に成功した治安改革センターは四ヶ所目だ。
これで残る治安改革センターは二箇所である。この二箇所が苦戦している状況だ。
苦戦しているユニットはすべてポータル・シティとの境界に近い場所にある治安改革センターを担当していた。
ポータル・シティはOP社の本拠地であり、ジンと比較するとOP社に対する負の感情が少ない傾向がある。したがって「タブーなきエンジニア集団」側が市民の協力が得にくい。
また、ポータル・シティ内は治安改革センターの数が多いので、近くの治安改革センターから応援がやってきた、ということも影響している。
しかし、ミヤハラ自身は落ち着いたものだ。
耐えることや待つことには慣れている。特にウォーリーの部下となってからは、これが彼の仕事とも言っていいくらいだったのだから。
(……やれることはやっている。後は待つだけだ。時が解決するだろう)
ミヤハラはそう考えている。打てる手は打ち尽くしているのでこれ以上することもない、といった態度だ。
ミヤハラの考えを読めない人々は彼の様子に安心感を覚えている。
トップが堂々と落ち着いているので、作戦の成功に自信を持っているように見えるからだ。
実際のミヤハラはそこまで深く考えていないのだが、この場面ではメンバーや市民が成功するという確信を持つことも重要である。精神が萎えては行動に移せないからだ。
不意にミヤハラの携帯端末が鳴りだした。
よっこいしょと声に出してから、ゆっくりと携帯端末に手を伸ばす。その様子は、近所に買い物か散歩にでも出かけようとする者のそれであって、おおよそ戦闘を指揮している者のそれには見えない。
鳴り始めてから十数秒して、ようやくミヤハラは携帯端末を手にした。気の短い者であれば「遅い!」と通信を切りかねない時間だ。
「ああ、ミヤハラだが」
「こんなに待たせるなんてどうしていたのですか?」
通信の主はサクライだった。
彼もミヤハラ同様のんびりした性質であるが、さすがにこの時は苛ついたのか、ミヤハラを責めるような口調であった。
「……端末から少し離れた位置にいたのでな。それで、どうした?」
「……まあいいでしょう。報告ですが……」
サクライはそれ以上ミヤハラを責めることなく状況を報告しだした。
内容は彼のユニットが治安改革センターを占拠した、ということだった。
予想外に相手の抵抗が激しかったため乱闘になってしまったが、怪我人などは出ていないという。
「……わかった。それでそちらはこれからどうする?」
まずまずだろう、とミヤハラは思った。時間はかかったがミヤハラの求める条件通りにことが進んだからだ。
サクライは占拠した治安改革センターに残って、しばらく様子を見るという。
OP社からの反撃を懸念してのことなので、ミヤハラにも異存はない。
ミヤハラはこちらが指示するまで動くなと伝え、通信を切った。
これで残る治安改革センターは一箇所となった。
「……意外と時間がかかるものだな」
ミヤハラがつぶやいた。
作戦開始からは三時間半近くが経過している。
戦力差が大きかったから二時間もあれば決着がつくと思っていたのだが、思いのほか苦戦している。
残った治安改革センターは、ミヤハラの義父が指揮を執っているユニットが担当している。
一番苦戦しているということで援軍を送っているのだが、それも功を奏していないようだ。
入ってきた情報によればOP社による治安改革活動を支持するポータル・シティの市民と「タブーなきエンジニア集団」および彼らを支持するジンの市民とのにらみ合いが続いているとのことである。
どちらも比較的冷静で、暴力による解決を望んでいないことは幸いであったが、一触即発の危険はあるという。
義父の性格はミヤハラも理解している。苦戦していてもミヤハラに救援など求めるようなことはしないだろう。
ミヤハラは義父を立てて、これまで援軍を送る以上のことをしなかったのだ。
しかし、ここへ来てこのユニットから三度救援要請が発せされている。あまり状況が芳しくないのだと思われる。
だが、救援要請の文面が「可能であればメンバーを送ってほしい」という調子であったから、ミヤハラもすぐに追加のメンバーを送るという決断ができずにいた。
もう一度救援要請が来たら自ら現地に向かおうとミヤハラは考えていた。
救援の必要など無いほうがいいのだが、あれば行かざるを得ないだろう。
そして、五分後、ついに四度目の救援要請があった。
今回の文面はこれまでとは異なり、「対処が難しい相手なので幹部の応援を頼みたい」という内容であった。
ここでおもむろにミヤハラが立ち上がる。
「行ってくる。ニ、三人付いてきてくれ。それと、何かあれば俺かサクライに連絡してくれ」
そう言い残してミヤハラは歩きで最後の治安改革センターへと向かった。
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