225 / 436
第五章
219:終わらぬミヤハラの戦い
しおりを挟む
アイネスとの連絡を終えたが、ミヤハラの戦いはまだ続いている。
占拠した治安改革センターで椅子に腰を下ろしたままメンバーの報告にうなずいているだけなのだが、それでも状況は刻一刻と変化している。
ひとつのユニットから治安改革センターの占拠に成功したという情報が入った。占拠に成功した治安改革センターは四ヶ所目だ。
これで残る治安改革センターは二箇所である。この二箇所が苦戦している状況だ。
苦戦しているユニットはすべてポータル・シティとの境界に近い場所にある治安改革センターを担当していた。
ポータル・シティはOP社の本拠地であり、ジンと比較するとOP社に対する負の感情が少ない傾向がある。したがって「タブーなきエンジニア集団」側が市民の協力が得にくい。
また、ポータル・シティ内は治安改革センターの数が多いので、近くの治安改革センターから応援がやってきた、ということも影響している。
しかし、ミヤハラ自身は落ち着いたものだ。
耐えることや待つことには慣れている。特にウォーリーの部下となってからは、これが彼の仕事とも言っていいくらいだったのだから。
(……やれることはやっている。後は待つだけだ。時が解決するだろう)
ミヤハラはそう考えている。打てる手は打ち尽くしているのでこれ以上することもない、といった態度だ。
ミヤハラの考えを読めない人々は彼の様子に安心感を覚えている。
トップが堂々と落ち着いているので、作戦の成功に自信を持っているように見えるからだ。
実際のミヤハラはそこまで深く考えていないのだが、この場面ではメンバーや市民が成功するという確信を持つことも重要である。精神が萎えては行動に移せないからだ。
不意にミヤハラの携帯端末が鳴りだした。
よっこいしょと声に出してから、ゆっくりと携帯端末に手を伸ばす。その様子は、近所に買い物か散歩にでも出かけようとする者のそれであって、おおよそ戦闘を指揮している者のそれには見えない。
鳴り始めてから十数秒して、ようやくミヤハラは携帯端末を手にした。気の短い者であれば「遅い!」と通信を切りかねない時間だ。
「ああ、ミヤハラだが」
「こんなに待たせるなんてどうしていたのですか?」
通信の主はサクライだった。
彼もミヤハラ同様のんびりした性質であるが、さすがにこの時は苛ついたのか、ミヤハラを責めるような口調であった。
「……端末から少し離れた位置にいたのでな。それで、どうした?」
「……まあいいでしょう。報告ですが……」
サクライはそれ以上ミヤハラを責めることなく状況を報告しだした。
内容は彼のユニットが治安改革センターを占拠した、ということだった。
予想外に相手の抵抗が激しかったため乱闘になってしまったが、怪我人などは出ていないという。
「……わかった。それでそちらはこれからどうする?」
まずまずだろう、とミヤハラは思った。時間はかかったがミヤハラの求める条件通りにことが進んだからだ。
サクライは占拠した治安改革センターに残って、しばらく様子を見るという。
OP社からの反撃を懸念してのことなので、ミヤハラにも異存はない。
ミヤハラはこちらが指示するまで動くなと伝え、通信を切った。
これで残る治安改革センターは一箇所となった。
「……意外と時間がかかるものだな」
ミヤハラがつぶやいた。
作戦開始からは三時間半近くが経過している。
戦力差が大きかったから二時間もあれば決着がつくと思っていたのだが、思いのほか苦戦している。
残った治安改革センターは、ミヤハラの義父が指揮を執っているユニットが担当している。
一番苦戦しているということで援軍を送っているのだが、それも功を奏していないようだ。
入ってきた情報によればOP社による治安改革活動を支持するポータル・シティの市民と「タブーなきエンジニア集団」および彼らを支持するジンの市民とのにらみ合いが続いているとのことである。
どちらも比較的冷静で、暴力による解決を望んでいないことは幸いであったが、一触即発の危険はあるという。
義父の性格はミヤハラも理解している。苦戦していてもミヤハラに救援など求めるようなことはしないだろう。
ミヤハラは義父を立てて、これまで援軍を送る以上のことをしなかったのだ。
しかし、ここへ来てこのユニットから三度救援要請が発せされている。あまり状況が芳しくないのだと思われる。
だが、救援要請の文面が「可能であればメンバーを送ってほしい」という調子であったから、ミヤハラもすぐに追加のメンバーを送るという決断ができずにいた。
もう一度救援要請が来たら自ら現地に向かおうとミヤハラは考えていた。
救援の必要など無いほうがいいのだが、あれば行かざるを得ないだろう。
そして、五分後、ついに四度目の救援要請があった。
今回の文面はこれまでとは異なり、「対処が難しい相手なので幹部の応援を頼みたい」という内容であった。
ここでおもむろにミヤハラが立ち上がる。
「行ってくる。ニ、三人付いてきてくれ。それと、何かあれば俺かサクライに連絡してくれ」
そう言い残してミヤハラは歩きで最後の治安改革センターへと向かった。
占拠した治安改革センターで椅子に腰を下ろしたままメンバーの報告にうなずいているだけなのだが、それでも状況は刻一刻と変化している。
ひとつのユニットから治安改革センターの占拠に成功したという情報が入った。占拠に成功した治安改革センターは四ヶ所目だ。
これで残る治安改革センターは二箇所である。この二箇所が苦戦している状況だ。
苦戦しているユニットはすべてポータル・シティとの境界に近い場所にある治安改革センターを担当していた。
ポータル・シティはOP社の本拠地であり、ジンと比較するとOP社に対する負の感情が少ない傾向がある。したがって「タブーなきエンジニア集団」側が市民の協力が得にくい。
また、ポータル・シティ内は治安改革センターの数が多いので、近くの治安改革センターから応援がやってきた、ということも影響している。
しかし、ミヤハラ自身は落ち着いたものだ。
耐えることや待つことには慣れている。特にウォーリーの部下となってからは、これが彼の仕事とも言っていいくらいだったのだから。
(……やれることはやっている。後は待つだけだ。時が解決するだろう)
ミヤハラはそう考えている。打てる手は打ち尽くしているのでこれ以上することもない、といった態度だ。
ミヤハラの考えを読めない人々は彼の様子に安心感を覚えている。
トップが堂々と落ち着いているので、作戦の成功に自信を持っているように見えるからだ。
実際のミヤハラはそこまで深く考えていないのだが、この場面ではメンバーや市民が成功するという確信を持つことも重要である。精神が萎えては行動に移せないからだ。
不意にミヤハラの携帯端末が鳴りだした。
よっこいしょと声に出してから、ゆっくりと携帯端末に手を伸ばす。その様子は、近所に買い物か散歩にでも出かけようとする者のそれであって、おおよそ戦闘を指揮している者のそれには見えない。
鳴り始めてから十数秒して、ようやくミヤハラは携帯端末を手にした。気の短い者であれば「遅い!」と通信を切りかねない時間だ。
「ああ、ミヤハラだが」
「こんなに待たせるなんてどうしていたのですか?」
通信の主はサクライだった。
彼もミヤハラ同様のんびりした性質であるが、さすがにこの時は苛ついたのか、ミヤハラを責めるような口調であった。
「……端末から少し離れた位置にいたのでな。それで、どうした?」
「……まあいいでしょう。報告ですが……」
サクライはそれ以上ミヤハラを責めることなく状況を報告しだした。
内容は彼のユニットが治安改革センターを占拠した、ということだった。
予想外に相手の抵抗が激しかったため乱闘になってしまったが、怪我人などは出ていないという。
「……わかった。それでそちらはこれからどうする?」
まずまずだろう、とミヤハラは思った。時間はかかったがミヤハラの求める条件通りにことが進んだからだ。
サクライは占拠した治安改革センターに残って、しばらく様子を見るという。
OP社からの反撃を懸念してのことなので、ミヤハラにも異存はない。
ミヤハラはこちらが指示するまで動くなと伝え、通信を切った。
これで残る治安改革センターは一箇所となった。
「……意外と時間がかかるものだな」
ミヤハラがつぶやいた。
作戦開始からは三時間半近くが経過している。
戦力差が大きかったから二時間もあれば決着がつくと思っていたのだが、思いのほか苦戦している。
残った治安改革センターは、ミヤハラの義父が指揮を執っているユニットが担当している。
一番苦戦しているということで援軍を送っているのだが、それも功を奏していないようだ。
入ってきた情報によればOP社による治安改革活動を支持するポータル・シティの市民と「タブーなきエンジニア集団」および彼らを支持するジンの市民とのにらみ合いが続いているとのことである。
どちらも比較的冷静で、暴力による解決を望んでいないことは幸いであったが、一触即発の危険はあるという。
義父の性格はミヤハラも理解している。苦戦していてもミヤハラに救援など求めるようなことはしないだろう。
ミヤハラは義父を立てて、これまで援軍を送る以上のことをしなかったのだ。
しかし、ここへ来てこのユニットから三度救援要請が発せされている。あまり状況が芳しくないのだと思われる。
だが、救援要請の文面が「可能であればメンバーを送ってほしい」という調子であったから、ミヤハラもすぐに追加のメンバーを送るという決断ができずにいた。
もう一度救援要請が来たら自ら現地に向かおうとミヤハラは考えていた。
救援の必要など無いほうがいいのだが、あれば行かざるを得ないだろう。
そして、五分後、ついに四度目の救援要請があった。
今回の文面はこれまでとは異なり、「対処が難しい相手なので幹部の応援を頼みたい」という内容であった。
ここでおもむろにミヤハラが立ち上がる。
「行ってくる。ニ、三人付いてきてくれ。それと、何かあれば俺かサクライに連絡してくれ」
そう言い残してミヤハラは歩きで最後の治安改革センターへと向かった。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり
柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日――
東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。
中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。
彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。
無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。
政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。
「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる